3 / 26
season 1
02
しおりを挟む◇◆◇
お酒ぶっかけられた事件から半年、お店にも慣れてきて、あの時に学んだ酔っ払いのお客さんは店長に任せよう!は、今でも健在。
そう言えば、最近まどかさん見ないなぁと思ってたら、辞めてた。
店長に告白して思いっきりフラれて辞めたとか。
新しいバイトさん雇うのかって聞いたら当分は雇わないらしい。
悦子さんいるし、私も慣れてきたから大丈夫だろうって。
まぁ、座席も少ない居酒屋だから、今のところは混んでも大丈夫なんだけど。
それに、私が来る前はこの人数で回してたし。
前に戻っただけだよって言ってた。
まどかさんがいなくなったのともう一つ変わったことがある。
それは、店長が毎回家まで送ってくれるようになった。
ここの居酒屋は、21時には閉まる。
居酒屋と言えるのか?と思うけど、住宅街にあるお店だから、遅くまで騒がしいのはダメだと店長が決めたらしい。
その代わり、朝からお店開いてるんだけどね。
朝はモーニング出してて、お昼はランチをやってる。
夜は15時から開いて、21時に終わる。
とても健全な居酒屋だ。
「梨恵ちゃん、帰るよー」
「あ、はい!皆さん、お疲れ様でした!」
「はい。お疲れ様」
みんなに挨拶して、店長の後ろを歩く。
駐車場まではそこまで遠くなくて、ゆっくり歩いてるけど、多分店長は私の歩く速さに合わせてくれてる。
「今日は暑いくらいだねー」
「そうですね」
季節は夏に近づいてる。
ずっと雨ばっかだったけど、今日は晴れてる。
梅雨特有のじめってる感じはするけど、過ごしやすい。
「…梨恵ちゃんはさ」
「はい?」
「彼氏とか、作らないの?」
「え?」
彼氏…彼氏?彼氏かぁ…考えたことなかったな。
可愛らしさのかけらもない私がモテるわけもなく。
学校では仲良くしてる子はいるけど、深い関係なわけじゃないし、男子はなんか、店長とか見てるからか、子供に見えて論外だ。
そう考えると私って孤独なのか?
いや、うん。恋愛が全てではないし、結婚は…したいとは思うけど、現実味ないし。
「恋とか…よくわかんないんです」
「え?」
「好きな人、出来たことないので」
「そう、なんだ」
「はい。店長は?」
「えっ?」
「彼女とか、いないんですか?」
「…彼女は、いないけど」
「…はっ!奥さんがいるとか?!」
「ええ?!なんでそうなるの?!」
「いや、彼女はいないと言ったので…」
「ああ…うん。彼女も奥さんもいないよ」
「そうなんですか」
「うん…ただ、好きな人はいる」
「…ええ?!そうなんですか!?」
「う、うん…」
えー!びっくり!店長好きな人いるってよ!
って、なんか…あれ?ちょっと心臓の辺りがチクッでした。なんでだ?
「どんな方なんですか?」
「んー…芯があって、かっこよくてでも可愛くて、クールなんだけど笑った時の笑顔がすっごく可愛くて、ずっと守ってあげたいって思うし、ずっと一緒にいたいって思ってる」
「…羨ましいです。そんなに思われるのって」
「そう?」
「はい」
私は愛されて産まれた子供ではなかった。
私には3つ上の姉がいて、姉はすごく頭が良くて器用になんでもこなせる人で。
父も母もそんな姉につきっきりだった。
私は、本当は産むつもりはなかったと言われたことがある。
でも出来ちゃったから産んだんだって。
世間体があるから育ててるけど、本当はめんどくさいって言われた。
すごい親だよね。実の娘にそんなこと言うんだから。
だから私は、こんな性格になったのかなとも思うけど、小学生の時に2人からの愛情は諦めた。
勿論、姉からの愛情も。
だから、愛情がなんかのかよくわからない。
「…もしさ、」
「あ、はい?」
「もし…俺が梨恵ちゃんのこと好きって言ったら、梨恵ちゃんはどうする?」
「…………え?」
「うん。そうなるよね」
「…………へ?」
「ふふ。可愛いなぁ、梨恵ちゃん」
「な、え…え?」
待って。今私、何を言われた?
好き?誰が?店長が?誰を?私を?
「…俺ね、梨恵ちゃんのこと好きだよ」
「店長…?」
「5歳も年上で、高校生に言うことじゃないのはわかってるんだけど」
「………」
「でもやっぱ、好きなんだ」
「あ、の…」
「…諦めるつもりはないからね」
「っ……、」
「だから、今は返事しないで?」
「そ、れは…」
「…絶対に、俺に惚れさせてみせるから」
「っ!」
道のど真ん中で、店長に手を握られたまま目を合わせて、真剣な眼差しでそう言われたら、意識しない方がおかしいと思う。
いくら恋愛のことがわからないと言っても、そこまで子供じゃない。
真剣で、真っ直ぐで、本当に好きだって目をしてて。
ああ…私多分、このまま店長に落ちるかもしれない。
そう思いながら家路に着いた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
ずぶ濡れで帰ったら置き手紙がありました
宵闇 月
恋愛
雨に降られてずぶ濡れで帰ったら同棲していた彼氏からの置き手紙がありーー
私の何がダメだったの?
ずぶ濡れシリーズ第二弾です。
※ 最後まで書き終えてます。
冷血弁護士と契約結婚したら、極上の溺愛を注がれています
朱音ゆうひ
恋愛
恋人に浮気された果絵は、弁護士・颯斗に契約結婚を持ちかけられる。
颯斗は美男子で超ハイスペックだが、冷血弁護士と呼ばれている。
結婚してみると超一方的な溺愛が始まり……
「俺は君のことを愛すが、愛されなくても構わない」
冷血サイコパス弁護士x健気ワーキング大人女子が契約結婚を元に両片想いになり、最終的に両想いになるストーリーです。
別サイトにも投稿しています(https://www.berrys-cafe.jp/book/n1726839)
好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。
石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。
すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。
なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。
優しい微笑をください~上司の誤解をとく方法
栗原さとみ
恋愛
仕事のできる上司に、誤解され嫌われている私。どうやら会長の愛人でコネ入社だと思われているらしい…。その上浮気っぽいと思われているようで。上司はイケメンだし、仕事ぶりは素敵過ぎて、片想いを拗らせていくばかり。甘々オフィスラブ、王道のほっこり系恋愛話。
私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~
景華
恋愛
顔いっぱいの眼鏡をかけ、地味で自身のない水無瀬海月(みなせみつき)は、部署内でも浮いた存在だった。
そんな中初めてできた彼氏──村上優悟(むらかみゆうご)に、海月は束の間の幸せを感じるも、それは罰ゲームで告白したという残酷なもの。
真実を知り絶望する海月を叱咤激励し支えたのは、部署の鬼主任、和泉雪兎(いずみゆきと)だった。
彼に支えられながら、海月は自分の人生を大切に、自分を変えていこうと決意する。
自己肯定感が低いけれど芯の強い海月と、わかりづらい溺愛で彼女をずっと支えてきた雪兎。
じれながらも二人の恋が動き出す──。
【完結】maybe 恋の予感~イジワル上司の甘いご褒美~
蓮美ちま
恋愛
会社のなんでも屋さん。それが私の仕事。
なのに突然、企画部エースの補佐につくことになって……?!
アイドル顔負けのルックス
庶務課 蜂谷あすか(24)
×
社内人気NO.1のイケメンエリート
企画部エース 天野翔(31)
「会社のなんでも屋さんから、天野さん専属のなんでも屋さんってこと…?」
女子社員から妬まれるのは面倒。
イケメンには関わりたくないのに。
「お前は俺専属のなんでも屋だろ?」
イジワルで横柄な天野さんだけど、仕事は抜群に出来て人望もあって
人を思いやれる優しい人。
そんな彼に認められたいと思う反面、なかなか素直になれなくて…。
「私、…役に立ちました?」
それなら…もっと……。
「褒めて下さい」
もっともっと、彼に認められたい。
「もっと、褒めて下さ…っん!」
首の後ろを掬いあげられるように掴まれて
重ねた唇は煙草の匂いがした。
「なぁ。褒めて欲しい?」
それは甘いキスの誘惑…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる