作ろう! 女の子だけの町 ~未来の技術で少女に生まれ変わり、女の子達と楽園暮らし~

白井よもぎ

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第四章

101話 仲直り

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 寮の智香の部屋。
 智香はテレビの前でゲームをプレイしていた。

「ふんふんふーん。あっ、こいつ! チッ」

 ご機嫌で、時には悪態をつきながらもゲームを楽しんでいる。
 その姿は仲の良かった友達と喧嘩中とは思えない様子だった。

「ブレないなぁ……」

 休むように言われて帰ったのに、智香は思いっきり遊んでいた。

 その声で、智香が振り向く。

「あ、優奈ちゃん。一緒にやる?」
「それもいいけど、ちょっと来て欲しいところがあるんだ。今からいいかな?」
「いいよ。セーブしてから待ってて」

 智香が手早くセーブを済ませると、ゲーム機の電源を落として、二人は部屋を出た。


 優奈は智香の手を引いて廊下を歩く。
 進んで手を繋がれた智香は、少し照れた様子で頬を染めていた。

 だが、行く先が麻衣の部屋であることに気付くと抵抗を始める。

「嫌! 行きたくない!」
「すぐに済むからっ。ちょっとだけだから来て」

 優奈は嫌がる智香の手を離さず、強引に引っ張る。

「ちょっとでも嫌! 絶対行かない!」
「麻衣ちゃんは言ってないんだってっ。これから、その誤解を解くから。もしかしたら私のことを嫌いになるかもしれないけど、それでも……!」
「えっ?」

 優奈の顔は深刻そうな表情をしていた。
 普通ではない様子に、戸惑った智香は抵抗を緩め、躊躇いながらも連れて行かれた。



 麻衣の部屋。
 そこでは麻衣がテレビを観ながら、優奈が来るのを待っていた。

 玄関の扉が開いた音で、来たことに気付く。

「来たわね」

 扉の方に目を向けていると、少しして居間の扉が開く。
 扉の先から現れたのは優奈ともう一人、智香であった。

「!?」

 思いもよらぬ訪問者に麻衣はギョッとする。
 無理矢理連れて来られた智香は、そっぽ向いてツーンとしていた。

「優奈。そんなの連れて来ないでよ」
「まぁまぁ、ちょっと我慢してよ」
「もしかして余計なことしようとしてる?」
「いんや。ただ誤解を解きに来ただけだよ。まず事実として麻衣ちゃんは智香ちゃんのことバラしてない。でしょ?」
「そうだけど……」

 優奈はしゃがんで、ソファーの下をゴソゴソと探る。

「態度がおかしかったから、何かあったんだろうな、とは思ったけど、それくらい。知ったのは、これ」

 ソファーの下から引っ張り出した優奈の手には、黒く平ぺったい四角形の物体が握られていた。

「盗聴器。これで聴いたんだ」
「はぁ!? いつから、そんなものを……」
「最初から。皆の私生活が気になって。勿論、智香ちゃんの部屋にも仕掛けてあるよ。あの話、聴いたのは、そっちでだっけ?」

 盗聴器を仕掛けられていたと知った二人は唖然とする。

「優奈……流石に、それは許されないことよ」

 麻衣は、わなわなと震える。
 部屋に勝手に入ることには何とも思っていなかったが、盗聴器を仕掛けるというのは、それとは訳が違っていた。

「いいじゃん。別に減るもんじゃあるまいし。これまで気付かなかったくらいだから、支障ないでしょ」
「支障ない訳ないわ! あんた本気で言ってるの?」
「本気も本気。私は聴きたいから聴いただけ。それの何が悪いの?」

 優奈は悪びれなく言う。

「……最低。ただの犯罪者じゃない。自分がそんなこと平気でしてたから、盗撮されても何とも思わなかったのね」

 全く反省の色のない態度に、麻衣は怒りを通り越して失望していた。
 だが、そこで智香が声を上げる。

「嘘! 本当は仕掛けた振りしただけだよね? 優奈ちゃん、また未久ちゃんの時みたいに自分が泥を被るつもりでしょ」

 その言葉で麻衣はハッとする。

「買い被り過ぎだよ。私が変態なの知ってるでしょ?」
「知ってるけど、そんなことはしないって信じてるよ。そもそも仕掛けたところで大した話、聴けないよね? 録ったの確認するだけでも、凄く時間かかるし。そんなことするくらいなら、直接エッチなことしたりするでしょ? 優奈ちゃんなら」
「むぐ……」

 尤も過ぎる意見に、優奈は思わず口籠る。
 実際、セクハラしまくっていたので、態々盗聴していたなどという主張を突き通すのには無理があった。

 本当は盗聴器どころか監視カメラをつけている為、嘘ではないのだが、それを証明する為に全てを暴露することは、優奈には出来ない。

「今このタイミングで言うなんて、私達を仲直りさせる為以外ないじゃん。もう自分を犠牲にするのは止めてよ」

 智香はとても悲しそうな顔で優奈を見つめて言う。
 そんな顔で訴えかけられては、少女好きの優奈は白旗を上げざるを得ない。

「分かったよ。降参。智香ちゃんの言う通り、盗聴器は仕掛けてない。けど、二人の話を盗み聞きしたのは嘘じゃない。じゃないと知ることなんて出来ないでしょ」
「どうやって?」
「それはその……企業秘密。詳しくは言えないけど、調べる手段はあるんだ。ここの町って凄い技術の道具とか色々あるでしょ? あの日、麻衣ちゃんの様子がおかしいかったから、何かあったのかと思って調べたんだよ。それで知ったって訳」

 二人は納得したという顔をする。
 細かいところは暈していたが、二人は優奈の言うことを信じた。

「これで分かったでしょ。麻衣ちゃんはバラしてないって」
「あっ」

 そこで智香は自分が勘違いで責めてしまったことに気付いた。
 しかし、麻衣は冷ややかな目を向けて言う。

「いいわ。謝られても許す気はないから。私、許せないことあったら、切り捨てる性質なの」

 誤解で責められた時に受けた侮辱。
 それは麻衣が町に移住して来た理由に関してのことで、非常にデリケートなことだったので、いくら誤解であったとしても許せるものではなかった。

 許さないと言われ、智香は俯く。
 誤解は解けても仲直りにはならなかった。

「全部、私のせいだ……」

 絶望した顔で呟いた優奈は、その場でジャンプ土下座をする。

「お願いします! 私のことは、いくらでも嫌っていいから二人は仲良くしてください!」
「ちょっ、止めてよ。優奈にそんなことされても困るだけだわ」

 麻衣が困惑して止めようとしていると、智香が口を開く。

「そうだよ。それは私がやらないといけないことだから」

 そう言い、智香もその場に土下座をする。

「ごめんなさい。勘違いで麻衣ちゃんに、ほんと酷いこと言ちゃった。許してほしいだなんて都合のいいことは言わない。許してもらう資格なんてないから、私は町を出るよ」
「「えっ」」

 智香の衝撃発言に、土下座をしていた優奈、困惑していた麻衣までもが驚いて、智香を見る。

「ちょっと、何もそこまでしろだなんて……」
「ううん。こうでもしないと、自分が許せないから」

 町を出る。
 それは記憶を消され、二度と町に戻らないことを意味する。
 町で快適な生活をしていた智香にとっては、これ以上にない罰であった。

「ダメ! 二人は何も悪くないのに!」

 声を上げて立ち上がった優奈は、机の上にあった鋏を手に取る。

「これで許して!」

 そして自分の長い髪の毛を手で束ねると、根元に鋏を差し込んだ。
 切り込もうとした寸前、麻衣が手を押さえて止める。

「何しようとしてるの!?」
「私がケジメつけないと……」
「意味ないから止めなさい! そんな根元で切ったら洒落にならないわ」
「そうだよね……。髪なんか元に戻っちゃうから意味ないよね。なら……!」

 優奈は勢いよく手を机に叩きつけて広げると、小指に鋏を入れた。

「優奈!?」「優奈ちゃん!?」

 小指を切ろうとした優奈を、麻衣と智香は慌てて取り押さえる。

「落とし前を付けないと……!」

 二人に手を剥されそうになるが、優奈は全力で抵抗しながら鋏を握る指に力を入れる。
 安全装置が付いている鋏でも、力で無理矢理押し潰せば、ただでは済まない。
 小指の皮膚が破れ、血が滲み出す。

 優奈は本気で指を切り落とそうとしていた。

「止めなさい……! そんなことしたら取り返し付かないわよっ」
「そうだよ。お願いだから止めてっ」

 麻衣と智香が必死になって止めようとする。
 優奈は二人の言葉に耳を貸さず、全力で指に力を込めていたが、相手は二対一。
 敢え無く鋏を持つ手を引き剥され、二人によって羽交い絞めにされて、身動きが取れないようにさせられた。

「うぅー、何で邪魔するの?」
「はぁはぁ……邪魔するに決まってるでしょ。誰もそんなこと求めてないんだから」

 息を切らせながら取り押さえていた麻衣が、ふと視線を上げると、同じく息切れしながら取り押さえていた智香と目が合う。

「ふっ、意地を張ってもしょがないわね。智香、ごめん。私が強情だったわ」
「……許してくれるの?」
「酷いとは思ったけど、勘繰られるような態度取った私も悪いしね。お相子よ」

 そのやり取りを観た優奈が訊く。

「これで仲直り?」
「ええ」

 麻衣は含みなく、頷いた。

「良かったー」

 二人が完全に和解したことで安堵した優奈は全身の力が抜ける。
 その目には薄っすらと涙が浮かんでいた。

「もう、泣き虫なんだから」

 もう自傷する心配はないと感じた二人は、取り押さえるのを止めて優奈を解放する。


 手が空いたところで、麻衣は智香に向けて手を差し出した。

「はい、仲直りの握手」

 智香はその手を迷うことなく握る。

「ほんと、ごめんね」
「謝るの禁止。これからもまた、仲良くしましょ」
「うん!」

 気持ちを確かめるように、しっかりと握手していると、優奈が言う。

「握手じゃなくてキスしてよ。仲直りのキス」
「はぁ? ふざけたこと言ってんじゃないわよ」
「割と真面目に言ってるけど? あれだけ激しく喧嘩したんだから、キスぐらいしてもらわないと」
「せっかく仲直りしたのに拗らせようとするんじゃないわよ。ねぇ?」

 麻衣が智香に同意を求めると、智香は頬を赤らめる。

「麻衣ちゃんならいいよ」
「……」

 麻衣は表情を硬くする。
 レズが二人になって、麻衣は戦々恐々とした。
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