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四章 椿蓮
百二話 ミスト
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彼らは強い。この国でも実力が特に優れた者しかなることが出来ない、王の専属警備隊に所属している。
そんな彼らだから、ツバキの強さには表情に強く出る程驚いていた。専属警備隊2人と僕で向かっても未だに耐えているのだ。
しかしそれは単純にツバキが強いからというだけではない。ユリウスの能力で彼に傷を負わせれば負わせるほど彼は強くなり、そうなれば4人ともやられる。
そのため確実に致命傷を狙ってゆくのだが、しかしそれもかわされる。
命がいないならツバキのユリウスを奪えばいい、などと考えていたが、その事がどれほど困難な事か改めて分かった。こんな事なら城から逃げて別の都市に行けばよかった。
「なんて、今更言ってもしょうがないよな──」
切り上げた剣は空を切り、反らした首元をツバキの剣が掠める。半歩下がり、マルクとエルメスが前に出る。
マルクが足元からツバキに切り上げるように突進し、その横からエルメスが長い槍を後頭部目掛けて突き出す。
ツバキは回転しながら突進をエルメスの方へ受け流し、慌てて攻撃の手を引っ込めたエルメスとバランスを崩したマルクはツバキの一撃を防ぐが衝撃には耐えれず、後方へ大きく吹っ飛んだ。
「あっ…」
ツバキは手を休めることなく僕へ切りかかる。右足の付け根を裂かれ、二撃目で僕の鎧を砕いた。
「くそっ!」
ぶんぶんと目の前で剣を振りつつ、後方へ左足だけで下がる。瓦礫に足を取られ、尻餅をついた。
ツバキが肩で息をしながら、剣を引きずって歩いてくる。
致命傷を一発、それ以外は駄目…。
もう、やってしまおうか? 相手は自分が損傷する毎に強化されるのを知らないのではないか? 呆気に取られている間に殺してしまえば…。
「…そもそも攻撃さえ当てられないんだったな」
そう小声で言う。 ツバキはもう目の前で、剣を握り直している。
僕も剣で無理に身体を起こした。
その時。
「えっ…」
ツバキの周りの地面がえぐれ、ツバキを包み込んだ。呆然としていると、エルメスの声がし、何かが投げられた。
「これ…」
「使って下さい!」
エルメスの声が遠くでする。
掌に転がる緊急魔力配給機を飲み込んで、急いで後方へ下がった。
これなら自身の魔力量に関わらず、ある程度の魔法を使うことが出来る。少なくとも僕の本来の魔力量よりは多い。
卵形になった地面が弾け飛び、内側からツバキが剣をふりかぶるーーー
が、ツバキは足首に絡まった鎖で動けなかった。
「なんだ…これっ」
エルメスが完全にツバキの動きを封じている。攻撃するなら今しか…!
「マルク!」
エルメスがマルクに合図すると、拳を頭上に大きく振りかぶって地面に打ち付けた。
それと同時にツバキの足元が振動し、鎖と瓦礫、そしてツバキが高く打ち上げられた。
「やばっ…! くそ」
「今です!」
空中でもがくツバキに向かって、剣の先から太い氷の槍を打ち出す。その先がツバキの足首を掠めた。
「まだまだ…!」
この魔法に全ての魔力を使っても…確実に殺す!
樹木が急速に育つように、氷の槍から更に氷の槍が突き出し、ぐねりと曲がってツバキに向かう。
暫くは氷を切り裂く音が聞こえた。
伸び続ける氷槍の先が赤く染まったかと思うと、急に音が途絶えた。何十メートルと伸び続け、無数の氷槍が絡まったそれは直線上にある城壁へと突き刺さり、壁は音を立てて崩れ始めた。
そんな彼らだから、ツバキの強さには表情に強く出る程驚いていた。専属警備隊2人と僕で向かっても未だに耐えているのだ。
しかしそれは単純にツバキが強いからというだけではない。ユリウスの能力で彼に傷を負わせれば負わせるほど彼は強くなり、そうなれば4人ともやられる。
そのため確実に致命傷を狙ってゆくのだが、しかしそれもかわされる。
命がいないならツバキのユリウスを奪えばいい、などと考えていたが、その事がどれほど困難な事か改めて分かった。こんな事なら城から逃げて別の都市に行けばよかった。
「なんて、今更言ってもしょうがないよな──」
切り上げた剣は空を切り、反らした首元をツバキの剣が掠める。半歩下がり、マルクとエルメスが前に出る。
マルクが足元からツバキに切り上げるように突進し、その横からエルメスが長い槍を後頭部目掛けて突き出す。
ツバキは回転しながら突進をエルメスの方へ受け流し、慌てて攻撃の手を引っ込めたエルメスとバランスを崩したマルクはツバキの一撃を防ぐが衝撃には耐えれず、後方へ大きく吹っ飛んだ。
「あっ…」
ツバキは手を休めることなく僕へ切りかかる。右足の付け根を裂かれ、二撃目で僕の鎧を砕いた。
「くそっ!」
ぶんぶんと目の前で剣を振りつつ、後方へ左足だけで下がる。瓦礫に足を取られ、尻餅をついた。
ツバキが肩で息をしながら、剣を引きずって歩いてくる。
致命傷を一発、それ以外は駄目…。
もう、やってしまおうか? 相手は自分が損傷する毎に強化されるのを知らないのではないか? 呆気に取られている間に殺してしまえば…。
「…そもそも攻撃さえ当てられないんだったな」
そう小声で言う。 ツバキはもう目の前で、剣を握り直している。
僕も剣で無理に身体を起こした。
その時。
「えっ…」
ツバキの周りの地面がえぐれ、ツバキを包み込んだ。呆然としていると、エルメスの声がし、何かが投げられた。
「これ…」
「使って下さい!」
エルメスの声が遠くでする。
掌に転がる緊急魔力配給機を飲み込んで、急いで後方へ下がった。
これなら自身の魔力量に関わらず、ある程度の魔法を使うことが出来る。少なくとも僕の本来の魔力量よりは多い。
卵形になった地面が弾け飛び、内側からツバキが剣をふりかぶるーーー
が、ツバキは足首に絡まった鎖で動けなかった。
「なんだ…これっ」
エルメスが完全にツバキの動きを封じている。攻撃するなら今しか…!
「マルク!」
エルメスがマルクに合図すると、拳を頭上に大きく振りかぶって地面に打ち付けた。
それと同時にツバキの足元が振動し、鎖と瓦礫、そしてツバキが高く打ち上げられた。
「やばっ…! くそ」
「今です!」
空中でもがくツバキに向かって、剣の先から太い氷の槍を打ち出す。その先がツバキの足首を掠めた。
「まだまだ…!」
この魔法に全ての魔力を使っても…確実に殺す!
樹木が急速に育つように、氷の槍から更に氷の槍が突き出し、ぐねりと曲がってツバキに向かう。
暫くは氷を切り裂く音が聞こえた。
伸び続ける氷槍の先が赤く染まったかと思うと、急に音が途絶えた。何十メートルと伸び続け、無数の氷槍が絡まったそれは直線上にある城壁へと突き刺さり、壁は音を立てて崩れ始めた。
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