【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一

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第2章 

第65話 ケモズ共和国攻略編 箱庭

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透視不可能な壁があることに気が付いた。

その壁で四方を囲まれている広大な空間に入る事となった。

ユウリナの戦闘は全て脳内チップ経由で動画と音声が来ていたので、

管理者たるAIの存在がいることも知ったし、

壁が動いて道が変わった事も知っていた。

この区画はそうやって開いたものだ。

ここを通る以外、元のルートに戻る術はない。

「何? ここ……」

クロエが絶句するのも無理もない。

中は密林だった。地上には無い亜熱帯の植物群だ。

何がどうなっているのか、俺たちにはしばらく時間が必要だった。

天井は明るい。まるで昼間。光度調節の出来るパネルが敷き詰められている。

千里眼で見てると広さは5キロ×7キロはあった。

「ひ、広い……」

「あれ、分かんない分かんない。

ここ、地下だよね? ダンジョンの中だよね?」

キャディッシュはぼそりと呟いた。

俺は千里眼で密林を走査した。

動くモノを発見。

ネズミの一種と思われる動物、大きなバッタ、蛇、小型の鹿……驚いた。

なんだあれは。

小さな人間? いや、背中が体毛で覆われている。大きさは俺の膝丈ほど。

正面の身体や顔はまんま人だ。裸で下半身を葉っぱで隠している。

男は木の棒を持ち、女は上半身丸出しで枝を編んだ籠を抱えていた。

別の所では掌ほどもあるムカデやクモを捕まえて食べている。

ここは何だ? 

完全に孤立した生態系。空調や天候も生きたシステムが動かしている。

元々は宇宙船だったというから、恐らく酸素を作る部屋なのかもしれない。

それなら生物はいらないんじゃないか?

5000年以上もこの箱庭内で管理された食物連鎖が続いているのか?

それとも後から生物が流入して住み着いた……? 

それにしては違和感がある。

ん? あれは……。

ズームして見てみると人型機械が密林を歩いていた。

ユウリナと戦っていたような奴だ。

おそらくこの区画の管理機械だろう。背中に筒状の鉄網を担いでいる。

管理用人型機械が小さな人間を捕獲していく。

まるで物のようにホイホイと背中の網に入れてゆく。

……なるほどな。

転換炉に入れる気だ。

外から入ってきた者だけじゃなくて、最低限のエネルギーは養殖してた訳か。

「行くぞ」


管理用人型機械は全部で5体。

俺が場所を教え、キャディッシュがクロエを運んで人型機械を壊す。

この方法で難なく5体全てを無力化した。

三人とも俺がユウリナと交信出来る事は知っているので、

敵の場所が分かることも特に疑問に思わないみたいだ。

詳しくは分からないけど、

ユウリナの不思議な力が俺にも与えられている、

と思っているのだろう。

千里眼の能力は誰にも白状する気はないからちょうどいい。


攻撃はクロエに任せた。俺がやると、この森に火をつけてしまう恐れがあるからな。

キャディッシュは初めてクロエを運べるとあって興奮していた。

そのくせちょっと緊張していた。うざかった。

クロエは俺の命令だから何も言わなかったが、細目でこっちを見て何かを訴えていた。

仕方ないじゃん。効率を考えたらこれが最善策なんだよ。

管理用人型機械を倒し、小さな人間を解放したら、村に連れてかれた。

木と葉っぱで出来た小屋が4戸あるだけの簡素な村だ。

50人ほどいるだろうか。鳥の鳴き声のような声で話をしている。

「歓迎されてるのかな」

「多分ね」

小さな人間達は好奇心旺盛で、服の裾をつついたり、引っ張ったりしてくる。

小動物みたいで可愛い。

クロエが見たことない顔でデレついていた。

そんなクロエを見てキャディッシュもデレついていた。

彼らの文明レベルは低い。

歓迎の印で見たことも無い黄色い木の実を出された。

「ぐわ! あっまー」

「頭が痛くなる甘さだな……」

リンギオはこの世の終わりみたいな顔をした。

「……美味しい」

クロエだけがバクバク食っている。

「まじかクロエ……」

虫歯になるぞ?

扉までの道を案内してくれ、と身振り手振りで説明してみた。

長老っぽい老人は何とか理解してくれた。

「オスカー、あまり時間がないのでは?」

リンギオが小声で囁いた。

「ああ、道は分かるけど、もうちょっとこの種族を観察したいんだ」

この区画から出られる扉まで2キロほど歩いた。

その間に色々な事が分かった。

彼らは、ほら穴や倒木の下などで身を寄せ合って寝ているようだ。

特定の住居は持たない。先ほどの村は集会場の様なものらしい。

火を起こして獲物を焼くくらいは出来る。

嗅覚が異常に鋭い。

そしてすぐ殴り合いのけんかをする。

しかし気が付くと仲直りしていたりする。猫みたいだ。

所かまわず交尾を始める。夫婦という概念はないようだ。子供は一度に最低5人生まれる。

姿は人間だけど、限りなく野生に近い種だ。


雨が降る。夜が来て3時間で朝が来た。一日のサイクルが早い。


扉に着いた。

「道変わった時は正直どうしようかと思ったけど、何事も無く抜けれてよかったな」

「そうですね。クロエは名残惜しそうですけど」

小さな人間達は裾を引っ張って、まるで行かないでと言っているようだ。

クロエは一人の女の子の頭を撫でていた。猫か。

「オスカー……この子、飼う」

「飼う言うな。ペットか! 

そもそもちゃんとご飯あげれるのか? トイレの始末もするのか? 

散歩だって毎日行かなきゃいけないんだぞ? 

命を扱うっていうのは簡単な事じゃない? その覚悟はあるのか?」

「ある!」

「……よし、じゃあ分かった! ……ってなるわけないだろ!」

「えーー! オスカーひどい!」

なんだこのやりとり。

「生態系を崩しちゃだめだ。ていうか人間だから飼うとか無いだろ」

クロエを叱ってから俺たちは扉を潜った。

小さな人間達はここからは出たくないようだ。扉を潜ることを恐れているように見える。

20人程の小さな人間達は、扉の前でしばらくうろうろしていたが、

やがて俺たちの事など忘れたかのように、密林の中へ消えていった。
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