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第48話 ウルエスト王国攻略編 ネネル、13歳の夏
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魔人だと分かったのは3歳の時だった。
4つ離れた姉のマリンカがおもちゃを取り上げた時、
大泣きしたネネルの身体に青白い光が走り、
部屋中に電気が発生したのが始まりだった。
その時の威力はまだそれほど強力ではなく、
マリンカも近くにいた侍女も気を失うまではいかなかった。
ネネルの父、ペルドス王は助言を請うため、
大陸南部にある有翼人同盟本部に飛んだ。
賢者、医術師、魔人等の識者から、精神状態を安定させなさいと言われた。
心に隙間があると力に喰われるぞ、とも。
愛情をもって育てれば暴走することはない。
15歳になったら同盟本部に移り、力の使い方を教えるという事で話がついた。
ネネルは城の塔の最上部に隔離された。
部屋は広く、綺麗で何不自由ない生活が出来た。
エズミアはあまり近づかなかった。
ネネルを記憶から消そうとし、
8つ離れた長女ヴィッキーとマリンカを溺愛するようになった。
母は大陸中部から嫁いできた筋金入りのお嬢様だった。
生まれてから自分の思い通りにならなかったことはほぼ無かったが、
初めて自分の意に反する存在がネネルだった。
思い通りにならない状況の根源であるネネルに愛情が湧く訳もなく、
助言や指摘をしてくる夫とも次第に溝が出来るようになった。
エズミアは幼い頃、父から魔人は怖くて悪しき存在と教えられていた。
自分の身体から化物が生まれてしまったショックに、エズミアは心を病んだ。
魔人が生まれる原理は分かっていない。
神の使いと崇め祝福する国もあるが、悪魔の化身と捉える国も少なくない。
有翼人同盟でも意見は割れていた。
父はネネルを愛した。
甲斐甲斐しく子育てと教育を施した。
姉妹たちも頻繁にネネルの塔を訪れ、
ペルドスに感化された侍女数名も率先して世話をしてくれた。
行動に制限はあったが、力が暴走する事も無く、
母からの愛を除けば不満のない幼少期を過ごせた。
長女ヴィッキー・ラピストリアが21歳になり、
大陸南部にある有翼人国家の王子と婚礼することになった。
13歳の夏だった。
結婚式にネネルは参加させてもらえなかった。
本人も駄々をこねたり拗ねたりはしない。
その頃には自分の状況を理解していた。
放電することもほとんどなかった。
結婚式の数日前、埋め合わせをするかのように、
ペルドスはネネルを外に連れ出した。
行き先は隣の山の中腹。
平坦で草木が茂り、小さな湖がある、昔から王家の保養地だった高原だ。
滞在用の小さな城があり、ネネルは父、姉妹と楽しい時間を過ごした。
母は来なかった。
2日目の昼前、人知れず、森の入り口にいた護衛兵が賊にやられる。
黒装束に身を包んだ4人の有翼人だった。
侍女や兵を静かに殺し、外で遊んでいたネネルを攫った。
異変に気付いたマリンカが父を呼ぶ。
ペルドスは護衛を引き連れて賊を追った。
護衛にはウルエスト最強【三翼】の一人、ルガクトがいた。
ルガクトは賊をあっという間に追い詰め、一人また一人と殺していった。
最後の一人に迫った時、ルガクトの右腕が飛んだ。
そいつは魔人だった。何の能力があったのかは不明だ。
目の前に落ちた血まみれの腕がネネルの目に入った瞬間、身体から電気が爆ぜた。
魔人の賊は電撃で吹っ飛び、木々に当たって動かなくなった。
ネネルは泣き叫びパニックを起こした。
攫われるのも、目の前で人が死ぬのも、腕が取れるのも、全部初めての経験だった。
意識が浮遊してしていくのを感じた。
嫌なこと、見たくないことを心が強制的に閉鎖していく。
次第に心が穏やかになり、水に浮いているような心地よさを覚えた。
まるで寝る前のまどろみ。
視界に光が走るが、一体何だろう。……なんでもいいか。
ペルドスが追いついた時、ネネルは恐ろしい化物に変貌していた。
電撃を纏い、獣のような手足をだらんと下げ、羽だけが動き空中に浮いていた。
ギカク化したネネルは両手を横に伸ばし、指先から強烈な電気を放った。
左右の森に飛んだ電気は至る所に火を付けた。
その後、ネネルは高原全体に雷の雨を降らせた。
気が付くとネネルは父に抱きしめられていた。
周りは火の海で、山頂付近がごっそりと無くなっている。
城も瓦礫と化していた。
遠くの空には何百もの有翼人兵士が遠巻きに飛んでいた。
父も自分も血だらけだった。
身体が怠く、とても疲れている。
「お父様? どうしたの……」
返事はない。手で押しても父は動かなかった。
ようやく父の腕から抜け出た時、理由が分かった。
身体の真ん中に大きな穴が開いていたのだ。
父は笑顔を浮かべながら死んでいた。
ネネルの記憶はそこで途絶えている。
賊の正体はいまだに分かっていない。
ヴィッキーの結婚に反対するどこかの国とも言われているし、
ネネルを軍事力として使いたい国とも噂された。
ペルドスが死亡し、同盟内でラピストリア家の力は弱まった。
姉、ヴィッキーの結婚は白紙になり、一年後に違う国の将軍に嫁いだ。
ペルドスはこういった最悪の事態を想定し、様々な遺言を残していた。
それによりネネルは守られた。
ネネルは同盟の魔人に連れられ、旅に出た。
事実上の追放だったが、年に一回は国に帰ることを許された。
幾度目かの旅から帰ってきた時、マリンカから手紙を貰った。父からだった。
手紙には
いつこうなってもいいように父は覚悟していたこと。
その時は、命を懸けてでも、
娘を止めるのは他の誰でもなく自分だと強く決めていたこと。
だから例えネネルの力で自分が命を落としても、本望だから気にするな、
私が選んだ人生だし、これは親の責任だ、と書かれていた。
最後に、力を持つ者には大きな責任が伴う。
力に呑まれず、その力を人々のために使ってほしい。
お前が生きている事が私の幸せだ、愛している。と続いていた。
ネネルは一晩泣き通した。
姉の嫁いだ国にネネルが入ることは許されなかった。
ヴィッキーとはずっと会えていない。
マリンカは変わらず優しくしてくれた。
母も前よりは接してくれるようになった。
全て背負って生きてくしかないんだと悟り、
それからネネルは力と向き合うようになった。
4つ離れた姉のマリンカがおもちゃを取り上げた時、
大泣きしたネネルの身体に青白い光が走り、
部屋中に電気が発生したのが始まりだった。
その時の威力はまだそれほど強力ではなく、
マリンカも近くにいた侍女も気を失うまではいかなかった。
ネネルの父、ペルドス王は助言を請うため、
大陸南部にある有翼人同盟本部に飛んだ。
賢者、医術師、魔人等の識者から、精神状態を安定させなさいと言われた。
心に隙間があると力に喰われるぞ、とも。
愛情をもって育てれば暴走することはない。
15歳になったら同盟本部に移り、力の使い方を教えるという事で話がついた。
ネネルは城の塔の最上部に隔離された。
部屋は広く、綺麗で何不自由ない生活が出来た。
エズミアはあまり近づかなかった。
ネネルを記憶から消そうとし、
8つ離れた長女ヴィッキーとマリンカを溺愛するようになった。
母は大陸中部から嫁いできた筋金入りのお嬢様だった。
生まれてから自分の思い通りにならなかったことはほぼ無かったが、
初めて自分の意に反する存在がネネルだった。
思い通りにならない状況の根源であるネネルに愛情が湧く訳もなく、
助言や指摘をしてくる夫とも次第に溝が出来るようになった。
エズミアは幼い頃、父から魔人は怖くて悪しき存在と教えられていた。
自分の身体から化物が生まれてしまったショックに、エズミアは心を病んだ。
魔人が生まれる原理は分かっていない。
神の使いと崇め祝福する国もあるが、悪魔の化身と捉える国も少なくない。
有翼人同盟でも意見は割れていた。
父はネネルを愛した。
甲斐甲斐しく子育てと教育を施した。
姉妹たちも頻繁にネネルの塔を訪れ、
ペルドスに感化された侍女数名も率先して世話をしてくれた。
行動に制限はあったが、力が暴走する事も無く、
母からの愛を除けば不満のない幼少期を過ごせた。
長女ヴィッキー・ラピストリアが21歳になり、
大陸南部にある有翼人国家の王子と婚礼することになった。
13歳の夏だった。
結婚式にネネルは参加させてもらえなかった。
本人も駄々をこねたり拗ねたりはしない。
その頃には自分の状況を理解していた。
放電することもほとんどなかった。
結婚式の数日前、埋め合わせをするかのように、
ペルドスはネネルを外に連れ出した。
行き先は隣の山の中腹。
平坦で草木が茂り、小さな湖がある、昔から王家の保養地だった高原だ。
滞在用の小さな城があり、ネネルは父、姉妹と楽しい時間を過ごした。
母は来なかった。
2日目の昼前、人知れず、森の入り口にいた護衛兵が賊にやられる。
黒装束に身を包んだ4人の有翼人だった。
侍女や兵を静かに殺し、外で遊んでいたネネルを攫った。
異変に気付いたマリンカが父を呼ぶ。
ペルドスは護衛を引き連れて賊を追った。
護衛にはウルエスト最強【三翼】の一人、ルガクトがいた。
ルガクトは賊をあっという間に追い詰め、一人また一人と殺していった。
最後の一人に迫った時、ルガクトの右腕が飛んだ。
そいつは魔人だった。何の能力があったのかは不明だ。
目の前に落ちた血まみれの腕がネネルの目に入った瞬間、身体から電気が爆ぜた。
魔人の賊は電撃で吹っ飛び、木々に当たって動かなくなった。
ネネルは泣き叫びパニックを起こした。
攫われるのも、目の前で人が死ぬのも、腕が取れるのも、全部初めての経験だった。
意識が浮遊してしていくのを感じた。
嫌なこと、見たくないことを心が強制的に閉鎖していく。
次第に心が穏やかになり、水に浮いているような心地よさを覚えた。
まるで寝る前のまどろみ。
視界に光が走るが、一体何だろう。……なんでもいいか。
ペルドスが追いついた時、ネネルは恐ろしい化物に変貌していた。
電撃を纏い、獣のような手足をだらんと下げ、羽だけが動き空中に浮いていた。
ギカク化したネネルは両手を横に伸ばし、指先から強烈な電気を放った。
左右の森に飛んだ電気は至る所に火を付けた。
その後、ネネルは高原全体に雷の雨を降らせた。
気が付くとネネルは父に抱きしめられていた。
周りは火の海で、山頂付近がごっそりと無くなっている。
城も瓦礫と化していた。
遠くの空には何百もの有翼人兵士が遠巻きに飛んでいた。
父も自分も血だらけだった。
身体が怠く、とても疲れている。
「お父様? どうしたの……」
返事はない。手で押しても父は動かなかった。
ようやく父の腕から抜け出た時、理由が分かった。
身体の真ん中に大きな穴が開いていたのだ。
父は笑顔を浮かべながら死んでいた。
ネネルの記憶はそこで途絶えている。
賊の正体はいまだに分かっていない。
ヴィッキーの結婚に反対するどこかの国とも言われているし、
ネネルを軍事力として使いたい国とも噂された。
ペルドスが死亡し、同盟内でラピストリア家の力は弱まった。
姉、ヴィッキーの結婚は白紙になり、一年後に違う国の将軍に嫁いだ。
ペルドスはこういった最悪の事態を想定し、様々な遺言を残していた。
それによりネネルは守られた。
ネネルは同盟の魔人に連れられ、旅に出た。
事実上の追放だったが、年に一回は国に帰ることを許された。
幾度目かの旅から帰ってきた時、マリンカから手紙を貰った。父からだった。
手紙には
いつこうなってもいいように父は覚悟していたこと。
その時は、命を懸けてでも、
娘を止めるのは他の誰でもなく自分だと強く決めていたこと。
だから例えネネルの力で自分が命を落としても、本望だから気にするな、
私が選んだ人生だし、これは親の責任だ、と書かれていた。
最後に、力を持つ者には大きな責任が伴う。
力に呑まれず、その力を人々のために使ってほしい。
お前が生きている事が私の幸せだ、愛している。と続いていた。
ネネルは一晩泣き通した。
姉の嫁いだ国にネネルが入ることは許されなかった。
ヴィッキーとはずっと会えていない。
マリンカは変わらず優しくしてくれた。
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