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一章

友人たちの助言(クラン視点、R描写無)

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 ふと目を開けると、熱が出たときのような体の重だるさを感じた。激しい運動をした後の筋肉痛に似ている。昨夜の出来事をおぼろげに思い出しながら、体の回復力を高める治癒魔法を唱えた。

(……っ、私は、レンカさんと………♡♡♡)

 恋人の匂いがする上掛けの中で体を丸めて、記憶がよみがえってくるにつれ湧き上がる恥ずかしさに震える。触れ合いを増やしましょうと提案し、仲を深めていきましょうねと伝えたのも私だ。しかしまさかこれほど性急に関係が進展することになるとは、正直なところ考えていなかった。いつか結ばれたいと願ってしていた自慰とは比べ物にならない快感に翻弄され、あられもない声を上げ、はしたない姿を見せて……。
 それでも息を荒げて夢中で愛撫してくれていた彼女は、どこか嬉しそうだった。いつも優しく控えめな恋人が我慢していた欲を目の当たりにして驚きはあったけれど、必死に求められる悦びは想像以上だった。
 途中で意識を途切れさせてしまったことが悔やまれる。私が休めるように体を清め、着衣を整えてくれたのだろう彼女はきっと、満足できてはいなかっただろう。彼女が昨夜以上のことを望んでいることは、何度も押し付けられた昂ぶりと無意識にこぼれ出てしまったらしい本音によって理解させられていたからだ。告白のときに在学中の触れ合いは控えましょうと伝えたのは、そうした行為をしたことのない私の照れ隠しであり、わがままだった。恋人が望むからというだけでなく私自身も、本当は彼女ともっと触れ合いたい––。

(とてつもない恥ずかしさを、克服できるかしら……)

 起き出して朝の支度をしなければならないのに、どんな顔をして彼女に挨拶すれば良いのかもわからない。そんなことを考えている間に、寝室で休んではいなかったらしい彼女の足音が近づいてきた。



 放課後の教室で、私は友人のクリスティさんとリリアンさんに向き合っていた。声を潜めても会話が可能な距離に席を寄せられ、逃げ道を塞がれてしまった状態だ。今朝寝起きの私に土下座して無理をさせてごめんなさいと謝罪したレンカさんは、苦手だと言っていた風魔法実技課題の自主練に励んでいる頃だろう。

「今日のあんたたち、そろって挙動不審だったわよ。クランが授業中にぼうっとしているなんて、よっぽどのことがあったんじゃないの?」
「私もクランさんを見ていて心配でした。……レンカさんと、なにかあったのですか?」
「ええと……。喧嘩をしたわけではありませんから、なにも問題は……」

 ひどく真剣な表情で身を乗り出してくる彼女たちがなにをそんなに心配しているのか、見当が付かない。気恥ずかしくてレンカさんの顔をまともに見ていられず、普段より会話もままならなかったことで気を揉ませてしまったのだろうか。

「いや、喧嘩っていうか…………」
「言いにくいことかもしれないけれど、……ふたなりの方の性欲の旺盛さは、クリスティさんも私も存じています。ですからあのレンカさんであっても、魔が差すことがないとは……」

 絶句してしまったクリスティさんと強張った顔で言葉を濁したリリアンさんが何を心配していたのか、ようやく思い至った。クリスティさんにはふたなりのお姉様がいて、リリアンさんには一学年上にふたなりの幼馴染がいると聞いていたため、レンカさんがふたなり特有の強い性欲を暴走させたのではないかと案じてくれたのだろう。

「この場にレンカさんがいたら、泣いてしまいそうですね。行為を強要されたということもありませんから、ご心配なく……。とはいえ急速に関係が進展したので、……ほんの少し、戸惑ってはいるのですが」

 明らかにほっとした顔つきになった友人たちの心遣いをありがたく思うだけに、複雑な気持ちになる。レンカさんがふたなりであることを知りながら我慢させてしまっていたのは、ほかならぬ自分自身だからだ。信頼できる二人に最後までしてはいないのですが、と前置きし、昨夜の出来事を––恥ずかしい部分は、もちろん曖昧な言葉を使って––かいつまんで伝えた。

「レンカったらクランのこと好きすぎて、ついに暴走したのかと思ったわ……。でも念願叶って触れ合える嬉しさで、抑えがきかなくなってそうね」
「クランさんが戸惑ってしまうのも、仕方のないことかもしれません。……発情抑制剤を飲んでいても、クランさんの側にいると理性を失ってしまいそうで不安だと、レンカさんがおっしゃっていましたから」
「っ……そう、だったんですか?」
「薬飲んでても不安って……、相当溜め込んでない? クランがまだしたくないと思うなら、レンカと距離を置かないとまずいことになるんじゃ……」
「レンカさんがこれまでと同じようにクランさんの側にいるには、抑制剤の量を増やさなくては厳しそうですね……。ですが量を増やせば、体に負担がかかってしまう……」
「……いずれにせよ、私からレンカさんに、はっきりと伝えなくてはならないということですね」

 昨夜のレンカさんの、見たことのなかった表情を思い返す。身も心も焦がされそうな迸る熱情を一心に浴びて私が感じたのは、戸惑いだけではなかった。欲望を抑えてくれていた彼女の真っ直ぐな好意が痛いほど伝わってきて、どうしようもなく膨れ上がる愛しさも感じていたのだ。心を定めた私は、大切な友人に心からの感謝を伝えた。
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