【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一

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第2章 

第54話 神殿にて

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ノーストリリア城から南へ一キロほど離れた場所に、十神教の神殿が出来た。

十神教は元々深く信仰されてきたものではない。

前世で言えば仏教とか神道とかそんなレベルだ。

けどユウリナの噂が軍から国民にゆっくりと伝播され、

噂が噂を呼び、今では一般人にも広く信じられるようになった。

中には一定数の熱狂的な信者もいるらしい。

実際に神が現れたのだから、それも納得だ。

十神教の神の一人にて、金色の機械人、ユウリナ。

マジで謎な存在だ。


城からは馬車で移動したのだが、道中はまるでパレードだった。

隊列はダカユキー率いる護衛兵団30名が固め、

王族専用馬車の前後には【王の左手】も同行した。

有翼人のキャディッシュはイケメンで天使なだけあって、黄色い声がすごい。

本人は嬉しそうな顔をして手なんか振っていた。仕事してくれよ? 

そしてクロエはよりにもよって短パンを履いてきた。

尻がはみ出る様な短いやつだ。本人はどうも暑いらしい。

マントはしているが身体の前面は見える。

しかも右足はロングブーツなのに、左足はショートブーツ。

太ももも眩しいが氷の足はもっと眩しい。氷の足をわざと見せる様な格好だ。

本人曰く、私が魔人と分かった方が抑止力になるだろ? との事。

確かに一理ある。仕事の出来るOLかよ。

……頼りにしてます。

そのせいか、沿道の人々は男も女もクロエの足に釘付けだった。

白毛竜の騎竜兵も四騎いるし、

集まった人にはどこぞのエレクト〇カルパレードに見えても仕方ない。

え? 俺? もちろん窓から手を振ったよ。ちょっとだけね。


外から神殿を見ると手前はドーム型の建物が見え、奥には複数の塔が生えている形だ。

うんうん、中々荘厳じゃないか。

神殿は横長の階段を上って3階部分から入る。一階と二階は孤児院と学校だ。

神殿の内部に入って大きなため息が出た。

広い場所が気持ちいい。馬車はどうも苦手だな。

「カカラルで来た方が良かったですかな?」

ラムレスは下あごを震わせながら笑った。

「いや、自分から言い出したことだ。一般国民とも触れ合わないとな」

神殿の天井を見上げた。

「元々は小さな教会でしたが、まぁ熱心な信者がいる訳でもなく、

孤児院としても利用されていました」

白い壁にはよくある壁画のようなタッチで、

ユウリナと十神教の各伝承に残っている場面が描かれている。

しかし合間にはカカラルや魔剣を持つ俺、ネネル、クロエ、腐王なども描かれていた。

「ねえねえ、俺がいるんだけど」

こりゃあ、これまでの事を神話にする気だ。

「ええ、信仰心を強めるには、皆さんの存在は外せませんからね」

確かにユウリナが十神教の神だと打ち明けてから、

国家運営に利用出来ないか会議を重ねていた。

宗教国家とまではいかないが、反乱無く国民を一つの方向に導くには、

宗教というのはとんでもなく便利なものだ。

もちろん、古くからこの地にあったものだし、

実際に神がいるという条件がなければ検討もされなかったことだけど。

傲慢な人間の欲を入れず、例えば仏教色を強めて、

より平和な教えに作り込めば、多分うまく回るはずだ。


内部はモスクのような作りだった。

上の階まで吹き抜けの高い天井は円形で、周りは大きな柱が8本、

祭壇にはユウリナを模した石像と、両側にはなぜかカカラル、白毛竜の石像まであった。

「なんでだよ」

思わず突っ込んだ。

「……守り神的な?」

クロエが呟く。

「僕の石像もあったらもっと美しくなると思うんだ」

「黙れ」

「何だよ、リンギオ。君も僕の美しさに嫉妬しているのかい? 

ふふふ、まったくみんなそうなんだよ、まいったな……」

「私はリンギオかっこいいと思うけど」

「がーん!! クロエ、やめて聞きたくない! 

僕が聞きたい言葉、それ。僕にも言って!」

「お前らうるさい」

俺が言うと二人はぴしゃりと黙った。

「しかしまぁ、誰が最終決定したんだ? ユウリナか? 

確かに荘厳で迫力あるし、かっこいいが、ごちゃまぜ感が半端ないな」

「色々考えてこうしたそうです。人は物語に惹かれる、と仰っていました」

ラムレスと横に並んで像を見上げた。

「元々ある十神教の物語もあるだろうに……」

「それだと弱いのでしょう。

私も恥ずかしながらあまり十神教に詳しくないのですが、

書物を調べてみると、伝承は地域によってバラバラで、一貫性が無いのです。

何千年も前、古代文明の時代からある古い宗教ですから、

風化するのもやむなしと言った所でしょうな。

始まりの、天から降りてきた十人の神が世界を作った、という部分はどこも一緒です。

あとは、一人の神が身体を変えて船になる。

三人の神が合体して月となった。

一人の神の身体がバラバラになって魔剣が生まれた、等々。

どれも断片的で、とても物語にはならないのです」

「ユウリナは知らないのか?」

「ええ。今の状態では思い出せないとか言っておりましたな」

自分が神だと白状しておいて思い出せない? 怪しいな。

しかし、俺が問い質してもなんだかんだはぐらかされそうだ。

あいつは知っているのに言わないことが多すぎる。

「ふーむ。確か自然と共に生き、自然を受け入れる、とか、

いい行いをすれば来世は素晴らしいものになるとか、簡単に言えばそういう教えだろ?」

「そうですね。その審判を、人を超えた十人の神がしてくれる、でしたかな」

半ば忘れ去られた宗教観を、自分達をも神格化し、

国を統治するための道具として書き換えてしまう……。

そんなことが許されるのか? いいんだろうか、こんなことして。

……なんて考えるふりをしてみたけど、正直どうでもいい。

そもそも綺麗事で出来るほど国家運営は甘くない。

だって歴史が証明しているじゃないか。

それに最前線でそれをやろうとしているのは神の一人であるユウリナ本人だ。

俺はある意味よそ者だからな。

めんどくさそうだから、関知しないでおこう。

うんうん、それがいい。


奥に進むとそこには大きなホールがあり、十神の石像、石碑が両側に並んでいた。

こちらは壁や天井に開発したばかりの色ガラスをはめ込んでいる。

「金掛けたなー」

「5億リル使いました」

ぼそっとラムレスは耳打ちしてきた。国家運営に必要な施設だ、安いものだろう。



ユウリナは書庫にいた。

机の上には大量の本が山積みになっていて、

その隙間からくすんだ金色のボディが見え隠れしている。

「お疲れ、ユウリナ。進んだ?」

ユウリナには本を作成してもらっていた。

ユウリナが持っているありとあらゆる知識を文字で残し、

この国の発展のために使おうという算段だ。

この書庫をいずれはウィキペ〇ディアにするのだ。

神であるユウリナにこんなこと頼めるのは俺ぐらいしかいないだろう、ふふふ。

「オスカー、モウ疲レタシ飽キタ。コノ本ガ終ワッタラシバラク休ムワ」

「え? ……お、おう」

本の内容は『下水道の構造、管理』『投石、連弩、戦術』『抗生物質の作り方』

『人体の構造』『蒸気機関』『近代農業』『錬金術』『物理学』『経済論』など多岐に渡る。

いくら俺が現代日本の知識を持っていても、

機械や乗り物の内部構造や薬の精製方法なんか分かる訳ないからな。

専門家でもない限り〝ペニシリンはございます! 〟とはならない訳で。

だからユウリナの存在はありがたかった。

まさに渡りに船だ。まるでドラ〇もん的存在。てことは俺はの〇太君か。

「ていうかユウリナ、機械なんだから疲れないだろ」

「ア、偏見ト差別ネ、ソレ。傷付クワー」

「いやいや、そういう意味じゃ……ごめんな」

「トイウノハ冗談デ、エネルギーハ無限ジャナイノヨ。

サスガニ補給シナイトシンドイワ。ソレニ補給シテモ、メンテナンスポッドガ無イ今、

私ノ寿命ハモッテアト300年ッテトコネ」

「え、そうなの?」

300年。充分な気もするが。

「……なあ、そういえばユウリナってどのくらい前に生まれたんだ?」

その時、一人の兵士が勢いよく部屋に入ってきた。

「失礼致します! ラツカ村村長より緊急の手紙です!

ケモズ共和国のレニブ城が魔物の襲撃に遭い陥落。国王から救援要請が出ています!」
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