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第三章

第125話 ネネルの傷

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木材を組んで作られた台の上に、

ボサップの遺体が寝かされている。

辺り一帯には両軍の死体が撒き散らされ、

上空には死肉を狙うカラスが異常な数集まっていた。

昨日まで戦場だった場所。

体力に余力のある者は友軍の死体を集め、至る所で火葬している。

俺はボサップの台にフラレウムを刺した。

ボサップの部下が周りで泣いている。

副団長のノワがボサップ軍の軍旗を、

バルバレスがキトゥルセン連邦王国の国旗を、

それぞれボサップの胸の上に置く。

最後にベミーがボサップの剣をその上に置いて、全員が一歩下がった。

獣人たちはケモズがグールに襲われたとき、

最前線で戦ってくれたボサップたちに感謝していたので、

代表としてベミーがこの儀を担当した。

「ボサップ・ガランテ! 

類まれなる武にて、我が王国を支えてくれたことに感謝する!

この男こそ真の軍人! 真の英雄なり!」

厳粛な空気が流れる中、俺はフラレウムを握り、

台に炎を放射した。





ギラク軍には何とか勝利を収めたが、

こちらも大きな損害を出してしまった。

現在の戦力はおよそ3000と少し。

軍団長のボサップを失ったのは大きい。

俺は自分のテントにて地図を前に考えをまとめていた。

集中したいので一人だ。

リーザのいないテントは少し広く、そして悲しみが漂っている。

諜報機関〝ラウラスの影〟からの情報、機械蜂、そして俺の千里眼で、

ザサウスニア軍の配置が見えてきた。

南の三国は既に壊滅させられたようで、敵主力軍は引き、

今は余暇戦力だけが統治のために残っている。

指揮しているのは下級将軍か。

そして南西の方角からは六魔将ドリュウ軍が向かってきている。

約1万の大軍、おまけに魔人もいるようだ。

次にぶつかるのはここか……。

しっかりと対策を練らないと、簡単に潰されてしまうだろう。

さらに厄介なことが一つ。

西の港から200隻以上の船が出港準備をしている。

報告と照らし合わせると、どうやら六魔将のナルガセ軍らしい。

おそらくケモズからイースの海岸線に上陸して、

ノーストリリアを攻める気だろう。

こちらは早めに対処しないとまずい。

ちなみに捉えた約1000人の捕虜は、

建設中のラグウンド地下要塞とコマザ城へ送った。

当面は労働力だな。最終的にはこちらの陣営に取り込みたいところだ。

ギラクのイケメン副官、アラギンは軍に帯同させた。

この先、もしかしたら人質として使えるかもしれない。

そして、幸いにも帝都ガラドレスは今のところ動く気配はない。

逆に不気味だ。



救護テントに行くとアーキャリーがネネルの足の包帯を変えていた。

「お、ネネル。アーキャリーすまないな、助かるよ」

白い前掛けに白い帽子、そして巻き角。……完璧。

「オスカー様。ちょうどよかったです。

ネネルさんのこの傷見てほしいんですが……」

アーキャリーはネネルの足を台の上に乗せた。

奇麗な足ダナーなんて思っていたら傷口で目が止まった。

「ちょ、ちょっとオスカー、そんなじろじろ見ないでよ……」

恥じらうネネル久々だな、なんて思っている暇はなかった。

なんだこれは。傷口が黒い。

「初めは汚れか何かかと思ったんですが、

皮膚の下に、まるで血管のように広がってて……」

千里眼で見てみる。確かに傷口を囲うように皮膚の下に根を張っていた。

「ネネル、痛いのか?」

「……ちょっとね」

困った表情のネネル。

千里眼で魔素を見た。

黒い触手がぼんやり光る。

「ザヤネの……」

ネネルは頷いた。どうやら分かっているらしい。

「クロエの話によると、ザヤネはギカク化できるらしい。

そのレベルまでいくとこういう事が出来るようになるのか?」

「うーん、分からないわ。

でもそれって私なら相手の一部分をずっと感電させ続けたり、

オスカーならずっと燃やし続けることが出来るってことでしょ?

もしそうならザヤネは相当な使い手ね……。

ああ……私、手加減されていたのかも……」

ネネルは悔しそうな顔をした。

「アーキャリー、医術師には見せたのか?」

「あ、まだです。この後ボッシュ先生が来てくれる予定ですので」

「そうか、ネネルは安静にしておいた方がいいか……」

ネネルが動けないんじゃこの後の作戦が大きく変わるな……。

「ううん、このくらいなら大丈夫よ。私ほとんど飛んでるし。

責任は果たすわ」

そうは言っても……うーん、悩みどころだ。

「なに悩んでるのよ? 

私はオスカーがダメだと言っても勝手に行くからね」

あ、ネネルのぷく顔……イイ。

「……分かったよ。東海岸に大船団が揃ってる。

ザサウスニアの海軍だ。

本当なら一人でそれらを沈めてきてほしかったんだけど、

万一のためにカカラルとキャディッシュ隊もつける。

速やかに排除して戻ってきてくれ」

ネネルはニタリと嬉しそうに笑った。

「そう来なくっちゃ」

「昨日はボサップを失った……。

ネネル、俺は心配してるんだ。

甘いって言われるかもしれないけど、

もうこれ以上誰も失いたくはない」

ネネルは目をそらした。耳が赤い。

「わ、私なら大丈夫よ。

オスカーよりも強いし」

「ふっ……頼りにしてる」




夕食時。

アーキャリーに「お二人は強い絆で結ばれてるんですね」

と少し切ない顔で言われてしまった。

嫉妬しているのだろうか。

その日はアーキャリーを俺のテントに呼んで、一緒に寝た。
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