【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一

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第23話 ダルク民国攻略編  混乱

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黒い壁。間近で見るとその存在に圧倒された。

【腐樹の森】の主。

全身の菌糸が触手のように動いているので、実際より大きく見える。

「オマエ、マケンツカイ……ウマレタバカリカ」

喋った。マジか。

地の底から響くような、低い声。

生まれたばかり? どういう意味だ。

「ココデ、キエロ」

後ろにはチグイの群れ、天井付近にはハネヌイが入ってきている。

「我らが【腐王】様! 私はデモン。古より続くダルクニア家の血筋の者でございます。

永い眠りから覚め、さぞ空腹の事でしょう。さあ、これだけの生贄を集めました。

どうぞ、お食事をお楽しみください」

デモンは俺たちを見て笑みを浮かべた。

「初めからこれが目的で……」

マーハントは悔しそうに奥歯を噛んだ。

「まさか【腐王】がここに来るなんて……」

ネネルは翼をゆっくりと広げる。

「けど、探す手間が省けた。目標はこいつだったからな」

俺はフラレウムを持つ手に力を入れた。

「おりゃ!」

【腐王】に向けて炎を放った。強火だ。

放たれた炎は【腐王】を突き抜け、空いている扉から【腐樹の森】までを焼いた。

距離が近いほど高温になる。十秒ほど経って、疲れる前に一旦炎を消した。

【腐王】は燃えていた。

やったか?

しかし、【腐王】の身体の表面が鱗のように細かく剥がれ落ちた。

あっという間に全身の炎は表皮ごと下に落ち、何事もなかったかのような姿に戻った。

……嘘でしょ?

間髪入れずに今度はネネルが電撃を放った。

眩しくて見えない。バチバチと強烈な光が【腐王】を襲うが

俺の時と同じく電撃が当たった表皮がバラバラと下に落ちるだけで

まったく効いていない。

ネネルは体力を使い果たし、荒い息で膝を付いた。

なんだ、こいつ。

「ははは! 魔剣は効かんと古文書に書いてあるのだ!

それにしても……いい! いいぞ! 有翼人で魔人か!

ますます欲しくなったわ!」

デモンの高笑いが神殿の大広間に響き渡った。

「ダルクニアヨ……コレダケカ?」

「は! ……何がでしょうか?」

攻撃されたの無視して話し始めやがった。

「クイモノハコレダケカ?」

「……はい。これだけいれば十分かと……」

「タラヌワ。オマエガワレノハラヲキメルナ」

「いや、でも古文書には……」

「ツカエヌヤツメ。ケイヤクハオワリダ」

【腐王】の菌糸が伸び、ダルク兵を捕まえた。

「うわ! 【腐王】様! 私は味方です! デモン様! ぎゃー! ぐ! ごふう……」

時が止まり、咀嚼音だけが響いた。

「ひいい!」

「うわあー!」

「たすけ……」

後ろにいた魔物が一斉にダルク兵を襲い始めた。

俺たちに弓を向けていたダルク兵は魔物によって隊列を乱した。

矢が降ってくる脅威は無くなったが……代わりに血肉が降ってくる。

阿鼻叫喚。まさに地獄絵図だ。

「下がれ! 下がれ!」

マーハントの命令に盾でがっちり防御しながら、キトゥルセン軍は一塊で後退し始めた。

「カカラル! 耐えろ!」

俺はフラレウムを放射し、カカラルごと炎で包んだ。

檻と縄が焼き切れ、鳴き声と共に深紅の巨鳥は宙に飛び上がった。

その姿はまるで不死鳥のようだった。

「兵たちを守れ!」

カカラルはクゥカカカ! と力強く鳴いて炎を四方八方に吐きまくった。

「オスカー! 助けて!」

ネネルの声だ。どこだ、どこにいる?

目の前を魔物とダルク兵が行き交い、カカラルの炎が視界を覆う。

ようやく見つけたネネルはダルク兵2人に捕らえられ、

デモンの元へ運ばれていた。

「ネネル!」

デモンの声が辛うじて聞こえた。

「なんだ、勝手に弱ってるな。電気を出さぬように縛っておけよ」

くそ! 魔物が邪魔だ。

デモンたちはネネルを抱えて神殿の外へ出ようとしてる。

俺たちも後を追う。

後ろからは逃げ遅れたダルク兵を食べながら【腐王】が追ってきた。

神殿から出ると、町には既に魔物が溢れており、女子供も容赦なく襲われていた。

至る所から悲鳴が聞こえる。

「ネネルを助ける! 俺に続け!」

マーハント軍は防御の隊列を崩さず、進軍する。

デモンたちは入り組んだ路地を右へ左へ逃げていくが、

こっちは【千里眼】でしっかり追っているので迷わない。

魔物との戦い方を知っているマーハント軍はそんなに被害は出ていないが、

戦い方を知らぬダルク兵は逃げ惑うばかりだった。

しばらく追っていると、デモンたちを袋小路に追い詰めた。

「諦めろ。ダルクは終わりだ。俺たちに協力しろ」

「どうせ、お前たちも【腐王】に食われる! 協力しても意味がないわ!」

ネネルは力が入らない様で拘束されたままぐったりしている。

「ではせめてその娘を放せ。そしたらお前も助けてやる」

デモンは少し考える素振りを見せた。

「ふん。今更小娘一人助けた所でどうにもならん。そんなことより、

こうなった原因のお前らが悔しがる顔が見たい。例えばほら、こうしてみたらどうだ?」

デモンはネネルの首を絞めた。ネネルの目が見開かれる。

「おい! やめろ!」

ダルク兵が槍をネネルに突き付けているので下手に動けない。

一か八か、フラレウムの炎でデモンだけ上手く燃やせないか、

そう考えていた時だった。デモンの背後の塀の上にオオサメが現れ、

あっけなくデモンの頭をかじり取った。

俺はすぐに駆けだし、ムカデの様なオオサメを燃やした。

一人のダルク兵は逃げ出し別の塀をよじ登って消えた。

もう一人はその場にへたり込んだ。

「ネネル! ネネル、大丈夫か?」

急いで縄を切ってやる。

「オ、オスカー……ありがとう」

ネネルは弱々しく微笑んだ。

危ない目に合わせてしまった。俺のミスだ。

俺はネネルを強く抱きしめた。
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