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第二章
28話 夜逃げ:工業都市ビフレフト
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部屋の吹き抜け二階では、ナイフの男とシーナが飛び回るようにして、ぶつかり合っていた。
二人とも人間離れした脚力で、縦横無尽に部屋内を駆け回る。
「ここまで大胆な行動を取るのは、貴方らしくありませんね。何が、そうさせた?」
「別に。凛がやるって言うから、従ってるだけ」
「なるほど、新しい主人という訳ですか。ですが、その判断は間違いです」
打ち合いをしていたナイフの男は、僅かな隙を突き、シーナの腹に向けてナイフを突き刺す。
「!」
シーナは咄嗟に飛び退いて距離を取るが、脇腹に出来た切り傷からは、血が滴り落ちていた。
「勝ち目のない戦闘は避けるようにと教えましたよね?」
「……」
横腹の傷だけでなく、シーナは全身満身創痍だった。
「シーナ。貴方は今までの中で一番優秀な弟子でした。ですが、こんなことになったのは、精神の調整が不十分だったからでしょうね。残念な限りです。私のミスでもあるので、せめて楽に殺してあげましょう」
ナイフの男はそう言いながら、シーナへと足を進める。
その時、下から凛の声が響く。
「シーナちゃん、これ使って!」
下から飛んできたものをシーナは掴み取る。
それは一本の小刀であった。
それを見たナイフの男は、何かあると感じ、すぐさま、とどめを刺そうと飛び掛かった。
シーナは素早く小刀を抜き、ナイフを受け止める。
互いに力を込めて押し合うが、男のナイフの方にヒビが入り始める。
「!」
不味いと思ったナイフの男が押し退けようとした瞬間、そのナイフが折れる。
突き破った小刀が、ナイフの男の身体へと迫るが、瞬時に後ろに飛び退き、ダメージを最小限に留めた。
ところが、薄く切られた腹の傷からは、血が滝のように流れ出始めた。
ナイフの男は自分の傷を触って確かめる。
「……これはまさか……アーティ、ファクト?」
言葉が終わる前に、ナイフの男は大量出血によって倒れた。
遅れて、凛が二階へと上がって来る。
その姿は服がビリビリとなった半裸状態だった。
「シーナちゃん、無事?」
「うん」
シーナは頷くが、その身体は傷だらけの満身創痍。
「傷だらけじゃない! 治療しないとっ」
凛が治療をしようとするが、その時、焼けた屋根の一部が崩落して、地面に落ちてきた。
二階の空中廊下に当たり、二人の足場がぐらつく。
「ここに留まるのは危険ね。急いで外に出ましょ」
いつ倒壊してもおかしくない状態だったので、凛は治療を後回しにして、シーナと共に廃工場から脱出をした。
玖音と合流し、三人は離れた高台から、廃工場を眺める。
廃工場は轟々と燃えており、深夜ではあったが、兵士や消防士、野次馬の人達で騒がしくなっていた。
「また、ド派手にやったわね……」
「うむ! すっきりしたのじゃ」
好きに暴れ回ることができた玖音は、非常に晴れやかな顔をしていた。
「うむ! じゃなくて、やり過ぎよ。大騒ぎじゃないの。バレたら、普通に極刑ものよ?」
「そしたら今度は国が相手じゃ」
「この、脳筋が……」
思っていた以上の大騒ぎとなってしまい、凛は頭を抱える。
悪人相手とはいえ、凛達がやったことは、大量殺人のうえに放火である。
これだけの騒ぎとなれば、調査も厳しくされるだろう。
「……夜逃げしましょうか」
どの道、シーナを手元に置く以上、暗殺稼業をしていたこの街には、あまり居続けない方がいいので、凛は街を離れることに決めた。
工場に戻って来ると、ルイスとフラムは寝ずに待っていたでの、取り急ぎ、荷造りとお店の引き継ぎを行う。
「迷惑かけて悪いわね」
「とんでもない。凛さんには助けられました。こうなってしまったのは残念ですが、これからは凛さんの助力なしで、やっていけるよう頑張ります」
相談役も店長の仕事も、何もかも放り出す形となってしまったが、ルイスは嫌な顔一つせず、協力的な態度で、夜逃げの手伝いをしてくれた。
ロバートの妨害がなくなり、会社も軌道に乗っているので、凛がいなくなっても、そう簡単に経営が傾くことはないだろう。
「また旅して回るつもりだから、ほとぼりが冷めた頃に顔見せるわ」
「なぁ。その旅、あたしもついて行きたい」
凛の旅に、フラムが同行を申し出てきた。
「えっ、来てくれるなら、私は嬉しいけど……」
凛は様子を窺うようにルイスを見る。
「ご迷惑でなければ、私からもお願いします。凛さんと一緒なら、ここで学ぶより、良い修行になりますから」
凛には並外れたクラフトの腕前や経営の手腕があった為、同行することでフラムの成長に繋がると、ルイスは判断した。
保護者の許可があるなら、凛が憚ることは何もない。
「分かりました。謹んで、娘さんをお預かりします」
凛が引き受けると、フラムはガッツポーズをする。
冷静を装う凛もまた、心の中でガッツポーズをしていた。
その後、引き継ぎと支度が終わると、凛達はルイスと簡単に別れを済ませ、工業都市ビフレフトを発った。
二人とも人間離れした脚力で、縦横無尽に部屋内を駆け回る。
「ここまで大胆な行動を取るのは、貴方らしくありませんね。何が、そうさせた?」
「別に。凛がやるって言うから、従ってるだけ」
「なるほど、新しい主人という訳ですか。ですが、その判断は間違いです」
打ち合いをしていたナイフの男は、僅かな隙を突き、シーナの腹に向けてナイフを突き刺す。
「!」
シーナは咄嗟に飛び退いて距離を取るが、脇腹に出来た切り傷からは、血が滴り落ちていた。
「勝ち目のない戦闘は避けるようにと教えましたよね?」
「……」
横腹の傷だけでなく、シーナは全身満身創痍だった。
「シーナ。貴方は今までの中で一番優秀な弟子でした。ですが、こんなことになったのは、精神の調整が不十分だったからでしょうね。残念な限りです。私のミスでもあるので、せめて楽に殺してあげましょう」
ナイフの男はそう言いながら、シーナへと足を進める。
その時、下から凛の声が響く。
「シーナちゃん、これ使って!」
下から飛んできたものをシーナは掴み取る。
それは一本の小刀であった。
それを見たナイフの男は、何かあると感じ、すぐさま、とどめを刺そうと飛び掛かった。
シーナは素早く小刀を抜き、ナイフを受け止める。
互いに力を込めて押し合うが、男のナイフの方にヒビが入り始める。
「!」
不味いと思ったナイフの男が押し退けようとした瞬間、そのナイフが折れる。
突き破った小刀が、ナイフの男の身体へと迫るが、瞬時に後ろに飛び退き、ダメージを最小限に留めた。
ところが、薄く切られた腹の傷からは、血が滝のように流れ出始めた。
ナイフの男は自分の傷を触って確かめる。
「……これはまさか……アーティ、ファクト?」
言葉が終わる前に、ナイフの男は大量出血によって倒れた。
遅れて、凛が二階へと上がって来る。
その姿は服がビリビリとなった半裸状態だった。
「シーナちゃん、無事?」
「うん」
シーナは頷くが、その身体は傷だらけの満身創痍。
「傷だらけじゃない! 治療しないとっ」
凛が治療をしようとするが、その時、焼けた屋根の一部が崩落して、地面に落ちてきた。
二階の空中廊下に当たり、二人の足場がぐらつく。
「ここに留まるのは危険ね。急いで外に出ましょ」
いつ倒壊してもおかしくない状態だったので、凛は治療を後回しにして、シーナと共に廃工場から脱出をした。
玖音と合流し、三人は離れた高台から、廃工場を眺める。
廃工場は轟々と燃えており、深夜ではあったが、兵士や消防士、野次馬の人達で騒がしくなっていた。
「また、ド派手にやったわね……」
「うむ! すっきりしたのじゃ」
好きに暴れ回ることができた玖音は、非常に晴れやかな顔をしていた。
「うむ! じゃなくて、やり過ぎよ。大騒ぎじゃないの。バレたら、普通に極刑ものよ?」
「そしたら今度は国が相手じゃ」
「この、脳筋が……」
思っていた以上の大騒ぎとなってしまい、凛は頭を抱える。
悪人相手とはいえ、凛達がやったことは、大量殺人のうえに放火である。
これだけの騒ぎとなれば、調査も厳しくされるだろう。
「……夜逃げしましょうか」
どの道、シーナを手元に置く以上、暗殺稼業をしていたこの街には、あまり居続けない方がいいので、凛は街を離れることに決めた。
工場に戻って来ると、ルイスとフラムは寝ずに待っていたでの、取り急ぎ、荷造りとお店の引き継ぎを行う。
「迷惑かけて悪いわね」
「とんでもない。凛さんには助けられました。こうなってしまったのは残念ですが、これからは凛さんの助力なしで、やっていけるよう頑張ります」
相談役も店長の仕事も、何もかも放り出す形となってしまったが、ルイスは嫌な顔一つせず、協力的な態度で、夜逃げの手伝いをしてくれた。
ロバートの妨害がなくなり、会社も軌道に乗っているので、凛がいなくなっても、そう簡単に経営が傾くことはないだろう。
「また旅して回るつもりだから、ほとぼりが冷めた頃に顔見せるわ」
「なぁ。その旅、あたしもついて行きたい」
凛の旅に、フラムが同行を申し出てきた。
「えっ、来てくれるなら、私は嬉しいけど……」
凛は様子を窺うようにルイスを見る。
「ご迷惑でなければ、私からもお願いします。凛さんと一緒なら、ここで学ぶより、良い修行になりますから」
凛には並外れたクラフトの腕前や経営の手腕があった為、同行することでフラムの成長に繋がると、ルイスは判断した。
保護者の許可があるなら、凛が憚ることは何もない。
「分かりました。謹んで、娘さんをお預かりします」
凛が引き受けると、フラムはガッツポーズをする。
冷静を装う凛もまた、心の中でガッツポーズをしていた。
その後、引き継ぎと支度が終わると、凛達はルイスと簡単に別れを済ませ、工業都市ビフレフトを発った。
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