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第四章
56話 ランクアップ試験2
しおりを挟む 作戦会議を終えた凛達は、現地へと移動する。
フェルシア近郊の山岳地帯。
剥き出しの大地が広がる、その山岳は、街から近いこともあって、あまり強いモンスターは生息しておらず、新人冒険者達の狩場となっていた。
到着した凛達が試験官と共に奥へと進むと、すぐに討伐対象を発見する。
ジャイアント・アイアンタートルは、亀の形をしたモンスターであるが、その名の通り、非常に大きく、三階建ての建物を越えるくらいの大きさがあった。
全身が金属のように光沢を帯びており、無機質のような印象を感じさせられる。
何かをしている訳でもなく、一匹で、ただじっとしている。
「周りに他のモンスターはいないわね。仕掛けるから、みんなは手筈通りに頼むわ」
「だから仕切るなと……チッ」
口答えしようとした青年だが、諦めるように舌打ちして口を噤む。
まだリーダーは決まっていなかったが、もう戦う寸前であるので、試験の為に青年は折れたのだった。
結果的に押し勝ってリーダーとなったガーネットが、戦闘開始の合図を出す。
「いくわよ」
ガーネットが杖を翳すと、大きな火球がいくつも宙に発生した。
それをジャイアント・アイアンタートルに向けて放つ。
いくつもの火球を浴びたジャイアント・アイアンタートルは、悲鳴のような咆哮を上げて、暴れ出した。
そこで透かさず凛とラピスが、ジャイアント・アイアンタートルの足元を、それぞれ土や氷で固めて動きを封じる。
両足を封じられて動けなくなったジャイアント・アイアンタートルだが、代わりに尻尾で地面の石飛ばして、反撃して来た。
ガーネット達の方へと飛んでくる石を、青年が大剣で叩き落とす。
他の受験生の人達も、それぞれ援護や支援を始めた。
皆一丸となって、それぞれの役割を熟しながら、ジャイアント・アイアンタートルと戦う。
中でも目立つのは、主力として戦っているガーネット。
魔女族の特性を最大限に生かして、凄まじい火力で畳みかけている。
ガーネットは純血の魔女族である為、純粋な魔法の力はラピス以上であった。
ガーネット達から凄まじい弾幕を浴びせられ、命の危機を感じたジャイアント・アイアンタートルは抵抗を激しくする。
尻尾が地面を抉って、大量の砂や石が飛ばされた。
量があまりにも多い為、青年達だけでは防ぎきれず、小石がガーネットに当たる。
「うっ」
攻撃を受けたことで、発動していた魔法がキャンセルさせられてしまう。
「ちょっと! ちゃんと守ってよ! あんたらがしっかりやってくれなきゃ、攻撃できないじゃないの」
「あれだけの量を全部防ぐことなんて、できやしねえよ。ちょっとぐらい我慢しやがれ」
「集中しなきゃできないんだってば!」
言い合いをしているうちに、また大量の砂と石が飛んでくる。
「あぁもうっ」
飛び出した凛が地面に手を翳すと、地面が盛り上がって壁ができる。
その壁によって、飛んできた砂と石が防がれた。
まだ続けて飛んでくるので、みんな壁の後ろに避難する。
「前、戦った奴よりも、攻撃が激しいな。場所が悪かったのか、それとも強い個体なのか」
「こんなんじゃ攻撃できないわ。どうにか収まるまで待つしかないわね」
そこで、試験官が凛とラピスに訊く。
「拘束は、まだ持つか?」
「全然余裕ですよ」
「ほう、凄いな。先程から足元を見ていたが、あれだけ暴れてもビクともしていない。そっちの魔女族の子も流石だが、君は魔女族でもないのに、相当魔法の能力が高いようだ」
「ふふ、魔法には自信がありますから」
地味な担当であったが、試験官はちゃんと見ていた。
自分を差し置き、二人が好評価を受けたのを見て、ガーネットはムッとする。
「このまま待ってても、埒が明かないわ。畳みかけて倒すから、少しの間、私を守りなさい」
ガーネットはそう言うと、壁の裏から飛び出した。
青年達も慌ててその後を追って、飛び出す。
モンスターに姿を見せたガーネットは、すぐさま杖を掲げ、魔法を唱える。
「食らいなさい! ファイアトルネード!」
すると、ジャイアント・アイアンタートルの足元から、その身体全体を包むように巨大な炎の竜巻が発生した。
激しい炎により、後ろ足を拘束していた氷が解けるが、ラピスは即座に、凛と同じように土による拘束に切り替える。
青年達に守られながら、ガーネットはファイアトルネードの火力を強めて行く。
炎に巻かれながらもジャイアント・アイアンタートルは激しく抵抗するが、その凄まじい炎によって、目に見えて弱ってくる。
「よし! いけそうだわ」
そのまま一気に倒しきろうとしたその時、空から、もう一匹のモンスターが舞い降りてくる。
それは小型の飛竜、ワイバーンであった。
「ワイバーン!? こんな時に、そんなっ」
ワイバーンは急降下を始め、今攻撃に専念して一番隙だらけなガーネットに向かって、一直線に飛んで来た。
青年達はジャイアント・アイアンタートルだけで手一杯だったので、即座に対応することは出来ない。
「ガーネちゃん!」
試験官や凛が動こうとしたが、一早く先に動いたのはラピスだった。
ガーネットに迫ろうとしたその時、ワイバーンの身体が太い氷柱に貫かれる。
心臓を突かれたワイバーンは、力尽きるように地面へと落下した。
呆気にとられるガーネットだが、すぐに戦闘中だったことを思い出して、目の前の敵に専念する。
「くたばりなさい!」
力を込めて魔法を強めると、炎に巻かれ続けたジャイアント・アイアンタートルは、
とうとう断末魔を上げて絶命した。
討伐が完了し、みんなはその場で一息つく。
「討伐おめでとう。最後は危なかったが、怪我人も出さず、よく乗り切った。特に、そっちの魔女族の君。ワイバーンを一撃とは恐れ入った。裏方仕事の方も完璧で、文句の付け所がない」
「きょ、恐縮です……」
皆の前で試験官に絶賛され、ラピスは恥ずかしそうにする。
「さ、モンスターが出てこないうちに帰ろう。街に戻るまでが試験だから、最後まで気は抜かないように」
試験官が道を戻り始めると、受験生の人達は後に続く。
凛とラピスも続こうとした時、ガーネットが振り向いて言う。
「ラピス、あんた。いつの間にあんな出来るようになったのよ?」
「凛さんが教えてくれたの。凛さん凄いでしょ?」
「本当に? 俄かに信じられないんだけど」
「本当だよ。他にも色々出来るようになったんだ」
「どうでもいいわ。でも、一つ言っておく。あれぐらい、私でもできるんだからっ」
ガーネットは捨て台詞のように言い放って、試験官達の後を追って走って行った。
そして残される凛とラピス。
「見下してる感が半端ないわね。故郷では、あんな子達に虐められてたの?」
「とんでもない! ガーネちゃんは寧ろ助けてくれた方です。ちょっと負けず嫌いで、プライドが高いから、勘違いされやすいですけど、いい子ですよ」
周りが陰険な嫌がらせをしてくる中、卑怯なことが嫌いなガーネットは、そんなことには参加せず、その場に居合わせた時は咎めてくれたりしていた。
進んで守ったり、仲良くしたりすることはなかったが、それだけでもラピスにとっては救いだったのだ。
「ツンデレ? 可愛いじゃない」
「はい。でも何で村の外に……」
魔女族はよっぽどの理由がない限り、村から出たりすることはない。
ラピスのように、村から出て冒険者として活動するのは、本来異常なことなので、ラピスは自分が出た後に何かあったのではないかと心配する。
「訳ありなのかしら? 困ってるなら、助けてあげたいわね。あの子、結構可愛いし、ハーレム入り大歓迎よ」
「それはちょっと、止めてあげてください……」
フェルシア近郊の山岳地帯。
剥き出しの大地が広がる、その山岳は、街から近いこともあって、あまり強いモンスターは生息しておらず、新人冒険者達の狩場となっていた。
到着した凛達が試験官と共に奥へと進むと、すぐに討伐対象を発見する。
ジャイアント・アイアンタートルは、亀の形をしたモンスターであるが、その名の通り、非常に大きく、三階建ての建物を越えるくらいの大きさがあった。
全身が金属のように光沢を帯びており、無機質のような印象を感じさせられる。
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「周りに他のモンスターはいないわね。仕掛けるから、みんなは手筈通りに頼むわ」
「だから仕切るなと……チッ」
口答えしようとした青年だが、諦めるように舌打ちして口を噤む。
まだリーダーは決まっていなかったが、もう戦う寸前であるので、試験の為に青年は折れたのだった。
結果的に押し勝ってリーダーとなったガーネットが、戦闘開始の合図を出す。
「いくわよ」
ガーネットが杖を翳すと、大きな火球がいくつも宙に発生した。
それをジャイアント・アイアンタートルに向けて放つ。
いくつもの火球を浴びたジャイアント・アイアンタートルは、悲鳴のような咆哮を上げて、暴れ出した。
そこで透かさず凛とラピスが、ジャイアント・アイアンタートルの足元を、それぞれ土や氷で固めて動きを封じる。
両足を封じられて動けなくなったジャイアント・アイアンタートルだが、代わりに尻尾で地面の石飛ばして、反撃して来た。
ガーネット達の方へと飛んでくる石を、青年が大剣で叩き落とす。
他の受験生の人達も、それぞれ援護や支援を始めた。
皆一丸となって、それぞれの役割を熟しながら、ジャイアント・アイアンタートルと戦う。
中でも目立つのは、主力として戦っているガーネット。
魔女族の特性を最大限に生かして、凄まじい火力で畳みかけている。
ガーネットは純血の魔女族である為、純粋な魔法の力はラピス以上であった。
ガーネット達から凄まじい弾幕を浴びせられ、命の危機を感じたジャイアント・アイアンタートルは抵抗を激しくする。
尻尾が地面を抉って、大量の砂や石が飛ばされた。
量があまりにも多い為、青年達だけでは防ぎきれず、小石がガーネットに当たる。
「うっ」
攻撃を受けたことで、発動していた魔法がキャンセルさせられてしまう。
「ちょっと! ちゃんと守ってよ! あんたらがしっかりやってくれなきゃ、攻撃できないじゃないの」
「あれだけの量を全部防ぐことなんて、できやしねえよ。ちょっとぐらい我慢しやがれ」
「集中しなきゃできないんだってば!」
言い合いをしているうちに、また大量の砂と石が飛んでくる。
「あぁもうっ」
飛び出した凛が地面に手を翳すと、地面が盛り上がって壁ができる。
その壁によって、飛んできた砂と石が防がれた。
まだ続けて飛んでくるので、みんな壁の後ろに避難する。
「前、戦った奴よりも、攻撃が激しいな。場所が悪かったのか、それとも強い個体なのか」
「こんなんじゃ攻撃できないわ。どうにか収まるまで待つしかないわね」
そこで、試験官が凛とラピスに訊く。
「拘束は、まだ持つか?」
「全然余裕ですよ」
「ほう、凄いな。先程から足元を見ていたが、あれだけ暴れてもビクともしていない。そっちの魔女族の子も流石だが、君は魔女族でもないのに、相当魔法の能力が高いようだ」
「ふふ、魔法には自信がありますから」
地味な担当であったが、試験官はちゃんと見ていた。
自分を差し置き、二人が好評価を受けたのを見て、ガーネットはムッとする。
「このまま待ってても、埒が明かないわ。畳みかけて倒すから、少しの間、私を守りなさい」
ガーネットはそう言うと、壁の裏から飛び出した。
青年達も慌ててその後を追って、飛び出す。
モンスターに姿を見せたガーネットは、すぐさま杖を掲げ、魔法を唱える。
「食らいなさい! ファイアトルネード!」
すると、ジャイアント・アイアンタートルの足元から、その身体全体を包むように巨大な炎の竜巻が発生した。
激しい炎により、後ろ足を拘束していた氷が解けるが、ラピスは即座に、凛と同じように土による拘束に切り替える。
青年達に守られながら、ガーネットはファイアトルネードの火力を強めて行く。
炎に巻かれながらもジャイアント・アイアンタートルは激しく抵抗するが、その凄まじい炎によって、目に見えて弱ってくる。
「よし! いけそうだわ」
そのまま一気に倒しきろうとしたその時、空から、もう一匹のモンスターが舞い降りてくる。
それは小型の飛竜、ワイバーンであった。
「ワイバーン!? こんな時に、そんなっ」
ワイバーンは急降下を始め、今攻撃に専念して一番隙だらけなガーネットに向かって、一直線に飛んで来た。
青年達はジャイアント・アイアンタートルだけで手一杯だったので、即座に対応することは出来ない。
「ガーネちゃん!」
試験官や凛が動こうとしたが、一早く先に動いたのはラピスだった。
ガーネットに迫ろうとしたその時、ワイバーンの身体が太い氷柱に貫かれる。
心臓を突かれたワイバーンは、力尽きるように地面へと落下した。
呆気にとられるガーネットだが、すぐに戦闘中だったことを思い出して、目の前の敵に専念する。
「くたばりなさい!」
力を込めて魔法を強めると、炎に巻かれ続けたジャイアント・アイアンタートルは、
とうとう断末魔を上げて絶命した。
討伐が完了し、みんなはその場で一息つく。
「討伐おめでとう。最後は危なかったが、怪我人も出さず、よく乗り切った。特に、そっちの魔女族の君。ワイバーンを一撃とは恐れ入った。裏方仕事の方も完璧で、文句の付け所がない」
「きょ、恐縮です……」
皆の前で試験官に絶賛され、ラピスは恥ずかしそうにする。
「さ、モンスターが出てこないうちに帰ろう。街に戻るまでが試験だから、最後まで気は抜かないように」
試験官が道を戻り始めると、受験生の人達は後に続く。
凛とラピスも続こうとした時、ガーネットが振り向いて言う。
「ラピス、あんた。いつの間にあんな出来るようになったのよ?」
「凛さんが教えてくれたの。凛さん凄いでしょ?」
「本当に? 俄かに信じられないんだけど」
「本当だよ。他にも色々出来るようになったんだ」
「どうでもいいわ。でも、一つ言っておく。あれぐらい、私でもできるんだからっ」
ガーネットは捨て台詞のように言い放って、試験官達の後を追って走って行った。
そして残される凛とラピス。
「見下してる感が半端ないわね。故郷では、あんな子達に虐められてたの?」
「とんでもない! ガーネちゃんは寧ろ助けてくれた方です。ちょっと負けず嫌いで、プライドが高いから、勘違いされやすいですけど、いい子ですよ」
周りが陰険な嫌がらせをしてくる中、卑怯なことが嫌いなガーネットは、そんなことには参加せず、その場に居合わせた時は咎めてくれたりしていた。
進んで守ったり、仲良くしたりすることはなかったが、それだけでもラピスにとっては救いだったのだ。
「ツンデレ? 可愛いじゃない」
「はい。でも何で村の外に……」
魔女族はよっぽどの理由がない限り、村から出たりすることはない。
ラピスのように、村から出て冒険者として活動するのは、本来異常なことなので、ラピスは自分が出た後に何かあったのではないかと心配する。
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