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一章 魔王城へ

十一話 神の子

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【十一話】

女の子の悲鳴、それは屋敷の外、馬小屋だと思っていた倉庫から聞こえていた。

廊下は真っ暗で、月の明かりを頼りに進んでいく。
階段を降りて外に出て、倉庫の方へと向かう。

「女の子なんていたか?」

「いえ、食事にもいませんでしたし…、お爺さんとお婆さんは大丈夫でしょうか?」

小屋の外から中の音を聞く。
悲鳴は途切れ途切れに聞こえ、中で誰かもう1人、いや2人はいるのが分かった。

「どうだろうな…いざとなったら身を守る準備もしておけよ?」

「はいっ」

倉庫にある扉の隙間から中を伺う。
老夫婦が立っていて、何かをしている様子。そして老夫婦の向いている先に悲鳴を発している主はいた。

その少女の顔は老夫婦で見えなかったが、老夫婦が椅子に縛り付けられた少女の体に傷を付けているのは見えた。助けるべきだろうか?

そして老夫婦が少し屈んだ時、その少女の顔はハッキリと見えた。知っている、忘れられない顔。

「……唯?」

次に老夫婦がナイフで少女の腕を切ろうとした時には既に俺は扉を乱暴に開け、老夫婦の元へ走っていた。

「ちょっとツバキさん!」

そして老人の胸倉をつかむ。横目で唯によく似た女の子を見ながら老人を壁に強く押し付けた。

「何をしていた!!」

突然の出来事に老人は驚いていたが、俺の顔をじっと見た後、メグリに押さえ付けられている老婆の方を向いて「だから他人を入れたくなかったんだ!」と叫んだ。

「何をって、神の子の血を貰っていただけだ」

老人はこちらを向いてそう言う。俺の手を離そうとするが俺は力を強めて離さない。

「神の子だと?」

「そうだ神の子だ。あの子は神が落とした子、そう先生が言っていたんだ」

もう一度少女を見る。血を流して衰弱しており、今の状況も掴めていない様子。

「神の子だったら傷つけていいのかよ」

「そうだ」

俺は老人を棚の方へ投げ飛ばす。老人は呻いて倒れた。

「……」

老人の元へ歩み寄って睨む。
当たりどころが悪かったのか、唸ってから老人は気を失った。

ゆっくりと老婆の方へ行く。老婆は恐怖の表情を浮かべ、後ずさりした。口元には血がついている。

「ツバキさん…」

「……」

違うだろ、あの子は似てるだけで唯じゃない。
他人に同情なんてしちゃいけないのに…。

「ど、どうしてあんた達は邪魔をする」

老婆が壁に背を当てて言う。俺が何も答えないでいると、メグリが言った。

「人が苦しんでるのに助けないわけないじゃないですか。私達は関係なくても、です」

「でも爺さんを殺したじゃないか!」

「それは…」

「もういい! どうせ神の子はもう取られてしまうんだ!」

老婆はそう言うと、自分の喉に短刀を押し当て、苦しそうな声を出しながら喉を切り裂いた。
そしてそれから数秒後、老人と老婆は一斉に消えてしまった。

「うわっ!」

メグリは驚いて後ろへ引く。
「ツバキさん? 大丈夫ですか?」

「大丈夫だ」

「…女の子は私が運びます。本当に大丈夫ですか?」

「俺も運ぶ。大丈夫だって」

椅子の縄を解いて、もう一度少女の顔を見る。黒髪を結んでいない所以外、そっくりだった。
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