【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一

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第三章

第108話 リュグブルグの森攻略作戦

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ベミー、ミーズリー連合軍は真正面に展開するダグ家に向けて進軍していた。

ここはリュグブルグの森と呼ばれる針葉樹の森林地帯で、

時折現れる草原や湖、河川などに村や城が点在し、

多くの街道が森の中を走っている。

機械蜂の情報ではダグ家は3つある城に分かれて布陣している。

どの城も強固な塀と城門で閉ざされ攻略は難しい。

『これは難しいな。ベミー、何か案はあるか?』

ミーズリーは軍列の先頭付近にいた。

『うーん、まともに向かって行っても消耗するだけだなぁ。

しかもあんまり時間もかけれないときたかぁ』

ベミーは軍列の後方にいる。

『もうすぐ日が沈む。夜に紛れて奇襲しかないな。

ベミー、城壁を登れるか?』

『いけるよ。そんなの朝飯前だ』

『静かに門を開けて全軍を中に入れるんだ。

最初のギリアド城と真ん中のドクスム城はぎりぎり一夜のうちに移動できる距離だ。

……やれると思うか?』

『えー無理じゃないの、それ』

『普通のことをやっていてもこの戦は勝てないぞ。

敵が驚くことをやらないと』

『うー……わかったよ』


日が暮れ、森の闇に飲まれまいとギリアド城に松明の火が灯る。

石で造られた巨大な城は北側に城門がある。

反対側、南の5つある見張り塔に影が忍び寄る。

豹人族の先遣隊だ。

先遣隊は猫の忍び足で音もなく監視兵を次々と処理していった。

縄梯子が投げられ、ベミー軍全員が静かに壁を登っていく。

「いい匂いだ」

ベミーは腹を鳴らした。ダグ軍は食事の時間のようだ。

「食事時に申し訳ないですね」

副官のマーナ・ツウェニアも腹を鳴らした。

マーナは兎人族の族長の娘で巨乳格闘家だ。

優秀な戦略家でもあり、軍師の役割も担っている。

「食堂と厨房では気を付けて殺すように言っといて」

「ベミー団長、安心してください、もう言ってあります」

「さっすがマーナ。食い意地張ってるぅ」

「あなただけには言われたくないです」

ニカっと笑ったベミーは抜刀して塔から飛び降りた。


潜入したベミー軍は騒ぎが大きくなる前に、

城門を開くことに成功した。

武器庫を抑えられた敵兵たちは抵抗むなしく駆逐され、

100名ほどが投降し、日を跨ぐ前にギリアド城は陥落した。



夜が明ける寸前にはドクスム城も同じ作戦で落とすことに成功した。


翌日正午。

3つ目の城、ベッサ城で最後の戦いが始まった。

数の上ではキトゥルセンの有利。

だが強固な守備と優秀な軍師が戦いを拮抗させていた。

雲一つない、いい天気だ。青空には渡り鳥の群れが見える。

そんなきれいな空に、キトゥルセン軍の兵士が舞う。

『ベミー、あそこだ! 見えるか!?』

ミーズリーはようやく破壊した城壁付近で混戦の真っ只中だ。

『ああ、見える。あれは熊人族だ。相当強いよ』

『あいつはラドーの副官だ! ここで仕留めるぞ!』

『俺が行くよ』

ベミーは言うや否や兵と兵がぶつかる最前線まで移動し、

兵士を投げ、暴れまわる熊人を思いっきり蹴り飛ばした。

「バスドゥス様!!」

敵兵はいきなり現れた豹人族を恐れ、手が止まる。

だが城壁にめり込んだ熊人は何事もなかったように立ち上がった。

「ベミー・リガリオンか……。探す手間が省けた!」

バスドゥスは狂戦士化し、もとより巨大な体をさらに大きくさせた。

目が赤く光り、野生の狂暴さが前面に出ている。

「……いきなりかよ」

ベミーも狂戦士化し、熊のモンスターに突っ込んだ。

派手な音と共に城壁と見張り塔が崩れる。

立ち込める灰塵の中からベミーが吹っ飛ばされて出てきた。

そのまま敵兵士を20人ほど巻き込んでようやく止まったベミーは、

その場から一瞬で跳躍し、目にも止まらぬ速さでバスドゥスの足を砕いた。

「ッッ!! なにぃぃぃッッ!!」

「力だけでぇぇ!! 俺にぃぃ勝てると思うなよぉぉぉっ!!」

吠えたベミーは身体から湯気を出し、

とてつもない速さでバスドゥスを襲い、全身を砕いた。

「そんな……バスドゥス様が……」

敵兵は戦意喪失したようで、前線はもろくも崩れ去った。

「押せー!」

マーナの合図で穴の開いた城壁にベミー軍が群がる。

『見事だ、ベミー。こちらも軍師を片付けた』

狂戦士化を解き、見上げるとすでに城内を殲滅中のミーズリーが、

敵兵を5人まとめて屠ってるところだった。

『ちぇ、いつのまに……うっ』

ベミーは顔をしかめて胸を抑えた。

「どうしました? 食べすぎですか?」

「……ふふ、マーナじゃないんだから」

軽口を言ってマーナを行かせてから、心臓を強めに2回叩いた。

「大丈夫、大丈夫……」

そう自分に言い聞かせるように呟いたベミーの額には、

大粒の汗が浮かんでいた。

「さあーあとはダグ家の人間で終わりだ!

みんなー気合い入れろー!」

「オオー!」

ベッサ城は既に至る所から火の手が上がっていた。






ムルス大要塞  上層階


「違う違う、そうじゃない。集中して」

「難しいぞ。そもそも対話ってなんだ。

存在しない奴と話せるわけないだろう」

ザヤネの闇の中で、クロエはおかんむりだ。

「存在するのよ、あなたの中に。

ギカク化した魔人のあなたはいつもあなたの中にいる。

それを感じるの。

はい、もう一度。

いい? 自分の内側に能力を解き放つ感覚よ。

そしたらギカク化したあなたが、あなたを襲ってくる」

クロエは目を瞑って意識を集中させた。

果てしない氷原を歩く。

遠くにギカク化した自分が見えた。

次の瞬間にはもう自分の目の前にいる。

「でも、襲われる前に問いかけるの。〝お前は誰だ〟って」

「お前は誰だ」

ギカク化した自分はニタっと笑った。

「我は何者でもない。我はお前が決める者。

恐れているのなら、恐れに殺されろ。

そうでないなら……」

クロエは手を差し出す。

ギカク化した自分も手を出した。

二人の手の平が合う。


私はどうしたい?

恐れているのか? なぜ?

母をこの力で殺したから? 

父もこの力で殺したから?

国を滅ぼし、多くの人を不幸にしたから?

「分かってるじゃないか」

ギカク化した自分が顔を近づける。

力を使うことを躊躇っている? なぜ?

「また同じことをしてしまうと思っているんだろう?」

首に手をかけられる。

パキパキと全身が氷で覆われる。

そうだ。その通りだ。

「でも……このままじゃダメなんだ!」

全身を覆っていた氷が砕け散った。

そんな状況じゃない。そんなことを考えている場合ではない。

私はオスカーに……! オスカーの事を……!

もう何も恐れない。恐れている場合ではないのだ。

一番恐ろしいことは……。

「おい。力を貸せ」

クロエはギカク化した自分の首をガッと掴み、ニヤリと笑った。
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