【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一

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第三章

第152話 影と氷と雷

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ガラドレス城内、三階、大ホール



天井は4層吹き抜けで両脇にカーブを描いた階段があり、



絵画や彫刻や絨毯など贅沢な仕様だ。



その中央に一人の女が立っていた。



足元には黒い闇が広がっている。



【千夜の騎士団】、〝夜喰いのザヤネ〟だ。



「ついにここまで来ちゃったかー」



状況のわりにザヤネは笑みを浮かべている。



「オスカー、先行って。ここは私が」



クロエが一歩前に出る。



「待ってよ、私もこいつにやられた借りがあるのよ」



ネネルも前に出た。



「……じゃあ一緒に」



クロエはちらっと俺を見た。



この先にいる強敵はゴッサリアとリアムくらい……



ゴッサリアは手負いだし、



機械蜂もいるし……いけるか。



むしろ二人で相手すれば早くカタが付くだろうしな。



「分かった、いいよ。



ただ、できるだけ早めにな」



「ありがと。オスカーも気を付けて」



「げ! マジか、二人一緒か……」



苦笑したザヤネだが焦っている様子はない。



俺と【王の左手】、護衛兵団、ルレ隊が階段を上がっても、



ザヤネは動こうとしなかった。



二人とも無事だといいが……。













「さて、どうしようかな……私は雷魔を殺りたいだけで、



クロエとは戦いたくないんだけど……



あなたもやるの?」



クロエの指先がパキパキと凍り始めた。



「あんたにはギカク化を教えて貰った恩があるが、



オスカーとキトゥルセン王国に敵対する者は排除する。



……それが私の存在意義だ」



「恩って……クロエは力尽くで攫われたんだから



恩なんか感じる必要ないのよ」



そう言ったネネルは純白の翼をゆっくりと広げ、



自らの周りに電気を発生させた。



「そうか」



素直に返事をしたクロエに



「もうちょっとそこ粘ってよ」



とザヤネはため息をついた。



「……じゃあ、二人ともここで死んでもらうわね」



右手の手袋を外す。



失ったはずのそこには、影で作った真っ黒な手があった。



ザヤネが右手を前に出すと地面から数十本の影の槍が勢いよく迫ってきた。



クロエも両手を前に出し、氷の津波を発生させる。



氷の津波は一瞬で影の槍とザヤネを圧し潰した。



一呼吸おいて氷が砕け散る。



ウニのように全方向に影を伸ばし脱出したザヤネは、



右手を十本指の巨大な化物の手に変形させた。



「鬼影!!」



迫りくる影の手を今度はネネルが雷撃で相殺する。



「もー、やっぱり雷とは相性が悪いわね」



ネネルは飛び上がりレーザーを撃つが、



ザヤネは素早く影に潜って躱す。



三人は移動しながら攻防を続ける。



床や階段が凍り、彫刻や壁が影で破壊され、



カーペットに電撃で火が付いた。



徐々にザヤネが押し込まれる展開になってきた。



肩に氷弾が刺さり、雷撃を食らい膝をつく。



「はぁ……はぁ……さすがに二人相手じゃキツイか……」



ザヤネの目つきが変わった。



周りの空気が歪む。



「……知らないよ、どうなっても」



ニヤリと笑ったザヤネはギカク化した。



体長は倍以上、手足は化物のようで、



灰色の肌に下着のような鎧、



漆黒の髪に、長い犬歯、赤く光る眼……。



「ネネル、気を付けて」



「分かってる。クロエもね……」



ネネルは空中からレーザーを撃った。



しかし、ザヤネの体を貫いたにも関わらず、



まるでダメージがない。



「氷吹雪!」



クロエの一番破壊力のある技でも結果は同じだった。



ザヤネは一歩もその場から動いていなかった。



「どうなってんの……」



クロエもネネルも連戦でギカク化できるほどの魔素は残っていない。



ネネルは右手に雷剣を出し、その場から猛スピードで移動した。



ザヤネに突っ込み、真っ二つにした……つもりだったが、



斬った箇所は水に溶けた炭みたいに空中に舞った後、



元通りに戻った。



「……ソロソロイイカ?」



何人もの声を重ねたような不気味な音の後、



ザヤネの指が影となって伸び、



何十もの鞭となって周囲の物を破壊した。



舞い上がった木片が粉々になるほどの鞭の濃度。



壁や階段と同じく、一瞬で吹き飛んだ二人は、



危うく意識がなくなるほどの衝撃を体に受けたが、



何とか瓦礫から立ち上がった。



「はぁ……はぁ……攻撃は通用しないし、



あの鞭は目で追い切れない……どうしようもないの?」



「……強すぎる。やっぱりギカク化にはギカク化じゃないと……



いや……使ってみるか……」



「なにそれ? クロエ……」



クロエは金色に光る円状の物体をザヤネの頭上に向かって投げた。



その物体はちょうどザヤネの真上で止まり、



紫の電気を発生させた。



「グッ……アアアアアアアアアアアアッ!!!!!」



ザヤネは苦しみだした。



「効いた!」



「私が捕まった時の、魔素抑制装置。



ムルス大要塞にいた時盗んだんだ」



動きを止められたザヤネはギカク化が剥がれてゆく。



「ううっ……クゥゥロォォエェェェェェ!!!!」



クロエを睨むザヤネの目は怒りに満ちていた。
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