上 下
29 / 325

第29話 機械人

しおりを挟む
北の採掘場から機械人形が発見されたと報告があったのが三日前。

それがバルバレス軍によって先ほどノーストリリア城に運ばれてきた。

実物を見て驚いた。精巧な人形どころの話ではない。完全な機械だ。

前世を思い出すようなレベルのテクノロジー。いやそれ以上。

表面のくすんだ色の金属には精巧な細かい紋様がびっしりと彫られている。

フォルムは完全に女性で、160cm以上はあるだろう。

頭部はつるんとしていて、顔は映画に出てくるようなアンドロイドのそれだ。

肘や膝の稼働部から内部が見える。とんでもなく精巧な作りだ。

中世の魔物がはびこる世界に来たと思ったのに?

こんなSFが出てくるとは。大どんでん返しだね。

「機械人ではないですか」

バルバレスが言った。

「古代文明の遺物です。確か書庫に資料があったかと……調べておきます」

お、バルちゃん、気が利くね。


次の日、厨房の芋が無くなる事件が起きた。

あんな大量の芋を一晩で? とマイヤーが不思議がっていた。

「どーろーぼーうー」「怖すぎて震えるー」と壁越しに聞こえてくる。

ほんとにあいつらうるさいな。


その日の夜、物音で目が覚めた。まだ真夜中だ。

隣で寝ているメイドのリーザ・ベリサリカの腕をどけて、ベッド脇に座った。

外は雨が降っている。ズリズリと何かを引きずる音が僅かに聞こえてきた。

やだな~こわいな~こわいな~見たくないな~。でも一応城主だからな。

千里眼で城を一通り見た。厨房の前に動く影。

マジかよ、めっちゃこわいんですけど。リーザ起きてくんないかな。

ちょっとゆすってみたら「こぼしてんじゃねーよ」と寝言を言った。

いつもと口調が違い過ぎてビビる。一応謝っておいた。

影はやっぱり機械人だった。

動いてんじゃん。生きてんじゃん、え、なに、昼間は死んだふりしてたってこと?

やだな~こわいな~こわいな~。

俺は魔剣を手に、ナイトビジョンを発動したまま部屋を出た。

途中夜勤の護衛兵3人を連れて厨房に向かう。

足音で逃げてしまうかもしれないので忍び足だ。

「ヤッパリデンプンシツハエネルギーテンカンコウリツガイイワネ……

ア、ブタニクハッケン! イタダキマ……」

「動くな」

機械人は固まった。

「こっちを向け」

両手を上げて機械人は振り返った。護衛兵は剣を抜いているが腰が引けていた。

なんだだらしない、と思ったが自分も同じだった。

「ゴ、ゴメンナサイ。エネルギーガキレソ……ア、エート、オナカガスイテイタモノデ」

あ、謝った。少なくとも話は出来るらしい。

何話せばいいんだ?

「……機械なのに肉食うのか?」

よく分からない状況だったので変な質問をしてしまった。

「あー、なんか騒がしいと思って来てみたら、それ明日使う豚肉……ぎゃーーーー!」

寝着のマイヤーが尻もちをついて、悲鳴を上げた。

「キャーーーー!」

なぜか機械人も絶叫を返した。

うるさい。


機械人はユウリナと名乗った。何千年も前から土の中に埋もれていたらしい。

危険は無さそうだ。

身体には自己修復機能があり、日光や食物から動力を得られると言って、

2階のテラスに居座った。

初めて見たメイドたちはびっくりしていたが、

人間っぽい喋り方をするのですぐに慣れたようだ。

「シバラクオセワニナリマス」と頭を下げたりする。

マイマも頭を下げた。シュールだ。

もう、話しているとほとんど人間。

壁越しに喋っていれば気が付かないかもしれない。

ユウリナは気まぐれに動いたり寝たりする。

まだ本調子じゃなく、二割程度しか復旧できていないという。

動きやしぐさも非常にスムーズで、まったく機械感がなかった。

中に人間が入っていると言われたら、やっぱりね、なんて返してしまいそうだ。

それだけ高性能という事だろう。寝ている時に話しかけると小さくピッと音が鳴る。

耳を澄ますとキュウウウンとかシュイイイインとか身体の中から聞こえてくる。

「ユウリナ。城の外には出るなよ」

「エー、ウソー。イキタイデスー」

子供か。

「お前の姿見たらみんなパニックだよ」

「ヒドーイ。ケドナットク」

「フードを被ればバレないかもしれませんね」

ラムレス、めんどくさい事を言うなよ。

「……分かった。誰かと一緒に行くならいいぞ。守れなければ追放する」

「オスカー、ヤサシー」


見つけて助けてくれたからと、しばらく俺に尽くすと言ってくれた。

「この世界は過去にものすごい技術の文明があったんだな」

「ソウデスネ。ゲンザイノカラダノフッキュウレベルデハオモイダセマセンガ」

そういうものか。

「なんで滅んだんだろうな……」

「ハイ、ザンネンデス。デモ、ホロンデナイカノウセイモアリマスヨ」

「ん? どういうこと?」

ユウリナは寝てしまった。猫か。気まぐれにも程がある。


医術師モルトと見習いモリアが、寝ているユウリナの身体を興味深そうに観察していた。

「うーん、腹を開きたい……」

ぼそっと呟きが聞こえた。

え? ボディをってこと?

俺は紅茶を飲みながら後ろから見ていた。 

「死ぬかもしれませんよ?」

「ここをこっちに引っ張れば……」

おいおい、マッドサイエンティストだよ、この人。

飲んだくれマッドサイエンティストとムンムンナースだよ。

大丈夫? この城の医療。

「ア、ナニスルンデスカ。エッチ」

ユウリナは逃げてった。

モリアはモルトを指差して爆笑した。



別の日、王の間にユウリナとネネルの姿があった。

どうやらネネルの羽に興味津々のようだ。

ネネルは遠慮ないユウリナに戸惑っていた。

「なになに、何なのよ、あんた……」

ユウリナは翼を勝手に広げて「ホウ」とか「ナルホド」とか呟いている。

俺はラムレスの監視のもと事務仕事をしていたから、遠目に見ているだけだったが、

「アタラシイシュダ……ダレノサクヒンダロウ」

との言葉に筆を止めた。

うーむ、謎は深まるばかりだ。



バルバレスから呼ばれてラムレスと食堂に向かう。

文献が見つかったようだ。

「機械人は古い伝承に度々登場します。もっとも数は圧倒的に少ないですが」

「ザド島の洞窟に住む魔獣を倒したり」

ア、ソレトモダチデス

「たった一人で1万の軍勢を相手したり」

ナツカシイ

「伝説の魔剣使い【巨狼のシュペロン】が唯一倒せなかったり」

アノモフモフイケメンネ

「かつての超大国が3体の機械人に滅ぼされたり」

ワタシジャナイワ、サソワレタケド

「神話学者や歴史研究者の間では、

十神教の神々はこの機械人じゃないかって言われています」

ソウイエバマツラレテタナ……

振り向くとユウリナがもっちゃもっちゃとチキンレッグを食べていた。

ちょっとだけ沈黙。

「ええええええええーーーー!」

ラムレスとバルバレスが絶叫した。うるさい。

「ちょっとーそこの機械女、勝手に食材盗むなって言ったでしょー

……ってあんたそれ生じゃない! ねーマイヤー! ここに馬鹿がいるんですけどー!」

「シツレイナ! ロミサン! ワタシノカラダハ……」

「ぶー! 私はフミよ! 間違えるなんてあんたの方が失礼ですぅー」

「グヌヌ」

「うっそー! ロミでしたー!」

「モー、ダマシタナー」

オネエと機械……

「神! 神がここにいますよ!」

「ほんとに? ほんとに?」

デブとマッチョ……

うーん……カオス!

そしてうるさい。

もう部屋に帰りたい。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!? 自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。 果たして雅は独りで生きていけるのか!? 実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

ガチャからは99.7%パンが出るけど、世界で一番の素質を持ってるので今日もがんばります

ベルピー
ファンタジー
幼い頃にラッキーは迷子になっている少女を助けた。助けた少女は神様だった。今まで誰にも恩恵を授けなかった少女はラッキーに自分の恩恵を授けるのだが。。。 今まで誰も発現したことの無い素質に、初めは周りから期待されるラッキーだったが、ラッキーの授かった素質は周りに理解される事はなかった。そして、ラッキーの事を受け入れる事ができず冷遇。親はそんなラッキーを追放してしまう。 追放されたラッキーはそんな世の中を見返す為に旅を続けるのだが。。。 ラッキーのざまぁ冒険譚と、それを見守る神様の笑いと苦悩の物語。 恩恵はガチャスキルだが99.7%はパンが出ます!

田村涼は異世界で物乞いを始めた。

イペンシ・ノキマ
ファンタジー
異世界に転生した田村涼に割り振られた職業は「物乞い」。それは一切の魔術が使えず、戦闘能力は極めて低い、ゴミ職業であった。おまけにこの世界は超階級社会で、「物乞い」のランクは最低の第四階級。街の人々は彼を蔑み、馬鹿にし、人間扱いさえしようとしない。そのうえ、最近やってきた教会長はこの街から第四階級の人々を駆逐しようとさえしている。そんななか、田村涼は「物乞い」には”隠されたスキル”があることに気がつく。そのことに気づいたところから、田村涼の快進撃が始まる――。

異世界最強の賢者~二度目の転移で辺境の開拓始めました~

夢・風魔
ファンタジー
江藤賢志は高校生の時に、四人の友人らと共に異世界へと召喚された。 「魔王を倒して欲しい」というお決まりの展開で、彼のポジションは賢者。8年後には友人らと共に無事に魔王を討伐。 だが魔王が作り出した時空の扉を閉じるため、単身時空の裂け目へと入っていく。 時空の裂け目から脱出した彼は、異世界によく似た別の異世界に転移することに。 そうして二度目の異世界転移の先で、彼は第三の人生を開拓民として過ごす道を選ぶ。 全ての魔法を網羅した彼は、規格外の早さで村を発展させ──やがて……。 *小説家になろう、カクヨムでも投稿しております。

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...