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第2章 

第97話 ザサウスニア帝国の【六魔将】

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ザサウスニア帝国、帝都ガラドレス。

「ラドー将軍がお着きになられました!」

将軍しか入ることの許されない〝赤土の間〟の扉で兵士が声を上げた。

「ようやく来たか」

部屋の中にいるのは6人。

いずれもザサウスニア帝国軍を指揮する上級将軍、

通称【六魔将】たちだ。

全員が龍の鱗を模した赤銅色の甲冑を着けている。

「遅いぞラドー。北の寒さで玉が冷え切っちまったか?」

ガハハと豪胆な笑い声を上げ、

部屋に入ってきたラドーの肩を叩いたのは猛将で知られるギラクだ。

大柄で丸刈り、あごひげを生やした強面だが、

陽気な性格なので軍内部では人気が高い。

「触るな、デカブツ。俺は今気分が悪いんだ」

ラドーはギラクの手を振り払った。

「お前はいつも機嫌が悪いのお。

閣下の前で出ないように気を付けるんじゃぞ」

小柄な老将、ドリュウは鋭い目つきで諫めた。

白髪だがいまだ筋骨隆々、若い頃は〝暴れ龍〟と恐れられ、

帝国南西部の小国をいくつも落とした男だ。

ラドーは舌打ちして「だまれじじい」と睨み返す。

「ラドー、まだいたずらに部下を斬っているそうだな。

あれほどやめろと言ったはず……」

すらりとした大きな体躯の知将ナルガセがそう言い終わる前に

「もうあんたの部下じゃない。俺に指図するな」

とラドーは遮った。

呆れたようにため息をついたナルガセは、

冷静で聡明、顔も良いので国民から支持されている軍の顔だ。

「そうカリカリしないで。いい男が台無しよ」

黒い巻き髪をたなびかせ、

唯一の女将軍シキは挑発するようにラドーの頬に指を這わせる。

甲冑の隙間からは太ももの付け根までを見せつけ、

妖艶な雰囲気を漂わせる皇帝のお気に入り。

「触るな娼婦」

ラドーはシキの手をパシッと叩いた。

「嫌われちゃった」と舌を出したシキは、

甲冑から零れ落ちそうな胸を揺らしながらその場を離れた。

「ふふ、人気者だなラドー。全員揃ったし、始めるか」

中央の大机に広げた地図を見ていたニカゼ将軍が顔を上げた。

ニカゼは皇帝の弟なので、

序列が平等な【六魔将】の中でも一番発言権が強い。

ラドーもニカゼには突っかからない。

金髪坊主をムキムキの手で撫で上げてから、ニカゼは「集まれ」と言った。

「ラドー、ムルス大要塞はどうだ? 拡張工事は進んだか?」

「すべて順調ですよ。いつでも攻め込めます」

「そうか、頼もしいぞ。北はお前が頼りだ。抜かるなよ?」

「そちらこそ」

「だはは! 皇帝の弟にそんな口きけるのはお前ぐらいしかいねえや!」

ギラクは手を叩いて爆笑した。

「……で、そいつは誰だ?」

ニカゼの後ろに黒衣を着た有翼人が立っていた。

翼が一つしかない壮年の男だ。

「この方は南の大国テアトラより派遣された名軍師、リアム殿だ」

「……同盟でも組んだのか? そんな話は知らんぞ」

ラドーは不機嫌そうに吐き捨てた。

「私たちもさっき知ったのよ」

シキの組んだ腕の上でたわわな胸がぷるんと揺れる。

「皇帝には何か深い考えがあるのだろう」

「そうじゃ、わしらは戦の事だけ考えてればよい」

ナルガセとドリュウが諭す。

「そうだとしても俺は俺のやり方でやる。軍師なぞいらんわ」

「こらえろラドー。兄の命令だ。大まかな作戦はリアム殿が立て、

現場での調整は各自がするようにとのお達しだ」

ラドーは大きな舌打ちをした。

「ではまず、リアム殿に我が帝国の現状を知ってもらわねばな」

全員が地図を覗き込む。
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