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第四章 平和のために出来ること
第22話 枯れた森の中で
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燃え盛るハーニルの町を離れることになった俺達は、早朝住人と兵士も含めて全員でラクスベルクへ向かうことにした。かなりの大所帯になってしまったものの、ラクスベルク王国自体はハーニルの町より遥かに広いので、その点は心配なかった。住人の中には他の町や村へ避難しようとする人もいたものの、その場所が同じ様な状況になっていないとは言いえないため、結界で守られていて安全なラクスベルクに来るように勧めた。
「あたし達皆で町を守っていこうって誓ったばかりなのにね」
「そうだね、まさか俺もこんな事になるとは思わなかったよ」
コトは昨晩から気分が落ち込んでいて、とても暗かった。それは町の住人や兵士達も同じで、急に住んでる場所を破壊されてしまう気持ちは俺には理解できなかった。中には昨日の一連の騒動の中で傷を負っている人もいて、そういった人たちは馬車の荷台に乗ってもらいゆっくりと進んでいた。兵士達が乗ってきた馬と町の馬車が町外れにあり、被害を受けていなかったことが不幸中の幸いだった。
「あれは何だ? あんなもの以前なかったはずなんだが、森の中から来たなら何か知ってるかい?」
馬車に乗っている人がラクスベルクのある森の方を指差し何かを見つけた様子だった。森から出てきたときは気づかなかったけど、遠くから森全体を見た時に一箇所だけ、何かが意図的に積み上げられているような怪しいところがあった。
「あんなものが……。俺達も気づかなかったので知らなかったです。そんなに距離があるわけでもないから、森へ入る前にちょっとだけ様子を見てきます」
森の入り口に着いた辺りで皆に休憩がてら待っていてもらいながら、俺はコトとオルバと一緒に遠くから見えた怪しい場所へ行くことにした。全体的に枯れている森の中でもその付近は木自体が無くなっている状態で、その代わり何か得体の知らないものが積み上がっていた。
「これは……? うっ!」
更に近寄ってみると、ファイスさんの臭いをより強くした様な腐臭が辺りに漂っていた。積み上がっていたものは様々な種族の魔族達や人間の死体と瓦礫の山だった。
「こいつは……。酷いなんてもんじゃないね」
「ああ……。こんな事をやる奴はまともじゃねぇよ。これもアーカス王子の仕業なのか?」
「その通りだよ、オークの兄ちゃん。ここにアーカスの兵士たちが来て魔族の死体を捨てていったのさ」
聞き覚えのない掠れたしわがれた声が聞こえてきた方へ目を向けると、腰の曲がった小さい老婆が立っていた。
「急にビックリしたぜ、ばあさん。あんたはなんでこんなところにいるんだ? それと何か知ってるのかい?」
「ああ。知っているどころか儂は、王子様の操り人形となった兵士たちに捕まり、ここにある魔族達の死体と一緒にここへ捨てられたのさ。王子様の言うことにゃ魔族は敵、そしてその考えに反対する儂の様な人間も敵なんだとよ。元々ここは何にもない場所だったんだが、儂らの様な人間や魔族の死体が捨てられるようになってきて、こんな異様な場所になっちまったのさ」
「捨てられた? 一体何があったんだ? ここにはばあさん以外誰も生きてるやつはいないのか?」
「生きてるやつ? 儂以外にも一緒に捨てられた人間も何人かおったが、ここに来る前の段階でだいぶ弱っていてもう皆死んじまったよ。どうやら王子様は魔族を殺すことはなんとも思わない代わりに、人間を殺すことは嫌がるみたいでな、生きたままここへ捨てに来るんじゃよ。じゃが最近兵士以外に捨てられてここに来た若いのが二人いるよ。会ってみるかい?」
気になることはあるものの、とりあえず瓦礫の奥の方へ向かっていく老婆に付いていき、しばらくすると二人の人影がうずくまっているのが見えてきた。服もボロボロで顔もよく見えなかったけど、男女であることは分かった。
「どうやら相当酷い目にあわされたみたいで、何があったのか何も話してくれないのさ。あんた達みたいに歳の近い子になら何か話してくれるかと思ったんだがね。二人ともお客さんが来たよ」
「……。えっ!?」
無言でこちらを見上げた二人の顔を見るとそれは忘れもしない、コウイチ達に攫われてしまった同じラントリール村のセイラとエリックだった。
「二人とも無事だったんだね! また会えて嬉しいよ!」
「ラルフ……? 本当にラルフなの?」
「ラルフ兄ちゃん?」
「エリック! セイラ!」
二人の目には涙が滲んでいて、俺は二人とその場で強く抱き合った。もう会うことが出来ないと思っていた二人と、思わぬ場所で再開することが出来て嬉しいのと同時に、なぜここにいるのかも気になった。
「凄い聞きづらいんだけど、二人ともコウイチ達に連れて行かれた後……。どうしてたの?」
「それは……。ごめん。あまりにもショックが大きいことだから今は言えない」
「私も口にするのも恐ろしいことだから答えられないわ」
「……。わかった、ごめんね。それはそうともし良かったら二人とも俺達と一緒に来ない?」
俺は二人にこれまでのことを話し、一緒にラクスベルクへ来ることを提案した。特に行く宛もない状態だったので、二人も来ることになった。
「ありがとうラルフ。もし良かったらおばあさんも一緒に」
「儂はいいよ。二人だけで行きなさい。儂までいなくなったらここにいる殺された皆が可愛そうだ」
「なぁばあさん。悲しことかも知れないけど、ここにいるやつらは皆もう死んでるんだよ? でもばあさんはまだ生きているんだから、一緒に来ないかい?」
「コボルトのお嬢ちゃんの言うことは最もなんだが、そう簡単にはいかないもんさ。歳を取るってそういうことなんだよ」
俺達が説得しようとしてもなかなかおばあさんは一緒に来ようとはしてくれなかった。
「……よし! じゃあばあさん。1つ提案なんだが、ここにいる死体を全部ラクスベルクに運んで行って、そこで墓を作って弔うって言ったらどうする?」
「なんだって!? ずいぶんとまぁ大きく出たもんだね。もし本当にそれが出来るってんならここにいる必要はなくなるし、考えてやってもいいよ。でもまぁ腐った死体を運ぶなんざ臭いが凄いから無理だろうさ」
「それなら大丈夫だよ。俺達の仲間にはゾンビのファイスさんがいるから、腐臭にはもう結構慣れてきているし、幸い人ではあるしね。とりあえず皆をラクスベルクに送ってからにはなるけど、どんなに時間がかかってもやるつもりだよ!」
「あんたら本気なのかい?」
「うん、本気だよ。ここにおばあさんを置いていくのも殺された皆をそのままにしておくのも、俺が耐えられない。それにここに今アーカスの兵士達が攻めてきたり、戦う必要があるわけでもないからなんとかなるよ。俺はなんとか出来そうなことであればこの世界の皆を助けて問題を解決していきたいんだ」
「よく言ったなラルフ! ハーニルの皆もそういうことなら力を貸してくれるかも知れない」
「……。全く、若いってのは凄いね。こんな死にぞこないの年寄り放っておけば良いものの」
ずっと難しい顔をしていたおばあさんの顔が一瞬笑ったように見えた。それから俺達は三人を連れて皆の元へ戻った。事情を話すと、俺と同じでエリックとセイラと面識があったリンは俺と同じく再開をとても喜んでくれた、そしてさっき見つけた死体を運び埋葬することに関しても皆了承してくれてとても嬉しかった。俺達はまずハーニルの皆をラクスベルクに送り届け、その後まだ元気で動ける人を集めて死体を運ぶ作業を行うことにした。
「もうそろそろラクスベルクだね」
「ええそうね。なんだかこの短い間に色々ありすぎて、私はまだ夢でも見てるんじゃないかって気分だわ」
「アオイは別世界から来てるから余計にそう感じるよね。俺も無我夢中でここまで来たからまだ信じられないような不思議な気分だよ」
皆と話をしているとラクスベルクの入り口の大木の前まで来た。全員が魔使いのペンダントを身につけておらず同時に入ることは出来ないので、先にペンダントをかけている魔族達と中に入り、それを中で外してもらい外にいる人たちへ渡すという方法で皆ラクスベルクへ入ることが出来た。木の中に王国があることと、結界の力でペンダント無しでも魔族の皆が正気でいられることにハーニルの人たちはとても驚いていたし、大人数を連れてきたことにゴードンさんとサクリさんも驚いていた。
「あたし達皆で町を守っていこうって誓ったばかりなのにね」
「そうだね、まさか俺もこんな事になるとは思わなかったよ」
コトは昨晩から気分が落ち込んでいて、とても暗かった。それは町の住人や兵士達も同じで、急に住んでる場所を破壊されてしまう気持ちは俺には理解できなかった。中には昨日の一連の騒動の中で傷を負っている人もいて、そういった人たちは馬車の荷台に乗ってもらいゆっくりと進んでいた。兵士達が乗ってきた馬と町の馬車が町外れにあり、被害を受けていなかったことが不幸中の幸いだった。
「あれは何だ? あんなもの以前なかったはずなんだが、森の中から来たなら何か知ってるかい?」
馬車に乗っている人がラクスベルクのある森の方を指差し何かを見つけた様子だった。森から出てきたときは気づかなかったけど、遠くから森全体を見た時に一箇所だけ、何かが意図的に積み上げられているような怪しいところがあった。
「あんなものが……。俺達も気づかなかったので知らなかったです。そんなに距離があるわけでもないから、森へ入る前にちょっとだけ様子を見てきます」
森の入り口に着いた辺りで皆に休憩がてら待っていてもらいながら、俺はコトとオルバと一緒に遠くから見えた怪しい場所へ行くことにした。全体的に枯れている森の中でもその付近は木自体が無くなっている状態で、その代わり何か得体の知らないものが積み上がっていた。
「これは……? うっ!」
更に近寄ってみると、ファイスさんの臭いをより強くした様な腐臭が辺りに漂っていた。積み上がっていたものは様々な種族の魔族達や人間の死体と瓦礫の山だった。
「こいつは……。酷いなんてもんじゃないね」
「ああ……。こんな事をやる奴はまともじゃねぇよ。これもアーカス王子の仕業なのか?」
「その通りだよ、オークの兄ちゃん。ここにアーカスの兵士たちが来て魔族の死体を捨てていったのさ」
聞き覚えのない掠れたしわがれた声が聞こえてきた方へ目を向けると、腰の曲がった小さい老婆が立っていた。
「急にビックリしたぜ、ばあさん。あんたはなんでこんなところにいるんだ? それと何か知ってるのかい?」
「ああ。知っているどころか儂は、王子様の操り人形となった兵士たちに捕まり、ここにある魔族達の死体と一緒にここへ捨てられたのさ。王子様の言うことにゃ魔族は敵、そしてその考えに反対する儂の様な人間も敵なんだとよ。元々ここは何にもない場所だったんだが、儂らの様な人間や魔族の死体が捨てられるようになってきて、こんな異様な場所になっちまったのさ」
「捨てられた? 一体何があったんだ? ここにはばあさん以外誰も生きてるやつはいないのか?」
「生きてるやつ? 儂以外にも一緒に捨てられた人間も何人かおったが、ここに来る前の段階でだいぶ弱っていてもう皆死んじまったよ。どうやら王子様は魔族を殺すことはなんとも思わない代わりに、人間を殺すことは嫌がるみたいでな、生きたままここへ捨てに来るんじゃよ。じゃが最近兵士以外に捨てられてここに来た若いのが二人いるよ。会ってみるかい?」
気になることはあるものの、とりあえず瓦礫の奥の方へ向かっていく老婆に付いていき、しばらくすると二人の人影がうずくまっているのが見えてきた。服もボロボロで顔もよく見えなかったけど、男女であることは分かった。
「どうやら相当酷い目にあわされたみたいで、何があったのか何も話してくれないのさ。あんた達みたいに歳の近い子になら何か話してくれるかと思ったんだがね。二人ともお客さんが来たよ」
「……。えっ!?」
無言でこちらを見上げた二人の顔を見るとそれは忘れもしない、コウイチ達に攫われてしまった同じラントリール村のセイラとエリックだった。
「二人とも無事だったんだね! また会えて嬉しいよ!」
「ラルフ……? 本当にラルフなの?」
「ラルフ兄ちゃん?」
「エリック! セイラ!」
二人の目には涙が滲んでいて、俺は二人とその場で強く抱き合った。もう会うことが出来ないと思っていた二人と、思わぬ場所で再開することが出来て嬉しいのと同時に、なぜここにいるのかも気になった。
「凄い聞きづらいんだけど、二人ともコウイチ達に連れて行かれた後……。どうしてたの?」
「それは……。ごめん。あまりにもショックが大きいことだから今は言えない」
「私も口にするのも恐ろしいことだから答えられないわ」
「……。わかった、ごめんね。それはそうともし良かったら二人とも俺達と一緒に来ない?」
俺は二人にこれまでのことを話し、一緒にラクスベルクへ来ることを提案した。特に行く宛もない状態だったので、二人も来ることになった。
「ありがとうラルフ。もし良かったらおばあさんも一緒に」
「儂はいいよ。二人だけで行きなさい。儂までいなくなったらここにいる殺された皆が可愛そうだ」
「なぁばあさん。悲しことかも知れないけど、ここにいるやつらは皆もう死んでるんだよ? でもばあさんはまだ生きているんだから、一緒に来ないかい?」
「コボルトのお嬢ちゃんの言うことは最もなんだが、そう簡単にはいかないもんさ。歳を取るってそういうことなんだよ」
俺達が説得しようとしてもなかなかおばあさんは一緒に来ようとはしてくれなかった。
「……よし! じゃあばあさん。1つ提案なんだが、ここにいる死体を全部ラクスベルクに運んで行って、そこで墓を作って弔うって言ったらどうする?」
「なんだって!? ずいぶんとまぁ大きく出たもんだね。もし本当にそれが出来るってんならここにいる必要はなくなるし、考えてやってもいいよ。でもまぁ腐った死体を運ぶなんざ臭いが凄いから無理だろうさ」
「それなら大丈夫だよ。俺達の仲間にはゾンビのファイスさんがいるから、腐臭にはもう結構慣れてきているし、幸い人ではあるしね。とりあえず皆をラクスベルクに送ってからにはなるけど、どんなに時間がかかってもやるつもりだよ!」
「あんたら本気なのかい?」
「うん、本気だよ。ここにおばあさんを置いていくのも殺された皆をそのままにしておくのも、俺が耐えられない。それにここに今アーカスの兵士達が攻めてきたり、戦う必要があるわけでもないからなんとかなるよ。俺はなんとか出来そうなことであればこの世界の皆を助けて問題を解決していきたいんだ」
「よく言ったなラルフ! ハーニルの皆もそういうことなら力を貸してくれるかも知れない」
「……。全く、若いってのは凄いね。こんな死にぞこないの年寄り放っておけば良いものの」
ずっと難しい顔をしていたおばあさんの顔が一瞬笑ったように見えた。それから俺達は三人を連れて皆の元へ戻った。事情を話すと、俺と同じでエリックとセイラと面識があったリンは俺と同じく再開をとても喜んでくれた、そしてさっき見つけた死体を運び埋葬することに関しても皆了承してくれてとても嬉しかった。俺達はまずハーニルの皆をラクスベルクに送り届け、その後まだ元気で動ける人を集めて死体を運ぶ作業を行うことにした。
「もうそろそろラクスベルクだね」
「ええそうね。なんだかこの短い間に色々ありすぎて、私はまだ夢でも見てるんじゃないかって気分だわ」
「アオイは別世界から来てるから余計にそう感じるよね。俺も無我夢中でここまで来たからまだ信じられないような不思議な気分だよ」
皆と話をしているとラクスベルクの入り口の大木の前まで来た。全員が魔使いのペンダントを身につけておらず同時に入ることは出来ないので、先にペンダントをかけている魔族達と中に入り、それを中で外してもらい外にいる人たちへ渡すという方法で皆ラクスベルクへ入ることが出来た。木の中に王国があることと、結界の力でペンダント無しでも魔族の皆が正気でいられることにハーニルの人たちはとても驚いていたし、大人数を連れてきたことにゴードンさんとサクリさんも驚いていた。
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