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第20話 ダルク民国攻略編 【腐樹の森】
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敵は戦線が乱れている隙を狙ってきた。
ウデナガに乗ったダルク兵は素早い動きで、一人ずつ狙ってくる。
こちらの兵もかなり分厚い鎧を付けているが、
ウデナガは全く意に介さず、斬り、砕き、噛みついてくる。
ゴリラの姿勢をした四本足の昆虫、としか説明のしようがない。
昆虫だから線は細い。大きさはこちらも馬くらい。
長い前足は内側がのこぎり状になっていて、肉食の口は顔の端まで裂けている。
かなり凶悪な外見。おまけに素早い。たった数十体にかき乱されている。
加えて、ウデナガに乗っているダルク兵は弓を放ってくる。
今度はこちらが押され、兵が後退し始めた。
行くか。
そう思った時、前線に変化が起きた。
マーハント軍が十人程で陣を作り、ウデナガを一体づつ撃破し始めたのだ。
乱されていたのは一瞬で、兵たちは昔からやってますけど? 的な
滑らかで慣れた動きだった。
元々の戦力差がある。数体撃破したら、残りは【腐樹の森】へ退いた。
おそらく斥候部隊だ。深追いはしない。
犠牲は出たが、見事な戦いっぷりだった。
そういえば実戦って初めてだ。
ウチの軍隊、思いのほか強いらしい。
翌朝。
明るくなってから犠牲になった兵士たちを一ヵ所に集め、火葬した。
兵士の遺体は斬られた箇所に黒い菌糸が生え始めていた。
「見るのは初めてですか?」
「ああ。知ってはいたが……。どのくらいで腐樹に?」
マーハントは冷たい風にピクリとも動じない。
「死んでいれば3日で若木ほどに育ちます。
生きていれば傷を負ってから1日で死に至り【グール】に。
【グール】になってから3日から7日程さ迷い歩き、
その時立っていた場所に根を張り【腐樹】になります」
魔物に噛まれると魔物になる。
改めて、なんて恐ろしい生態系。
冬虫夏草のひどい版だ。
「その【腐樹】に実が出来て、そこから新たな魔物が誕生するというわけか」
「その通りです」
「知ってはいても、実際に見るとおぞましいな。こんなものと数百年前から戦っているのか」
「ええ。しかし幸いなことに魔物も魔物を喰らいます。
この【腐樹の森】の中で完結した生態系が出来ているので、
魔物は森の外にあまり出てこない。だから今まで我々は生きてこれたのかもしれません」
ただし今回は言い伝え通りの事が起きた……か。
偶然や思い過ごしならよかったが、目の前の【腐樹の森】を見ることが出来る俺は、
言い伝えが正しい事を知ってしまった。
森の内部はどこまで行っても歪な形の黒い木が、
背の高い針葉樹の隙間を埋めるように大量に生えている。
日光が入らないので昼間でも真っ暗だ。
黒い木に葉はない。枝の途中に数個の実が垂れている。大きさはヤシの実ほどだ。
黒か灰色の実は中が半分透けている。中で何かがぐるりと動く。
森の中にはかなりの数の魔物が蠢いていた。地を這うもの、木々を飛び移るもの、
木々の間を泳ぐように飛ぶもの。
【腐樹の森】を進むのは自殺行為だ。
更に奥へ視点を伸ばすと巨大な土の壁が現れた。
ダルク民国の城壁だ。壁の中は大きな町が広がっていた。
ノーストリリアと同じくらいの規模だ。
建物は土と木で出来ていた。ほとんどの男は虫を模したような鎧を着ている。
まさかほとんどの男が兵士なのか?
町には屋台が並び、料理する女やじゃれ合う子供が見えた。
ほのぼのとした光景もしっかりと存在する。
攫われた村人は神殿のような場所にいた。
いいぞ、まだ生きている。
ここからダルク国へは一日半の行軍で着く距離だろう。
視点を動かす。
ダルク民国から北へ数十キロ、山の麓に【腐王】がいた。
でかい。十メートルはあるだろうか。
スリムな熊のようなシルエットに、牡鹿のような立派な角、
黒い表皮は体液で光り、体中から枝のような菌糸が生えていた。
頭から背中にかけて菌糸のとさかが並び、背骨がせり出して、
細い菌糸がもぞもぞ動いている。
強烈な姿だ。しかし、動きは緩慢。
倒せるかもしれない。そう思った直後、【腐王】と目が合った。
ぞくっと背中に悪寒が走り、俺は慌てて目を閉じた。
なんだ、今の?
見ていたのがバレた? そんなことあるのか?
冷や汗が止まらなかった。
クゥカカ、と上空から聞き覚えのある鳴き声が聞こえた。
朝、偵察に出ていたネネルとカカラルが帰ってきたのだ。
二人には上空からダルク民国の位置と、【腐王】を探してもらっていた。
【千里眼】で分かるのだが、公表していないので、
マーハント達に説明するために働いてもらった。
すまんね。後でなんかあげる。
「大丈夫? 顔が真っ青よ……」
え? そう?
でも、ネネルに心配されるのも悪くないな。
「大丈夫だよ。ネネルとカカラルが帰ってこなかったらって考えたら少しぞっとしちゃって」
「……も、もう! 調子いい事言っちゃって!」
ぷいっと踵を返し、ツンデレネネルは行ってしまった。
俺は【腐樹の森】を見渡した。
少し侮っていたかもしれない。
気が付けばフラレウムの刀柄を力いっぱい握っていた。
ウデナガに乗ったダルク兵は素早い動きで、一人ずつ狙ってくる。
こちらの兵もかなり分厚い鎧を付けているが、
ウデナガは全く意に介さず、斬り、砕き、噛みついてくる。
ゴリラの姿勢をした四本足の昆虫、としか説明のしようがない。
昆虫だから線は細い。大きさはこちらも馬くらい。
長い前足は内側がのこぎり状になっていて、肉食の口は顔の端まで裂けている。
かなり凶悪な外見。おまけに素早い。たった数十体にかき乱されている。
加えて、ウデナガに乗っているダルク兵は弓を放ってくる。
今度はこちらが押され、兵が後退し始めた。
行くか。
そう思った時、前線に変化が起きた。
マーハント軍が十人程で陣を作り、ウデナガを一体づつ撃破し始めたのだ。
乱されていたのは一瞬で、兵たちは昔からやってますけど? 的な
滑らかで慣れた動きだった。
元々の戦力差がある。数体撃破したら、残りは【腐樹の森】へ退いた。
おそらく斥候部隊だ。深追いはしない。
犠牲は出たが、見事な戦いっぷりだった。
そういえば実戦って初めてだ。
ウチの軍隊、思いのほか強いらしい。
翌朝。
明るくなってから犠牲になった兵士たちを一ヵ所に集め、火葬した。
兵士の遺体は斬られた箇所に黒い菌糸が生え始めていた。
「見るのは初めてですか?」
「ああ。知ってはいたが……。どのくらいで腐樹に?」
マーハントは冷たい風にピクリとも動じない。
「死んでいれば3日で若木ほどに育ちます。
生きていれば傷を負ってから1日で死に至り【グール】に。
【グール】になってから3日から7日程さ迷い歩き、
その時立っていた場所に根を張り【腐樹】になります」
魔物に噛まれると魔物になる。
改めて、なんて恐ろしい生態系。
冬虫夏草のひどい版だ。
「その【腐樹】に実が出来て、そこから新たな魔物が誕生するというわけか」
「その通りです」
「知ってはいても、実際に見るとおぞましいな。こんなものと数百年前から戦っているのか」
「ええ。しかし幸いなことに魔物も魔物を喰らいます。
この【腐樹の森】の中で完結した生態系が出来ているので、
魔物は森の外にあまり出てこない。だから今まで我々は生きてこれたのかもしれません」
ただし今回は言い伝え通りの事が起きた……か。
偶然や思い過ごしならよかったが、目の前の【腐樹の森】を見ることが出来る俺は、
言い伝えが正しい事を知ってしまった。
森の内部はどこまで行っても歪な形の黒い木が、
背の高い針葉樹の隙間を埋めるように大量に生えている。
日光が入らないので昼間でも真っ暗だ。
黒い木に葉はない。枝の途中に数個の実が垂れている。大きさはヤシの実ほどだ。
黒か灰色の実は中が半分透けている。中で何かがぐるりと動く。
森の中にはかなりの数の魔物が蠢いていた。地を這うもの、木々を飛び移るもの、
木々の間を泳ぐように飛ぶもの。
【腐樹の森】を進むのは自殺行為だ。
更に奥へ視点を伸ばすと巨大な土の壁が現れた。
ダルク民国の城壁だ。壁の中は大きな町が広がっていた。
ノーストリリアと同じくらいの規模だ。
建物は土と木で出来ていた。ほとんどの男は虫を模したような鎧を着ている。
まさかほとんどの男が兵士なのか?
町には屋台が並び、料理する女やじゃれ合う子供が見えた。
ほのぼのとした光景もしっかりと存在する。
攫われた村人は神殿のような場所にいた。
いいぞ、まだ生きている。
ここからダルク国へは一日半の行軍で着く距離だろう。
視点を動かす。
ダルク民国から北へ数十キロ、山の麓に【腐王】がいた。
でかい。十メートルはあるだろうか。
スリムな熊のようなシルエットに、牡鹿のような立派な角、
黒い表皮は体液で光り、体中から枝のような菌糸が生えていた。
頭から背中にかけて菌糸のとさかが並び、背骨がせり出して、
細い菌糸がもぞもぞ動いている。
強烈な姿だ。しかし、動きは緩慢。
倒せるかもしれない。そう思った直後、【腐王】と目が合った。
ぞくっと背中に悪寒が走り、俺は慌てて目を閉じた。
なんだ、今の?
見ていたのがバレた? そんなことあるのか?
冷や汗が止まらなかった。
クゥカカ、と上空から聞き覚えのある鳴き声が聞こえた。
朝、偵察に出ていたネネルとカカラルが帰ってきたのだ。
二人には上空からダルク民国の位置と、【腐王】を探してもらっていた。
【千里眼】で分かるのだが、公表していないので、
マーハント達に説明するために働いてもらった。
すまんね。後でなんかあげる。
「大丈夫? 顔が真っ青よ……」
え? そう?
でも、ネネルに心配されるのも悪くないな。
「大丈夫だよ。ネネルとカカラルが帰ってこなかったらって考えたら少しぞっとしちゃって」
「……も、もう! 調子いい事言っちゃって!」
ぷいっと踵を返し、ツンデレネネルは行ってしまった。
俺は【腐樹の森】を見渡した。
少し侮っていたかもしれない。
気が付けばフラレウムの刀柄を力いっぱい握っていた。
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