上 下
103 / 325
第2章 

第98話 片翼の軍師

しおりを挟む
「我がザサウスニア帝国の南側には、

東からマルヴァジア、カサス、モルテン、ウカ、

そして西の端のベラニスと中規模の国が5つ並んでます。

これらの国々はそれぞれ人口5万前後で、

軍も5千ほどの戦力を有しています。

我が帝国には及びませんが、しかし無視もできない規模。

更にモルテン、ウカ、ベラニスの3国は同盟を組み、

わが国との国境付近で紛争を繰り返しています。

そして北はキトゥルセン王国……

周辺国を次々と取り込み、こちらも無視できない規模になりました」

【六魔将】の一人、ナルガセが、

大陸南部の大国テアトラより派遣された片翼の軍師リアムに説明をする。

「場所に恵まれておらんな」

地図を見ながらリアムはつぶやいた。

「そうです。周囲を囲まれているので、戦力が分散してしまう」

「先日、兄は正式に開戦の命令を下した。

いよいよ本気で国盗りを開始するということだ」

皇帝の弟、ニカゼは鋭い目つきでリアムを見た。

「そこで問題なのが、誰がどこの戦域を担当するかじゃ」

ドリュウは短剣の先で地図上を指す。

「こちらは南の三国同盟にかなりの戦力を割かれている。

まだお互い本気ではないが、こちらが仕掛ければ

あちらも出し惜しみすまい。激戦になるだろう」

ニカゼの発言にみな考え込む。

「北はひとまず置いといて、先に南を制圧してしまう方が現実的じゃないの?」

少し離れた机で赤ワインを注ぎながらシキは呑気に言う。

「それならば逆に南を停戦しておいて、

一気に背後の北を落とす方が理にかなっている」

リアムが案を出す。

「……いつから我が帝国はそんなさもしい戦いをするようになった?

周囲の弱小国なぞ同時に相手して釣りがくるわ!」

ラドーが吠える。

全員の顔に「確かにな」との表情が浮かんだ。

「現在の状況は?」

リアムがナルガセに聞く。

「南部の国境付近にシキ軍、ドリュウ軍、ギラク軍が展開しています。

ここガラドレスにはニカゼ軍、北部にラドー軍。

私の軍は調整役として各地に散っております。

マルヴァジア、カサス両国が動けば戦略はまた変わってきますが」

「ふむ。ラドーの言うことも一理ある。

戦力差から見て各軍が一国と対等に渡り合える規模だ。

私も100人の私兵がいるので参戦させよう」

「100人で何が出来るんだ」

ラドーは嘲笑した。

「ただの兵ではない。強力な魔人も一人いる」

リアムも不敵な笑みで応える。

「あとは魔戦力ね。

南部の魔戦力はカサスの女王が魔剣使いなだけで、他は皆無。

北部は……魔剣が1、魔人が2、魔獣が1。手強いわね」

シキはラドーにウインクした。

「こちらは魔剣が1、リアム殿の魔人を入れれば2、魔獣が2……。

どう振り分けるかだな」

ニカゼは楽しそうに口角を上げる。

「特に注意すべきは〝雷魔ネネル〟ね。

大陸南部まで名が通っているほどの魔人よ」

シキに同意したのはナルガセだ。

「北部の戦力はそれだけではありませんよ。

報告によると有翼人に獣人、白毛竜に機械人までそろえています。

機械人についてはまだ情報はない……。

あまり軽く見ない方がよさそうです」

「キトゥルセン軍は5千もいない。

対して我が北方軍は2万。およそ4倍だ。

数の力で押し切って見せよう」

ラドーは自信満々だ。

「ん? ニカゼ殿、軍の総数は?」

リアムが尋ねる。

「8万ほどだ」

「確かザサウスニア帝国の人口は12万ほどのはず……。

人口に対しての軍人比率がおかしなことになっているが……」

「正規兵は3万ほどよ。この国には奴隷が10万人くらいいるの。

その半分が奴隷兵ってわけ。

奴隷は国民ではないから数に入れてないだけ。よろしくて?」

説明し終わるとシキは妖艶な笑みを浮かべながらワインを一口煽った。

「なるほど、了解した。こちらもいくつかの仕掛けがある。

それを踏まえて作戦を練ろう」

少しの沈黙の中、すぴーと鼻息が聞こえる。

全員がギラクの方を向いた。

「……ん? 終わったか?」

立ったまま寝ていたギラクが目を覚ました。

「気にするなリアム殿。あれはあれで、やるときはやる」

「こういう話し合いは苦手なの、バカだから」

「おう、シキ。わかってるじゃねーの、ガハハハハッ!!」




一人の帝国兵がリアムの部屋に夕食を届けに来た。

「お前が伝令とはな。何かやらかしたのか?」

「いやいや、ザヤネをここまで運んできただけですよ。

それより、どうですかこの国は?」

「この国の人間は過信している。

そしてどいつもこいつも我が強い。

私のことなど外交上の飾りだと思っているのだろう。

……報告通りならキトゥルセンだけでかなりの損害を被るだろう」

「好きにやらせたらいいじゃないですか。

どちらにしても、残った方をテアトラが喰う、ですか……

しかしテアトラも哀れですね、聖ジオン教国に操られてるとも知らずに」

「なら我々は聖ジオン教国の血を吸うダニだな」

「かもしれませんね」

「クガ、お前はキトゥルセンが気になってるそうだな」

「王子がいい子なんでね」

クガは持ってきた料理を広げると勝手につまみ食いを始めた。

「私がいるからには潰すぞ」

「ええ、構いません。他にも唾をつけてる国はいくつかあるので」

「ふん……団長の方はどうなっている?」

「ジオン教騎士団と共にゼニア大陸に渡ってなにやらやってます。

僕みたいな一団員には教えてくれませんよ」

「たぬきめ。お前みたいな奴が何も知らん訳ないだろう」

クガは食べるのをやめ、ニタっと笑った。

「はて、なんのお話でしょ? 

……まあリアムさんも責任取らなくていいんだから楽しんで下さいよ。

あ、ウスコダって渓谷行った方がいいですよ! 凄いイイ景色!

あとメルスーラって郷土料理もおススメです。

あ、もう行かなきゃ、早くしないと娼館閉まっちゃうんで。

終わったらまた飲みましょうね。んじゃ」

クガは口元を汚したままやかましく帰っていった。

「ふん、クガめ……読めぬ奴だ」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

あの味噌汁の温かさ、焼き魚の香り、醤油を使った味付け——異世界で故郷の味をもとめてつきすすむ!

ねむたん
ファンタジー
私は砂漠の町で家族と一緒に暮らしていた。そのうち前世のある記憶が蘇る。あの日本の味。温かい味噌汁、焼き魚、醤油で整えた料理——すべてが懐かしくて、恋しくてたまらなかった。 私はその気持ちを家族に打ち明けた。前世の記憶を持っていること、そして何より、あの日本の食文化が恋しいことを。家族は私の決意を理解し、旅立ちを応援してくれた。私は幼馴染のカリムと共に、異国の地で新しい食材や文化を探しに行くことに。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

魔導具士の落ちこぼれ〜前世を思い出したので、世界を救うことになりそうです〜

OSBP
ファンタジー
科学と魔導が織りなす世界。そんな世界で、アスカ・ニベリウムには一つだけ才能があった。それは、魔導具を作製できる魔導具士としての才だ。だが、『かつて魔導具士は恐怖で世界を支配した』という伝承により、現状、魔導具士は忌み嫌われる存在。肩身の狭い生活をしいられることになる‥‥‥。 そんなアスカの人生は、日本王国のお姫様との出会い、そして恋に落ちたことにより激動する。 ——ある日、アスカと姫様はサニーの丘で今年最大の夕陽を見に行く。夕日の壮大さに魅入られ甘い雰囲気になり、見つめ合う2人。2人の手が触れ合った時…… その瞬間、アスカの脳内に火花が飛び散るような閃光が走り、一瞬気を失ってしまう。 再び目を覚ました時、アスカは前世の記憶を思い出していた‥‥‥ 前世の記憶を思い出したアスカは、自分がなぜ転生したのかを思い出す。 そして、元の世界のような過ちをしないように、この世界を救うために立ち上がる。 この物語は、不遇な人生を送っていた少年が、前世を思い出し世界を救うまでの成り上がり英雄伝である。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

王都を逃げ出した没落貴族、【農地再生】スキルで領地を黄金に変える

昼から山猫
ファンタジー
没落寸前の貴族家に生まれ、親族の遺産争いに嫌気が差して王都から逃げ出した主人公ゼフィル。辿り着いたのは荒地ばかりの辺境領だった。地位も金も名誉も無い状態でなぜか発現した彼のスキルは「農地再生」。痩せた大地を肥沃に蘇らせ、作物を驚くほど成長させる力があった。周囲から集まる貧困民や廃村を引き受けて復興に乗り出し、気づけば辺境が豊作溢れる“黄金郷”へ。王都で彼を見下していた連中も注目せざるを得なくなる。

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

処理中です...