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三章 メグリ

六十六話 メグリ

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地面が丸ごと剥がれるような轟音が、暗い室内にこだました。屈んで岩の隙間を剣でなぞっていたツバキは上を見上げた。

「何だこの音」

「メグリさん達に何かあったんでしょうか…!」

「…ここにずっといてもしょうがない、少し強引だがここから出るぞ」

壁を一通り調べたが、どうやらここは地下に作られた個室で、出口は上だけの様だ。

「だとしたら、あの横の穴、魔王とメグリが落ちた穴からだ。まずあそこに行く」
「縄はどれくらいできた?」

「あまり…2、3メートルでしょうか」

「充分だ、まず俺が行く。すぐに引き上げるから待ってろ」

剣に縄を括り付け穴に向かって投げ、ピンと張った所で固定した。
壁に足をしっかりと押し付けながら上へ上がり、横の穴へ手を掛ける。
穴の先は斜めに続き、そして中から光が漏れていた。

「あったぞ、多分こっちからだ」

クルトを引き上げて、穴を滑り落ちて藁の上に着地した。壊れた木の扉の破片が、明るい廊下に散乱している。

「あの先か…?」

「多分…あの扉、少し開いてます」

崩れた天井の廊下の先に、大きな扉がありそこが少し開いている。
近付くにつれ、内側の何かがキラリと光るのが見える。

「ツバキさん…!」

「ああ、人がいる」

微かな息遣いが静まり返った室内に、扉の隙間から響いている。

扉の前に立ち、隙間から内側を見る。やはり何かが光っており、眩しさに目を閉じる。

「クロメさん!!」

クルトがバン、と扉を開けて光る室内へ飛び込んでいく。扉のすぐ側に血まみれのクロメがいた。
その周りは岩の破片が散乱し、所々に血痕が残っている。

「これ……、強力な防御状態になってます」

「どういう…」

「体全体が固まってます。多分なってから間もない。意識はあると思います…」

「一体何が…? メグリは」

そう言って光輝く前方を見上げると、目線の先すぐに、白く光る岩の裏にもたれかかっているメグリ、そして光の源、無数の白く輝く鉱石の柱があった。

その1本の後ろに、血溜まりの中に人を見つけた。身体を酷く損傷し、左半身はもうほとんど無い。
誰かは分からないが、魔王軍ではないのだろう。

「おい、メグリ」
「大丈夫か?」

体を揺すってみる。反応はないが、息はしている。破けた服には血が付いているが、傷は一通り見当たらない。

「…なんだこれ」

メグリの手は何かをしっかりと握っている。
…ポーチ? メグリがいつも腰に付けているポーチがその手は握られていた。そしてそれに紛れ、青い石がいくつか。

「そういえばこれ、俺と初めてあった時の」
「メグリが必死になって掴んでた…」

「どうしました?」

クルトが魔王を回復させながら聞く。

「いや、なんでもない。そいつは生きてるか?」

「ええ、防御状態なので時間はかかりますが」

「防御状態…激しい戦闘でもあったのか?」

血溜まりに倒れた人を見る。彼と戦っていたのか?この2人が。そして相打ち…いや、2人の勝ちか?

男の元へ近付く。血溜まりは徐々に広がり、男の横の柱には男のものらしき血がべっとりと付いている。男は口角を上げ、満足そうな顔をしていた。

「メグリちゃんを……」

掠れた声が響いた。クロメが片目を開け、地面に手をついて起き上がろうとしている。

「クロメさん、あまり動かないで…!」

「大丈夫だから…まずメグリちゃんを」
「あの子から、石を…石を取り出して」

「石っ…? 何のことです」

「簡易的な魔力の源を作る石よ…今喉にあるはずだから、早く取り出さないと体に負荷が」
「クルトさん、私をメグリちゃんの元に」

「…分かりました」

クルトはクロメを抱えて、メグリの元へ下ろした。
クロメは「メグリさん…ありがとう」と言って、メグリを横にさせ、メグリの口をつまんでそこに自分の唇を押し付けた。

「…! 大胆…」

「…違うわよ」

クロメは口を上げ、大きく息を吸ってまた唇を重ね、そして勢いよく息を吐き出した。メグリが「ゲホッ」と言うと、クロメはメグリの口の中に手を突っ込み、青い石を取り上げて地面に置いた。

「…お前、それやりたいだけじゃあないだろうな、お前が透過魔法使ってんの俺見たことあるぞ」

「今防御状態だからよ…」

同様のことを数回繰り返し、少し確認してからクロメは地面にばたっと倒れ、大きく息を吐いた。

「はあっ……魔王として失格だな、私…」

自嘲しながら、目元を手首で拭う。
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