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第30話 不死身のクガ
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久しぶりに緊張が走った。
南の街道に強い魔力を放つ魔人を見つけたのは数時間前。
そいつは黒衣の剣士で馬に乗っていた。
ずっと注視していたので入城するまでに兵の配備、
そしてカカラル、ネネルを臨戦態勢にしておくことが出来た。
城門の兵から国王謁見の嘆願が来る。
今の所攻撃する気はないようだが、
結局顔と顔を合わせなきゃいけない。
やだなーと思いながら王の間に移動した。
傍らにはバルバレス、ラムレス、精鋭の護衛兵が5人。
兵士から〝聖ジオン教国〟の使者だと聞いた。
確か大陸の南にある小さな国だ。
国は小さいけど宗教の総本山なので多分バチカン市国的な立ち位置。
男は二十代前半の爽やか君だった。
「私はオスカー・キトゥルセン。この国の王子だ。用件を聞こう」
「ジェリー国王の事は聞きました。ご病気とは残念です。
一刻も早い回復を願っております。私は聖ジオン教国からの使者、
クガと申します。オスカー王子のお若いながらも卓越した政治手腕は
我が国にも轟いております」
お、そうなの? いや、社交辞令か。
「ん? クガ? まさか【不死身のクガ】か?」
横に立つバルバレスが剣に手を伸ばした。
なんだなんだ、有名人か?
「ご存知とは何よりです」
「オスカー様、コイツ【千夜の騎士団】です! 魔剣狩りの連中です!」
バルバレスの声に待機していた兵士が雪崩込んできた。
ネネルも手を帯電させ、すぐにでも攻撃する構えだ。
「ちょちょ、待って、やる気ないから」
剣は事前に預かっていた。
クガは慌てて隠していた短刀を抜く。
バルバレスが斬りかかる。
うわ、めっちゃ速い剣捌き。本気のバルちゃん初めて見た。
でも待って、そいつ魔人だから!
一回の剣劇でクガの右腕が宙を飛んだ。
「あ~、痛いんだよこれ。出来ればやりたくないのに」
クガの斬られた腕から筋肉の筋のようなものが出てきた。
にゅるにゅる動いている。
そして落ちた自らの腕を拾い、くっつけた。
接着面が波打ち、数秒後には元通りにしてしまった。
グロい……。まるでB級SFモンスター映画だ。
「バルバレス、そこまでだ」
しぶしぶ剣を納めたバルバレスは俺の横に戻った。
「まぁまぁ、交戦の意思はありませんから。
それに私は見ての通り中々死ねませんので、
お互いかなり疲れますよ。止めましょう」
クガは余裕の笑みを浮かべ、短刀を足元に放った。
「全員下がれ。もしもの時、俺が本気を出せない」
短刀を隠していたから、こちらも詫びは入れなかった。
「噂を聞きました。あなたの噂です」
クガは仕切り直しと言わんばかりに話し始めた。
「ここより南西の【腐樹の森】を焼き払ったとか? 素晴らしい功績ですね。
南の方まで活躍は届いております。そちらの魔剣も素晴らしいのでしょう」
「俺だけじゃない。全員の手柄だ」
「……謙虚な王だ。嫌いじゃありません。
私が仕事で来ていたのならあなたと一戦交わらなければなりませんが、
そうでなくてよかった。聖ジオン教は魔剣を嫌っていますから。
今回私は私用のついでで来ましたので国には報告義務がありません。
それに、元より傭兵ですので」
「宗教はややこしい。ない方が平和だ」
「同感です。大陸北部は十神教が多いですが、南のほとんどは聖ジオン教の国ばかりです。
中々相容れない様で法王も困っているとか。
まあ簡単に分かり合えたら戦争は起きませんよね」
「……クガ殿。そろそろ本題へ」
「そうですね。……では、個人的な興味で聞きますが、
あなたはこの国をどうしていくおつもりですか?」
なぜお前がそれを聞く? なにを企んでいる?
「……逆に聞こう、あなたは俺に何と言ってもらいたい?」
「……ふふふ、年齢の割に聡明な方だ」
そりゃどうも。
「南のザサウスニア帝国は数年以内に侵攻してきます。
もしもザサウスニアを倒すことが出来たら、大陸統一を目指してほしい」
「なぜだ?」
「内部にいるから分かるのです。
聖ジオン教は取り返しのつかないことをしようとしている。
あなたにそれを潰してほしい。人々を守るために」
真剣な目だった。
クガは勝手な事を言って去っていった。
「何をしに来たんだ?」
気疲れからか大きなため息が出た。
「何か意図はあるでしょう。……あやつオスカー様の事を王と。
内情を知っているのか?」
バルバレスに「間者がいるようですな」とラムレスが呟く。
「南の国々の事など知る由もありませんが、どうも一枚岩じゃない様子」
ラムレスは紅茶を入れてくれた。
「まあ、誰が相手だろうが来るなら全力で迎え撃つ。私にお任せを」
頼もしいけどバルバレス、魔人に正面から向かっていかないでほしい。
「しかし、こんな北の僻地にいても、これからは情報を集める必要がありそうだな」
紅茶あっつ!
「戦争の足音が近づいてきています。
オスカー様、【ラウラスの影】を復活させてはいかがですか?」
ラムレスはニヤリと笑った。
ノーストリリア城を出て3時間、クガは街道から道を逸れた。
草原にポツンとある林に向かう。林の入り口に着くと馬を放した。
「元の場所に帰りな」
馬は小さく嘶き駆けていった。
火を吐く魔獣カカラル……だっけ? それとあの雷魔ネネル、そして機械人か。
情報通り、やばいなこの国。
それだけじゃない。あの将軍の剣捌き、魔剣の魔力、現時点でかなりの戦力だな。
何よりいい王だ。とても15歳とは思えない。北の辺境にこんなお宝が眠っていようとは。
獣笛を吹く。しばらくすると林の奥がざわめいた。
「まあ期待のし過ぎもよくないか。とりあえず種は撒いたし。
注目するのはザサウスニアを返り討ちにしてからでいいか」
首の長い翼竜が目の前に出てきた。
「行くぞ、リューグ」
黒衣を着た魔人は空に飛んだ。
南の街道に強い魔力を放つ魔人を見つけたのは数時間前。
そいつは黒衣の剣士で馬に乗っていた。
ずっと注視していたので入城するまでに兵の配備、
そしてカカラル、ネネルを臨戦態勢にしておくことが出来た。
城門の兵から国王謁見の嘆願が来る。
今の所攻撃する気はないようだが、
結局顔と顔を合わせなきゃいけない。
やだなーと思いながら王の間に移動した。
傍らにはバルバレス、ラムレス、精鋭の護衛兵が5人。
兵士から〝聖ジオン教国〟の使者だと聞いた。
確か大陸の南にある小さな国だ。
国は小さいけど宗教の総本山なので多分バチカン市国的な立ち位置。
男は二十代前半の爽やか君だった。
「私はオスカー・キトゥルセン。この国の王子だ。用件を聞こう」
「ジェリー国王の事は聞きました。ご病気とは残念です。
一刻も早い回復を願っております。私は聖ジオン教国からの使者、
クガと申します。オスカー王子のお若いながらも卓越した政治手腕は
我が国にも轟いております」
お、そうなの? いや、社交辞令か。
「ん? クガ? まさか【不死身のクガ】か?」
横に立つバルバレスが剣に手を伸ばした。
なんだなんだ、有名人か?
「ご存知とは何よりです」
「オスカー様、コイツ【千夜の騎士団】です! 魔剣狩りの連中です!」
バルバレスの声に待機していた兵士が雪崩込んできた。
ネネルも手を帯電させ、すぐにでも攻撃する構えだ。
「ちょちょ、待って、やる気ないから」
剣は事前に預かっていた。
クガは慌てて隠していた短刀を抜く。
バルバレスが斬りかかる。
うわ、めっちゃ速い剣捌き。本気のバルちゃん初めて見た。
でも待って、そいつ魔人だから!
一回の剣劇でクガの右腕が宙を飛んだ。
「あ~、痛いんだよこれ。出来ればやりたくないのに」
クガの斬られた腕から筋肉の筋のようなものが出てきた。
にゅるにゅる動いている。
そして落ちた自らの腕を拾い、くっつけた。
接着面が波打ち、数秒後には元通りにしてしまった。
グロい……。まるでB級SFモンスター映画だ。
「バルバレス、そこまでだ」
しぶしぶ剣を納めたバルバレスは俺の横に戻った。
「まぁまぁ、交戦の意思はありませんから。
それに私は見ての通り中々死ねませんので、
お互いかなり疲れますよ。止めましょう」
クガは余裕の笑みを浮かべ、短刀を足元に放った。
「全員下がれ。もしもの時、俺が本気を出せない」
短刀を隠していたから、こちらも詫びは入れなかった。
「噂を聞きました。あなたの噂です」
クガは仕切り直しと言わんばかりに話し始めた。
「ここより南西の【腐樹の森】を焼き払ったとか? 素晴らしい功績ですね。
南の方まで活躍は届いております。そちらの魔剣も素晴らしいのでしょう」
「俺だけじゃない。全員の手柄だ」
「……謙虚な王だ。嫌いじゃありません。
私が仕事で来ていたのならあなたと一戦交わらなければなりませんが、
そうでなくてよかった。聖ジオン教は魔剣を嫌っていますから。
今回私は私用のついでで来ましたので国には報告義務がありません。
それに、元より傭兵ですので」
「宗教はややこしい。ない方が平和だ」
「同感です。大陸北部は十神教が多いですが、南のほとんどは聖ジオン教の国ばかりです。
中々相容れない様で法王も困っているとか。
まあ簡単に分かり合えたら戦争は起きませんよね」
「……クガ殿。そろそろ本題へ」
「そうですね。……では、個人的な興味で聞きますが、
あなたはこの国をどうしていくおつもりですか?」
なぜお前がそれを聞く? なにを企んでいる?
「……逆に聞こう、あなたは俺に何と言ってもらいたい?」
「……ふふふ、年齢の割に聡明な方だ」
そりゃどうも。
「南のザサウスニア帝国は数年以内に侵攻してきます。
もしもザサウスニアを倒すことが出来たら、大陸統一を目指してほしい」
「なぜだ?」
「内部にいるから分かるのです。
聖ジオン教は取り返しのつかないことをしようとしている。
あなたにそれを潰してほしい。人々を守るために」
真剣な目だった。
クガは勝手な事を言って去っていった。
「何をしに来たんだ?」
気疲れからか大きなため息が出た。
「何か意図はあるでしょう。……あやつオスカー様の事を王と。
内情を知っているのか?」
バルバレスに「間者がいるようですな」とラムレスが呟く。
「南の国々の事など知る由もありませんが、どうも一枚岩じゃない様子」
ラムレスは紅茶を入れてくれた。
「まあ、誰が相手だろうが来るなら全力で迎え撃つ。私にお任せを」
頼もしいけどバルバレス、魔人に正面から向かっていかないでほしい。
「しかし、こんな北の僻地にいても、これからは情報を集める必要がありそうだな」
紅茶あっつ!
「戦争の足音が近づいてきています。
オスカー様、【ラウラスの影】を復活させてはいかがですか?」
ラムレスはニヤリと笑った。
ノーストリリア城を出て3時間、クガは街道から道を逸れた。
草原にポツンとある林に向かう。林の入り口に着くと馬を放した。
「元の場所に帰りな」
馬は小さく嘶き駆けていった。
火を吐く魔獣カカラル……だっけ? それとあの雷魔ネネル、そして機械人か。
情報通り、やばいなこの国。
それだけじゃない。あの将軍の剣捌き、魔剣の魔力、現時点でかなりの戦力だな。
何よりいい王だ。とても15歳とは思えない。北の辺境にこんなお宝が眠っていようとは。
獣笛を吹く。しばらくすると林の奥がざわめいた。
「まあ期待のし過ぎもよくないか。とりあえず種は撒いたし。
注目するのはザサウスニアを返り討ちにしてからでいいか」
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