【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一

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第2章 

第53話 羊人族のジヌトとプティ

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その長い長い洞窟は、地下古代遺跡に通じていた。

但し、彼女がそこを遺跡の中だと理解しているのかは疑問である。

とにかく、数カ月かけて巨大洞窟を抜けた彼女は、未知の場所に興奮していた。

遺跡の内部には、赤や緑の小さな光が点々と瞬いていた。

進んでいくうちに、ここは沢山の階層に分かれていると気が付いた。

一つ一つの階層はかなり広い。

自分の子供達や同族は階層の至る所に散っていき、

光指す地上に出れたのは彼女と20の子供だけだった。

遺跡は小高い丘から最上層だけを覗かせていた。

目の前には森が広がり、その先には町と城の様なものが見えた。

ここは山の中腹らしい。右には平原、その先には海。

左も山を下れば平原、その真ん中に道が伸びている。

森の入り口に子供が数人いた。耳の後ろに大きな巻き角が見える。獣人だ。

口を開けたまま、こちらを見つめて動かない。

そりゃあそうか、人間や亜人共から見たら私らは異形だからね……。

数カ月ぶりのごちそうに、お腹が鳴った。

うまそうだ。人間の子供は最高だった。獣人はどうかな……?

彼女たちは一斉に駆け出した。




―――――ケモズ共和国、王都の外れにあるホーン・ヒル王立学園。

学校の敷地内で畑作業をしていた羊人族のジヌトとプティは、

教師が遠くから呼んでいるのに気づき、顔を上げた。

二人共、顔は泥だらけだ。

校舎の方に見えるのは牛人族のラヴィ先生だった。

遠かったけど、あの巨乳はここからでも目立つ。さすが牛人族。

「モー遅いから帰りなさーい」

今日は風が強い。前かがみで口に手を添え、ぷるんぷるんと揺らしている。

「おお……」

「おお、じゃないよジヌト君!」

プティは手を振り、もう帰る旨を伝えた。

学園主催の野菜コンテストが3ヵ月後にある。

同じ班の二人は地中に芋、地上にナスと豆が出来るナス豆芋で勝負しようとしていた。

気付けば周りには誰もいない。

「汚れちゃったな。温泉寄ってから帰ろうぜ」

「え……うん」

プティは一瞬だけ顔を赤くした。

「あ、だメェーだよジヌト君。ちゃんと農工具片さなきゃ」

「えー、メェーんどくせーなー。どうせ明日もここからやるのに」

文句を言いながらもジヌトはクワとシャベルを物置小屋に仕舞った。

畑のすぐ近くに小川があり、その一部に温泉が湧いていた。

生徒たちが作った秘密の温泉。畑の授業の後は皆ここで汚れを落としていた。

温泉の真ん中には木に張られたシーツがあり、男湯と女湯に仕切られていた。

家での風呂は貴重な水と薪を使い、労力と時間も使うのでどの家庭も月に数回しか入れない。

毎日川に入って終わりだ。

「いやー極楽極楽。もういっそここに住みてえな」

「ここは学校の敷地内だからだメェーだよ」

「誰も来ねえよ、こんな端っこ。てゆーかプティ真面メェー過ぎ」

「ねえ、空が赤くなっちゃったよ。もう行こうか?」

「そうだな」

二人が湯船から立ち上がった瞬間、突風が吹いてシーツがめくれ上がった。

「キャア!」

「おわっ!」

お互いに局部を隠し、慌てて湯に戻った。

「お、俺は後ろ向いてるから、プティ先に着替えろよ」

「ふ、振り向かないでよ?」

「あ、当たりメェーだ……」

二人は幼馴染だった。親同士の仲が良く、幼い頃から毎日のように遊んでいた。

昔は裸で川に飛び込んでたりしたのに、今ではもうそんなこと出来る訳がなかった。

二人共、大人に成長する互いの身体を意識し合い、会話を探す場面も増えた。

そのせいか、ジヌトは沈黙を避けるため、時々変な事を言ってしまう。

帰り道、気まずい空気が二人の間に流れている。

「あ、あれだな、昔に比べるとだいぶ大きくなったけど、

牛人族には敵わねえな。はははっ」

笑い話に変えてしまえ。

そう思ったジヌトだったが、プティからは強烈な左フックが飛んできた。

「ぐおおっ!」

「ジヌト君のえっち!」

くそう、女ってよく分からん。

しかし、顔を赤くして頬を膨らませたプティを見て、

ジヌトはこれはこれでイイ、と思うのであった。



町に戻ると至る所から煙が上がっていた。

「なんだ、これ?」

「何があったの……?」

「!! プティっ、戻れ!」

森の茂みに二人は身を隠した。やがてそこに現れたのは、グールだ。

先ほど感染したばかりの新鮮なグール。町の獣人だった。

「嘘でしょ……町が……お父さん、お母さん」

プティの両目に涙が溢れる。

「戻ろう!」

「待て。あれ、魔物ってやつだろ」

実際に見たことはないが、学校でも教わるし、書物も読んだことがあった。

「触ったら俺たちも魔物に……」

二人共背中に嫌な汗が滲んだ。

「ど、どうするの、ジヌト君」

「学園に戻っても、多分鍵がかかってて中には入れない。

レニブ城に行けば軍がいる。けど動くのは日が完全に沈んでからだ」


しばらく経って辺りは完全に闇に包まれた。今夜は月も隠れている。

二人は音を立てないように慎重に足を進め、レニブ城に辿り着いた。

しかし、城の門は開け放され、兵士は全員グールになっていた。

夜だからかこちらには気が付いていない。

ただ呻きながら腸が出た身体を、目が飛び出た身体を、腕が無くなった身体を、

あてもなく動かしているだけだった。

「……だめだ」

「うちへ帰ってみようよ」

その場を後にし、町の路地裏を進んで二人の家の近くの商店街に出た。

そこにもグールが溢れていた。

「ここもか……これじゃ家まで辿り漬けない」

「おい、お前たち」

一軒の家の中から一人の兵士が出てきた。

その羊人族の兵士は足に怪我を負っていた。

「……この文書を一刻も早くラツカ村の村長の所へ届けてくれないか?」

「え、ラツカ村って、人間の村?」

「ああ、ここはもうだめだ。キトゥルセン王国に助けを求めるしかない。

聞いたことあるだろ? キトゥルセンの王子様は炎を操る戦士で、

火を噴く巨鳥に乗って千の敵を焼き尽くすって」

「うん。でも俺たちの言う事なんて聞いてくれるかな」

「大丈夫だ、これは国王様が直々に用意した文書……うぐうう」

「どうしたの?」

「いや……なんデもなイ……。俺は行けナくなってシマった。

早く行くンダ……お前たちガこの国のメ、メイウンヲォォ……」

兵士の目がぐるんぐるん回りだした。

「グールになる!」

「イケェェ……」

兵士は短剣を抜き自らの口に咥えた。結末を見る前に二人は駆け出した。





ラツカ村村長、グウェン・ベリサリカ邸。

邸内に住み込みで働いているノストラ出身の兄弟が、

グウェンの元に手紙を持ってきた。

持ってきたのは獣人の子供だと言う。

昼食を食べつつ、珍しいなと思いながらグウェンは手紙を開いた。

口に運んだのは、王都で生まれたミートソースオムレツという新しい料理。

こんな発想、自分には無かった。玉子はチーズの香りがしてふわふわ、

中からトマト味の野菜とひき肉が溢れ出す。なんて上品な食べ物なんだ!

しかし、一口食べたグウェンはフォークを止めた。次いで口の動きも止まる。

「……えええええらいこっちゃああ!! ニーチョ! ニーチョ、どこだ!」

すぐに廊下から使用人の中年女性がやって来た。

「紙とペンを用意してくれ! 

ああ、羽ペンじゃなくてエンピツの方がいいな、早く書けるしな。

あと、ノイラム兄弟に獣人の子供達を屋敷に入れろと伝えてくれ。あと、あと……」

「ご主人様、落ち着いて下さい。はい、大きく吸ってー吐いてー」

ニーチョはどっしりと座った目でグウェンを宥めた。

ちなみに身体もどっしりとしている。ニーチョはどんな時でも慌てない。

長女のリーザがノーストリリア城のメイドに選ばれた時も、

テンションが上がっておかしくなったグウェンをこうやって宥めたものだ。

「ふう、落ち着いたぞ、ありがとう、ニーチョ。

とんでもないことが起きたんだ。ケモズ共和国のレニブ城が魔物に襲われたらしい。

今日ボサップ軍団長は駐屯基地にいるのかな?」

「まあ、それは大ごとですね。確か昨日巡回してましたから、今日はいると思います」

「よし、手紙を書いたら話をしに行こう。

あとこの間開業した有翼人の家族、ほら郵便の。ウチに呼んでおいてくれないか?」

「了解しました」

グウェンは席を離れかけたが一度戻り、オムレツを一口食べてから自分の書斎へと向かった。
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婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

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