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第三章
第157話 ザサウスニア帝国、陥落&新たなる脅威
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姿を消したハイガー旅団以外はすべての敵を倒した。
俺たちは全員で謁見の間の奥まで進み、
玉座に座る皇帝の前に立った。
「……お前が皇帝、レニウス・ザサウスニアだな?」
フラレウムに火をつける。威嚇だ。
肥えた身体の皇帝は慌てるでもなく怯えるでもなく、
ただ、暗くどろんとした目をこちらに向けた。
「……ここまで来るとはな、お見事だオスカー・キトゥルセン」
玉座の後ろには慌てふためく文官が十名ほど。
「……国は頂く。お前が始めた戦争だ、責任を取るんだな」
「好きにしろ。国の事などどうでもいい……ただひとつ……」
「……ただ一つ?」
「オスカー・キトゥルセン。お前に見せたい場所がある」
大勢の兵に囲まれる中、皇帝は恐れる素振りも見せずに立ち上がる。
「何を悠長に……この状況を分かっているのか!」
リリーナが吠える。
「待てリリーナ。それは……ここの地下のことか?」
皇帝は眉を上げた。
「なぜ知っている……?」
「俺も気になっていた。……いいだろう、行こうか。
皆はここで待機、【王の左手】と……スノウ、5人ばかり連れて来てくれ。
それと、城は落ちたとみんなに知らせろ」
玉座の両脇に王族用の豪華な椅子、
その後ろにバカでかい赤いカーテンがある。
地下に降りる秘密の階段はそこにあった。
俺たちは狭く暗い階段を下りて行った。
この城の約四分の一を占める古代遺跡は、
おそらく昔の宇宙船か何かだろう。
縦に埋まっている周りに城が作られている。
外壁は千里眼を通さない素材だったので、
中に入ってすぐに確認をした。
後から作られた木製の階段は延々と下まで続いていた。
滑らかなパネル壁やパイプむき出しな箇所、
ケーブルの束が滝になっているところなどが、
所々に設置されたランプの弱々しい光で照らし出されていた。
やがて最下層に着く。
地面は土だ。
墜落した時に船が折れたイメージが浮かんだ。
広さは家が四軒ほど入るくらいか。
階段横にベッドや家具が置かれていた。
誰かがここで暮らしているのか?
壁からは樹の根が垂れ下がっている。
その中に一つ、透明に光る根があった。
「……これだよ」
皇帝は長い階段で息を切らしていたが、
先ほどとは違って目がイキイキしていた。
透明に光る根の前で皇帝は膝をつき、
自らの子供を愛でるようにそれを撫でた。
「……〝ガシャの根〟」
呟いたソーンに視線が集まる。
「誰も触れるな。気が狂うと聞く」
ソーンが言うにはとても珍しいもので、
大陸でも数えるくらいしか発見されていないらしい。
「ふん、それはただの噂だ」
皇帝は鼻で笑う。
近くで見るとそれはダイヤモンドのような石で出来ていた。
と言うか透明に石化した樹の根……
いや、宝石になった樹の根という表現が一番分かりやすいか。
「夢を見ている……旧世界の、とある男の視点だ……。
この〝ガシャの根〟に触れてから毎晩だ」
恍惚に満ちた表情で皇帝は語り出した。
「天に届く建造物、鉄の乗り物が街中を走り、空も飛び、
星の外へも行ける……。
高度な社会、便利な道具、大規模な戦争、
見たこともない兵器、街を一つ消せるほどの……。
温かい湯が簡単に出たり、指で触るだけで火を操れたり……
巨大な都市は夜も明るい……。
夢中になった。毎晩眠りに就くのが楽しみでしょうがなかった。
だがある時気が付いた。これは夢ではないと」
皇帝と目が合う。
「夢じゃないならなんだ?」
「私は調べた。人を使い、古い文献を集め……
こちらの世界の事はどうでもよくなった。
国の事も、女も、子供も、興味が失せた。
この部屋で寝泊まりするほど熱中した。
……やがて一つの答えにたどり着いた。
あれは記憶だ。当時生きていた男のな」
「人の記憶が、この中にあるというのか?」
いきなり皇帝は俺に近づいてきた。
「おい、離れろ」
リンギオとスノウが皇帝を抑える。
「あの夢の世界は……ゴッサリアがいた世界……
アイツはあの世界から来たんだ。
アイツは、お前もそうなのではないかと言っていた……。
あの世界の出身だと。
違うか? そうじゃないのか!?」
興奮した皇帝は、笑みを浮かべながら詰め寄る。
目が怖い。狂人のそれだ。
「暴れるな! ……くそ、狂ってやがる」
「合点がいった。
あの世界の知識があれば、
キトゥルセンの急激な繁栄も不思議ではない。
……牢獄でもなんでも入れるがいい。
私はもう、この世に未練はない……どうでもいいのだ。
今はただあの世界に……
教えてくれ……あの世界の事を……」
今度は目に涙を浮かべ、その場に膝をつく。
「……心をやられていますな」
ソーンが憐みの視線を向けながらため息をついた。
嘘をついているわけではないだろう。
確かに〝ガシャの根〟とやらは存在するし。
ただ、過去の人の記憶が本当に見れるのか、
それとも幻覚を見せる作用があるだけなのか、
判断がつかない。
いやしかし、ゴッサリアは神戸出身と言っていたし、
〝ガシャの根〟と関係がないわけじゃなさそうだ。
なんで俺が前世の記憶を持っているかとも繋がる……。
うーむ……今考えても埒が明かないか。
「戻ろう。ここは後日改めて調査に……」
背筋に鳥肌。なんだ?
「オ、オスカー様? どう……しました?」
アーシュの声はよく聞こえなかった。
強力な魔素が近づいてきている。
壁の向こうか?
すぐに千里眼を発動させる。
〝ガシャの根〟がオーロラのようなものを放っている。
魔素とは違うようだな……なんだよこれ。
ていうかオーロラがまぶしくてよく見えない。
壁を透視して土の中を見渡す。
坑道がいくつかあるようだが……。
その時地響きで床が揺れ始めた。
と同時に見つけた。
坑道をもの凄い速さで向かってくる……あれは巨大な……ねずみ?
「来るぞ、そこだ!」
ドンっと壁が崩れ、大量の土が襲って来た。
「ぐおおおっ!」
土の雪崩に飲まれ視界が黒くなる。
誰かが上に乗っている。リンギオか?
ん? なんだ、頭の中に声が……目の奥が光って……。
「くっ……大丈夫か王子」
「ああ……痛てて……うわっマジか、
これ〝ガシャの根〟の破片じゃないか?」
俺の腹の上には小さな光る石が乗っていた。
なんてこった。触っちまった!
いや、今はそれどころじゃない。
リンギオに引っ張られ何とか立ち上がった俺は、
すぐに千里眼で辺りを見た。
穴からは毛と目の無い巨大なモグラ、魔獣だ。
辺りには〝ガシャの根〟が砕けて散らばっている。
そしてその後ろから出てきたのは……根人……ジョハ王。
さらに奥から……あれは〝六魔将〟のナルガセか?
どういうことだ? ナルガセはネネルが……
いや、視界にはしっかりとナルガセと出ている。
ユウリナの持つテクノロジーが間違える可能性は低い。
「んん? キトゥルセンの王子か。何でここにいる?」
ジョハ王は魔獣の横に立ち、剣を抜いた。
根人兵もぞろぞろと出てくる。
「待て、目的は皇帝だけだ。
頭上にはキトゥルセン軍がごまんといる。交戦はまずい」
ナルガセは倒れている皇帝を回収させた。
「お前ら……止まれ……」
フラレウムを構えたがうまく発動しない。
頭の中で爆発が起きてるみたいで、くらくらする。
誰かの声もするし、目もチカチカと眩しい。
確実に〝ガシャの根〟の影響だ。
「どうした王子、平気か?」
ランプも消え、双方視界が悪く交戦出来ない状態で、
次第に体調が悪くなる俺はその場に膝をついた。
「ど、どうしたんですか?」
「アーシュ。王子が〝ガシャの根〟に触れた。
……他の者は?」
「多分大丈夫です。て、敵、ですよね……。
暗くて、ど、どこにいるのか……」
頭が割れるように痛い。
「とにかくここを動くな。王子を守るんだ」
一瞬だけ何とか発動した千里眼で見た光景は、
皇帝を攫って穴に戻るジョハ王とナルガセの背中だった。
俺たちは全員で謁見の間の奥まで進み、
玉座に座る皇帝の前に立った。
「……お前が皇帝、レニウス・ザサウスニアだな?」
フラレウムに火をつける。威嚇だ。
肥えた身体の皇帝は慌てるでもなく怯えるでもなく、
ただ、暗くどろんとした目をこちらに向けた。
「……ここまで来るとはな、お見事だオスカー・キトゥルセン」
玉座の後ろには慌てふためく文官が十名ほど。
「……国は頂く。お前が始めた戦争だ、責任を取るんだな」
「好きにしろ。国の事などどうでもいい……ただひとつ……」
「……ただ一つ?」
「オスカー・キトゥルセン。お前に見せたい場所がある」
大勢の兵に囲まれる中、皇帝は恐れる素振りも見せずに立ち上がる。
「何を悠長に……この状況を分かっているのか!」
リリーナが吠える。
「待てリリーナ。それは……ここの地下のことか?」
皇帝は眉を上げた。
「なぜ知っている……?」
「俺も気になっていた。……いいだろう、行こうか。
皆はここで待機、【王の左手】と……スノウ、5人ばかり連れて来てくれ。
それと、城は落ちたとみんなに知らせろ」
玉座の両脇に王族用の豪華な椅子、
その後ろにバカでかい赤いカーテンがある。
地下に降りる秘密の階段はそこにあった。
俺たちは狭く暗い階段を下りて行った。
この城の約四分の一を占める古代遺跡は、
おそらく昔の宇宙船か何かだろう。
縦に埋まっている周りに城が作られている。
外壁は千里眼を通さない素材だったので、
中に入ってすぐに確認をした。
後から作られた木製の階段は延々と下まで続いていた。
滑らかなパネル壁やパイプむき出しな箇所、
ケーブルの束が滝になっているところなどが、
所々に設置されたランプの弱々しい光で照らし出されていた。
やがて最下層に着く。
地面は土だ。
墜落した時に船が折れたイメージが浮かんだ。
広さは家が四軒ほど入るくらいか。
階段横にベッドや家具が置かれていた。
誰かがここで暮らしているのか?
壁からは樹の根が垂れ下がっている。
その中に一つ、透明に光る根があった。
「……これだよ」
皇帝は長い階段で息を切らしていたが、
先ほどとは違って目がイキイキしていた。
透明に光る根の前で皇帝は膝をつき、
自らの子供を愛でるようにそれを撫でた。
「……〝ガシャの根〟」
呟いたソーンに視線が集まる。
「誰も触れるな。気が狂うと聞く」
ソーンが言うにはとても珍しいもので、
大陸でも数えるくらいしか発見されていないらしい。
「ふん、それはただの噂だ」
皇帝は鼻で笑う。
近くで見るとそれはダイヤモンドのような石で出来ていた。
と言うか透明に石化した樹の根……
いや、宝石になった樹の根という表現が一番分かりやすいか。
「夢を見ている……旧世界の、とある男の視点だ……。
この〝ガシャの根〟に触れてから毎晩だ」
恍惚に満ちた表情で皇帝は語り出した。
「天に届く建造物、鉄の乗り物が街中を走り、空も飛び、
星の外へも行ける……。
高度な社会、便利な道具、大規模な戦争、
見たこともない兵器、街を一つ消せるほどの……。
温かい湯が簡単に出たり、指で触るだけで火を操れたり……
巨大な都市は夜も明るい……。
夢中になった。毎晩眠りに就くのが楽しみでしょうがなかった。
だがある時気が付いた。これは夢ではないと」
皇帝と目が合う。
「夢じゃないならなんだ?」
「私は調べた。人を使い、古い文献を集め……
こちらの世界の事はどうでもよくなった。
国の事も、女も、子供も、興味が失せた。
この部屋で寝泊まりするほど熱中した。
……やがて一つの答えにたどり着いた。
あれは記憶だ。当時生きていた男のな」
「人の記憶が、この中にあるというのか?」
いきなり皇帝は俺に近づいてきた。
「おい、離れろ」
リンギオとスノウが皇帝を抑える。
「あの夢の世界は……ゴッサリアがいた世界……
アイツはあの世界から来たんだ。
アイツは、お前もそうなのではないかと言っていた……。
あの世界の出身だと。
違うか? そうじゃないのか!?」
興奮した皇帝は、笑みを浮かべながら詰め寄る。
目が怖い。狂人のそれだ。
「暴れるな! ……くそ、狂ってやがる」
「合点がいった。
あの世界の知識があれば、
キトゥルセンの急激な繁栄も不思議ではない。
……牢獄でもなんでも入れるがいい。
私はもう、この世に未練はない……どうでもいいのだ。
今はただあの世界に……
教えてくれ……あの世界の事を……」
今度は目に涙を浮かべ、その場に膝をつく。
「……心をやられていますな」
ソーンが憐みの視線を向けながらため息をついた。
嘘をついているわけではないだろう。
確かに〝ガシャの根〟とやらは存在するし。
ただ、過去の人の記憶が本当に見れるのか、
それとも幻覚を見せる作用があるだけなのか、
判断がつかない。
いやしかし、ゴッサリアは神戸出身と言っていたし、
〝ガシャの根〟と関係がないわけじゃなさそうだ。
なんで俺が前世の記憶を持っているかとも繋がる……。
うーむ……今考えても埒が明かないか。
「戻ろう。ここは後日改めて調査に……」
背筋に鳥肌。なんだ?
「オ、オスカー様? どう……しました?」
アーシュの声はよく聞こえなかった。
強力な魔素が近づいてきている。
壁の向こうか?
すぐに千里眼を発動させる。
〝ガシャの根〟がオーロラのようなものを放っている。
魔素とは違うようだな……なんだよこれ。
ていうかオーロラがまぶしくてよく見えない。
壁を透視して土の中を見渡す。
坑道がいくつかあるようだが……。
その時地響きで床が揺れ始めた。
と同時に見つけた。
坑道をもの凄い速さで向かってくる……あれは巨大な……ねずみ?
「来るぞ、そこだ!」
ドンっと壁が崩れ、大量の土が襲って来た。
「ぐおおおっ!」
土の雪崩に飲まれ視界が黒くなる。
誰かが上に乗っている。リンギオか?
ん? なんだ、頭の中に声が……目の奥が光って……。
「くっ……大丈夫か王子」
「ああ……痛てて……うわっマジか、
これ〝ガシャの根〟の破片じゃないか?」
俺の腹の上には小さな光る石が乗っていた。
なんてこった。触っちまった!
いや、今はそれどころじゃない。
リンギオに引っ張られ何とか立ち上がった俺は、
すぐに千里眼で辺りを見た。
穴からは毛と目の無い巨大なモグラ、魔獣だ。
辺りには〝ガシャの根〟が砕けて散らばっている。
そしてその後ろから出てきたのは……根人……ジョハ王。
さらに奥から……あれは〝六魔将〟のナルガセか?
どういうことだ? ナルガセはネネルが……
いや、視界にはしっかりとナルガセと出ている。
ユウリナの持つテクノロジーが間違える可能性は低い。
「んん? キトゥルセンの王子か。何でここにいる?」
ジョハ王は魔獣の横に立ち、剣を抜いた。
根人兵もぞろぞろと出てくる。
「待て、目的は皇帝だけだ。
頭上にはキトゥルセン軍がごまんといる。交戦はまずい」
ナルガセは倒れている皇帝を回収させた。
「お前ら……止まれ……」
フラレウムを構えたがうまく発動しない。
頭の中で爆発が起きてるみたいで、くらくらする。
誰かの声もするし、目もチカチカと眩しい。
確実に〝ガシャの根〟の影響だ。
「どうした王子、平気か?」
ランプも消え、双方視界が悪く交戦出来ない状態で、
次第に体調が悪くなる俺はその場に膝をついた。
「ど、どうしたんですか?」
「アーシュ。王子が〝ガシャの根〟に触れた。
……他の者は?」
「多分大丈夫です。て、敵、ですよね……。
暗くて、ど、どこにいるのか……」
頭が割れるように痛い。
「とにかくここを動くな。王子を守るんだ」
一瞬だけ何とか発動した千里眼で見た光景は、
皇帝を攫って穴に戻るジョハ王とナルガセの背中だった。
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