勇者に改心の一撃を!~僕の世界は異世界の勇者達に壊された~

若葉さくと

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第三章 魔王様のいない世界

第19話 兵士が町にやってきた

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 住人たちの様子を見にハーニルの町中へ出る頃には、もうすっかり日が昇っていた。様子を見るために住民の家へ行くと、最初は皆ひどく怯えた様子だったけど、正気に戻ったコトやオルバ達と話すことにより緊張が解けていた。そのやり取りを見ているだけで、彼女達がこの町でどれだけ信頼されているのかが分かった。俺達はコト達とオルバ達の二手に分かれて住人の家を一件ずつ回り事情を説明することにした。

「コト達は本当に信頼されているんだね」

「この町の皆は家族みたいなもんだからね。元々住んでいた連中も多いが、物や人の流通が盛んなこの町にやってきて、そのままここが気に入って住み始めた連中もいるんだ。ボスがいたからこそこの町が住みやすいところになっていたのかもしれないね。でもそんなボスがいなくなってしまっても、代わりにあたしらを信頼してくれているようで嬉しいよ。この期待に答えていかないとね」

 町中を一通り回り終わる頃には日が少し傾き始めていた。人間以外に魔族も何人かいたものの、幸いコトやオルバより強力な魔力を持った者はいなかったので、ペンダントの力で正気に戻すことが出来た。念の為たくさん持ってきていたペンダントもだんだん数が減ってきていた。

「これで一安心だね」

「協力してくれてありがとうね。これでようやく元のハーニルの町に戻ることができそうだよ。ここからはあたしらで頑張っていかないとね!」

 皆でコトのアジトに戻り休んでいると、遠くの方から大勢の走ってくる足音が聞こえてきた。慌てて外に出てみると先ほど話をした住人たちが息も絶え絶えの状況で、何かから逃げるようにこちらに走ってきていた。

「皆そんなに慌ててどうしたんだい!?」

「今町の入り口に王都の兵士がたくさん来ていて……。理由はわからないが勝手に家に押し入って皆を連れ去ろうとしているんだ……!」

「なんだって兵士たちが!? ラルフ! アオイ! 何か事情は知らないか!?」

「俺達もコト達に教えたこと以上の事は何も知らないよ! とにかく町の皆を助けに行かないと!」

 急な出来事に混乱しつつも、俺達は町の入り口へと向かった。

「これは……」

 入り口には大勢の兵士たちがいて、住人たちを取り囲み縛り付けていた。一部の家には火が放たれていて火事になっていた。

「あんたたち! この町で何してんだい! とっとと皆を開放してこの町から出ていきな!」

「人間は『理想の牧場』へ連れて行き、町は壊す」

「町を壊すだって!? それに『理想の牧場』って何のことだい?」

「人間は『理想の牧場』へ連れて行き、町は壊す」

「人間は『理想の牧場』へ連れて行き、町は壊す」

「人間は『理想の牧場』へ連れて行き、町は壊す」

 兵士達はコトの問いかけに反応する様子もなく、皆何かに操られているようにずっと同じ言葉を連呼しながら、住人を捕まえていた。それを止めようとしても凄い力で押し返されてしまい、どうすることも出来なかった。同じ言葉を繰り返しながら異様な行動を繰り返す兵士たちの姿は、とても不気味だった。なんとか出来ないものか対策を考えていると、いつの間にか俺達の背後に、アジトで待っていたはずのハーフエルフの彼女が立っていた。

「ねぇ、あの兵士たちを止めればいいの?」

「あんたそんなことが出来るのかい!?」

「ただの人間相手なら可能よ。これが私の出来るお礼よ」

 そう言うと彼女は両手を天にかかげ、目を閉じて呪文を唱え始めた。するとしだいに兵士たちがいる辺りに霧が立ち込め始めた。

「高ぶる者たちに一時の休息を! 安らぎの霧《ピースフルフォグ》」

 彼女が魔法を唱えると、霧が兵士たちや燃えていた家を包み込んだ。前が見なくなるくらい辺り一面が霧に包まれた後、すっと霧が消え去るとともに燃えていた家の火が消え、兵士たちは皆その場に倒れ込み眠り始めていた。

「この魔法は催眠効果のある霧を発生させる魔法。私が出来るのはここまで。恐らく彼らは何者かに洗脳されてるんじゃないかと思うわ。魔力の暴走はないはずだから洗脳さえなんとかすれば大丈夫だけど、何か衝撃を与えられるものはない?」

「こんな凄い魔法が使えるなんて……! それよりも衝撃? 衝撃って直接的なダメージじゃなくてもいいですか?」

「ええ、特に洗脳系の魔法は精神を操るものだから、肉体的なダメージより精神的なダメージの方が、有効なはずよ」

「だったら……! ファイスさん、またお願いしてもいい?」

「ウォオウ!」

 ファイスさんは一言任せろと言ってくれたので、本当に頼もしかった。コト達のときほど効かないかも知れないけど、いま一番有効なのはファイスさんの腐臭しかなかった。

「あたしらならすごい効果があるけど、人間だとそこまで効果がないかも知れないね。もっと臭いを強くする方法はないかね?」

「臭い? それなら丁度いいのがあるぜ! ちょっと待っていてくれ!」

 オルバ達は凄い勢いで自分たちのアジトの方へ走っていった。戻ってくるまでの間、皆で兵士達に捕らえられていた住人を開放し、眠っている兵士達を起こしてしまわないように一箇所へ集めることにした。兵士の人数は合計20人ほどで、オルバ達が戻って来た時にはちょうど全員広場に並べることができていた。

「待たせたな! これを使ってくれ!」

「オルバ……! なんだいこの臭いは!? 鼻がひん曲がりそうだよ……」

「これは俺達のアジトにあった洗っていない服だ。いつもならちゃんと洗濯していたんだけど、正気を失っている間ずっと放置していたからに相当臭いがキツくなっていたみたいでな、これなら効果バツグンだろう!」

 臭いの準備が整ったところで、早速洗脳を解くことにした。ハーフエルフの彼女にもこの方法が有効なのか確認したところ、この霧の魔法は相手を深い眠りに誘うものらしく、眠っている間は意識がかなり無防備な状態になっているということだった。そこを強烈な臭いで起こすことは、より強い衝撃を与えることが出来るということだった。

「人助けをするためにこの汚れた服が役立つならこんなに嬉しいことはないな! さぁファイスよこいつを着てくれ!」

「ウォオウ!」

 皆でファイスさんにオルバの服を着せているときには、俺達でもかなり強い臭いを感じたので、期待がより高まった。見た目はボロボロの服を着たゾンビという感じになったけど、その姿はとても頼もしく見えた。より強い衝撃を与えるためには近距離で臭いを嗅がせる必要があるので、ファイスさんには兵士一人一人に抱きついてもらうことにした。

「もし兵士達が洗脳されたまま起きてしまった時のことも考えて、俺達もファイスさんの近くにいて警戒していよう」

 ファイスさんが抱きつく兵士の周りを俺達で囲み、準備が整ったところで兵士達の洗脳を解く作戦が始まった。

「ウォオオオウ!」

「……!? ゲホッゲホッ! オエェェ……! なんだこの凄まじい臭いは!? えっ!? ゾンビ! ゾンビがぁあ!」

 ファイスさんが抱きつくと兵士は、勢い良く目を覚まし慌てふためいていた。

「ファイスさん、もう離れても大丈夫だよ」

「えっ!? えっ? ゾンビが言うことを聞いた? それに君たちは一体? なぜこんなところに?」

「それについては後で説明するので、全員終わるまで少し待っていてください」

「あ、ああ。さっきまでアーカス殿下の演説を聞いていたはずなのに……」

 兵士がつぶやいた一言に、予想通りの名前が出てきていた。
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