【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一

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第四章

第175話 ブロトール王国編 狩人たち

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「ライロウ様! ここは危険です、一旦ギバ様のところへ」



至る所で爆発が起こり、爆風と熱波が襲い掛かる。



部下から馬の手綱を受け取り、ライロウは自分の隊300名に撤退命令を出した。



「くそ! 敵はどこにいる!? ブロトールの残党か?」



「分かりません! 奪った金品は持ちました! 行きましょう!」 



馬に跨ったライロウたちは町の通りを駆けだした。



30名の幹部騎兵は先行し、歩兵部隊と別れた。



爆炎と粉塵の向こう側に騎兵の影。



「味方の隊か?」



影が動く。歩兵ではない。しかし馬でもない。



「敵です!」



部下の声にライロウは鉄の棍棒を振り上げる。



煙の中から飛び出したのは2騎の白毛竜兵だ。



「ッ!! 敵はキトゥルセン軍だ!」



「2騎だけだ! 突破する!」



ライロウたちは全員抜刀し、馬の速度を上げた。



その時、部下たちが次々と馬から落馬した。



「うがっ!」



「がぁ!」



「ぐっ!」



「なんだっ!?」



後ろの騎竜兵の手が光る。何か撃ち出しているのだ。



ライロウは手前の騎竜兵の槍を棍棒で受け止めたが、



白毛竜に馬の頭部を噛み千切られ、落馬した。



銀甲冑を着けたキトゥルセン兵は自ら地面に降りる。



幹部を表すマント、右足だけ金色の甲冑。



「行け、グリオン」



白毛竜はクーワッ!と鳴いてもう一騎の後を追った。



「貴様……まさか……」



大男が鉄兜を取る。



「やはり……ミルコップ」



「お前はライロウだな? ギバはどこにいる?」



後方ではライロウ隊の兵士を、



ミルコップ軍の若き小隊長、レイガン・モルトが相手していた。



レイガンはギラク軍との戦闘で左腕を無くしたがユウリナに機械腕を与えられた。



端正な顔立ちのレイガンは表情を変えず、



崩落した壁の塊を機械の手でつかみ、砕く。



掌から割れて小さくなった岩石を取り込み、



肘の後ろの8気筒の筒からバシュゥゥッと蒸気を出し、



敵兵に岩石を撃ち込んだ。



鉄の鎧が大きくへこみ、大柄な敵兵は後ろに落馬する。



高圧岩石射出機を装備しているレイガンは、



涼しい顔をしてたった一人で数十人の騎兵を圧倒している。



ライロウは立ち上がり、



「俺がそれを言うわけないだろがっ!」



と叫ぶと、棍棒を振り下ろした。



剣で受けたミルコップは「ならば殺す」とマントを外し、



金色の右足で強烈なハイキックを繰り出した。



吹っ飛び、民家の壁に激突したライロウは、



左腕が折れ、かなりのダメージを負った。



ミルコップの機械化された右足がシュイイインと唸りを上げる。



「立て。まだ死んではいないだろう?」



「……いってぇなぁ……くそ野郎」



立ち上がったライロウは大柄な体躯からは想像できない速度で、



棍棒を振り回しミルコップに迫る。



剣で捌き、身体を回転させたミルコップは回し蹴りで棍棒を蹴り砕いた。



「なっ……鉄を……」



続けざまにかかとをライロウのわき腹に当て吹っ飛ばす。



右足のかかとからは刃物が飛び出ていた。



「あ……? ふっ……げほっげほっ」



「肺に入ったな。じきにお前は死ぬだろう」



わき腹を抑え、苦しそうに息をするライロウは言葉が出ない。



その時、ライロウの後ろから敵の新手が現れた。



20人ほどの集団だ。



「おい! てめえもしやミルコップか!」



中央の大男が大声で叫びながら近づいてくる。



ギバだ。



右に剣を持ち、左手には裸に剥かれた若い女の髪を掴んでひきづっている。



ミルコップの視界に『ブロトール王女サミー』と表示された。



ギバは倒れているライロウの横で止まった。



「……ギ、ギ……バ……」



ヒューヒューと変な呼吸音のライロウは苦しそうにギバに手を伸ばす。



「……ライロウ、ご苦労だったな……」



ギバはライロウの心臓に剣を突き立てた。



その光景を見たサミーは「ひいぃぃ!」と悲鳴を上げる。



「うるせえな……お前もういいや」



「おい! やめろ!」



ギバはサミーの首を一閃、ミルコップを睨みつけ、



首を放り投げた。



サミーの首が転がりミルコップの手前で止まる。



「随分派手にやってくれるじゃねえか……



俺は久しぶりにイラついてるぜ」



ミルコップはしゃがみ、サミーの瞼をそっと閉じる。



「……それはこちらも同じだ。ようやく会えたな。



お前を殺してナナミアを返してもらう!」



ミルコップは勢いよくギバに斬りかかった。



二人の剣が狂暴な音を奏でる。



素早い攻防をしばらく続けたあと、



ミルコップの機械足が噴射システムを駆使し、



弾丸のような速度でギバを蹴り飛ばした。



「ぐはぁっっ!!」



ギバは後方の壁に突っ込んだ。



「ミルコップを止めろ!」



敵兵が一斉に向かって来た。



ミルコップは噴射システムで人間離れした高さまで飛び、



敵兵の後方に着地する。



右足の一部を変形させ、2mほどの刃を出したミルコップは、



唖然としている数人を一閃、胴体から真っ二つにした。



仲間に瓦礫の山から引きずり出されたギバは



「なんだ、その足は……卑怯じゃねえか」



と吠える。



「レギュール!!」



ギバは大声で叫んだ。



「ふふふ……お前たちはこれで終わりだ。



ナナミアは渡さない。健康なガキを産んでもらわないといけないからな」



「……なんだと?」



不敵な笑みを浮かべるギバの後ろから、大量の霧が降りてきた。



あっという間に辺りは真っ白な霧に包まれる。



ミルコップの視界から脳内チップの情報が消え、



青く光っていた右目も元に戻る。



「待て! 逃げるのか!?」



人の気配はもうない。



しばらくの静寂の後、真横から足音。



咄嗟に剣を構えるとニヤついた顔のギバが剣を振り下ろしてきた。



「ぐっ! ……そう来なくちゃな!」



ギバは何も話さない。先ほどのダメージもないようだ。



互角の攻防が続いた後、ミルコップの回し蹴りが決まった。



後方に吹っ飛ばされながらもギバは短刀を投げてきた。



目にも止まらない、とんでもない速度の短刀はミルコップの肩に深々と刺さる。



「ぐあっ!!」



再び霧の中から飛び出してきたギバの剣を受けた時、



「ソこまでよ、ミルコップ、レイガン」



とユウリナの声が聞こえた。



「ユウリナ様! ん? レイガン?」



「……ミルコップ将軍?」



ユウリナは凄い力でミルコップの襟をつかみ、空中に飛んだ。



反対側の手にはレイガンがいた。



「こ、これはどういうことですか?」



レイガンは困惑していた。



霧の外に着地したユウリナは



「やらレたわね。この霧には幻覚作用があルんだわ。



二人で同士討ちしちゃうとこロだった」



そう言いながら腕をアンテナに変形させ、何かを探っている。



「やっパり、この霧が電波を……



レギュール……厄介ネ。



ここは私二任せて。二人はナナミアの救出に向かっテ」



「はっ!」



ユウリナは霧の中に入っていった。



グリオン達が近くに見えた。



敵の馬を食っている。



ミルコップは脳内チップで副将に通信を入れる。



『ディアゴ。どうだ? 見つけたか?』



『はい、部下が王城西門の塔に入っていくのを見たそうです。



今そちらに向かっています』



『分かった。我々も向かう。現地で落ち合おう』



二人は白毛竜に乗った。



「将軍、肩大丈夫ですか?」



「大丈夫だ。腱も骨も外れている。



レイガンこそ折れていないか?」



「ええ、まだ痛みますが折れてはないです」



「危うく殺し合う所だった……。もう油断はせん」



炎上する町に2騎の騎竜兵が消えてゆく。
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