【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一

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第46話 ウルエスト王国攻略編 夜の牢獄

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王の間とテラスはまるで野戦病院のようだった。

負傷した兵士の治療に医術師、メイドが総出で看病している。

モラッシュは、ネネルは何も聞こえないと言いながらも命令を下していた。

それに目が合った時、少しだけ意識が戻った感じだった。

だから全員生きている。

……何かある。

「きつくはないですか、オスカー様?」

頭に包帯を巻いてもらいながら思案していると、

モリアが後ろから覗き込んできた。

「……ああ、ちょうどいいよ。ありがとう」

「他に痛むところはありませんか?」

「いや、大丈夫だ」

「そうですか……。あの、本当にネネルだったんですか?」

モリアは眉間にしわを寄せ、複雑な表情だ。

「残念だが本当だ。俺も信じたくないよ」

「ずっと騙してたという事ですか?」

「……いや、そんな感じではなかったが……分からないな。

……モリアは仲良かったもんな」

「……はい。信じられなくて……」

モリアは涙を流した。鼻が真っ赤だ。

俺はフラレウムに手を伸ばした。あの時、本気で攻撃することは出来なかった。

全力を出していたら、事態は変わっていただろうか? 

いや、全力を出してたところでネネルが倒れるとは思えないな。

溜息をついたところに、ラムレスとバルバレスとクロエがやって来た。

「オスカー様。兵の中に重傷者はいませんでした」

「そうか、よかった」

バルバレスは腕に、クロエは首に包帯を巻いていた。

「また来ると言っていたんですよね? どうなさるおつもりですか?」

ラムレスが水を持ってきてくれた。

「迎え撃つしかない、全軍を動員すれば……」

「ギカク化したネネルの前に数は関係ない」

バルバレスの意見はクロエに遮られた。

言われたバルバレスもそれは半ば分かっていた。

「上級の魔人は一国を落とすと言われているが、意味が分かった……」

成す統べのない状況にバルバレスは拳を打った。

「クロエ殿がギカク化すれば……」

とラムレスが呟いたが「自分ではもう出来ない」と本人が首を振った。

「やり方が分からないんだ。出来るなら私もギカク化して、城を守りたいよ」

クロエは力なくため息をついた。

「とにかく防衛を強化致します。すぐに軍団長達を王都に招集し……」

「いや、待てバルバレス。今度はこちらから攻め込む」

「ウルエスト城に……ですか? あそこはとても人の足では……」

「雪山に強いのがいるだろう?」

「……白毛竜ね」

クロエの目に輝きが戻った。

「白毛竜は300頭以上いたな? 至急ミルコップを呼んでくれ」

「はっ!」

バルバレスも覇気を取り戻した。

「何か訳があるはずだ……。それに直接ネネルの母親に挨拶しないとな」




ウルエスト城、牢獄。

元の姿に戻ったネネルは牢獄の中で椅子に座っていた。

赤い目は一点を見つめて動かない。首には首輪と、そこから鎖が垂れている。

「なぜ元の姿に戻ったのですか?」

エズミアはネネルの前に立った。顎を手で押さえ、上を向かせて目を覗いた。

「……魔剣の効力は切れてないようね」

ネネルは衣服を着ていなかった。もはや人として扱われていない証拠だ。

「機械人が何か霧状のものを顔に吹きかけました。

途中から様子がおかしかったので早めに撤退したところ、

飛んでる最中に元の姿に戻ってしまいました」

モラッシュはエズミアの横に立った。裸のネネルを見てバレない様に口元を歪ませる。

「私の判断が遅ければ、危なかったかもしれません」

わざとらしくモラッシュは胸を張る。

「その機械人、厄介ですね」

それにしても……とエズミアは目を瞑り、一拍置いてネネルを力いっぱい叩いた。

体勢を崩したネネルは床に倒れる。ネネルは何も反応しない。

「……なぜ? なぜ、自らの親を殺した時は山をも削る力を出したくせに、

今回は城一つ壊せないのですかっ! 何でいつもお前は私の思い通りにならないの……」

エズミアはしゃくりあげながら泣き出した。

モラッシュはここぞとばかりに甲斐甲斐しくエズミアの肩に手を添えた。


夜。

リンギオはX字に磔にされていた。

縄を解かれ、食事を与えられたのはほんの一時、

すぐに裸に向かれ手足を板に縛られた。縛られた手足には杭が打ち込まれた。

簡単には殺さないのだろう。リンギオは既に痛みに慣れ始めていた。

凍てつくような寒さもどうでもよかった。凍死するならすればいい。

俺はここで死ぬんだ。リンギオはもう悟っていた。



休みたがっていた脳が、かすかな物音で起こされた。

音は段々大きくなっていく。

何だ? 静かにしてくれ……。ようやく寝れそうだったのに。

牢の前に5人ほどの兵士が来た。いつもと様子が違う。鍵を開け中に入ってきた。

すぐに兵士たちは手足の縄を解きだした。

「な、なんだ……移動するのか?」

擦れたリンギオの声に、女の有翼人は人差し指を口に当て、静かにと囁いた。

「私はマリンカ・ラピストリア。この国の王女です。あなたをここから助け出します」

ショートの髪からはいい匂いがした。丸い輪郭に大きな目。

童顔なのに凛々しい雰囲気を纏っている。

兵士よりも二回り小さく、よく見ると鎧も王族のものだ。

「……なぜ助ける? お前にメリットが……?」

「……この国は一枚岩ではないの。母は壊れてしまった……。

詳しく説明してる暇はないわ。さあ、行くわよ」

リンギオは兵士に担がれ、牢の外に出る。

奥では死んだ二人の牢番兵士を、4人の兵士が片付けていた。

やがて一行は暗い廊下に消えた。
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