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6、秘密の共有①(※)

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 騎士団宿舎の自室へ戻ってからティナに渡された紙切れを開くと、王都の大通り沿いにある宿の名前が記されていた。私ですら名前を知っている老舗で、かなり高級な宿だったと記憶している。私は彼女に手渡す宿代を包み、受付を断られない程度に上等な服装に着替えてから、人目を避けるようにして宿へと向かった。

 場違いだとみなされなくて良かったと思いながら、宿の広間を通り抜ける。手際よく案内してくれた宿の者に礼を言ってチップを渡し、部屋の扉を叩くと、すぐに応じたティナが扉を開けて室内に招き入れてくれた。

「宿の手配をありがとう」
「こちらこそ、ご足労いただきありがとうございます」

 騎士団本部で顔を合わせたこともあり、お互い他人行儀になってしまっている。話をするのに問題はないのだが、気を遣われるのは心苦しかった。

「騎士団に所属しているとはいえ、普段の口調まで制限されたりはしません。気安く接してもらったほうが私は楽ですが、貴女はどうですか?」
「……ふふ、あなたにそう言ってもらえて良かった。堅苦しいのは、私も苦手なの」

 案内された居室の椅子に腰かけると、彼女もテーブルを挟んで向かいに腰を下ろした。私服姿の彼女は卓越した技量を持つ魔法使いというより、良家のご令嬢に見えた。

「昨日は、ありがとうございました。私が無事でいられたのは、ジュディスのおかげだわ」

 胸に手を当てて頭を下げる彼女に、やめてくれ、と駆け寄りたかった。緊張に強張る手足では立ち上がることもできずに、無垢な信頼を湛えた瞳を見つめ返す。彼女に不誠実なままでいたくなかった。誠実に生きてきたと胸を張れない私が、そう在りたいと願って良いのかはわからない。なけなしの勇気を振り絞って、私は口を開いた。

「……貴女が無事で、ほんとうに良かった。けれど私は、私がすべき当然の行動を取ったに過ぎない」
「今朝あなたと別れてから、警備隊本部に行って事情を話してきたわ。警備の手が足りていないことを謝罪されて……今回はたまたま運が良かった、これからはくれぐれも気を付けてくださいって、念を押された」
「ええ。王都であっても、貴女のような美しい人が一人歩きしては危ない地区もある。遅い時間ともなれば、なおさらです」
「……あなたみたいなきれいな人に褒められると、悪い気はしないわね。一人で王都に出てきたのははじめてだったし、魔法隊に配属されるなんて夢のようだったから、……浮かれてもいたのだと思うわ。これからは気を付けます」

 真剣な表情を見て、もう油断をすることはないだろうと思った。私は作戦会議後の訓練で、彼女の才気走った戦いぶりを目の当たりにしている。本来であれば彼女ほどの人物が、あんな男たちに後れを取るわけがない。
 それにしても、社交辞令であってもティナほどの美人にきれいだなんて言われると、ますます落ち着かない気持ちになる。誰とでも物怖じせず交流ができる朗らかな彼女は、人と距離を置いてきた自分には眩しい存在だった。

「……今朝あなたは、私に伝えたいことがあると言っていたわよね?」
「……っ! ……そう、です。もっと早く、……伝えるべきだった」

 知らず伏せていた顔を上げて正面を見ると、そこに彼女はいなかった。いつの間にか、席に座る私の横に立っている。私の肩に手を置いた彼女が、体を寄せた。

「それって……、もしかしてと思っていたのだけど、これのこと?」

 膝の上で拳を握りしめている手の間に、彼女の腕が伸びた。とっさの事態になんの反応もできない。呆然とする私の股間に、彼女のてのひらが触れた。

「ぅ、ぁっ……!?」
「っ! やっぱり……。してもらっているときに、なにかが当たっているように感じたの。あなたが剣を外していたことに後で気付いて、不思議だったのよね……」
「っは、手を、離して……っ! 黙っていて、すまなかった。っ……私は生まれつき、こういう体なんだ」

 彼女の予想外の行動に慌てふためきながら、なんとも情けない謝罪をした。蠢く手を止めてもらえなくて、仕方なく伸ばされた腕を掴む。

「私を女性だと思って助けを求めてくれたのだろうに、……ほんとうに、すまない。……謝っても許してもらえるとは」
「聞いて、ジュディス」

 強い口調で遮られて、思わず顔を上げた。

「たしかにあなたの体には驚いたけど、私を助けてくれたことに変わりないじゃない。ジュディスには感謝してもしきれないわ。……それなのにどうしてあなたは、こんなに震えているの?」
「……!」

 ティナの腕を掴んでいる手の上からてのひらで包まれて、私は自分の手が震えていることにようやく気付いた。問いかけに答えなければと思うのに、恐れに縮こまる喉からはなんの言葉も発せない。重苦しい沈黙を破ったのは、彼女の穏やかな声だった

「誰にも話したりしないから、安心して。……無理に打ち明けさせてしまって、ごめんなさい」
「…………いや、言わなければと、思っていたんだ。……貴女が謝ることなどありません」
「それならあなたも、もう謝らないでね。私には、恩人を責める理由なんてないもの」
「そんな……」
「納得いかない?」

 顔を覗き込まれてまともに目が合った。彼女の美しく澄んだ瞳には、嫌悪も憐憫も浮かんではいない。ただ私を、真っ直ぐに見つめてくれていた。じわじわと胸に広がる感動に心を打たれて、反応が遅れしまう。彼女は返事がないことを肯定だと捉えたらしく、とんでもないことを告げた。

「そうね……。だったら私にも、あなたの恥ずかしい姿を見せてもらおうかしら」

 言うやいなや、椅子ごと私の向きを変えた彼女が目の前に屈み込んだ。躊躇のないてのひらが素早く動いて、私の下衣を下着ごと引き下ろしてしまう。

「なっ……!?」
「ここを硬くしていたのに、我慢してくれたでしょう? ……気持ち良くなって、ジュディス」
「っぅ……ぁあ!」

 暴き出された陰茎を直に触れられ、びくりと腰が跳ねた。形をたしかめるようになぞる指先に翻弄されたそこは、戸惑う気持ちとは裏腹にすぐに大きくなってしまう。他人に見られ、触られているという事実に思考が追い付かない内にも、彼女の手は容赦なく蠢いた。

「やめ……っ、ティナ……!」
「やっと名前で呼んでくれたわね。びくびくして、可愛い……」

 先端から垂れてしまった先走りを塗り広げられ、滑りが良くなった陰茎を根元から扱かれる。どうしてこんなことになってしまったのかと混乱しながらも、はじめて他人から与えられる刺激に途方もない快感を覚えて体が震えた。

「……どう? 気持ちいい?」

 口から飛び出てしまう声を押さえることに必死で、頷くことしかできない。忌まわしいと思っていた部分に彼女のほっそりとした指が優しく絡みついて、高みへと導いてくれる。ティナにされているのだと思うと耐えがたい興奮が湧き上がって、限界が間近に迫った。

「ふ、ぁっ、はなして……っ、もう……!」
「いいわよ……、出して」

 ぢゅこぢゅこといやらしい音を立てて追い詰められ、私はあっという間に達してしまった。彼女にもたらされた快感の深さをあらわすように大量の白濁が迸り、床にまで飛び散った。汚してしまうわけにはいかないと思うのに、勢いが弱まらない。息を切らしてどうにか落ち着きを取り戻そうとするけれど、彼女の手がそれを許さなかった。

「すごい……、まだ硬いわね」
「くっ……ぅ!」

 達したばかりの陰茎を軽く扱きながら私に抱きついた彼女が、「……ベッドへ行きましょう?」と妖艶に囁いた。熱い吐息と誘惑に満ちた言葉が、彼女もまた興奮しているのだと教えてくれる。申し訳なさを感じているからこそこんな行為は止めなければならないと、いまにも途切れそうな理性が警鐘を鳴らしていた。
 いけない、と思いつつも温もりを遠ざけられずに––、快感に蕩けた私は、彼女の背中に腕を回した。
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