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第二章
36話 水泳勝負
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二人が不参加になり、美咲、真琴、優奈の三人で泳ぎの競争をすることとなった。
レーンを少しの間だけ空けてもらい、三人は飛び込み台に立つ。
その中で優奈は一際気合を入れた様子で身体を解していた。
「よーし、やるぞー。絶対勝つ……。何としてでも!」
「やる気満々だな。あたしも負けないぞ」
優奈のそんな様子を見て、真琴も気合を入れる。
「準備はいい? 始めるわよ」
審判役の麻衣が、準備ができているか確認する。
すると、三人は余計な動きをするのを止め、いつでも始められる態勢を取った。
その様子を確認した麻衣が声を上げる。
「じゃあ、いくわよ。位置について。よーい……どん!」
始まりの合図と共に三人が一斉に飛び込む。
そして三人ともクロールで泳ぎ始めた。
「うおおおおお」
優奈は声を上げながら全力で泳ぐ。
――――
「勝ったー」
端に一番初めに辿り着いた美咲が喜ぶ。
そこに一歩遅れて、真琴が端の壁にタッチする。
「あーくそ、負けた」
あともう少しのところで負けてしまった真琴は悔しがる。
「うぇーい。あたしの勝ちだよーん。べろべろべろー」
「く……ムカつくわー」
美咲に煽られ、真琴は身体を震わせる。
そんなやり取りをしている二人の後方から、ばしゃばしゃと大きな水飛沫を上げて優奈が泳いで来ていた。
二位の真琴から結構な間を空け、優奈が端に辿り着く。
「ぜぇはぁ……ぜぇはぁ……」
優奈は壁に手をついて息を切らせる。
完全に体力を使い切り、息絶え絶えとなっていた。
そんな姿に、プールサイドで密かに顔を背けて震えていた麻衣が噴き出す。
「ぷっ……くくく、あはははは! あんなに気合入れてたのに、ぶっちぎりの最下位とか」
麻衣は腹を抱えて笑う。
本気で勝ちを取りに行こうとしていたことが分かっていたからこそ、その無様な姿が滑稽に見えて笑えたのだった。
智香も同じように感じてはいたが、惨敗した優奈を笑うのは可哀そうだと思い、笑う麻衣や息を切らせている優奈を見ながら、申し訳なさそうな顔をしておろおろとしている。
遺伝子の修復を行った女の子達に、運動神経の差はそれほどない。
だが、精神的な面での得意不得意はあった。
美咲と真琴は連日外で遊ぶようなバリバリのアウトドアタイプである為、身体を動かすことは得意であった。
優奈はというと、特に得意でも苦手でもなく、至って普通である。
得意な子と普通の子、そこにはハッキリとした差があったのだった。
しかも、優奈が前に泳いだのは二十年近くも前のことである。
感覚的にも、元から現役小学生だった二人には勝てるはずもなかった。
爆笑する麻衣を尻目に、美咲は負けた二人に言う。
「あたしが勝ったから二人は罰ゲームね。何にしようかなー」
そこで息を切らせていた優奈が投げやりに言う。
「もう負けた人同士がキスでいいんじゃない?」
「おっ」
美咲は面白そうと言わんばかりに目を輝かせる。
その反応を見た真琴は焦って口を挟む。
「よくねえよっ。優奈、何自分の首絞めようとしてんだよ。美咲も興味持つな」
「えー、凄くいい案だと思ったのに」
「キスなんて、まだしたこともないんだからマジ止めろよ」
色恋には、まだ興味がない真琴であるが、ファーストキスを同性に奪われるようなことはしたくなかった。
「しょうがないなぁ。じゃあ、ケツドラで勘弁してあげよう」
優奈と真琴は美咲の指示に従って、プールサイドに上半身を乗り出して俯せになる。
すると、プール側にお尻を突き出す形となった。
並んだ二つお尻の前に美咲が立つ。
そして両手でそれぞれのお尻を叩き始める。
「どんどこ、どんどこ」
お尻をドラムに見立ててリズミカルに叩く。
その様子は傍から見ると、非常におかしな光景であった。
音が立っていることもあって、周りからの視線がそこに集まる。
麻衣と智香は、みんなの注目を集めながらお尻を叩かれているその姿を見て、参加しなくて良かったと心から思う。
叩かれている優奈は後ろからの多くの視線を感じながら耐える。
(く……なかなかの恥辱。でも、これはこれで興奮するかも)
公衆の面前でお尻を叩かれるというのは屈辱的なことであったが、叩くのも見てくるのも少女であった為、優奈はそれほど嫌には感じなかった。
何かに目覚めそうな感じを受けながら、真琴はどうだろうかと優奈は隣を見る。
そこでは全くの無の表情で叩かれている真琴が居た。
顔に生気はなく目の焦点が合ってない。
「真琴ちゃん?」
不審に思った優奈が小声で声を掛ける。
すると、真琴はハッとして顔の色を取り戻した。
「これ結構恥ずかしいな」
そう言い、優奈に向けて苦笑いを見せた。
優奈は違和感を感じるが、そこで美咲が一際強く最後の一叩きをして演奏を終える。
「ご清聴ありがとうございましたー」
終わった為、優奈と真琴の二人は身体を起こし、プールに戻る。
「いやぁ、なかなか良かったよ」
「良かった?」
「あ、いや……結構恥ずかしくて、いい感じに罰になってたってこと」
口が滑った優奈が誤魔化してそう言うと、美咲は満足そうな顔を見せる。
罰ゲームが終わり、麻衣と智香もプールサイドから中へと戻ってくる。
「酷い罰ゲームだったわね。でも……ぷ、面白かったわよ。返り討ちであんな目に遭って……」
麻衣はまだ笑いが収まっていなかった。
そんな麻衣を優奈は白けた表情で見る。
「麻衣ちゃん笑い過ぎじゃない?」
「だ、だって、面白いんだもの。ねぇ、今どんな気持ちなの? 返り討ちに遭った気分は」
麻衣は笑いを堪えながら、まるで煽るように訊いてくる。
「……お前もケツ太鼓にしてやろうかっ」
優奈は麻衣に向かって襲い掛かる。
「きゃー」
麻衣は笑顔で逃げ、追いかけっこが始まる。
このような感じで、女の子達はプールの時間を楽しく過ごした。
レーンを少しの間だけ空けてもらい、三人は飛び込み台に立つ。
その中で優奈は一際気合を入れた様子で身体を解していた。
「よーし、やるぞー。絶対勝つ……。何としてでも!」
「やる気満々だな。あたしも負けないぞ」
優奈のそんな様子を見て、真琴も気合を入れる。
「準備はいい? 始めるわよ」
審判役の麻衣が、準備ができているか確認する。
すると、三人は余計な動きをするのを止め、いつでも始められる態勢を取った。
その様子を確認した麻衣が声を上げる。
「じゃあ、いくわよ。位置について。よーい……どん!」
始まりの合図と共に三人が一斉に飛び込む。
そして三人ともクロールで泳ぎ始めた。
「うおおおおお」
優奈は声を上げながら全力で泳ぐ。
――――
「勝ったー」
端に一番初めに辿り着いた美咲が喜ぶ。
そこに一歩遅れて、真琴が端の壁にタッチする。
「あーくそ、負けた」
あともう少しのところで負けてしまった真琴は悔しがる。
「うぇーい。あたしの勝ちだよーん。べろべろべろー」
「く……ムカつくわー」
美咲に煽られ、真琴は身体を震わせる。
そんなやり取りをしている二人の後方から、ばしゃばしゃと大きな水飛沫を上げて優奈が泳いで来ていた。
二位の真琴から結構な間を空け、優奈が端に辿り着く。
「ぜぇはぁ……ぜぇはぁ……」
優奈は壁に手をついて息を切らせる。
完全に体力を使い切り、息絶え絶えとなっていた。
そんな姿に、プールサイドで密かに顔を背けて震えていた麻衣が噴き出す。
「ぷっ……くくく、あはははは! あんなに気合入れてたのに、ぶっちぎりの最下位とか」
麻衣は腹を抱えて笑う。
本気で勝ちを取りに行こうとしていたことが分かっていたからこそ、その無様な姿が滑稽に見えて笑えたのだった。
智香も同じように感じてはいたが、惨敗した優奈を笑うのは可哀そうだと思い、笑う麻衣や息を切らせている優奈を見ながら、申し訳なさそうな顔をしておろおろとしている。
遺伝子の修復を行った女の子達に、運動神経の差はそれほどない。
だが、精神的な面での得意不得意はあった。
美咲と真琴は連日外で遊ぶようなバリバリのアウトドアタイプである為、身体を動かすことは得意であった。
優奈はというと、特に得意でも苦手でもなく、至って普通である。
得意な子と普通の子、そこにはハッキリとした差があったのだった。
しかも、優奈が前に泳いだのは二十年近くも前のことである。
感覚的にも、元から現役小学生だった二人には勝てるはずもなかった。
爆笑する麻衣を尻目に、美咲は負けた二人に言う。
「あたしが勝ったから二人は罰ゲームね。何にしようかなー」
そこで息を切らせていた優奈が投げやりに言う。
「もう負けた人同士がキスでいいんじゃない?」
「おっ」
美咲は面白そうと言わんばかりに目を輝かせる。
その反応を見た真琴は焦って口を挟む。
「よくねえよっ。優奈、何自分の首絞めようとしてんだよ。美咲も興味持つな」
「えー、凄くいい案だと思ったのに」
「キスなんて、まだしたこともないんだからマジ止めろよ」
色恋には、まだ興味がない真琴であるが、ファーストキスを同性に奪われるようなことはしたくなかった。
「しょうがないなぁ。じゃあ、ケツドラで勘弁してあげよう」
優奈と真琴は美咲の指示に従って、プールサイドに上半身を乗り出して俯せになる。
すると、プール側にお尻を突き出す形となった。
並んだ二つお尻の前に美咲が立つ。
そして両手でそれぞれのお尻を叩き始める。
「どんどこ、どんどこ」
お尻をドラムに見立ててリズミカルに叩く。
その様子は傍から見ると、非常におかしな光景であった。
音が立っていることもあって、周りからの視線がそこに集まる。
麻衣と智香は、みんなの注目を集めながらお尻を叩かれているその姿を見て、参加しなくて良かったと心から思う。
叩かれている優奈は後ろからの多くの視線を感じながら耐える。
(く……なかなかの恥辱。でも、これはこれで興奮するかも)
公衆の面前でお尻を叩かれるというのは屈辱的なことであったが、叩くのも見てくるのも少女であった為、優奈はそれほど嫌には感じなかった。
何かに目覚めそうな感じを受けながら、真琴はどうだろうかと優奈は隣を見る。
そこでは全くの無の表情で叩かれている真琴が居た。
顔に生気はなく目の焦点が合ってない。
「真琴ちゃん?」
不審に思った優奈が小声で声を掛ける。
すると、真琴はハッとして顔の色を取り戻した。
「これ結構恥ずかしいな」
そう言い、優奈に向けて苦笑いを見せた。
優奈は違和感を感じるが、そこで美咲が一際強く最後の一叩きをして演奏を終える。
「ご清聴ありがとうございましたー」
終わった為、優奈と真琴の二人は身体を起こし、プールに戻る。
「いやぁ、なかなか良かったよ」
「良かった?」
「あ、いや……結構恥ずかしくて、いい感じに罰になってたってこと」
口が滑った優奈が誤魔化してそう言うと、美咲は満足そうな顔を見せる。
罰ゲームが終わり、麻衣と智香もプールサイドから中へと戻ってくる。
「酷い罰ゲームだったわね。でも……ぷ、面白かったわよ。返り討ちであんな目に遭って……」
麻衣はまだ笑いが収まっていなかった。
そんな麻衣を優奈は白けた表情で見る。
「麻衣ちゃん笑い過ぎじゃない?」
「だ、だって、面白いんだもの。ねぇ、今どんな気持ちなの? 返り討ちに遭った気分は」
麻衣は笑いを堪えながら、まるで煽るように訊いてくる。
「……お前もケツ太鼓にしてやろうかっ」
優奈は麻衣に向かって襲い掛かる。
「きゃー」
麻衣は笑顔で逃げ、追いかけっこが始まる。
このような感じで、女の子達はプールの時間を楽しく過ごした。
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