勇者に改心の一撃を!~僕の世界は異世界の勇者達に壊された~

若葉さくと

文字の大きさ
上 下
19 / 24
第三章 魔王様のいない世界

第18話 新たな仲間

しおりを挟む
 オルバ達にペンダントをかけた後、皆でオルバのアジトへ入ることにした。寝ている最中にペンダントをかけたベラとクラヤも目を覚ましたときには正気を取り戻していた。一旦落ち着いた後、オルバ達に今までの経緯を話した。

「まさか魔力が暴走していたなんてな……。なりふり構わず俺達が暴れていなかったのが唯一の救いだったな」

「あたしらも同じ気持ちだよ。まだ暴走し始めたばかりだったから、正気を失っていても町を守るって事を忘れずにいられたんだろうけど、ラルフ達が来ないでもっと時間が経ってしまっていたら、きっと取り返しのつかないことになっていただろう」

「コウイチ達にボスを殺された時に、俺は人間たちへの怒りでおかしくなっていたが、冷静に考えると人間全体に怒りを向けるのは間違いだったな。心配かけてすまなかった。それにしてもアーカス王子が魔王様を倒した理由が本当にわからなくて不気味だな……」

「そこが俺達にもまだわからないんだよね。アーカス王子がやってきたことに一貫性がないというか、何が目的なのか理解できないというか。別世界からコウイチ達を召喚して、チート能力と装備をあげて魔王討伐さえしてくれれば良いって送り出して、自身は俺達を襲って、討伐を頼んだはずの魔王様を殺して魔族達を暴走させる……」

 考えれば考えるほどアーカス王子の考えがわからなかった。

「一番直近でアーカス王子に会って話をしたのはラルフなんだよな? やつは何か気になること言ってなかったか?」

「そう言えば『この世界を正常な世界にするという大事な使命がある』って言ってたけど、アーカスの言う正常ってどういう状況のことなんだろう、平和な世界をめちゃくちゃにすることが正常なのか……」

「何か他の目的がありそうだが、今はそれよりもまずこの町を立て直していかないとな! 俺達豪腕三人衆が加わればこの町の魔族を正気に戻していくのなんて朝飯前さ!」

 と言ったところでオルバの大きなお腹の音が聞こえたので、とりあえず皆で食事を取ることにした。オルバ達はアジトの中にたくさんの食料を備蓄していたので、大人数でも問題はなかった。サマイ以外の食べ物を口にしたのは久々だったので、どれもとても美味しく感じた。

「それにしてもオルバ、熱くなりやすくて頑固なあんたがよくラルフ達に話を素直に聞いたね」

「俺も本当ならこんな突拍子のない話を信じないし、人間の言うことなんて聞く気もなかったんだが、目を覚ます前、いきなり夢にボスが出てきてな。『オルバ! てめえ何やってんだ! 今こそ皆で協力するべきだぜ馬鹿野郎!』ってな感じですごい剣幕でよぉ。なんかそれを聞いたら急に頭の中が冷静になってな。やっぱりボスには敵わないな」

「そうかい、死んじまってもボスはあたしらを見守ってくれているのかも知れないね」

「そうだ思い出した! ゴブリンの娘、リンって言ったっけか?」

「うん、あたいはリンだよ」

「食事の後でリンに見せたいものがあってな、後で俺に着いてきてくれるか? 他の皆にも来てほしいんだが、くれぐれもリンを先頭にして来てくれ」

 食事が終わった後、俺達はオルバとリンを先頭にしてアジトの外にある小さな小屋へ向かった。扉を開けるとそこには鎖につながれた見たこともない魔族がいた。それは植物の球根のような胴体に二本の足と尻尾がついており、牙の生えた狂暴そうな顔をしていて、凄い勢いで暴れていた。

「オルバ! もしかしてこの子スクイッグ!?」

「そうだ、さすがにゴブリン族のお前なら知ってると思ったぜ!」

「リン、スクイッグって何なの?」

「スクイッグはね。見ての通り植物の球根に顔と足が生えた魔族で狂暴な性格なんだけど、昔からゴブリン族にとってのよきパートナーだって伝えられているんだ。そしてゴブリン族にしか心を開いてくれないって言われているんだ。あたいの村近くには一匹もいなくて見たことなかったんだけど、昔から話だけはよく聞いていたんだ!」

「俺たちが正気を失う前、町の外に出かけたとき弱ってるこいつをたまたま見つけてな。このアジトに連れてきたのは良いんだが、暴れまわって困ってたんだ。こいつは魔王様が殺される前から暴れていたから、ペンダントだけじゃどうにもならないと思うんだ。リン、こいつを大人しくしてやることはできるか?」

「やったことはないけど、ゴブリン族のあたいなら大丈夫だと思う。ブン村長から聞いた通りにやってみるね」

 リンがスクイッグに手を伸ばし優しくペンダントをかけ、頭の部分を優しく撫でた。すると先ほどまで暴れていたスクイッグが落ち着き始め、しばらくするとリンとじゃれつく様になった。

「俺たちが散々手を焼いたこいつをこんな簡単に手なずけるなんてな……。やはり噂は本当だったんだな! よかったらコイツを連れて行ってやってくれないか?」

「ありがとう! これからよろしくね! スイ!」

「ガウ!」

「そのスイっていうのは名前?」

「うん、それがこの子の名前なんだって」

 俺達には何を話しているのかわからなかったけど、早くもリンとスクイッグのスイは心を通わせたらしい。二人のじゃれつく姿に皆が自然と笑顔になった。新たに仲間に加わった後、俺たちはエルフ族の女性の様子を確認するべく食料と傷薬を持ってコトのアジトへ戻った。アジトに入るとエルフ族の女性はもう起きていて、ベッドの上でぼーっと前を見つめていた。

「もう起きて大丈夫なんだね、ほらあんたのために傷薬を持ってきたよ」

「あなたがここまで運んでくれたのね、ありがと。このペンダントのおかげで気持ちも少し楽になったわ。でも傷はもう大丈夫だから薬は要らないわ」

「さすがエルフだね。もう傷が治っちまったのかい」

「私はエルフじゃないわ! 中途半端なハーフエルフよ!」

 彼女の急な大声に俺達は皆驚いてしまった。フードを外した彼女の顔には傷口が塞がっているものの、傷跡がくっきりと残っていた。

「急に大声出してごめんなさい。私を見て気づいたでしょ? エルフにしては傷の治りが遅いって。私が普通のエルフだったらこんな傷完全に治っていたはずなのよ。でも人間の血が混ざっているからこの傷跡は消えないのよ。そもそももし普通の人間なら、年相応におばさんの見た目だからあんな男に言い寄られることもなかったのに、ハーフエルフで良かったことなんて何もないわ」

 悲しい表情で話す彼女に俺達はそれ以上声をかけることが出来ず、彼女もそれ以上口を開いてはくれなかった。

「おい、ハーフエルフの姉ちゃんよぉ! コト達に助けてもらっておいてそういう態度は良くないんじゃねぇか!?」

「ありがとうねオルバ。でもいいんだよ、誰だって辛くなるときはあるさ。それにあんな傷を付けられた後なんだから落ち込むのも仕方ないさ。さぁそれよりもあたしらが正気に戻ったってこと町の連中に知らせてやらないとね。皆と協力してこの町を元に戻すよ!」

 俺達は彼女をアジトに残し、町へ出ることにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。

阿吽
ファンタジー
 クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった! ※カクヨムにて先行投稿中

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

処理中です...