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第三章
第107話 ダルハン軍VSドーソン家
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東ロッペル山脈から脈々と流れるザサウスニア東部の水源、
ヤーソン川沿いに進軍しているのはダルハン軍だ。
川辺の森や林で身を隠しながら、
ラドー軍東部の奥に布陣しているドーソン家を目指す。
本来ならばミルコップ軍も向かうはずだったが、
国内の反乱鎮圧に割り振られたため、
ダルハン軍400名だけで敵軍2000名を相手しなければならない。
兵の心配をよそに一人どっしりと構えているのはダルハンだ。
そもそもどの敵軍を相手しても数で圧倒されてるんだ、と
微塵も動揺していない。
途中、機械蜂一匹が合流し、指揮下に入った。
ダルハンは蜂を先行させ、情報収集させた。
他にもダルハンの脳内チップに周辺地図が入っているので
迷いなく最短距離で進軍出来ている。
そのおかげでザサウスニア人や村などを避け、
さらに敵の伝令兵を5回仕留めた。
丸一日行軍し、次の日の昼頃にドーソン家の野営地近くに到着した。
敵の野営地は渓谷の底にあった。
昔は川だったのだろう、
深さ30mほどの渓谷がこの地域を迷路のように走っている。
平らで草も生えていないので、
馬や馬車で進むのには都合がいい。
前線から遠く、補給を任されている程度なので、
敵兵に緊張感がない。
ダルハンは100名を残し、敵野営地を急襲した。
甲冑を脱いで焚火を囲んで飯を食っていた敵軍は慌てふためき、
成すすべなく蹂躙された。
「一人十人は殺せ! 時間の勝負だ!」
ダルハン軍は次々敵の首を落とし、野営地の中ほどまで攻め込んだ。
しかし、さすがに敵も体勢を立て直し守りを固めてきた。
奥から騎兵の大群が迫ってくるのを確認して、
ダルハンは退却の命令を出した。
「成果は!?」
「600……700は削れたかと!」
副官のケタルは馬で駆けながら大声で答える。
元【王の左手】でググルカ族の青年は敵の血しぶきで真っ赤だ。
ダルハンは馬の腹を蹴りながら追ってくる敵軍との距離を測った。
「騎兵反転! 歩兵が遅れている! 弓兵、敵の馬を狙え!」
攻防を繰り返しながら、
ダルハン軍は迷路のような渓谷を奥に奥に逃げていく。
やがて行き止まりにたどり着いた。三方は絶壁の崖だ。
同時に渓谷の上から縄梯子が大量に落とされる。
残る100名のダルハン兵が準備していたのだ。
馬と旗は捨て、全軍が渓谷の上に登った時、
追ってきたドーソン軍が追い付いた。
「今だ! 落とせ!」
ダルハンの合図と共に巨大な岩と大量の丸太が落とされた。
行き止まりになっている渓谷の入り口を岩石と丸太が塞ぎ、
ドーソン軍は完全に身動きが取れなくなった。
「矢を放て!」
圧倒的勝利だった。ドーソン軍はみるみる数を減らしていく。
「えげつない作戦ですね……」
部下の一人が呟く。
確かに逆の立場なら地獄だ。
「五倍の敵勢をこんな鮮やかに……奇跡だ」
「あほ。これを当たり前に続けていかなきゃザサウスニアには勝てんぞ」
やはりダルハンは動じない。
「敵将が何やら叫んでおります」
下を覗き込むと「将軍を出せ」だの「恥ずかしくないのか」だの
「一騎打ちをしろ」だのと喚いている。
「……行かれますか?」
「行くわけないだろ、めんどくさい。
それに、この場面でああいうこと言うやつは大抵ザコだ。
戦の前なら受けて立ったが……。
己の判断ミスでこうなったくせに、なんて恥ずかしい奴なんだ。
お前ら、ああはなるなよ」
部下たちは苦笑しながら頷いた。
「敵の生存者が30人になったら攻撃を止めさせろ。
その後は生きてる馬を捕まえて、死んでる馬は解体、燻製肉を作れ。
敵の甲冑、武器も回収しとけ。ああ、瀕死の敵にはとどめを刺してやれ。
全部終わったら敵野営地に戻って使えるものを全部かっぱらうぞ」
指示を出し終えたダルハンは鉄兜を脱ぎ、
あとは任せたとテントに戻っていった。
「……団長、かっこよすぎない?」
「それな」
副官たちは尊敬と羨望のまなざしでダルハンの背中を見送った。
ヤーソン川沿いに進軍しているのはダルハン軍だ。
川辺の森や林で身を隠しながら、
ラドー軍東部の奥に布陣しているドーソン家を目指す。
本来ならばミルコップ軍も向かうはずだったが、
国内の反乱鎮圧に割り振られたため、
ダルハン軍400名だけで敵軍2000名を相手しなければならない。
兵の心配をよそに一人どっしりと構えているのはダルハンだ。
そもそもどの敵軍を相手しても数で圧倒されてるんだ、と
微塵も動揺していない。
途中、機械蜂一匹が合流し、指揮下に入った。
ダルハンは蜂を先行させ、情報収集させた。
他にもダルハンの脳内チップに周辺地図が入っているので
迷いなく最短距離で進軍出来ている。
そのおかげでザサウスニア人や村などを避け、
さらに敵の伝令兵を5回仕留めた。
丸一日行軍し、次の日の昼頃にドーソン家の野営地近くに到着した。
敵の野営地は渓谷の底にあった。
昔は川だったのだろう、
深さ30mほどの渓谷がこの地域を迷路のように走っている。
平らで草も生えていないので、
馬や馬車で進むのには都合がいい。
前線から遠く、補給を任されている程度なので、
敵兵に緊張感がない。
ダルハンは100名を残し、敵野営地を急襲した。
甲冑を脱いで焚火を囲んで飯を食っていた敵軍は慌てふためき、
成すすべなく蹂躙された。
「一人十人は殺せ! 時間の勝負だ!」
ダルハン軍は次々敵の首を落とし、野営地の中ほどまで攻め込んだ。
しかし、さすがに敵も体勢を立て直し守りを固めてきた。
奥から騎兵の大群が迫ってくるのを確認して、
ダルハンは退却の命令を出した。
「成果は!?」
「600……700は削れたかと!」
副官のケタルは馬で駆けながら大声で答える。
元【王の左手】でググルカ族の青年は敵の血しぶきで真っ赤だ。
ダルハンは馬の腹を蹴りながら追ってくる敵軍との距離を測った。
「騎兵反転! 歩兵が遅れている! 弓兵、敵の馬を狙え!」
攻防を繰り返しながら、
ダルハン軍は迷路のような渓谷を奥に奥に逃げていく。
やがて行き止まりにたどり着いた。三方は絶壁の崖だ。
同時に渓谷の上から縄梯子が大量に落とされる。
残る100名のダルハン兵が準備していたのだ。
馬と旗は捨て、全軍が渓谷の上に登った時、
追ってきたドーソン軍が追い付いた。
「今だ! 落とせ!」
ダルハンの合図と共に巨大な岩と大量の丸太が落とされた。
行き止まりになっている渓谷の入り口を岩石と丸太が塞ぎ、
ドーソン軍は完全に身動きが取れなくなった。
「矢を放て!」
圧倒的勝利だった。ドーソン軍はみるみる数を減らしていく。
「えげつない作戦ですね……」
部下の一人が呟く。
確かに逆の立場なら地獄だ。
「五倍の敵勢をこんな鮮やかに……奇跡だ」
「あほ。これを当たり前に続けていかなきゃザサウスニアには勝てんぞ」
やはりダルハンは動じない。
「敵将が何やら叫んでおります」
下を覗き込むと「将軍を出せ」だの「恥ずかしくないのか」だの
「一騎打ちをしろ」だのと喚いている。
「……行かれますか?」
「行くわけないだろ、めんどくさい。
それに、この場面でああいうこと言うやつは大抵ザコだ。
戦の前なら受けて立ったが……。
己の判断ミスでこうなったくせに、なんて恥ずかしい奴なんだ。
お前ら、ああはなるなよ」
部下たちは苦笑しながら頷いた。
「敵の生存者が30人になったら攻撃を止めさせろ。
その後は生きてる馬を捕まえて、死んでる馬は解体、燻製肉を作れ。
敵の甲冑、武器も回収しとけ。ああ、瀕死の敵にはとどめを刺してやれ。
全部終わったら敵野営地に戻って使えるものを全部かっぱらうぞ」
指示を出し終えたダルハンは鉄兜を脱ぎ、
あとは任せたとテントに戻っていった。
「……団長、かっこよすぎない?」
「それな」
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