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第44話 ウルエスト王国攻略編 魔剣テンプテイラー
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標高4000m。半島で一番歴史ある城、ウルエスト城。
雲海の上に浮かぶ天空の城は有翼人以外が辿り着くことは出来ない。
雪深い山に道はなく、城壁にも門はない。
城壁の内側には町が広がっていて、巨大な広場や池もある。
製鉄場の火が絶えることはなく、剣の打ち合う音が途切れることはない。
人口は3000人。その内兵士は600人。
食料は領地内の森から採取する。
足りないものは、大陸に複数ある有翼人の国々との貿易に頼っていた。
有翼人が人間と交流することはあまりない。
しかし、敵対している訳でもない。
キトゥルセン王国とウルエスト王国は、
長い間必要以上に干渉しない関係が続いていた。
ウルエスト王国の統治者、女王のエズミア・ラピストリアは激怒していた。
縛り上げられたリンギオを、怒りの形相で睨みつける。
「どうやって? ……どうやってラギは死んだのですか?」
宝石が埋め込まれた豪華な玉座に座るエズミアの額には、血管が浮かんでいた。
侍女が綺麗に編んだ長い黒髪もほつれ始めている。
「コイツが、喉を切り裂いて殺しました」
側近のモラッシュはリンギオの長い髪を掴んで上を向かせた。
「女王の御前だ。いい子にしろよ」
モラッシュは耳元で囁き、ニタリと笑う。
リンギオは傷が熱を持ち、朦朧としていた。
「あり得ません……。ただの人間に大雪蛇が負けるなど……」
「偶然でしょう。こいつも身体はボロボロです。
飲み込んだ時、コイツが剣を持っていなければ負けることはなかった……」
エズミアは大きく息を吸い込んで、心を落ち着かせた。
「ダルクの兵士よ。ダルクはキトゥルセンに併合されましたね?
あの色気づいた雌ガキ……失礼、娘のネネルから聞かされました。
なので今のお前はキトゥルセンの人間という事ですね?」
「……違う、俺はどこにも属していない」
リンギオは息も絶え絶えだった。
「そんなわけないでしょう、ダルクの兵士の恰好しておいて」
エズミアは玉座を強く叩いた。
「これは国際問題ですな」
やや大げさにモラッシュは手を広げた。
「キトゥルセンは王が病床で、王子が事実上の支配者です。
最近ではノストラも併合したとか」
エズミアは鼻で笑う。
「ガキが調子に乗ってるのですね。いい機会です。
愛するラギを殺された報いを受けさせましょう」
「しかしエズミア様、キトゥルセンは中々の戦力です」
「そうなのですか?」
「……もし奪えれば、大陸の有翼人国家同盟での地位は上がるでしょうな。
今はペルドス王が亡くなって、同盟国内で序列は下の方。確かにいい機会ですが」
「ふむ。ならば、ネネルを使えばいい。
ギカク化させてキトゥルセンに送り込めば、一日で滅ぶでしょう」
「……という事は、魔剣を使いますか?」
「ええ、もちろん。殺さないでおいてよかった。責任を取ってもらいましょう。
ネネルを連れてきなさい」
呼び出されたネネルは何の説明も受けずに、玉座の前に立った。
「お呼びでしょうか。母上」
エズミアはこけた頬を上げ、優しい声で語りだした。
「ネネル。お前には父の遺言通り、自由を与え地位をそのままにしておきました。
おかげで色んな国を見て回れたでしょう?」
「はい。とても感謝しています」
「大陸中部の同盟国は全部回ったの?」
「はい」
「そう」
エズミアの、隈の出来た目が細くなる。
「お前からキトゥルセンの話を聞いて、
そのまま嫁がせるのもアリかと考えていました」
「え、そんな、母上。話が飛躍しすぎです。まだそこまで……」
ネネルは苦笑しながらイヤイヤと手を振った。
「そんなことはありませんよ?
まぁしかし、我々有翼人が人間に嫁ぐなどこれまでの歴史で聞いたこともありません。
お笑いものですから。しかしお前なら問題ない。
それだけの事をしたんですから。そうでしょう?」
ネネルは一気に真顔になった。母の口調が変わったからだ。
ごくりと唾を呑む。
「私には理解できませんが、お前もまんざらでもないようですし。
……でもね、やはり私はお前を許すことが出来ないの。……押さえつけて」
脇にいた2人の兵士が「はっ!」と返事をし、ネネルを拘束した。
「母上! 何を……」
「この魔剣は覚えている?」
エズミアはニタリと不気味に笑う。
「……テ、テンプテイラー」
「そう。血を吸った者を一人操れます」
「ラギに使っていたんじゃ……」
「あの子は死んだんだよっ!! ……お前にはキトゥルセンを滅ぼしてもらいます」
「……そんな……なんで」
ネネルは頭が回らなかった。どうしてこうなる?
「お前、私に逆らえるの? 自分のっ……自分の父親を殺しておいてっ!!!」
それはネネルの知る母ではなかった。
「……本来ならあの時殺してるところです。責任をとるのは当たり前でしょう?
女は置かれた状況で最善の選択をするんです。それが長く生きる術よ。受け入れなさい」
エズミアの合図でネネルは兵士2人に服を引きちぎられた。
「なっ!!! いやっ! やめて!」
モラッシュは半裸のネネルを見て、薄ら笑いを浮かべた。
「……ふん。いつの間に女になったんだか。
この身体でキトゥルセンの王子を誑かしたのね?」
「そ、そんなこと……」
ネネルの瞳から涙が溢れた。
エズミアは魔剣を抜いた。
剣先でネネルの腹を撫でる。赤い血がツゥと流れた。
「イッ……」
「動かないでね、はらわたが出ますよ」
「母上、お願いです、やめて下さい。昨日は楽しい食事を……」
「私はお前の顔を見ると楽しくなくなるのですよ。
あの人の遺言だから母親の役を演じていただけ。
今日からは違います。お前はラギの代わり。
さあ、ギカク化してキトゥルセンを滅ぼしてきなさい!!」
魔剣テンプテイラーが怪しく光る。途端にネネルは急な眩暈に襲われた。
身体が熱い。傷口が焼けるようだ。
頭の中に黒くドロドロした意識があることに気が付いた。
奪われる。ネネルは危機感を抱いたがどうすることも出来なかった。
自分の意思ではない、何か別の気配。やがてそれはネネルの意識を覆っていった。
ものの数分でネネルの目から光が消えた。腕はだらんと下がり、顔から表情がなくなる。
時々びくんびくんと身体が痙攣するが、それもすぐに収まった。
「さあネネル、立ちなさい」
エズミアの言葉にピクンと頭を動かし、ネネルは立ち上がった。
「……成功ですな」
「モラッシュ、部隊を編成しなさい」
「はっ!」
「ふふふ、ネネル。これから可愛がってあげるわ。ようやくお前を愛せそうよ」
エズミアは不気味に微笑んだ。
雲海の上に浮かぶ天空の城は有翼人以外が辿り着くことは出来ない。
雪深い山に道はなく、城壁にも門はない。
城壁の内側には町が広がっていて、巨大な広場や池もある。
製鉄場の火が絶えることはなく、剣の打ち合う音が途切れることはない。
人口は3000人。その内兵士は600人。
食料は領地内の森から採取する。
足りないものは、大陸に複数ある有翼人の国々との貿易に頼っていた。
有翼人が人間と交流することはあまりない。
しかし、敵対している訳でもない。
キトゥルセン王国とウルエスト王国は、
長い間必要以上に干渉しない関係が続いていた。
ウルエスト王国の統治者、女王のエズミア・ラピストリアは激怒していた。
縛り上げられたリンギオを、怒りの形相で睨みつける。
「どうやって? ……どうやってラギは死んだのですか?」
宝石が埋め込まれた豪華な玉座に座るエズミアの額には、血管が浮かんでいた。
侍女が綺麗に編んだ長い黒髪もほつれ始めている。
「コイツが、喉を切り裂いて殺しました」
側近のモラッシュはリンギオの長い髪を掴んで上を向かせた。
「女王の御前だ。いい子にしろよ」
モラッシュは耳元で囁き、ニタリと笑う。
リンギオは傷が熱を持ち、朦朧としていた。
「あり得ません……。ただの人間に大雪蛇が負けるなど……」
「偶然でしょう。こいつも身体はボロボロです。
飲み込んだ時、コイツが剣を持っていなければ負けることはなかった……」
エズミアは大きく息を吸い込んで、心を落ち着かせた。
「ダルクの兵士よ。ダルクはキトゥルセンに併合されましたね?
あの色気づいた雌ガキ……失礼、娘のネネルから聞かされました。
なので今のお前はキトゥルセンの人間という事ですね?」
「……違う、俺はどこにも属していない」
リンギオは息も絶え絶えだった。
「そんなわけないでしょう、ダルクの兵士の恰好しておいて」
エズミアは玉座を強く叩いた。
「これは国際問題ですな」
やや大げさにモラッシュは手を広げた。
「キトゥルセンは王が病床で、王子が事実上の支配者です。
最近ではノストラも併合したとか」
エズミアは鼻で笑う。
「ガキが調子に乗ってるのですね。いい機会です。
愛するラギを殺された報いを受けさせましょう」
「しかしエズミア様、キトゥルセンは中々の戦力です」
「そうなのですか?」
「……もし奪えれば、大陸の有翼人国家同盟での地位は上がるでしょうな。
今はペルドス王が亡くなって、同盟国内で序列は下の方。確かにいい機会ですが」
「ふむ。ならば、ネネルを使えばいい。
ギカク化させてキトゥルセンに送り込めば、一日で滅ぶでしょう」
「……という事は、魔剣を使いますか?」
「ええ、もちろん。殺さないでおいてよかった。責任を取ってもらいましょう。
ネネルを連れてきなさい」
呼び出されたネネルは何の説明も受けずに、玉座の前に立った。
「お呼びでしょうか。母上」
エズミアはこけた頬を上げ、優しい声で語りだした。
「ネネル。お前には父の遺言通り、自由を与え地位をそのままにしておきました。
おかげで色んな国を見て回れたでしょう?」
「はい。とても感謝しています」
「大陸中部の同盟国は全部回ったの?」
「はい」
「そう」
エズミアの、隈の出来た目が細くなる。
「お前からキトゥルセンの話を聞いて、
そのまま嫁がせるのもアリかと考えていました」
「え、そんな、母上。話が飛躍しすぎです。まだそこまで……」
ネネルは苦笑しながらイヤイヤと手を振った。
「そんなことはありませんよ?
まぁしかし、我々有翼人が人間に嫁ぐなどこれまでの歴史で聞いたこともありません。
お笑いものですから。しかしお前なら問題ない。
それだけの事をしたんですから。そうでしょう?」
ネネルは一気に真顔になった。母の口調が変わったからだ。
ごくりと唾を呑む。
「私には理解できませんが、お前もまんざらでもないようですし。
……でもね、やはり私はお前を許すことが出来ないの。……押さえつけて」
脇にいた2人の兵士が「はっ!」と返事をし、ネネルを拘束した。
「母上! 何を……」
「この魔剣は覚えている?」
エズミアはニタリと不気味に笑う。
「……テ、テンプテイラー」
「そう。血を吸った者を一人操れます」
「ラギに使っていたんじゃ……」
「あの子は死んだんだよっ!! ……お前にはキトゥルセンを滅ぼしてもらいます」
「……そんな……なんで」
ネネルは頭が回らなかった。どうしてこうなる?
「お前、私に逆らえるの? 自分のっ……自分の父親を殺しておいてっ!!!」
それはネネルの知る母ではなかった。
「……本来ならあの時殺してるところです。責任をとるのは当たり前でしょう?
女は置かれた状況で最善の選択をするんです。それが長く生きる術よ。受け入れなさい」
エズミアの合図でネネルは兵士2人に服を引きちぎられた。
「なっ!!! いやっ! やめて!」
モラッシュは半裸のネネルを見て、薄ら笑いを浮かべた。
「……ふん。いつの間に女になったんだか。
この身体でキトゥルセンの王子を誑かしたのね?」
「そ、そんなこと……」
ネネルの瞳から涙が溢れた。
エズミアは魔剣を抜いた。
剣先でネネルの腹を撫でる。赤い血がツゥと流れた。
「イッ……」
「動かないでね、はらわたが出ますよ」
「母上、お願いです、やめて下さい。昨日は楽しい食事を……」
「私はお前の顔を見ると楽しくなくなるのですよ。
あの人の遺言だから母親の役を演じていただけ。
今日からは違います。お前はラギの代わり。
さあ、ギカク化してキトゥルセンを滅ぼしてきなさい!!」
魔剣テンプテイラーが怪しく光る。途端にネネルは急な眩暈に襲われた。
身体が熱い。傷口が焼けるようだ。
頭の中に黒くドロドロした意識があることに気が付いた。
奪われる。ネネルは危機感を抱いたがどうすることも出来なかった。
自分の意思ではない、何か別の気配。やがてそれはネネルの意識を覆っていった。
ものの数分でネネルの目から光が消えた。腕はだらんと下がり、顔から表情がなくなる。
時々びくんびくんと身体が痙攣するが、それもすぐに収まった。
「さあネネル、立ちなさい」
エズミアの言葉にピクンと頭を動かし、ネネルは立ち上がった。
「……成功ですな」
「モラッシュ、部隊を編成しなさい」
「はっ!」
「ふふふ、ネネル。これから可愛がってあげるわ。ようやくお前を愛せそうよ」
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