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第9話 魔剣フラレウムの本気と、落ちてきた天使

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「やはりオスカー様は由緒正しきキトゥルセン家の血筋なのだ。

いや、しかし……あんなすごい炎出るものなのか?

ちょっと凄過ぎではないか」

「あの火力ならあっという間に暖炉に火が付きますな。

私の部屋、陽が射さなくてすこぶる寒いんです」

「こら、国王と魔剣をメイド変わりに使うなど

冗談でも言っていい事ではないですぞ、モルト殿」

「隣のイース公国でショーをやりましょう。入場料は一人5000リル、

1000人入るテントで1日3回公演、1カ月で4億5千万リル稼げますぞ。

少しは財政赤字も……」

「……ギル殿、目が本気ですぞ。そしてバルバレス殿はなぜ泣いているのですか?」

「私は……未来の覇王に何という失礼なことを……うう、なぜ疑ったのか、

自分が恥ずかしい。お顔を見れば、全身から発している雰囲気を見れば、

真の王だと気付くはず!! それなのに、私は、ああ……

私、バルバレス・エメリア!! 責任を取り、今ここで片腕を切り落とします!」

「待て待て、早まるなバルバレス殿! 本当に剣を抜くな! こら、離せ!

二人も手伝え! ああ、うっすら切れてますぞ! 危ない!

剣を振り回すな! この、脳筋巨大猿! 助けてオスカー様!」



うるせー。後ろがうるせー。今試そうとしてるとこなのに、うるせー。

この2階のテラスに移動するまでの間、ずっとあの調子だ。

まあ、ちゃんと魔剣が反応してくれて、

敬意と少しの畏怖を持って接してくれるようになったのでいいっちゃいいけどね。

じゃあ、後ろは無視して、始めますか。

俺はフラレウムを頭上に掲げ、目を閉じた。

まずは弱火。身体の奥がぞわぞわし、

すぐに刀身から10メートルほど炎が上がった。これは火炎放射器ってとこかな。

中火。炎が膨れ上がり、さらに天に伸びる。5,60メートルの巨大な火柱だ。

「あ、熱い。オスカー様、我々は少し下がらせてもらいます」

ラムレスの声に「はーい」と返事して気が付いた。

俺は少しも熱くない。熱気は感じるが程よく温かいくらいだ。

魔剣の保有者は耐性ができるらしい。新発見。

あ、何だこれ、新しい感覚。腕の感覚が火柱と重なってる気がする。

試しに想像で動かしてみると炎もぐねぐねと動いた。おおー。

蛇みたい。炎蛇だ。これを炎蛇と名付けよう。

……だっさ。

次、いよいよフルパワー、強火だ。

「うおりゃ!」

ドンと腕に衝撃。足も踏ん張ってないとふらついてしまう。

今までとは桁違いのパワーだ。炎はどれくらい……

えーと。うそでしょ。曇天の雲にまで届きそうなんですけど。

これ遠くから見たら綺麗そうだなぁ。動かせるかな。

「ほっ!!」

動いた。けど重いし、鈍い。

これはもう蛇じゃないな。竜だな。炎竜と名付けよう。

……だっさ。

今時中2でもこんな名前付けないぞ、俺。

あれ、なんか息が切れてきた。体力消費するんだ、これ。

先に言っといてほしい。もう消そう。

「ああ、疲れた」

振り向くと4人はポカンと口を開けていた。

またおじさん団子になってる。やめてくれ。


「バルバレス、こっちに」

「え、あ……は!」

俺はバルバレスを呼びつけた。イカつい身体が目の前で片膝を付き、首を垂れる。

「お前は俺に忠誠を誓っているのか?」

「は、はい! 誓っております!」

「ならばお前の命は俺の物だな?」

「仰る通りです!」

「ではなぜ先ほど、俺の物であるお前の身体を勝手に傷つけようとした?」

「それは……」

「言ってみろ」

俺は魔剣フラレウムをバルバレスの首に近づけた。

「ひっ!」

こんなでかい身体が震えている。ちょっとかわいそうだ。

「お前は俺に必要だ。これからは勝手な事をするなよ。

己の心臓に自ら刃を突き立てる場合でも、俺の許可を求めよ!

分かったか?」

「はっ!」

「お前を一番信用しているんだ。期待しているぞ、バルバレス・エメリア将軍」

耳元でそう囁いた。飴とムチ。落として上げる。人心把握術の鉄板だ。

顔を上げたバルバレスは涙を浮かべていた。見るからにうれし涙だ。

これくらい言っとけばいいだろう。ちょっと強く言い過ぎたかな。

ごめんね、バルちゃん。

でもこういう世界じゃ、まず武力を掌握しとかないと安心して眠れない。

俺はまだ完全にこの国を、世界を知っている訳じゃないからな。

「オスカー様! 空を! 何か落ちてきます!」

慌てたラムレスの指差す方を見上げると、2つの影が見えた。

【千里眼】で(ズーム)すると一つは赤い鳥。でかい。それに、赤く光っている。

魔獣だ。もう一つは……女の子? いや白い翼が生えている。有翼人だ。

あれ、ちょっとまって。女の子の方も金色に光っている。

魔人だ。有翼魔人だ。珍しい。よく見てみると、翼が片方焼けている。

黒い革のブーツ、緑色の軍服? 制服? を着ている。あ、パンツ見えた。

意識はあるみたいだ、慌てた顔をしている。黒髪が風ではためいて……

うん、ドストライク、好みです。

でも、やばい。これはヤバいぞ。ぐんぐん落ちてくる。

どうやら翼が焼けて飛べないらしい。

魔獣の方は置いといて、あの子は助けたい。

と思ったら片方の翼を懸命に動かし、空中でバランスを取り始めた。

いいぞ、うまい!

少しだけ浮力が生まれ、落下スピードが落ちる。その調子!

もう【千里眼】を使わなくても見える距離だ。更にスピードが落ちる。

いいよいいよ、あれ……こっちに来てない? 

城の外に魔獣が落ちた。すんごい音と衝撃。でもそんなことより……

やっぱり真っ直ぐこっちに来る! 落ちたって言ってもそれなりのスピードだ。

「やば、ぶつかる!!」

衝撃。痛い。かなり痛い。転がってるね、長くない? 転がるの。意識飛びそう……

「オスカー様! オスカー様!」

みんなの声が聞こえる。まだ生きてるみたいだ。

おかしいな、視界が緑色だ。重たいし。あ、重たいって言ったら失礼か。

いい匂いもするぞ。なんだなんだ?

あれ? この柔らかいの……なんだろ、この柔ら、ん? なんだろこの柔いの……柔らけー!

ええ、そうです。確信犯です。
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