20 / 63
第二章
20話 客
しおりを挟む「……になります。はい、お預かりしまーす」
凛はカウンターで、買い物客への会計処理を行っていた。
店を開店してから数日が経過し、少しずつだが、客足は増えてきている。
「貴方、接客丁寧ね。気分がいいわ」
「そうですか? ありがとうございますー」
凛は普通に接客していただけだったが、こちらの世界がいい加減なのか、元居たところが厳し過ぎたのか、接客が非常に丁寧であると、評判が良かった。
会計を済ませて店から出る女性客を、凛は気持ちよく笑顔で見送る。
「感謝してくれる人多くて、嬉しくなっちゃうわね。前の職場とは全然違うわ」
この世界に来る前まで働いていた居酒屋では、理不尽なクレーマーやセクハラ客が日常茶飯事だった為、ここでの接客が天国のように思えていた。
気分良くしていた凛が、ふと外に視線を向ける。
「おや?」
店の外では、一人の少女がガラス越しにアクセサリーコーナーを眺めていた。
少女は小柄で大人しそうな感じで、凛の好みド真ん中の容姿だった。
その子に気付いた凛は、思わず立ち上がる。
「ついに食いついた!」
カウンターから飛び出した凛は、ダッシュで店の外に出て、その女の子へと話しかける。
「うちのアクセサリーに興味あるの? 良かったら中に入って……あ、ちょっとっ」
話しかけられた少女は、凛の言葉が終わらないうちに、一目散に逃げて行った。
あっという間に逃げられてしまい、凛は肩を落として店内へと戻る。
「そんな勢いで行けば、逃げられるに決まってるのじゃ。主に追いかけられるのは、普通に恐怖じゃぞ」
玖音は呆れたように指摘した。
「がっつき過ぎちゃったわね……。初めて餌に掛かった子だから、興奮しちゃったわ。反省」
取り逃してしまった悔しさと無念を噛み締めながら、凛は軽率な行動だったと深く反省する。
しかし、凛から逃げた少女は、アクセサリーには興味あるようで、その後もちょくちょく店の前に現れた。
今日もやってきた少女を、凛はカウンターからチラ見する。
少女が来るのは、もう何度目かであるが、声を掛けると、すぐに逃げてしまうので、凛は話しかけたくても話しかけられない歯痒い思いをしていた。
「けど、それも今日まで。とっておきの秘策で、今日こそはあの子にお近づきになってやるんだから」
凛はただ指を咥えて見ているだけではなかった。
少女と何とか交流できないかと、その子が来る度に、注意深く観察を続け、対策を考えていたのだ。
そして考え着いたのが、物で釣ることであった。
観察の結果、少女の視線から、大体の好みを把握できたので、興味を惹けるようなデザインのアクセサリーを用意して、それで会話に持ち込もうという算段だった。
既にアクセサリーは用意してある。
後は少女に仕掛けるだけであった。
「標的は商品に夢中、他の客はなし。絶好のチャンスね。さぁ、いざ行かん」
凛は用意したアクセサリーの入った箱を持ち、意を決してカウンターから出た。
直接外へは行かず、まずは店内からアクセサリーコーナーへ行く。
「新作入荷しましたー」
そして外の女の子とは目を合わさず、陳列を始めた。
その際、新作のアクセサリーの一部を、外からでも見えるようにしながら、ゆっくりと並べる。
すると、外の女の子の視線が、そのアクセサリーへと向かう。
そこでそれを、普通に並べるのではなく、女の子からぎりぎり見えない位置に陳列した。
同じようにいくつか並べるが、全て見えそうで見えない位置にする。
そして陳列を終えた凛は、一旦そこから離れてバックヤードへと引っ込んだ。
そこから身を隠して様子を窺っていると、少しして扉が開いて、その少女が中へと入って来た。
少女は新作が気になって仕方がないようで、周りを警戒することもなく、一直線にアクセサリーコーナーへと足を運んだ。
そこで新作のアクセサリーを見始めたので、凛はその隙に忍び足で、その子へと近づく。
扉を背にして、すぐには逃げられない位置に立ってから、声を掛けた。
「こんにちはー。うちの新作はいかがですかー? こんなのもありますよ」
透かさず敢えて残しておいた新作アクセサリーのネックレスを見せて、興味を惹かせる。
少女は驚いた顔をするが、やはり興味があるようで、逃げるよりも前にそのネックレスに視線を向けた。
「……可愛い」
「おまかわ」
「?」
「失礼。こちら一点物となっておりまして、御所望でしたら、早めに購入なさることをお勧めします。現在、突発特別セールで格安となっておりますので、買うなら今がチャンスでございますよ」
女の子が逃げないように、凛は積極的にセールストークを行う。
販売しているアクセサリーは非常に精巧な出来であるが、少女向けとのことで、どれも子供のお小遣いで買えるくらいに安い価格に設定されていた。
この節句レスは餌である為、凛は更にそこから値下げして、タダも同然の価格にしている。
だが、少女の顔は思わしくない。
「……欲しいけど買えない」
「あ、もしかして、お金持ってないの? んー、じゃあ、特別の特別で、お姉さんがプレゼントしちゃおうかな」
凛はもう贈呈してしまおうとしようとしたところ、少女は首を横に振る。
「違う。お金はあるけど、つけれない。仕事してると、多分すぐに壊れるから」
「体力系の仕事? あー、激しい運動すると、チェーン千切れたりすることもあるかしら」
少女の表情は変わらないが、凛には少し寂しそうに映った。
「でも、安心して。うちは魔道具専門店だから、保護機能を付与できるの。激しい運動をしても、取れたり壊れたりしないような、頑強な効果をつけてあげるわ」
すると、少女は表情の変化は乏しいものの、薄っすらと目を輝かせる。
「どう?」
改めて凛が尋ねると、少女は陳列してあるアクセサリーの方へと目を移して、その中からヘアピンを手に取った。
「これにつけて欲しい」
それは控え目な花のワンポイントが付いたシンプルながらも可愛らしいヘアピンだった。
注文を受けた凛は笑顔を見せる。
「分かったわ。がっちがちのをつけてあげる」
凛はヘアピンを受け取り、奥の工房へと一旦引っ込む。
凛はカウンターで、買い物客への会計処理を行っていた。
店を開店してから数日が経過し、少しずつだが、客足は増えてきている。
「貴方、接客丁寧ね。気分がいいわ」
「そうですか? ありがとうございますー」
凛は普通に接客していただけだったが、こちらの世界がいい加減なのか、元居たところが厳し過ぎたのか、接客が非常に丁寧であると、評判が良かった。
会計を済ませて店から出る女性客を、凛は気持ちよく笑顔で見送る。
「感謝してくれる人多くて、嬉しくなっちゃうわね。前の職場とは全然違うわ」
この世界に来る前まで働いていた居酒屋では、理不尽なクレーマーやセクハラ客が日常茶飯事だった為、ここでの接客が天国のように思えていた。
気分良くしていた凛が、ふと外に視線を向ける。
「おや?」
店の外では、一人の少女がガラス越しにアクセサリーコーナーを眺めていた。
少女は小柄で大人しそうな感じで、凛の好みド真ん中の容姿だった。
その子に気付いた凛は、思わず立ち上がる。
「ついに食いついた!」
カウンターから飛び出した凛は、ダッシュで店の外に出て、その女の子へと話しかける。
「うちのアクセサリーに興味あるの? 良かったら中に入って……あ、ちょっとっ」
話しかけられた少女は、凛の言葉が終わらないうちに、一目散に逃げて行った。
あっという間に逃げられてしまい、凛は肩を落として店内へと戻る。
「そんな勢いで行けば、逃げられるに決まってるのじゃ。主に追いかけられるのは、普通に恐怖じゃぞ」
玖音は呆れたように指摘した。
「がっつき過ぎちゃったわね……。初めて餌に掛かった子だから、興奮しちゃったわ。反省」
取り逃してしまった悔しさと無念を噛み締めながら、凛は軽率な行動だったと深く反省する。
しかし、凛から逃げた少女は、アクセサリーには興味あるようで、その後もちょくちょく店の前に現れた。
今日もやってきた少女を、凛はカウンターからチラ見する。
少女が来るのは、もう何度目かであるが、声を掛けると、すぐに逃げてしまうので、凛は話しかけたくても話しかけられない歯痒い思いをしていた。
「けど、それも今日まで。とっておきの秘策で、今日こそはあの子にお近づきになってやるんだから」
凛はただ指を咥えて見ているだけではなかった。
少女と何とか交流できないかと、その子が来る度に、注意深く観察を続け、対策を考えていたのだ。
そして考え着いたのが、物で釣ることであった。
観察の結果、少女の視線から、大体の好みを把握できたので、興味を惹けるようなデザインのアクセサリーを用意して、それで会話に持ち込もうという算段だった。
既にアクセサリーは用意してある。
後は少女に仕掛けるだけであった。
「標的は商品に夢中、他の客はなし。絶好のチャンスね。さぁ、いざ行かん」
凛は用意したアクセサリーの入った箱を持ち、意を決してカウンターから出た。
直接外へは行かず、まずは店内からアクセサリーコーナーへ行く。
「新作入荷しましたー」
そして外の女の子とは目を合わさず、陳列を始めた。
その際、新作のアクセサリーの一部を、外からでも見えるようにしながら、ゆっくりと並べる。
すると、外の女の子の視線が、そのアクセサリーへと向かう。
そこでそれを、普通に並べるのではなく、女の子からぎりぎり見えない位置に陳列した。
同じようにいくつか並べるが、全て見えそうで見えない位置にする。
そして陳列を終えた凛は、一旦そこから離れてバックヤードへと引っ込んだ。
そこから身を隠して様子を窺っていると、少しして扉が開いて、その少女が中へと入って来た。
少女は新作が気になって仕方がないようで、周りを警戒することもなく、一直線にアクセサリーコーナーへと足を運んだ。
そこで新作のアクセサリーを見始めたので、凛はその隙に忍び足で、その子へと近づく。
扉を背にして、すぐには逃げられない位置に立ってから、声を掛けた。
「こんにちはー。うちの新作はいかがですかー? こんなのもありますよ」
透かさず敢えて残しておいた新作アクセサリーのネックレスを見せて、興味を惹かせる。
少女は驚いた顔をするが、やはり興味があるようで、逃げるよりも前にそのネックレスに視線を向けた。
「……可愛い」
「おまかわ」
「?」
「失礼。こちら一点物となっておりまして、御所望でしたら、早めに購入なさることをお勧めします。現在、突発特別セールで格安となっておりますので、買うなら今がチャンスでございますよ」
女の子が逃げないように、凛は積極的にセールストークを行う。
販売しているアクセサリーは非常に精巧な出来であるが、少女向けとのことで、どれも子供のお小遣いで買えるくらいに安い価格に設定されていた。
この節句レスは餌である為、凛は更にそこから値下げして、タダも同然の価格にしている。
だが、少女の顔は思わしくない。
「……欲しいけど買えない」
「あ、もしかして、お金持ってないの? んー、じゃあ、特別の特別で、お姉さんがプレゼントしちゃおうかな」
凛はもう贈呈してしまおうとしようとしたところ、少女は首を横に振る。
「違う。お金はあるけど、つけれない。仕事してると、多分すぐに壊れるから」
「体力系の仕事? あー、激しい運動すると、チェーン千切れたりすることもあるかしら」
少女の表情は変わらないが、凛には少し寂しそうに映った。
「でも、安心して。うちは魔道具専門店だから、保護機能を付与できるの。激しい運動をしても、取れたり壊れたりしないような、頑強な効果をつけてあげるわ」
すると、少女は表情の変化は乏しいものの、薄っすらと目を輝かせる。
「どう?」
改めて凛が尋ねると、少女は陳列してあるアクセサリーの方へと目を移して、その中からヘアピンを手に取った。
「これにつけて欲しい」
それは控え目な花のワンポイントが付いたシンプルながらも可愛らしいヘアピンだった。
注文を受けた凛は笑顔を見せる。
「分かったわ。がっちがちのをつけてあげる」
凛はヘアピンを受け取り、奥の工房へと一旦引っ込む。
11
お気に入りに追加
94
あなたにおすすめの小説

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます
neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。
松本は新しい世界で会社員となり働くこととなる。
ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。
PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる
僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。
スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。
だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。
それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。
色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。
しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。
ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。
一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。
土曜日以外は毎日投稿してます。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

貞操観念逆転世界におけるニートの日常
猫丸
恋愛
男女比1:100。
女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。
夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。
ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。
しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく……
『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』
『ないでしょw』
『ないと思うけど……え、マジ?』
これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。
貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。

男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる