171 / 324
第四章
第162話 墓参り
しおりを挟む
シボは外縁の森にある戦没者墓地に向かっていた。
綺麗に整備された石畳の道で、王族メイドの2人とすれ違う。
オスカー様の盾になって亡くなったリーザというメイドの事を思い出した。
2人はリーザの墓参りの帰りだろう。
話したことはないが彼女は間違いなく英雄だ。
戦没者墓地は開けた静かな緑地にずらりと墓石が生えており、
奥の方では業者が墓石を設置している。
遠くで街を囲う壁の工事音が鳴っていた。
ぽつぽつと墓参りの人間が、墓石の前にいる。
目的の墓は遠目からでも分かった。
一頭の白毛竜が墓の近くで寝そべっているからだ。
「……ペグ。お前も悲しいのね」
ペグはシボを上目遣いに見て、ため息と共にまた目を閉じた。
ルレの墓の前には生前ルレが使っていた剣が刺さっていて、
周りにはたくさんの花束が供えてあった。
それを見て、シボの目には涙が溢れる。
「……ルレさん」
天気はいいが風は冷たい。
ルレとの思い出が頭の中を通り過ぎてゆく。
シボはしばらくの間その場にいた。
後ろから足音が近づいてくる。
振り返ると花束を持ったアルトゥールがいた。
「シボか……」
アルトゥールは涙目のシボを見て足を止めた。
「……出直すよ」
「いや、いいよ」
小さくうなずいたアルトゥールは花束を墓に備えた。
「……もうみんな来たんだな……
昨日の夜、オスカー様も花束を置きに来たみたいだ。
俺の部下が見たらしい」
シボは涙をぬぐい、無理やり笑った。
「それは……誇らしいね。
私ね……ルレさんの隊で本当によかった」
「俺にとっても、最高の戦友だった……」
「……だめだ、ここにいるとずっと泣いちゃう。
私もう行くわ。またね」
「……ああ」
シボは足早に墓地から離れた。
外縁の森の入り口でスノウに会った。
休みなのかラフな服装で、手には花束を持っていた。
「スノウ……墓地に行くのね」
「ああ……」
それだけ言うとスノウはシボの脇を通り、
足早に去ろうとした。
「待って! スノウ……あの時、私を援護してくれてありがとう」
ガラドレス城でハイガー旅団と戦った際、
スノウは連弩でシボと対峙した敵を射抜いていた。
「……俺は分家だからな。本家を守るってのが体に染みついてる」
「そんなこと……言わないでよ……」
スノウは少しイラついたようにため息をついた。
「俺はガキの頃からお前の家系にこき使わされてきたんだ。
シボに恨みはないが、俺の親は本家のために死んだようなもんなんだ。
なのに……オスカー様を守るのが最上の仕事のはずなのに……
あの時、常にシボ、お前を気にしていた。
守らなきゃって……体が勝手に動くんだ……。
そんな自分に心底腹が立つんだよ」
数秒の沈黙。冷たい風が街の喧騒を運んでくる。
「……ごめん」
「いや……悪い、熱くなり過ぎた。
ルレの方は……間に合わなかった。すまない」
「ううん、ありがとう」
二人は別れた。
数歩歩いたところでシボは振り返る。
「スノウ! 私の両親はきっとスノウの事誇りに思ってるよ!
王家の護衛兵団団長なんて、簡単になれるもんじゃないし!」
スノウは少しの間立ち止まったが、
振り返らずに足を進めた。
綺麗に整備された石畳の道で、王族メイドの2人とすれ違う。
オスカー様の盾になって亡くなったリーザというメイドの事を思い出した。
2人はリーザの墓参りの帰りだろう。
話したことはないが彼女は間違いなく英雄だ。
戦没者墓地は開けた静かな緑地にずらりと墓石が生えており、
奥の方では業者が墓石を設置している。
遠くで街を囲う壁の工事音が鳴っていた。
ぽつぽつと墓参りの人間が、墓石の前にいる。
目的の墓は遠目からでも分かった。
一頭の白毛竜が墓の近くで寝そべっているからだ。
「……ペグ。お前も悲しいのね」
ペグはシボを上目遣いに見て、ため息と共にまた目を閉じた。
ルレの墓の前には生前ルレが使っていた剣が刺さっていて、
周りにはたくさんの花束が供えてあった。
それを見て、シボの目には涙が溢れる。
「……ルレさん」
天気はいいが風は冷たい。
ルレとの思い出が頭の中を通り過ぎてゆく。
シボはしばらくの間その場にいた。
後ろから足音が近づいてくる。
振り返ると花束を持ったアルトゥールがいた。
「シボか……」
アルトゥールは涙目のシボを見て足を止めた。
「……出直すよ」
「いや、いいよ」
小さくうなずいたアルトゥールは花束を墓に備えた。
「……もうみんな来たんだな……
昨日の夜、オスカー様も花束を置きに来たみたいだ。
俺の部下が見たらしい」
シボは涙をぬぐい、無理やり笑った。
「それは……誇らしいね。
私ね……ルレさんの隊で本当によかった」
「俺にとっても、最高の戦友だった……」
「……だめだ、ここにいるとずっと泣いちゃう。
私もう行くわ。またね」
「……ああ」
シボは足早に墓地から離れた。
外縁の森の入り口でスノウに会った。
休みなのかラフな服装で、手には花束を持っていた。
「スノウ……墓地に行くのね」
「ああ……」
それだけ言うとスノウはシボの脇を通り、
足早に去ろうとした。
「待って! スノウ……あの時、私を援護してくれてありがとう」
ガラドレス城でハイガー旅団と戦った際、
スノウは連弩でシボと対峙した敵を射抜いていた。
「……俺は分家だからな。本家を守るってのが体に染みついてる」
「そんなこと……言わないでよ……」
スノウは少しイラついたようにため息をついた。
「俺はガキの頃からお前の家系にこき使わされてきたんだ。
シボに恨みはないが、俺の親は本家のために死んだようなもんなんだ。
なのに……オスカー様を守るのが最上の仕事のはずなのに……
あの時、常にシボ、お前を気にしていた。
守らなきゃって……体が勝手に動くんだ……。
そんな自分に心底腹が立つんだよ」
数秒の沈黙。冷たい風が街の喧騒を運んでくる。
「……ごめん」
「いや……悪い、熱くなり過ぎた。
ルレの方は……間に合わなかった。すまない」
「ううん、ありがとう」
二人は別れた。
数歩歩いたところでシボは振り返る。
「スノウ! 私の両親はきっとスノウの事誇りに思ってるよ!
王家の護衛兵団団長なんて、簡単になれるもんじゃないし!」
スノウは少しの間立ち止まったが、
振り返らずに足を進めた。
0
お気に入りに追加
242
あなたにおすすめの小説
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
前世の祖母に強い憧れを持ったまま生まれ変わったら、家族と婚約者に嫌われましたが、思いがけない面々から物凄く好かれているようです
珠宮さくら
ファンタジー
前世の祖母にように花に囲まれた生活を送りたかったが、その時は母にお金にもならないことはするなと言われながら成長したことで、母の言う通りにお金になる仕事に就くために大学で勉強していたが、彼女の側には常に花があった。
老後は、祖母のように暮らせたらと思っていたが、そんな日常が一変する。別の世界に子爵家の長女フィオレンティーナ・アルタヴィッラとして生まれ変わっても、前世の祖母のようになりたいという強い憧れがあったせいか、前世のことを忘れることなく転生した。前世をよく覚えている分、新しい人生を悔いなく過ごそうとする思いが、フィオレンティーナには強かった。
そのせいで、貴族らしくないことばかりをして、家族や婚約者に物凄く嫌われてしまうが、思わぬ方面には物凄く好かれていたようだ。
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる