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5、わたくしへの想いをお教えいただきました①(R18描写無)

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 喉の渇きと腰回りの気だるさを感じて、わたくしは重い瞼を上げました。ベッド横の置き時計には手を伸ばせば届くはずなのですが、腕だけでなく体を捻っても、心地よい感触のシーツしか掴むことができません。寝起きのぼんやりとした思考でも、いま置かれている状況が普段とは違うのだということは理解しました。わたくしは体を横たえたまま、昨夜の出来事を振り返ります。
 ––お嬢様の寝室へお招きいただいて、それから……。
 ご奉仕させていただこうと意気込んでいたわたくしが、お嬢様にご奉仕していただいてしまったことを思い出しました。

(……っ! わたくしの胸も、お股も……お嬢様の長くお美しい指と、麗しい唇で……♡♡♡♡ っ……いいえ、それだけではなく……お嬢様はこれまで拝見したことのない情熱的な眼差しで、わたくしの体を、隅々まで……♡♡♡♡♡)

 昨夜お嬢様にしていただいたご奉仕と、自分が晒してしまったはしたない振る舞いが鮮やかに甦ります。瞬時に覚醒したわたくしは、声にならない声が掠れた喉を震わせるのを感じながら、ベッドの上に飛び起きました。

「……エレナ? 目が覚めたかしら?」
「っ……! お嬢様……!」

 バスローブ姿で艶やかな金糸をタオルで纏め上げたお嬢様が、呆然としているわたくしに歩み寄ってくださいます。ベッドの端に腰かけたお嬢様に近づいて、なにをおいても謝罪しなければ、と慌てて口を開きました。

「も、申し訳ございません、お嬢様……! わたくしがご奉仕していただいたばかりか、お嬢様を差し置いて眠りこけ、ベッドまで奪ってしまうなど……!」
「いいえ、貴女を疲れ果てさせてしまったのは私よ。……それで、……っ♡♡♡! っごめんなさいエレナ、ひとまず体を隠してもらえる?」

 不自然に言葉を切ったお嬢様が、わたくしから目を逸らしてしまいます。自分の体を見下ろすと、わたくしは下着すら身に付けていませんでした。

(っ……早く、気が付くべきでした……。あれほど汗をかいて、……蜜を溢れさせていたのに、シーツを心地よく感じられていたのは、きっと……お嬢様が……)

 主に多大なご迷惑をおかけしてしまったのだと察しました。わたくしは飛び起きたときに跳ね除けてしまった上掛けを引き寄せて体を隠し、「お見苦しいものを……」と切り出します。しかしお嬢様はわたくしの言葉を遮って、「なにを言うの。美しい貴女に、私がどれほど……♡♡♡! っ……いえ、貴女の安全のため、体を隠してもらっただけよ」と早口でおっしゃいました。
 安全のため、というのは肌が傷つかないようにとのお心遣いでしょうか。メイドとしてあるまじき数々の行いにお怒りのご様子もなく、わたくしを気にかけてくださるお嬢様のお優しさに、胸が甘くときめいてしまいました。

「と、ともかくも……、昨夜は無理をさせてしまって、ほんとうにすまなかったわ……。体を痛めていない……?」

 わたくしがふたたび謝罪を口にしようとしたことが、お嬢様には伝わってしまったようです。硝子細工に触れるような繊細な手つきでわたくしの頬を撫でてくださったお嬢様が親指で唇をなぞり、「お願いだから、もう謝らないで……。正直に教えて欲しいの」と囁きました。湯浴みを済ませたばかりのご様子のお嬢様から良い香りが立ち上り、わたくしを見つめてくださる薔薇色の瞳の縁からは息を呑むような艶が零れ落ちていくようです。あらためてお嬢様の美貌を直視したわたくしは、思わず感嘆のため息を漏らしてしまいました。
 吐息で震えた唇から指を離したお嬢様が、脇机の水差しから水を注いでくださったグラスを、そっと手渡してくださいます。

「……あ、ありがとうございます」

 お嬢様は答えを急かそうとはせずに、わたくしが喉を潤すのを見守ってくださいました。視線を感じていると、昨夜の出来事を思い起こしてしまいます。動揺したわたくしの唇から、水が伝い落ちてしまいました。

「……っ!」
「っ……んぅっ♡♡!」

 グラスごとわたくしの手を支えてくださったお嬢様に、肌を伝う水をぺろりと舐められてしまいます。首筋から胸もとまで追いかけられ、ちゅっ♡♡と音を立てて吸い上げられて……、そのあまりに自然な行為にも、それを当然のように受け入れている自分にも驚きながら、淡い快感に声を上げてしまいました。
 今度はわたくしがお嬢様の謝罪のお言葉を遮り、「……ありがとうございます、お嬢様♡♡」とお伝えします。お嬢様は脇机にグラスを戻してくださると、なにかを堪えるようにぐっとお体を緊張させてしまいました。ベッドに下ろされたお嬢様のてのひらに、おずおずと指を伸ばします。

「その……、腰周りが少しだけ気だるく感じますが、痛みはございません。体を動かすことも、問題はなさそうです。……わたくしを労わってくださいまして、ありがとうございます」
「そう、……わかったわ。教えてくれてありがとう、エレナ。……気だるいのなら、今日はゆっくり休んでいて。他の者にも、私から伝えておくから」

 頼もしく言い切られたお嬢様には、どのような反論も通じませんでした。あまりにも些細な理由で、わたくしはお休みをいただくことになってしまったのです。お嬢様は「貴女が湯浴みをしている間に、着替えを取って来るわ」と告げて、部屋から出て行かれました。

(……わたくしは、甘やかしていただき過ぎではないでしょうか……?)

 腑に落ちないままですがご厚意を無下にするわけにもいかず、寝室に連なる浴室へと向かいます。脱衣所の端に、わたくしが昨夜身に付けていた下着が干されていました。蜜で濡れそぼった下着を、お嬢様が洗ってくださったのでしょう。羞恥で熱を持ってしまった体を持て余して、わたくしは浴室で冷たい水を浴びました。しかしまだ湯気の籠っている浴室は良い香りで満ちていて、まるでお嬢様に抱きしめていただいているような錯覚に陥ってしまいます。
 お嬢様には恥ずかしくて申し上げられなかったのですが、わたくしは腰周りの気だるさよりも、昨夜の凄まじい快感が色濃く残っているお股がまだ疼いてしまっていることのほうが、気になって仕方がありませんでした。お湯に切り替えて温まりながらついお股へ伸ばしてしまいそうになる手を我慢して自分の体を眺めると、そこかしこに赤い痕が残っています。精液を飲ませていただいたときにも感じましたが––、こうしてはっきりと痕跡を残していただけることも、わたくしがお嬢様のものなのだと主張していただけているようで、とても喜ばしく思いました。

(ぁあっ……お嬢様………♡♡♡ こんなにも触れてくださったのですね♡♡♡ わたくしも、お嬢様に触れたい……♡♡♡ ご奉仕させていただきたい……♡♡♡♡)

 いけない気持ちを抱いて息の上がってしまったわたくしに、浴室の扉を隔ててお嬢様が声をかけてくださいました。

「エレナ、棚の上に着替えを置いたわ」
「……っ♡♡! かしこまりました、ありがとうございます……!」

 どうにか喘ぎを押さえたわたくしは、お嬢様にどのように触れていただいたか思い出す度にお股から蜜を垂らしてしまいつつ、もどかしい湯浴みを終えました。

「着替えを取るためとはいえ、部屋に入ってすまなかったわ。……今日の貴女の仕事は、休息を取ることよ」

 諸々の感謝をお伝えして退室しようとする私に、お嬢様は力なく命じました。もうご奉仕の機会を与えていただけないかもしれないと感じてしまうほど覇気のないお嬢様を見上げて、わたくしは意を決して言葉を紡ぎます。

「ありがとうございます、お嬢様。……ですがお許しをいただけるなら、……どうか本日も、ご奉仕の機会を与えてはいただけませんか……?」
「っ……、こんなときにまで、無理をする必要など……」
「無理をしているのではございません……! ……わ、わたくしは、お嬢様のお役に立つことが喜びなのです。どうか、ご奉仕させてください……!」
「エレナ……」

 必死になってお伝えした言葉に偽りはございませんが、わたくしは疚しさを感じてしまいました。ご奉仕というお役目を、お嬢様と触れ合いたいという願望を叶えるための口実に利用してしまったのですから––。
 お嬢様は悩ましい表情で、なにかを考え込んでいらっしゃるようでした。

「……わかったわ。今夜、寝支度を済ませたら私の部屋へ来て。……体が辛かったり、気分が優れなかったら、そのまま休んでもらって構わないから」
「……っ! ありがとうございます、お嬢様……!」

 見送って下さるお嬢様は、なぜか切ない微笑を浮かべていらっしゃいました。気にかかったわたくしが引き返して問いかける前に、お嬢様は扉を閉めてしまいます。ふたたびお部屋へ伺う勇気もなく、わたくしはしばらくの間、その場に立ち尽くしていました。
 自室へ戻ってベッドで休ませていただきながら、先ほどのお嬢様の表情を思い浮かべます。なにかを躊躇うような、辛そうにも見える表情でした。体は疼いてしまっていましたが、お嬢様のお顔を曇らせていた憂いに思いを馳せている内に、わたくしは深い眠りに落ちていました。

 気だるさもすっかり抜けて食事も湯浴みも終えたわたくしは、お嬢様のもとへ向かいました。部屋に招き入れてくださったお嬢様は寝室に向かうことなく、立ったまま向かい合ったわたくしにじっと視線を注いでくださいます。悪い予感がしてしまい、わたくしはにわかに緊張を感じました。

「エレナ……、今夜も来てくれてありがとう。でも、もう……奉仕をしてくれなくていいわ」
「……っ!? な……、なぜでございましょう……? やはり、わたくしが至らないばかりに……」

 恐れていた言葉が耳に届いて、わたくしの胸は悲しみに張り裂けてしまいそうです。お嬢様にあれほどご迷惑をおかけしてしまったわたくしでは理由を伺うことすらおこがましいのかもしれませんが、問いかけずにはいられませんでした。

「そうではないの……。エレナと触れ合えたことは、立場を利用しているのだとわかっていても、……幸せだったわ。けれど私はこれ以上、……自分を抑えられない」

 いつの間にか頬を伝っていた涙を指で優しく拭ってくださったお嬢様が、わたくしの顔を上向かせました。滲んだ視界でも、お嬢様の眩いばかりのお美しさがわかってしまいます。
 ぽろぽろと涙を零してしまうわたくしに、お嬢様はひどく穏やかな声音で続けました。

「奉仕ではなく、主と使用人としてではなく、……私はエレナと触れ合いたい」
「お嬢様……っ」
「……貴女にはなんの落ち度もないのに、泣かせてしまったわね」

 自分でも涙を拭いながら、頬を支えてくださるお嬢様を見つめます。ごめんなさい……とか細く囁いたお嬢様のもう片方のてのひらが、目元を擦ったわたくしの手をそっと包んでくださいました。

「貴女を愛しているわ。……一目見たときから、貴女に惹かれていた」
「っ……!!」

 わたくしを、愛してくださっている––?
 お嬢様のお言葉がゆっくりと心に沁み込んで、わたくしはまた涙を溢れさせてしまいました。先ほどとは異なる理由で、この胸が張り裂けてしまいそうです。ご奉仕を重ねてお嬢様と触れ合うたびに感じていた愛おしさが、いまはいっそう激しく鼓動を跳ねさせているのです。想いの源泉に気付いてしまっても気付かないふりをしていたわたくしは、歓喜に震えました。
 烈しい感動に喉がつかえて、なにも答えることができません。お嬢様は子どものように泣いてしまうわたくしを、その胸に柔らかく抱き寄せてくださいました。

「………っ、わたくしも、お伝えしなくてはなりません……」

 お嬢様の温もりを感じてようやく落ち着きを取り戻したわたくしは、こんな顔をお見せしたくはなかったと思いつつ、想いを打ち明けました。

「ご奉仕をさせていただきたいと願ったのは、お嬢様に……お仕えする主以上の感情を、抱いてしまっていたからなのです。……身分違いだとわかっておりましたが、わたくしは……」
「っ……エレナ」
「……お慕いしております、お嬢様」

 じわり、と薔薇色の瞳を滲ませたお嬢様が、わたくしを強く抱きすくめてくださいました。肩にお顔を押し付けて、お嬢様は「でも、私は貴女が想ってくれるような人間では……」と弱弱しくおっしゃいます。差し出がましいとは思ったのですが、わたくしはお嬢様の滑らかな髪をできる限りの優しさで撫でました。

「わたくしが申し上げるのは恐れ多いのですが……、お互い様、……ではだめでしょうか?」

 お嬢様にもわたくしにも、秘密がございました。心から申し訳ないと思う気持ちはあるのですが、わたくしよりよほどお心を痛めているご様子のお嬢様には、ふてぶてしくもここまで申し上げなければ、前を向いていただけないと感じたのです。

「……ふふ、貴女には、敵わないわね」

 わたくしの気持ちが通じたのか、顔を上げてくださったお嬢様は困ったように微笑んでいらっしゃいました。片腕を腰に回され力強く支えられると身長差が縮まって、吐息のかかる距離でお嬢様と見つめ合います。

「エレナを、愛してもいい……♡♡♡?」
「……光栄です、お嬢様♡♡♡」

 つま先立ちで背伸びをしたわたくしは、お嬢様の麗しい唇に触れるだけの口づけを贈りました。美しい瞳を瞬かせたお嬢様は見る者の心を蕩けさせるような微笑を浮かべると、わたくしを素早く抱え上げてしまいます。驚いて声を上げかけたわたくしを柔らかな口づけで黙らせてしまったお嬢様は、寝室へと歩き出しました。
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