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第三章
第121話 ルガクトの遠征
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西ロッペル山脈の更に先、ラライラ山に到着したルガクト隊は、
山の中腹から上がる数本の焚火の煙に向かって降下していった。
大昔に崖崩れでも起きたのか、
そこは一面垂直に切り立った大きな崖で、
側面に無数の竪穴とそれらを結ぶたくさんの道が縦横無尽に作られていた。
道には木製の手すりや階段、つり橋、松明などがあり、
各竪穴の入り口ではガゴイル族の女がかまどで火を起こし、
飯の支度をしていた。
「いやー遠かったですな」
「こら、気を抜くな。常に警戒を怠るなよ」
部下を叱咤してからルガクトは一番大きなテラスに向かった。
ルガクト達を見てガゴイル族は騒ぎ出した。
女子供は竪穴の中に入り、数人の男衆がテラスに集まった。
着地したのはルガクト含め数名で、残りは空中で待機させる。
「突然失礼する。
キトゥルセン連邦王国、ネネル軍副軍団長ルガクト・ミゼルだ。
責任者はどなたかな?」
目の前の若い衆は軍人でもない。十代の少年たちだった。
みんなおびえた表情でルガクトの斧手を見ている。
奥から一人の老人が現れた。
「キトゥルセン軍がここまで来たということは、
ザサウスニアは滅んだのかのぉ……」
小さな老人はエインと名乗った。
翼の膜にたくさんの穴が開いている。
「いや、まだ戦争中だ。
安心してくれ。我々は略奪しに来たのではない。
この村出身のヘルガットという戦士から聞いてここへ来た」
「ヘルガット!! 俺のおやじだ! あんた、おやじは生きてるのか?」
一人の子供が目の色を変えた。
「あ、ああ、いや、わからない……」
ルガクトは咄嗟に嘘をついた。
ここで話が終わる可能性があるし、
斬りかかってこられたらこちらも応戦しなければならない。
「そうか……」とその子は肩を落とした。
「君、名前は?」
「俺か? 俺はマウリ」
ルガクトは何か言おうと思ったが言葉が出なかった。
「して、略奪じゃないとしたら何用じゃ?」
「フュージアネット」
その場にいたガゴイル族全員が目を見開いた。
「……ヘルガットが教えたのか?」
「そうだ。私に託すと」
ふむ、と言ってエインは考え込んだ。
「ヘルガットが決めたのなら仕方がない。
扉まで連れては行くが、開くかどうかは分らんぞ」
「扉?」
「そこまでは聞いていないんじゃな。まあよい、ついてくるがいい」
山を登ったところに洞窟があった。
入って数分で小さな地底湖がある。松明の跡がいくつもあり、
木でできた道もある。
潜ると聞いて連れてきた部下数人と共に甲冑だけ脱いだ。
エインの他に3名の老ガゴイル族も行くらしい。
皆薄着になっている。
「静かにの。主を起こさないように……」
一人の老人は呑気にそう言って水に中に入っていった。
「ぬ、ぬし……?」
「でっかいのがいるんじゃよ。昔は何人も犠牲になった。
今の時期は眠っておるから大丈夫じゃろ」
エインは飄々と言い放ち、水に潜った。
ルガクト達は顔を見合わせたが意を決して後に続いた。
ルガクトには一匹の機械蜂がついてきていたので、
水中でもライトで照らされて視界は良好だった。
潜ってすぐの横穴を通ると別の地底湖に出た。
すぐ隣にもっと広い地底湖があったのだ。
こちらは外界とは完全に遮られていてる。
しかし、水面が緑や赤に光っていた。
水から上がったルガクト達は納得した。
壁一面は古代文明の遺跡になっていたからだ。
エインに案内された場所には確かに扉があった。
その脇に古代文字の板が張られ、
近くにフュージアネットと書かれている。
描いたのはルガクト達の足元の白骨死体だろう。
学者か冒険者か、とにかく何十年も前の人間だ。
「ほれロップに挨拶せんか」
そう言って老人たちは笑った。
この白骨はロップというらしい。
「さて、ヘルガットの言うとおりにここまで導きはしたが、
この先は保証できん。中に入れるかどうかは扉が決めるでな……。
時にルガクトとやら、さっきは嘘をついたな?
ヘルガットはもう死んでいるのだろう?」
見かけによらず鋭い爺さんだ、とルガクトは少し構えた。
「……ああ、その通りだ」
「ふむ。じゃなきゃこのことは言わん。
なぜ敵にそう言ったのかおぬしらは理解しておるのか?」
「いや、詳しくは……。ただあなた達ガゴイル族は、
ザサウスニア帝国のことを良く思っていないということは知っている」
爺さんたちは互いに顔を見合わせた。
「まあ、そうじゃ。わしらはザサウスニアに長年支配されてきて、
不満がたまっておる。……ヘルガットの気持ちもわかる。
あんたは相当な戦士と見た。
あんたがたならきっとザサウスニアを打ち破ってくれると思ったんじゃろ。
だから力を与えたいと思った……
さあ、扉の前に立つがよい」
くすんだ金色の扉の前にルガクトは一歩足を踏み出す。
その時、肩に止まっていた機械蜂が扉の小さな穴に飛んで行った。
機械蜂は尻を上げ、止まった。
次の瞬間、身体の形を変え穴を塞ぐ。
カチン、カチンと音がし、やがてゆっくり軋みながら扉が開いた。
「おお、まさか開くとは……」
「我々でも十回に一回しか開かんというのに……」
エインたちが後ろで何やら言っているが、
ルガクトは無視して中に足を踏み入れた。
部下たちも続く。
「真っ直ぐ行くんじゃ。他の道は崩れていて進めん」
後ろからエインの声が聞こえた。
内部はすさまじくボロボロだったが、
後からエインたちが綺麗にしたのだろう、比較的歩きやすくなっていた。
至る所で赤や緑の小さな光が瞬いているので、視界は問題ない。
ルガクト達は初めて見る古代文明に見惚れながら通路を進み、
目的の小部屋についた。
不思議な部屋だった。
壁と床、そして天井全てが真っ白に光っていて、
まるで別の空間に浮いているような気になった。
「なんだこの部屋は」
「この世ではないみたいだ」
部下が口々に呟く。
部屋の中央に台があった。
その上に古びた短剣がある。
「これは……」
「ほっほっ……そうじゃ、魔剣じゃよ」
振り返るとエインたちがいた。
「持っていくがよい。我らに適合者はいなかった。
いずれガゴイル族を導くはずだった男が、
あんたに……キトゥルセンに賭けたんじゃ。
いいか、必ずザサウスニアを倒すんじゃぞ」
ルガクトはその短剣を恐る恐る手に取った。
村に戻ると若い衆が集まっていた。
マウリが一歩前に出る。
「なあ、この国を潰すんだろ?
頼む! 俺たちにも手伝わせてくれ!」
みんな真剣な表情だ。
ルガクトは複雑な表情で部下と顔を見合わせた。
山の中腹から上がる数本の焚火の煙に向かって降下していった。
大昔に崖崩れでも起きたのか、
そこは一面垂直に切り立った大きな崖で、
側面に無数の竪穴とそれらを結ぶたくさんの道が縦横無尽に作られていた。
道には木製の手すりや階段、つり橋、松明などがあり、
各竪穴の入り口ではガゴイル族の女がかまどで火を起こし、
飯の支度をしていた。
「いやー遠かったですな」
「こら、気を抜くな。常に警戒を怠るなよ」
部下を叱咤してからルガクトは一番大きなテラスに向かった。
ルガクト達を見てガゴイル族は騒ぎ出した。
女子供は竪穴の中に入り、数人の男衆がテラスに集まった。
着地したのはルガクト含め数名で、残りは空中で待機させる。
「突然失礼する。
キトゥルセン連邦王国、ネネル軍副軍団長ルガクト・ミゼルだ。
責任者はどなたかな?」
目の前の若い衆は軍人でもない。十代の少年たちだった。
みんなおびえた表情でルガクトの斧手を見ている。
奥から一人の老人が現れた。
「キトゥルセン軍がここまで来たということは、
ザサウスニアは滅んだのかのぉ……」
小さな老人はエインと名乗った。
翼の膜にたくさんの穴が開いている。
「いや、まだ戦争中だ。
安心してくれ。我々は略奪しに来たのではない。
この村出身のヘルガットという戦士から聞いてここへ来た」
「ヘルガット!! 俺のおやじだ! あんた、おやじは生きてるのか?」
一人の子供が目の色を変えた。
「あ、ああ、いや、わからない……」
ルガクトは咄嗟に嘘をついた。
ここで話が終わる可能性があるし、
斬りかかってこられたらこちらも応戦しなければならない。
「そうか……」とその子は肩を落とした。
「君、名前は?」
「俺か? 俺はマウリ」
ルガクトは何か言おうと思ったが言葉が出なかった。
「して、略奪じゃないとしたら何用じゃ?」
「フュージアネット」
その場にいたガゴイル族全員が目を見開いた。
「……ヘルガットが教えたのか?」
「そうだ。私に託すと」
ふむ、と言ってエインは考え込んだ。
「ヘルガットが決めたのなら仕方がない。
扉まで連れては行くが、開くかどうかは分らんぞ」
「扉?」
「そこまでは聞いていないんじゃな。まあよい、ついてくるがいい」
山を登ったところに洞窟があった。
入って数分で小さな地底湖がある。松明の跡がいくつもあり、
木でできた道もある。
潜ると聞いて連れてきた部下数人と共に甲冑だけ脱いだ。
エインの他に3名の老ガゴイル族も行くらしい。
皆薄着になっている。
「静かにの。主を起こさないように……」
一人の老人は呑気にそう言って水に中に入っていった。
「ぬ、ぬし……?」
「でっかいのがいるんじゃよ。昔は何人も犠牲になった。
今の時期は眠っておるから大丈夫じゃろ」
エインは飄々と言い放ち、水に潜った。
ルガクト達は顔を見合わせたが意を決して後に続いた。
ルガクトには一匹の機械蜂がついてきていたので、
水中でもライトで照らされて視界は良好だった。
潜ってすぐの横穴を通ると別の地底湖に出た。
すぐ隣にもっと広い地底湖があったのだ。
こちらは外界とは完全に遮られていてる。
しかし、水面が緑や赤に光っていた。
水から上がったルガクト達は納得した。
壁一面は古代文明の遺跡になっていたからだ。
エインに案内された場所には確かに扉があった。
その脇に古代文字の板が張られ、
近くにフュージアネットと書かれている。
描いたのはルガクト達の足元の白骨死体だろう。
学者か冒険者か、とにかく何十年も前の人間だ。
「ほれロップに挨拶せんか」
そう言って老人たちは笑った。
この白骨はロップというらしい。
「さて、ヘルガットの言うとおりにここまで導きはしたが、
この先は保証できん。中に入れるかどうかは扉が決めるでな……。
時にルガクトとやら、さっきは嘘をついたな?
ヘルガットはもう死んでいるのだろう?」
見かけによらず鋭い爺さんだ、とルガクトは少し構えた。
「……ああ、その通りだ」
「ふむ。じゃなきゃこのことは言わん。
なぜ敵にそう言ったのかおぬしらは理解しておるのか?」
「いや、詳しくは……。ただあなた達ガゴイル族は、
ザサウスニア帝国のことを良く思っていないということは知っている」
爺さんたちは互いに顔を見合わせた。
「まあ、そうじゃ。わしらはザサウスニアに長年支配されてきて、
不満がたまっておる。……ヘルガットの気持ちもわかる。
あんたは相当な戦士と見た。
あんたがたならきっとザサウスニアを打ち破ってくれると思ったんじゃろ。
だから力を与えたいと思った……
さあ、扉の前に立つがよい」
くすんだ金色の扉の前にルガクトは一歩足を踏み出す。
その時、肩に止まっていた機械蜂が扉の小さな穴に飛んで行った。
機械蜂は尻を上げ、止まった。
次の瞬間、身体の形を変え穴を塞ぐ。
カチン、カチンと音がし、やがてゆっくり軋みながら扉が開いた。
「おお、まさか開くとは……」
「我々でも十回に一回しか開かんというのに……」
エインたちが後ろで何やら言っているが、
ルガクトは無視して中に足を踏み入れた。
部下たちも続く。
「真っ直ぐ行くんじゃ。他の道は崩れていて進めん」
後ろからエインの声が聞こえた。
内部はすさまじくボロボロだったが、
後からエインたちが綺麗にしたのだろう、比較的歩きやすくなっていた。
至る所で赤や緑の小さな光が瞬いているので、視界は問題ない。
ルガクト達は初めて見る古代文明に見惚れながら通路を進み、
目的の小部屋についた。
不思議な部屋だった。
壁と床、そして天井全てが真っ白に光っていて、
まるで別の空間に浮いているような気になった。
「なんだこの部屋は」
「この世ではないみたいだ」
部下が口々に呟く。
部屋の中央に台があった。
その上に古びた短剣がある。
「これは……」
「ほっほっ……そうじゃ、魔剣じゃよ」
振り返るとエインたちがいた。
「持っていくがよい。我らに適合者はいなかった。
いずれガゴイル族を導くはずだった男が、
あんたに……キトゥルセンに賭けたんじゃ。
いいか、必ずザサウスニアを倒すんじゃぞ」
ルガクトはその短剣を恐る恐る手に取った。
村に戻ると若い衆が集まっていた。
マウリが一歩前に出る。
「なあ、この国を潰すんだろ?
頼む! 俺たちにも手伝わせてくれ!」
みんな真剣な表情だ。
ルガクトは複雑な表情で部下と顔を見合わせた。
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