【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一

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第四章

第178話 五回目の夢と世界の秘密

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「すごい、夢みたいだ」



「自衛隊や警察が2年かけて作り上げたんです。



……でも、物資と生活インフラを整えた頃には、



彼らはほとんど残っていなかった」



こういった説明は僕しか出来ない。



秋人もかぐやも苦手分野で、飛鳥に至っては挨拶すら怪しい。



ほとんどコミュ障チームだ。



「その方たちが基盤を作ってくれたということですか」



「そうです。初期の迅速な構築が無ければ、



これだけのものは作れなかった……」



「口ばっかりの権力者がいなかったのが幸いね」



おっと珍しい。飛鳥が口を挟んだ。



「最初は自衛隊、機動隊、警察たくさんいたんです。



伊豆七島、もしくは海外に避難出来るって噂が広まって、



この辺に人が大勢集まった。船もたくさんあったから。



でも島も感染していることが判明して、



都内も神奈川西部も山梨長野ももうだめで、



残された人たちはここに閉じ込められたんです」



「確かに何回か聞きました。横浜や東京から海外に出る船があるって。



私たちは動きませんでしたけど」



山本さんは当時を思い出したのか、険しい顔になった。



5階吹き抜けのマーケットが姿を現した。



「うわあ……すごい」



「1年前から経済を復活させたんです。



それまでは配給制だったんだけど、



社会が作られると活気が出て、いいサイクルが生まれました」



当時のテナントを改良して、様々な物資が売られている。



飲食店、雑貨店、服屋、マッサージや家財修理、



各種手続き代行、歯医者など並んでいる店は多岐にわたる。



マーケットはたくさんの住民で賑わっていた。



「配給を待ってるだけだとやっぱり問題が出てくるんです」



「でも……これだけの人数の食料はあるのですか」



「新港地区の埋め立て地……赤レンガ倉庫がある所なんですけど、



そこの橋を封鎖して【ワーマー】のいない広大な敷地を確保出来たんです。



今、そこで畜産と農業が行われています。



海では漁や養殖もやっていますし、



実は余裕があるくらいです。安心して下さい」



「すごいですね……こんなことが可能だなんて……



もう、一つの国ですね」



「ええ、世界中で人類がこの場所しか残っていなかったら……



を本気で考えて設計されましたから。



ちなみに説明しますと、このタワーは五つの部門によって管理、運営されています。



人々の健康管理や医療面を担当する医療局。



こちらは【ワーマー】の研究も行っています。



農業、畜産、養殖、それらの加工と、回収してきた食料品等を管理する農水局。



回収してきた生活用品、機材等の物資の保管及びマーケットの運営をする物流管理局。



車両、船舶、電子機器、システム保全、インフラ管理、その他修理開発を行う総合開発局。



そして僕たちの、ここで生活するすべての人々を【ワーマー】から守る保安局。



それぞれのトップは各分野でのプロです。



この5人が平等に権限を持ち、いわゆる最高責任者に該当する者はいません。



重要事項は全て多数決で決定されます」



「……私たちもお役に立てるといいのですが」



「健康に問題ない方はいずれかの局に入ってもらう事になります。



まずはあちらの窓口で入居の手続きをして下さい」



僕はテナントを改装した事務所を指差した。



「あの、来宮昴二尉っ! 握手して下さい!」



急に横から十代の訓練生が飛び出してきた。



気が付くと道行く数人がこちらを見ていた。



飛鳥も捕まり、無表情で握手に応えている。



「ロメオ1がいる!」とどこからか声がした。



すぐにちょっとした人だかりができ、僕たちは四人とも握手攻めにあった。



「有名人なんですね」



戦闘服だから余計に目立つのだろう。



本来なら直接タワー上階に帰るのが常だ、こんなことにはならない。



足を止めず歩き続けたので幸いにも騒ぎは大きくならず、人は減っていった。



しかし、遠巻きに見ている人の数は増えた。



「広報誌で特集されてて。



入隊希望者増やすために保安局員をタレント化させているんです」



僕は柱に貼ってあるポスターを指差した。



新隊員募集と書かれた下には美人隊員が微笑んでいる。



モデルは〝ビクター2〟の木崎ウルナ二等陸士。



水着写真集も出している有名人だ。



「他にも節水、節電、予防接種、警備強化週間とかたくさんの宣伝に使われてます。



最近では隊員への密着番組が制作されていて、



外の状況も見れるっていうんで人気なんです。



その影響もあってより顔と名前が広まっちゃって」



「いいじゃないですか、芸能人みたいで」



「その代わり、五つの局で死人が出るのは保安局だけです」



秋人が真顔でそう言うと山本さんは「あ……」と複雑な表情をした。



バカ、少し強く言いすぎだ。



「では、我々はここで」



事務所の前で別れた僕たちはエレベーターで66階まで上がった。



エレベーターを降りてすぐの銃器保管庫に入ろうとした時、



後ろから呼び止められた。



そこには保安局局長、柳瀬和寿一佐、



〝シエラ1〟の隊長、赤沢智也三佐、



司令補佐官の二瓶龍臣三佐、三名の姿があった。



「玖須美飛鳥三曹、話がある。そのままで構わないから一緒に来てくれ」



少し逡巡した後、眉間にしわを寄せた飛鳥は僕にライフルを押し付け、一歩前に出た。



一隊員をこれだけの上層部が迎えに来るなんて普通はあり得ない。



とんでもない功績を残したか、逆にとんでもない悪事を働いたか……。



なぜ飛鳥が呼ばれるのか謎だったが、本人には思い当たる節があるようだった。



「え、今飛鳥舌打ちした?」



「私も聞こえた。そんなキャラじゃないのにな」



「何やらかしたんだ」



秋人とかぐやが声を落として話している。



「昴、生存者の救助、ご苦労だった」



柳瀬局長はそれだけ言うと足早に去っていった。



冷たい目だ、分かりやすくていいけど。



局長は僕の事を良く思っていない。



岩みたいな顔面が、僕と目が合うとより硬そうな岩になる。



「〝マイク3〟の捜索はこれから俺のチームが行く。任せておけ」



赤沢さんの目は、飛鳥について何も聞くな、と語っていた。



出会った頃は元警察らしく短髪だったが、今は美容師みたいな緩いくせ毛ヘアーだ。



外見に比例し、中身もここ数年で緩くなっていた。



個人的には長い付き合いで、お世話になった人だ。



「よろしくお願いします」



「すまんな」



そう言い残し、赤沢さんも去っていった。



















「おめデとう、オスカー。アーキャリーとモリアが懐妊ね」



今日はユウリナに会うためユウリレリア大聖堂に来ていた。



本堂の傍の別棟。【王の左手】は扉の前で待機させてある。



部屋には二人きり。窓から巡礼の列が見えた。



「ああ、ありがとう。メミカももうすぐ生まれるみたいだ。



出産には一応ユウリナも付き添ってくれないか?」



「モちろん。……で、話はガシャの夢でショ?」



魔獣レギュール対策についてはまた今度でいいか。



俺は先日、城内を歩いていて突然視界に夢が重なってふらついたことを説明した。



たくさんの人の声も聞こえ、徐々に症状が悪化しているように感じる。



それと夢の内容も簡単に説明した。



ユウリナは聞き終わると手をアンテナのような形に変え、



俺の頭にかざした。



「動かナいで」



すると空間投射された画面がいくつも浮かび上がる。



それらは俺の見た夢の映像だった。



銃を持った秋人、かぐや、飛鳥ら夢の登場人物が映っている。



すごい、俺の脳内をスキャンできんのか。



「ふむふむ、あーなルほど……これは……」



ぶつぶつ呟くユウリナに俺は自分の考えをぶつけてみた。



「……ユウリナ、気付いたんだが……



この夢は今の世界の〝遥か過去〟なんじゃないか」



ユウリナは手を止めた。



「……そうよ、気付いタのね。おそらくこの夢の時代は〝最初の人々〟の時代ね。



遥か昔……大陸が動くほどの……」



「やっぱりそうなのか? ていうかユウリナは知ってるのか? 



大陸が動くほどって……いやでもそうか……そうだよな。



ていうかなんだ〝最初の人々〟って?」



「落ち着いてオスカー。



人類が星の外まで行けるほどの文明を最初に持った世代のことヨ。



その後の全ての文明はこの時代の技術が土台となっテいるノ」



しばらく頭が働かなかった。



俺の前世の記憶とあの夢の時代はそう大差ない。



ということはおそらく十数年後には腐樹のパンデミックが始まるのか。



ていうか俺が何歳で死んだかの記憶がないからそれはあくまで憶測にすぎないのだが。



「……ユウリナ。お前は何でも知ってるな。ちょっと怖いくらいだ。



ずっと聞きたかったんだが、お前は何者なんだ?」



ユウリナはじっと俺を見たまましばらく何も発さなかった。



何だか人間臭い。



「私は、フュージアネット社が開発した汎用機械生命体。



……この言い方で分かるかシら」



フュージアネット!



「正確な年代は分かラないわ。とにかくだいぶ大昔ヨ。



私たち機械人の使命は、この星の〝管理者〟とでも言っテおこうかシら」



予想していたわけではないが、大きな驚きはなかった。



むしろ納得の方が大きい。



「とでも言っておこうって……お前はいつもはっきりと言わないな……」



ユウリナは立ち上がった。



「オスカー、アなたも私二言っていないことがあルでしょ?」



「ん? なんだ?」



「……あなタは前世の記憶を持っているわね?」



背筋にぞくりと鳥肌が立つ。



「……ッ! どうしてそれを!?」 



ユウリナは腕を俺に向けると、手のひらを銃口に変えバチバチと放電させる。



「ほら、お互い様ジャない……」



「おい待て! ぶっ壊れたのか? 何をするんだ!?」



俺は慌てて魔剣フラレウムを抜いた。

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