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第三章
65話 バーベキューキャンプ
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「バーベキューしようZE」
美咲の一声で自然公園に召集された優奈、智香、麻衣、真琴の四人。
自然公園の上部、川の上流付近の河原はバーベキューに最適の場所であった。
五人でバーベキューセットの組み立てをして準備を行う。
「私、バーベキュー初めてだからワクワクするわ」
「外で食べるのって楽しいよね」
組み立てを手伝う麻衣や智香は楽しそうにしていた。
「一人いくら払えばいい? 一応、多めに持ってきたけど」
麻衣は美咲にバーベキューの料金を聞く。
「奢りだよ。今日、付き合ってくれたから、それだけで十分」
「でも、大分お金か買ったでしょ」
食材だけでなく、バーベキュー道具一式からテントまで沢山の道具を美咲一人で買い揃えていた。
「道具の方は初期投資だから。これから何回も使えるしね。食材は全然安かったから気にしなくてオッケー」
「そう、じゃあ遠慮なくご馳走になるわ」
クーラーボックスには大量の食材が入っていたが、未調理の食材は殆どが一桁円なので、
これでも数百円いくかいかないか程度であった。
喋りながら五人で続けていると、バーベキューセットの組み立てや椅子テーブルの設置が完了する。
「準備完了。それじゃあ早速、レッツ着火!」
美咲はメタルマッチをナイフで削り、コンロの炭に点火する。
すると、すぐに炭全体に燃え広がり、炎が上がり始めた。
「さてさて、初っ端から今日の目玉食材をいきますか」
続いて美咲はクーラーボックスから出ていた骨を握り、引き抜く。
「じゃじゃーん」
取り出したのは、女の子達の顔よりも大きな骨付き肉だった。
「おぉー、凄いわね」
これほどの大きさの肉を見たのは、みんな初めてであった。
地上では、まず売られていないサイズである。
「ではこれを……いただきマンモス!」
美咲はその肉をコンロの上に置くのかと思いきや、いきなり生のまま齧り付いた。
突然の生肉を食べ出す所業に、他の子達は唖然として空気が凍る。
騒然としたところで、美咲は肉から口から離して笑う。
「町で生成したお肉だから、生でも問題ないって。ビックリした?」
食物生産機で培養された肉なので、一般的な生肉とは違っていた。
「ビックリどころじゃないわよ……」
「マジでビビるから止めろよ」
生肉の危険性は周知の事実だったので、ドン引きどころではなかった。
「まぁでも、焼いた方がいいんだけどね。味付いてないし、美味しくなかった」
美咲は持っていた肉を網の上に乗せる。
「齧ったところは切り分けて置けよ」
すると、透かさず優奈が言う。
「私、気にしないよ」
「他の皆は気にするから……」
コンロの火により、巨大肉が焼けて行く。
その間に美咲が肉の上に塩や胡椒をかける。
腕を曲げて、おかしなポーズを取りながら、かけているが、誰も突っ込むようなことはしなかった。
「それにしても色々買ってきたわね」
麻衣はクーラーボックスの中を覗く。
クーラーボックスの中には、肉や野菜の他、魚介だけでなくお菓子などもあった。
「あ、マシュマロあるじゃない。焼くと美味しいわよね」
「それ夜用だから、まだダメ」
「夜? バーベキュー、いつまでやるのよ」
「明日までー。寝袋も人数分あるから一晩いけるよ」
「聞いてないわよ」
「言ってなかった。嫌だったら途中で帰っていいよ」
「嫌じゃないけど。夏休みだし、まぁいっか」
喋っていると、いい具合に焼けてくる。
「そろそろ焼けたかな? 切り分けるから、切ったやつ勝手に取ってっていいよ」
焼き具合を確認した美咲は肉をナイフで切り分けて行く。
先ほど美咲が噛んだ部分を切り分けると、優奈は透かさずそこを持って行った。
「……」
麻衣と智香がその行動を目撃していたが、最早何も言うことはなかった。
遅れて美咲が、噛んだ部分を持っていかれたことに気付く。
「それ、あたしが噛んだところじゃなかった?」
「さっきも言ったけど、私全然気にしないから」
優奈はそう言いながら、回収されないうちに肉を頬張った。
それを見た真琴が言う。
「ジュースの間接キスとか、あたし結構気にしちゃう方なんだけど、みんなは?」
「あたしは気にしないよ」
「えっと、人によるかな」
美咲と智香が答えると、続けて麻衣が答える。
「そうね。赤の他人とは嫌だけど、仲のいい子なら回し飲みくらいは別に。あ、優奈以外ね」
「酷ーい。私が舐めしゃぶったペットボトルからも飲んでよ」
「絶対お断りだわ」
そんな話をしながら取り分けていると、皆に肉が行き渡ったので、食べ始める。
「ジューシーで美味しー」
「炭火の味が付いて、くそ美味いな」
美咲が焼いた巨大肉は皆に好評だった。
「やっぱり、こういうところでやると違うね。大自然の中、自分達で焼くことが最高のスパイスになる」
「だな。お店よりも美味しく感じる気がする」
ロボットが作った料理の方が実際の味は上であるが、バーベキューならではの雰囲気と楽しい気分がプラスされて、美味しく感じられた。
「ただ、ちょっと食べ難いのが難点だけどな。これ、手ベタベタになるぞ」
真琴は骨を持って齧り付いていたので、手が肉汁で汚れていた。
「川で洗えばいいじゃん。川遊びするつもりでタオル持ってきたから、遠慮なく突っ込んでいいよ」
美咲に言われ、真琴は川を覗き込む。
川は透き通っていてゴミ一つ流れていなかった。
「ここで洗っていいのか? 綺麗過ぎて、逆に洗い辛いけど……ん?」
川の中にある影を見つけた真琴は、それを二度見する。
「魚!? おいっ、魚いるぞ!」
真琴が声を上げると、他の子達が一斉に川の中に注目する。
川の中には数匹の鱒が泳いでいた。
「嘘ぉ!?」
「本当にいる。何でいるの?」
町に人間以外の生き物はいないと教えられていたので、魚がいること自体に驚いていた。
皆が驚く中、優奈は冷静に言う。
「魚を偽装したロボットでしょ。川に何にもいないと寂しいから、景観の為にいるんだと思うよ」
「え、ロボット……」
女の子達の間に緊張が走る。
自分達だけだと思ったら、近くにロボットが居たのだ。
高性能のロボットは、大人ないし教師も同然と女の子達は考えていたので、楽しい休日に横やりを入れられた気分だった。
そのことを遅れて察した優奈が付け加えて言う。
「そう警戒しなくても、思考能力はないと思うから大丈夫だよ。景観の為なら、ただ泳ぐ以外の機能はないだろうから、ロボットというよりはインテリアだと思えばいい」
「……ほんとに?」
「ほんと、ほんと。前にペットの話したでしょ。それで気になって確認したら、ロボットは種類によって機能が全然違うから、全部が先生みたいに考えて喋ったりはしないって」
本当は全てのロボットがメインコンピュータに繋がっているが、優奈は黙っておくことにした。
皆は安心したようで胸を撫で下ろす。
「じゃあ、泳いでる魚、獲って遊んでもいい?」
安堵した美咲は早速ながら遊べるか聞いてきた。
「いいんじゃない? 公園の売店で釣り用具売ってたし」
「おー。焼いたら食べれる?」
「流石に食べれないよ。けど、釣った魚を売店で食用と交換できるサービスもやってるみたいだから、
手に入れることは出来るよ」
キャッチアンドリリースだけでは寂しいとのことので、交換できるサービスも行われていた。
「あ、鳥発見。よく見たら色々いるんだな」
木の上には鳥型ロボットが何羽か停まっており、草むらの影には兎型ロボットも見受けられた。
「本当の山みたいだね。動物なら全部、魚と同じ感じだろうから、警戒はしなくていいと思うよ」
動物ロボット達は景観以外にも、監視として配置されていた。
自然公園の山の方は木々が多く、奥まで入ると迷ってしまう恐れがあった為、遭難しても即座に救助できるよう、位置を把握しておく必要があったのだ。
「食べ終わったら、森の中、探検しに行こうぜ」
「おー」
それからもバーベキューを続けていると、美咲が網の上で焼いている物を見て言う。
「みんな普通のしか乗せてないじゃん。もっと挑戦しないと」
クーラーボックスの前にしゃがみ、取り出したトマトを網の上に乗せた。
「トマトなんか焼いて大丈夫なの?」
「こんなの序の口。パイナップル、梅干し、きなこ餅、そしてそしてショートケーキ!」
次々と変わり種を網の上に乗せせ行く。
「ケーキとか最初から焼き上がってるじゃないの」
「意外と美味しいかもよ?」
「そうは思えないけど……」
おかしな食材が増えて行き、麻衣達は不安に表情を曇らせ始める。
「物は試しだよ。檸檬、沢庵、卵っと……」
「危ないっ」
優奈が透かさず網の上に置いた卵を取り上げる。
「卵は爆発するからダメだよ」
「そうなの? レンジじゃなくても?」
「強く熱されると何でも爆発するよ。やるなら穴開けるか水に浸けてやらないと」
「へー、知らなかった。優奈が居て助かったよ」
危うく爆発事故が起こるところであった。
美咲は普段から要領は良いが、全てを知っている訳ではない。
危機回避については学校で教えるべきことであるので、今の件を受け、優奈は授業内容に力を入れようと心に決めた。
そうしているうちに変わり種の食材が焼けてくる。
「そろそろいい感じかな。はい、配るよー。麻衣にはショートケーキ」
美咲は焼けたショートケーキをトングで摘まみ、麻衣の皿に勝手に置く。
「何でよ!? 私が食べるの!?」
「さっき、美味しいとは思えないって言ったから、実際に確かめてもらおうと。嫌なら他のでもいいよ」
麻衣は網に乗っていた他の食材を見る。
「……これでいいわ」
見比べた結果、ショートケーキで妥協することにした。
麻衣は焦げ目のついたショートケーキを口に頬張る。
「どうどう? 美味しい?」
「まぁ美味しいけど」
「ほらー」
「焼かない方が美味しいわ。これ、味はショートケーキだけど、炭火焼風になってるのよ」
ショートケーキの味はそのままだったが、甘味には、あるまじき風味が付着していた。
「ウケる」
「あんたが焼いたやつでしょ」
他人に食べさせておいて爆笑する美咲に、麻衣は呆れ顔だった。
続けて、美咲は他の子達にも配って行く。
「おっ、この梅干し結構イケるぞ」
「パイナップルも悪くはないかな?」
皆は口々に感想を言いながら食べる。
味は落ちていても面白さがあった為、割と好評だった。
変わり種品評会を続け、残りが少なくなってきたところで美咲が鞄を漁り始める。
「そろそろ、これの出番だね」
そう言って取り出したのは、フライパンの形をした自分で作るポップコーンのパッケージだった。
それを見た優奈が食いつく。
「懐かしっ。それ買ったんだ?」
「優奈、知ってた?」
「昔、よく作ってた」
今ではあまり見なくなったが、昔は何処のスーパーでもお菓子コーナーの横に掛けて売っていた。
優奈にとっては思い出の品だった。
他の子は分からなかったが、パッケージの文字を見て、ポップコーンであることを理解する。
「それポップコーンなの? 変な形」
「火にかけて自分で作るんだ。面白いよ」
美咲は早速ポップコーンのパッケージを網の上へと乗せる。
すると、少しして破裂音が鳴り響く。
パン!
突然の音に、優奈と美咲以外の子達が身体をビクリと反応させる。
そしてすぐに新たな破裂音が鳴り、連続した爆発が続く。
パパン! パンパンパン!
「ちょ、ちょっと、何なのよ。この音。大丈夫なの?」
「今、ポップコーンが出来上がってるんだよ。ちょっとずつ膨らんできてるっしょ」
パン!
「この音、心臓に悪いわ」
「でも、面白れーな。ポップコーンできるのって、こんな煩いのか」
最初はビックリしていた真琴だが、爆音を立てながら膨らんで行くポップコーンのパッケージに興味を持ち始めた。
麻衣と智香も慣れ始め、皆の視線がポップコーンへと向く。
すると美咲は、すっと後ろに下がり、鞄から爆竹とライターを取り出した。
そして爆竹の導線に火をつけると、麻衣達の足元に投げた。
パンパンパンパン!!
「きゃあああ!? 何!?」
ポップコーンよりも大きい爆発音が足元から聞こえてきて、麻衣達は飛び上がった。
慌ててその場から逃げ、距離を取ったところで音の正体が爆竹であると知る。
そして、その爆竹を投げた犯人である美咲は、麻衣達を指さしてゲラゲラと笑っていた。
「これが、やりたかったんだ。ポップコーン&爆竹の二段攻め」
美咲は悪びれることなく言う。
「馬鹿かよ。マジでビビったわ」
「ほんと心臓に悪いわ。止めてよね、もう」
驚きすぎて怒る気力も出なかった。
そんなこんなでバーベキューを楽しみ、みんな満腹となる。
「あー食べ過ぎた。今日は面白いもん一杯食えたな」
「色々あったけど、概ね楽しかったわ」
変わり種を食べさせられたり、驚かされたりもしたが、皆にとっても楽しいバーベキューであった。
「それじゃあ腹ごなしの散歩に、散策行きますか」
食後の運動ついでと、五人は遊びで散策を始めることにした。
美咲の一声で自然公園に召集された優奈、智香、麻衣、真琴の四人。
自然公園の上部、川の上流付近の河原はバーベキューに最適の場所であった。
五人でバーベキューセットの組み立てをして準備を行う。
「私、バーベキュー初めてだからワクワクするわ」
「外で食べるのって楽しいよね」
組み立てを手伝う麻衣や智香は楽しそうにしていた。
「一人いくら払えばいい? 一応、多めに持ってきたけど」
麻衣は美咲にバーベキューの料金を聞く。
「奢りだよ。今日、付き合ってくれたから、それだけで十分」
「でも、大分お金か買ったでしょ」
食材だけでなく、バーベキュー道具一式からテントまで沢山の道具を美咲一人で買い揃えていた。
「道具の方は初期投資だから。これから何回も使えるしね。食材は全然安かったから気にしなくてオッケー」
「そう、じゃあ遠慮なくご馳走になるわ」
クーラーボックスには大量の食材が入っていたが、未調理の食材は殆どが一桁円なので、
これでも数百円いくかいかないか程度であった。
喋りながら五人で続けていると、バーベキューセットの組み立てや椅子テーブルの設置が完了する。
「準備完了。それじゃあ早速、レッツ着火!」
美咲はメタルマッチをナイフで削り、コンロの炭に点火する。
すると、すぐに炭全体に燃え広がり、炎が上がり始めた。
「さてさて、初っ端から今日の目玉食材をいきますか」
続いて美咲はクーラーボックスから出ていた骨を握り、引き抜く。
「じゃじゃーん」
取り出したのは、女の子達の顔よりも大きな骨付き肉だった。
「おぉー、凄いわね」
これほどの大きさの肉を見たのは、みんな初めてであった。
地上では、まず売られていないサイズである。
「ではこれを……いただきマンモス!」
美咲はその肉をコンロの上に置くのかと思いきや、いきなり生のまま齧り付いた。
突然の生肉を食べ出す所業に、他の子達は唖然として空気が凍る。
騒然としたところで、美咲は肉から口から離して笑う。
「町で生成したお肉だから、生でも問題ないって。ビックリした?」
食物生産機で培養された肉なので、一般的な生肉とは違っていた。
「ビックリどころじゃないわよ……」
「マジでビビるから止めろよ」
生肉の危険性は周知の事実だったので、ドン引きどころではなかった。
「まぁでも、焼いた方がいいんだけどね。味付いてないし、美味しくなかった」
美咲は持っていた肉を網の上に乗せる。
「齧ったところは切り分けて置けよ」
すると、透かさず優奈が言う。
「私、気にしないよ」
「他の皆は気にするから……」
コンロの火により、巨大肉が焼けて行く。
その間に美咲が肉の上に塩や胡椒をかける。
腕を曲げて、おかしなポーズを取りながら、かけているが、誰も突っ込むようなことはしなかった。
「それにしても色々買ってきたわね」
麻衣はクーラーボックスの中を覗く。
クーラーボックスの中には、肉や野菜の他、魚介だけでなくお菓子などもあった。
「あ、マシュマロあるじゃない。焼くと美味しいわよね」
「それ夜用だから、まだダメ」
「夜? バーベキュー、いつまでやるのよ」
「明日までー。寝袋も人数分あるから一晩いけるよ」
「聞いてないわよ」
「言ってなかった。嫌だったら途中で帰っていいよ」
「嫌じゃないけど。夏休みだし、まぁいっか」
喋っていると、いい具合に焼けてくる。
「そろそろ焼けたかな? 切り分けるから、切ったやつ勝手に取ってっていいよ」
焼き具合を確認した美咲は肉をナイフで切り分けて行く。
先ほど美咲が噛んだ部分を切り分けると、優奈は透かさずそこを持って行った。
「……」
麻衣と智香がその行動を目撃していたが、最早何も言うことはなかった。
遅れて美咲が、噛んだ部分を持っていかれたことに気付く。
「それ、あたしが噛んだところじゃなかった?」
「さっきも言ったけど、私全然気にしないから」
優奈はそう言いながら、回収されないうちに肉を頬張った。
それを見た真琴が言う。
「ジュースの間接キスとか、あたし結構気にしちゃう方なんだけど、みんなは?」
「あたしは気にしないよ」
「えっと、人によるかな」
美咲と智香が答えると、続けて麻衣が答える。
「そうね。赤の他人とは嫌だけど、仲のいい子なら回し飲みくらいは別に。あ、優奈以外ね」
「酷ーい。私が舐めしゃぶったペットボトルからも飲んでよ」
「絶対お断りだわ」
そんな話をしながら取り分けていると、皆に肉が行き渡ったので、食べ始める。
「ジューシーで美味しー」
「炭火の味が付いて、くそ美味いな」
美咲が焼いた巨大肉は皆に好評だった。
「やっぱり、こういうところでやると違うね。大自然の中、自分達で焼くことが最高のスパイスになる」
「だな。お店よりも美味しく感じる気がする」
ロボットが作った料理の方が実際の味は上であるが、バーベキューならではの雰囲気と楽しい気分がプラスされて、美味しく感じられた。
「ただ、ちょっと食べ難いのが難点だけどな。これ、手ベタベタになるぞ」
真琴は骨を持って齧り付いていたので、手が肉汁で汚れていた。
「川で洗えばいいじゃん。川遊びするつもりでタオル持ってきたから、遠慮なく突っ込んでいいよ」
美咲に言われ、真琴は川を覗き込む。
川は透き通っていてゴミ一つ流れていなかった。
「ここで洗っていいのか? 綺麗過ぎて、逆に洗い辛いけど……ん?」
川の中にある影を見つけた真琴は、それを二度見する。
「魚!? おいっ、魚いるぞ!」
真琴が声を上げると、他の子達が一斉に川の中に注目する。
川の中には数匹の鱒が泳いでいた。
「嘘ぉ!?」
「本当にいる。何でいるの?」
町に人間以外の生き物はいないと教えられていたので、魚がいること自体に驚いていた。
皆が驚く中、優奈は冷静に言う。
「魚を偽装したロボットでしょ。川に何にもいないと寂しいから、景観の為にいるんだと思うよ」
「え、ロボット……」
女の子達の間に緊張が走る。
自分達だけだと思ったら、近くにロボットが居たのだ。
高性能のロボットは、大人ないし教師も同然と女の子達は考えていたので、楽しい休日に横やりを入れられた気分だった。
そのことを遅れて察した優奈が付け加えて言う。
「そう警戒しなくても、思考能力はないと思うから大丈夫だよ。景観の為なら、ただ泳ぐ以外の機能はないだろうから、ロボットというよりはインテリアだと思えばいい」
「……ほんとに?」
「ほんと、ほんと。前にペットの話したでしょ。それで気になって確認したら、ロボットは種類によって機能が全然違うから、全部が先生みたいに考えて喋ったりはしないって」
本当は全てのロボットがメインコンピュータに繋がっているが、優奈は黙っておくことにした。
皆は安心したようで胸を撫で下ろす。
「じゃあ、泳いでる魚、獲って遊んでもいい?」
安堵した美咲は早速ながら遊べるか聞いてきた。
「いいんじゃない? 公園の売店で釣り用具売ってたし」
「おー。焼いたら食べれる?」
「流石に食べれないよ。けど、釣った魚を売店で食用と交換できるサービスもやってるみたいだから、
手に入れることは出来るよ」
キャッチアンドリリースだけでは寂しいとのことので、交換できるサービスも行われていた。
「あ、鳥発見。よく見たら色々いるんだな」
木の上には鳥型ロボットが何羽か停まっており、草むらの影には兎型ロボットも見受けられた。
「本当の山みたいだね。動物なら全部、魚と同じ感じだろうから、警戒はしなくていいと思うよ」
動物ロボット達は景観以外にも、監視として配置されていた。
自然公園の山の方は木々が多く、奥まで入ると迷ってしまう恐れがあった為、遭難しても即座に救助できるよう、位置を把握しておく必要があったのだ。
「食べ終わったら、森の中、探検しに行こうぜ」
「おー」
それからもバーベキューを続けていると、美咲が網の上で焼いている物を見て言う。
「みんな普通のしか乗せてないじゃん。もっと挑戦しないと」
クーラーボックスの前にしゃがみ、取り出したトマトを網の上に乗せた。
「トマトなんか焼いて大丈夫なの?」
「こんなの序の口。パイナップル、梅干し、きなこ餅、そしてそしてショートケーキ!」
次々と変わり種を網の上に乗せせ行く。
「ケーキとか最初から焼き上がってるじゃないの」
「意外と美味しいかもよ?」
「そうは思えないけど……」
おかしな食材が増えて行き、麻衣達は不安に表情を曇らせ始める。
「物は試しだよ。檸檬、沢庵、卵っと……」
「危ないっ」
優奈が透かさず網の上に置いた卵を取り上げる。
「卵は爆発するからダメだよ」
「そうなの? レンジじゃなくても?」
「強く熱されると何でも爆発するよ。やるなら穴開けるか水に浸けてやらないと」
「へー、知らなかった。優奈が居て助かったよ」
危うく爆発事故が起こるところであった。
美咲は普段から要領は良いが、全てを知っている訳ではない。
危機回避については学校で教えるべきことであるので、今の件を受け、優奈は授業内容に力を入れようと心に決めた。
そうしているうちに変わり種の食材が焼けてくる。
「そろそろいい感じかな。はい、配るよー。麻衣にはショートケーキ」
美咲は焼けたショートケーキをトングで摘まみ、麻衣の皿に勝手に置く。
「何でよ!? 私が食べるの!?」
「さっき、美味しいとは思えないって言ったから、実際に確かめてもらおうと。嫌なら他のでもいいよ」
麻衣は網に乗っていた他の食材を見る。
「……これでいいわ」
見比べた結果、ショートケーキで妥協することにした。
麻衣は焦げ目のついたショートケーキを口に頬張る。
「どうどう? 美味しい?」
「まぁ美味しいけど」
「ほらー」
「焼かない方が美味しいわ。これ、味はショートケーキだけど、炭火焼風になってるのよ」
ショートケーキの味はそのままだったが、甘味には、あるまじき風味が付着していた。
「ウケる」
「あんたが焼いたやつでしょ」
他人に食べさせておいて爆笑する美咲に、麻衣は呆れ顔だった。
続けて、美咲は他の子達にも配って行く。
「おっ、この梅干し結構イケるぞ」
「パイナップルも悪くはないかな?」
皆は口々に感想を言いながら食べる。
味は落ちていても面白さがあった為、割と好評だった。
変わり種品評会を続け、残りが少なくなってきたところで美咲が鞄を漁り始める。
「そろそろ、これの出番だね」
そう言って取り出したのは、フライパンの形をした自分で作るポップコーンのパッケージだった。
それを見た優奈が食いつく。
「懐かしっ。それ買ったんだ?」
「優奈、知ってた?」
「昔、よく作ってた」
今ではあまり見なくなったが、昔は何処のスーパーでもお菓子コーナーの横に掛けて売っていた。
優奈にとっては思い出の品だった。
他の子は分からなかったが、パッケージの文字を見て、ポップコーンであることを理解する。
「それポップコーンなの? 変な形」
「火にかけて自分で作るんだ。面白いよ」
美咲は早速ポップコーンのパッケージを網の上へと乗せる。
すると、少しして破裂音が鳴り響く。
パン!
突然の音に、優奈と美咲以外の子達が身体をビクリと反応させる。
そしてすぐに新たな破裂音が鳴り、連続した爆発が続く。
パパン! パンパンパン!
「ちょ、ちょっと、何なのよ。この音。大丈夫なの?」
「今、ポップコーンが出来上がってるんだよ。ちょっとずつ膨らんできてるっしょ」
パン!
「この音、心臓に悪いわ」
「でも、面白れーな。ポップコーンできるのって、こんな煩いのか」
最初はビックリしていた真琴だが、爆音を立てながら膨らんで行くポップコーンのパッケージに興味を持ち始めた。
麻衣と智香も慣れ始め、皆の視線がポップコーンへと向く。
すると美咲は、すっと後ろに下がり、鞄から爆竹とライターを取り出した。
そして爆竹の導線に火をつけると、麻衣達の足元に投げた。
パンパンパンパン!!
「きゃあああ!? 何!?」
ポップコーンよりも大きい爆発音が足元から聞こえてきて、麻衣達は飛び上がった。
慌ててその場から逃げ、距離を取ったところで音の正体が爆竹であると知る。
そして、その爆竹を投げた犯人である美咲は、麻衣達を指さしてゲラゲラと笑っていた。
「これが、やりたかったんだ。ポップコーン&爆竹の二段攻め」
美咲は悪びれることなく言う。
「馬鹿かよ。マジでビビったわ」
「ほんと心臓に悪いわ。止めてよね、もう」
驚きすぎて怒る気力も出なかった。
そんなこんなでバーベキューを楽しみ、みんな満腹となる。
「あー食べ過ぎた。今日は面白いもん一杯食えたな」
「色々あったけど、概ね楽しかったわ」
変わり種を食べさせられたり、驚かされたりもしたが、皆にとっても楽しいバーベキューであった。
「それじゃあ腹ごなしの散歩に、散策行きますか」
食後の運動ついでと、五人は遊びで散策を始めることにした。
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皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
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