7 / 63
第一章
7話 九尾の狐
しおりを挟む
村の裏手に聳え立つオキツネ山。
山は自然豊かで、辺りには立派に育った野草や果実の木が生い茂っている。
「クレアちゃんに何かあったら、ぶち殺してやるから」
クレアの救助へとやってきた凛は、怯える村長を引きずるように連れながら山道を進んでいた。
「モンスターは全然いないわね」
村の外なので、九尾の狐以外にもモンスターが出てくる危険は十分あった。
しかし、この道中、他のモンスターは一切見かけていなかった。
「ここは九尾様の縄張りですから。山からモンスターを追い払ってくれているおかげで、我々は豊富な野草や果実を得ることが出来ているのです」
強力な存在が居座ることで、他のモンスターが近づかない為、食用の植物が食い荒らされることなく、立派に育っていた。
おかげで小さな村でも飢餓に苦しむことなく、やっていけていたのだ。
「モンスターですら近づかない場所ってことじゃないの。ほんと最低。貴方達がクレアちゃんに酷い扱いしてきたことは知ってるんだからね」
「酷い扱いなどしておりません。よそ者のクレアに対しても、我々は住居を与え、食料も十分に与えておりました」
「その、よそ者ってのが……ん? ちょっと待って。クレアちゃんのお母さんって、ずっと前に亡くなったのよね? まさか生贄に?」
凛が怒りを含んだ疑いの目を向けると、村長は慌てて首を横に振る。
「滅相もない。彼女は身体を壊し、病に伏せていました。生贄は、九尾様への神聖な供物。病人を差し出すなど、失礼なことはできません」
「それはそれでクレアのお母さんに失礼だわ……。でも良かった。生贄にしたとか言われたら、本気でぶち殺してたところだわ」
凛が冗談ではなく本気で言っていることを理解し、村長は身を震わせる。
供物を神聖視していたことが幸いし、クレアの母は生贄にされることを逃れていた。
進んでいると、倒れた丸太を発見する。
「あれって、まさか」
それは凛も縛り付けられていた儀式用の丸太であった。
凛は村長を引っ張りながら、慌てて駆け寄る。
丸太は確かに儀式のもので縄もつけられていたが、そこにクレアの姿はなかった。
縄は千切られており、丸太には深い爪痕が残されている。
「そんな……間に合わなかった?」
爪痕は明らかに人間のものではなく、大型の獣が引っ掻いたような深く大きなものだった。
この辺りに他のモンスターは出ないとのことなので、その爪痕は九尾の狐のものである可能性が高かった。
「……ううん、まだ諦めないわ。だって、姿がないだけで、血の跡もついてないもの」
まだ死体を見つけた訳ではない。
血痕も見当たらないので、生きている可能性はあった。
その時、近くから悲鳴が聞こえてくる。
「きゃああああ!」
それはクレアの声だった。
「クレアちゃん!?」
凛はすぐさま、声の聞こえた方へと走り出す。
草を掻き分け、開けた場所に出ると、そこには尻餅をついているクレアと、九本の尻尾を持つ大きな狐が居た。
クレアに顔を近づけ、今にも食べてしまいそうな九尾の狐を見た凛は、そこに向かって全力で駆け出す。
「クレアちゃんから離れなさい!」
駆け込んだ勢いで、九尾の狐に跳び蹴りをかました。
「!」
凛の声に反応して振り向いた九尾の狐は、直後その顔に蹴りを受け、吹っ飛んだ。
「クレアちゃん無事!?」
「は、はい」
凛は真っ先にクレアの安否を確認する。
そこで遅れて村長が、凛の後を追って草むらから出てきた。
「あぁ! 九尾様に何てことを」
蹴り飛ばされた九尾の狐を見て、村長は顔面蒼白をなる。
凛は喚く村長をスルーして、クレアの状態を確かめている。
クレアの身体に怪我らしい怪我は見当たらず、衣服にも乱れはなかった。
怪我もしていないことが分かり、凛が安堵したその時、九尾の狐が飛び掛かって来た。
その動きは一瞬で、凛が振り返った時には、身体を挟むように大きな口が開かれ、噛みつかれようとしているところだった。
そのまま牙が迫るが、事前に身に纏っていた砂の粒子によって阻まれる。
「うわ、あっぶな……」
凛は一息つくが、その時、砂の粒子がみしりと音を立て、九尾の狐の顎が僅かに前へと動く。
「ヤバっ」
砂の鎧の耐久度が危ないことに気付いた凛は、すぐさまそこから飛び退いた。
直後、砂の鎧を打ち破られ、勢いよくその口が閉じらる。
「九尾様がお怒りだああああ!」
凛への攻撃を見た村長は、悲鳴を上げて、その場から逃げ出した。
逃げて行った村長のことは無視して、凛は九尾の狐に向かって構える。
「私はこいつと戦うから、クレアちゃんも早く逃げて」
「ごめんなさい。足が震えて、すぐには動けそうにないです」
「え、じゃあ、なるべく急いで倒しちゃうから、何処か安全そうなところに隠れてて」
「は、はい」
クレアは震える足を引きずって、近くの木の後ろへと隠れる。
山は自然豊かで、辺りには立派に育った野草や果実の木が生い茂っている。
「クレアちゃんに何かあったら、ぶち殺してやるから」
クレアの救助へとやってきた凛は、怯える村長を引きずるように連れながら山道を進んでいた。
「モンスターは全然いないわね」
村の外なので、九尾の狐以外にもモンスターが出てくる危険は十分あった。
しかし、この道中、他のモンスターは一切見かけていなかった。
「ここは九尾様の縄張りですから。山からモンスターを追い払ってくれているおかげで、我々は豊富な野草や果実を得ることが出来ているのです」
強力な存在が居座ることで、他のモンスターが近づかない為、食用の植物が食い荒らされることなく、立派に育っていた。
おかげで小さな村でも飢餓に苦しむことなく、やっていけていたのだ。
「モンスターですら近づかない場所ってことじゃないの。ほんと最低。貴方達がクレアちゃんに酷い扱いしてきたことは知ってるんだからね」
「酷い扱いなどしておりません。よそ者のクレアに対しても、我々は住居を与え、食料も十分に与えておりました」
「その、よそ者ってのが……ん? ちょっと待って。クレアちゃんのお母さんって、ずっと前に亡くなったのよね? まさか生贄に?」
凛が怒りを含んだ疑いの目を向けると、村長は慌てて首を横に振る。
「滅相もない。彼女は身体を壊し、病に伏せていました。生贄は、九尾様への神聖な供物。病人を差し出すなど、失礼なことはできません」
「それはそれでクレアのお母さんに失礼だわ……。でも良かった。生贄にしたとか言われたら、本気でぶち殺してたところだわ」
凛が冗談ではなく本気で言っていることを理解し、村長は身を震わせる。
供物を神聖視していたことが幸いし、クレアの母は生贄にされることを逃れていた。
進んでいると、倒れた丸太を発見する。
「あれって、まさか」
それは凛も縛り付けられていた儀式用の丸太であった。
凛は村長を引っ張りながら、慌てて駆け寄る。
丸太は確かに儀式のもので縄もつけられていたが、そこにクレアの姿はなかった。
縄は千切られており、丸太には深い爪痕が残されている。
「そんな……間に合わなかった?」
爪痕は明らかに人間のものではなく、大型の獣が引っ掻いたような深く大きなものだった。
この辺りに他のモンスターは出ないとのことなので、その爪痕は九尾の狐のものである可能性が高かった。
「……ううん、まだ諦めないわ。だって、姿がないだけで、血の跡もついてないもの」
まだ死体を見つけた訳ではない。
血痕も見当たらないので、生きている可能性はあった。
その時、近くから悲鳴が聞こえてくる。
「きゃああああ!」
それはクレアの声だった。
「クレアちゃん!?」
凛はすぐさま、声の聞こえた方へと走り出す。
草を掻き分け、開けた場所に出ると、そこには尻餅をついているクレアと、九本の尻尾を持つ大きな狐が居た。
クレアに顔を近づけ、今にも食べてしまいそうな九尾の狐を見た凛は、そこに向かって全力で駆け出す。
「クレアちゃんから離れなさい!」
駆け込んだ勢いで、九尾の狐に跳び蹴りをかました。
「!」
凛の声に反応して振り向いた九尾の狐は、直後その顔に蹴りを受け、吹っ飛んだ。
「クレアちゃん無事!?」
「は、はい」
凛は真っ先にクレアの安否を確認する。
そこで遅れて村長が、凛の後を追って草むらから出てきた。
「あぁ! 九尾様に何てことを」
蹴り飛ばされた九尾の狐を見て、村長は顔面蒼白をなる。
凛は喚く村長をスルーして、クレアの状態を確かめている。
クレアの身体に怪我らしい怪我は見当たらず、衣服にも乱れはなかった。
怪我もしていないことが分かり、凛が安堵したその時、九尾の狐が飛び掛かって来た。
その動きは一瞬で、凛が振り返った時には、身体を挟むように大きな口が開かれ、噛みつかれようとしているところだった。
そのまま牙が迫るが、事前に身に纏っていた砂の粒子によって阻まれる。
「うわ、あっぶな……」
凛は一息つくが、その時、砂の粒子がみしりと音を立て、九尾の狐の顎が僅かに前へと動く。
「ヤバっ」
砂の鎧の耐久度が危ないことに気付いた凛は、すぐさまそこから飛び退いた。
直後、砂の鎧を打ち破られ、勢いよくその口が閉じらる。
「九尾様がお怒りだああああ!」
凛への攻撃を見た村長は、悲鳴を上げて、その場から逃げ出した。
逃げて行った村長のことは無視して、凛は九尾の狐に向かって構える。
「私はこいつと戦うから、クレアちゃんも早く逃げて」
「ごめんなさい。足が震えて、すぐには動けそうにないです」
「え、じゃあ、なるべく急いで倒しちゃうから、何処か安全そうなところに隠れてて」
「は、はい」
クレアは震える足を引きずって、近くの木の後ろへと隠れる。
11
お気に入りに追加
95
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる