上 下
93 / 145
四章 椿蓮

八十九話 王の剣

しおりを挟む
一代目国王の手記によって広まった「楽園」の信仰、それは500年に渡って受け継がれ、今なお国民の大多数が信仰している。その「楽園」に救いを求め憧れを抱く者は少なくない。
それは王家も同じで、2代目から始まった楽園への挑戦、それは研究に研究を重ね、8代目で内容がはっきりとした。しかしそれは残酷なものだった。
その為実行するかとの議論に長い時間を要し、そして10代目で実行する事を約束し、全ては彼に託された。

国民の信用とこれまでの王家の尽力によって成る術。それに失敗は許されない。ミストの剣に背負われているものは常人には到底計り知れない程のものだ。

ーーーそうだ。この男に分かるはずがないんだ。

「僕を…殺すのか?」

「ああ。その剣を回収しなくちゃならないんだ」

「お前は…僕の気も知らずに…!」

弾かれた剣を手に出現させ、そのまま振り下ろそうとする。しかしその手は剣ごと頭の上で切断され、僕の手は剣と共に血溜まりに落ちた。
激痛に顔を歪め、右手を抑えてきっと彼を睨む。傷口は既にある程度塞がり、出血は止まった。

「ああ。お前の理念は立派なものなんだろうな」
「だがな、客観的に見ろ。お前は何万という命の代わりにその理念を果たそうとしている。お前の望むものがなんなのかわからないが、客観的に見て、悪と思われるのはお前だ」

「それでも…僕から見てこの理念は、この意志はどれだけの命よりも大切な物…! 客観的と言う言葉で済ませられるものじゃない」

「どれだけの命よりも大切な物?」

ツバキは唯と父、母の事を思い出す。彼らのためなら俺だって何人でも命を奪っただろうーーー。

「だがな、俺はお前じゃない。お前の守ろうとしているものは俺にとって捨てることの出来る命と変わりないんだ。お前が何を言おうと、俺はお前を殺す」

そう言うとミストは歯を食いしばり、左手でまだ指の揃っていない右手を叩いた。

正論に聞こえる暴論かましやがって…。一体何者なんだこいつは? 僕の計画に気付いた正義感の変に強い奴か? それとも魔王軍…、いや、魔王軍なら1人では来ないか…?

キラリと何かが光ったかと思うと、僕の体は後方、ステージ上へ吹っ飛ばされた。
まずい、と思った時にはもう遅く、壁にもたれかかった僕の腹に剣が突き立てられる。

「がっ…! くそっ…っ!!」

動けない。目の前には冷たい目をした男、そして僕の腹にはーーー

「この剣っ…、魔王の、ユリウスの…!」

白い刀身の剣、見覚えのあるそれは光を受けて白く光る。魔王の持っていた剣、ユリウスの剣は僕のシリウスの剣と同様、術を発動することが出来る。

どうしてこいつがこれを…この男、魔王か…!?
だとしたら僕は…僕は、こいつに殺されーーー

「ミスト様っ!」

突如、目の前、僕の足すぐ先に大量の槍が飛んで来て地面に深く突き刺さった。男は剣を抜いて弾きつつ、後ろに避けたが槍は男の太腿に浅く刺さる。

それと同時に兵士団隊長のガビが、僕を抱えて後ろにいる数人の兵士に投げつけた。

「ガビ!」

空中で、剣がガビの頭部を貫通してステージの壁に突き刺さるのが見えた。血しぶきが舞い上がり、砂埃と共に風に流されていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚されたと思ったら何故か神界にいて神になりました

璃音
ファンタジー
 主人公の音無 優はごく普通の高校生だった。ある日を境に優の人生が大きく変わることになる。なんと、優たちのクラスが異世界召喚されたのだ。だが、何故か優だけか違う場所にいた。その場所はなんと神界だった。優は神界で少しの間修行をすることに決めその後にクラスのみんなと合流することにした。 果たして優は地球ではない世界でどのように生きていくのか!?  これは、主人公の優が人間を辞め召喚された世界で出会う人達と問題を解決しつつ自由気ままに生活して行くお話。  

俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした

宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。 聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。 「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」 イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。 「……どうしたんだ、イリス?」 アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。 だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。 そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。 「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」 女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。

破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。 小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。 本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。 お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。 その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。 次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。 本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。

処理中です...