【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一

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第33話 ノストラ王国攻略編 一騎打ち

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上空からミルコップの軍を見つけた。山間で野営準備をしている。

もったい付けている場合ではないので、野営地のど真ん中に着地した。

と同時に囲まれる。

「王を出せ! ここにおられるのはキトゥルセン王国のオスカー王子だ!」

ダルハンが大声を上げる。

少し待つと、奥からミルコップ・ノストラが出てきた。

想像と違った。すっきりとした顔立ちの若い男だ。

ガタイのいい大男に変わりはないが、立ち姿からどこか誠実さを感じた。

毛皮のマントをたなびかせ、突き立てた大剣に手を置く。

背後には四人の幹部が並ぶ。

「私が王だ。何の用で来られたのかな? キトゥルセンの王子よ」

「おたくの軍に国境を侵攻された。軍同士の衝突があり、

そちらの兵200名を捕虜として預かっている。説明を求める」

ダルハンがホブド族長の剣を地面に投げた。ミルコップの眉がピクリと動く。

「確かに私の部下のだ。我々は新天地を求めている。

なのでお前の国を頂く。説明するまでもない。戦争だ」

言い切りやがった。

「兵200名の命を預かっている。お前たちが来るなら命はないぞ」

「残念だが仕方あるまい。負ければ死ぬ。それが戦争だ。俺たちは止まらない」

ミルコップは表情を動かさず淡々と言い放つ。

「お前たちは今まで自分の国でうまく暮らしてきたはずだ。

なぜ今になって国を捨て新天地を求める? 

他へ移れば同じような風習や文化や暮らし方ではなくなる。

それを捨ててまでなぜ移動する?」

「……お前には関係ない事だ」

ミルコップは少し言いよどんだ。

「我が国に侵攻するならば関係ないことないだろう。

このままぶつかれば双方の民が大勢死ぬぞ。

キトゥルセン王国を占領できたとして、その後の統治のことまで考えているのか? 

うまくいかなければ反逆に遭うぞ」

「……反逆されたら殺すまでだ」

意志が固い。崩せるか、これ?

「双方が納得できる道を探そう。必ずいい解決策が見つかるはずだ」

「俺がお前の首を持っていけば戦いはないぞ? 多くの民が死なずに済む」

だめだ。結局魔剣に頼るしかないか。

「逆でも同じか?」

「俺とお前が戦おうと? ずいぶん勇ましい王子だな。

だがそれならば俺が戦う相手はお前の親父という事になる」

「……父は病床だ。立ち上がることも出来ない。俺が代理だ」

ミルコップの側近に乾いた笑いが起きた。

体格差を見れば当然の反応だ。

「お前がそれでいいなら構わぬが……」

ミルコップは剣を抜いた。

俺もフラレウムを抜いた。

「お前たちは手を出すなよ」

刀身に炎を出す。ミルコップよりも大きな炎だ。

周りがどよめいた。

「驚いた。魔剣使いだったか。なるほど、先ほどの態度も頷ける」

ミルコップの目が本気になった。

めっちゃこわい。

「……やるのか? 一瞬で灰になるぞ」

目が揺れた。一瞬の迷い。

頼む、退いてくれ。

その時周りから卑怯だと声が上がった。

「正々堂々と勝負しろ!」

「誇りはないのか!」

声が大きくなり、収拾がつかなくなった。

「だそうだ、どうする? 王子よ」

これではミルコップを倒したとしても素直に従ってくれなさそうだ。

かと言って国に帰る気なんてさらさら無さそうだし。

そうなったら解決策は一つ。フラレウムを使うしかない。

それだけは避けたい。大量虐殺じゃないか。

「分かった。力は使わない」

炎を納めると「オスカー様!」とダルハンの悲痛な叫びが上がった。

「……勇気のある男だ。敬意を表して楽に殺してやる」

冷や汗がすごい。俺は魔剣のおかげで寒くないのに、急に全身が震え出した。

いきなり試すのか。数回しか鍛錬していない、アレを。

ミルコップの剣がゆらりと上がる。上から来る……今!

俺はすかさず一歩下がる。思惑通り剣は勢いよく振り下ろされた。

右! フラレウムを地面に突き立て、水平に来た剣を受ける。

右斜め上か? 違う、左ミドルキック! 間一髪後ろに飛んで避けた。

「ほう、なかなかやる」

右突き! 上段! 下段! 左回し蹴り!

自分の心臓の鼓動がうるさい。

反撃は隙が無くて出来ないが、全ての攻撃を1秒ほど前に予知して避けた。

【千里眼】の〈シースルー〉と〈サーモ〉を掛け合わせ、相手の筋肉の動きを直接見る。

動く直前に特定の部位の筋肉が締まり、僅かに体温が上がる。そこから動きを予測する。

しかし、一番大事なのは己の反射神経。

その訓練は護衛隊長のダカユキーが教えてくれた。

右利きなら左側が攻撃しづらく、上から振り下ろされた場合は後ろへ下がる。

間に合わないと思った時だけ剣で受ける。

至極単純だがコンマ一秒早く、そして躊躇なく動ければ致命傷は負わない。

「ちょこまかと……」

大振りになった一瞬を見逃さなかった。

右にかわした直後、剣をミルコップの腕に突き刺した。

「ぐうっ!」

かなり深い。ゴッと骨に当たった感触が剣先から伝わってきたほどだ。

剣を抜き、距離を取った。ミルコップは苦痛に顔を歪ませ、

剣を握ろうとするがうまく握れないようだった。

俺はすかさずミルコップの剣を弾き落し、首筋にフラレウムを突き付ける。

喉が痛い。気付いたら肩で息をしていた。

「終わりだ。負けを認めろ」

「ふふ、情けない。魔剣使いとはいえこんな子供に負けるとは。

・・・・・・首を刎ねろ。だが我々は止まらない。

何をしても止まらない。生き残るためにな」

マジかよ。これでも意思を曲げないとは。

「どういう意味だ? 何か理由があるのか?」

その時、一人の男が前に出た。

「王よ。もういい。休みなされ。

あなたは皆をまとめ上げ、ここまでよくやってきた。後は我々に任されよ」

発言したのは初老の側近だった。

「私はゾフ。王の相談役じゃ。我々に何があったのか、全て話そう」



ミルコップは治療のため運ばれ、俺たちと側近は焚火を囲んで腰を下ろした。

「【ツェツェルレグの魔女】。あやつ一人に、我々は国を追い出された」

「魔女?」

「西にツェツェルレグという森がある。そこから来た魔女じゃ。

氷を操り全てを凍てつかせる。家も森も海も全てが氷に飲まれた。

もう住める場所がない。あやつは執拗に我々を追って来るんじゃ。

ここにもいづれ来る。あんたたちの国にも行くかもしれん」

「話をつけることは出来ないのか?」

「話など出来るものか! もはやあれは人の形を成していない……」

「タオスシカナイトイウコトネ……」

「あんたのその魔剣ならもしかしたら……いや、無理じゃ。圧倒的すぎる」

「やってみなきゃ分からないだろ? 

そのうち戦うんなら、早い方が被害が少ない。

俺たちがその魔女を討伐しよう」

「タノシミネ」
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