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第二章 忘れ去られた王国

第11話 ラクスベルクの希望

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 サマイをたくさん食べた翌日、俺達はゴードンさんに呼ばれ広場に集まっていた。

「今日は昨日話が途中だった『ウツシカガミの木』やそれに関係することについて詳しく話そう。恐らく君たちには馴染みのない言葉ばかりが出てくるだろうから、質問は私が一通り私が話し終えてからにして欲しい」

 ゴードンさんは広場にある枯れた木の前に立ち、ゆっくりと話し始めた。

「『ウツシカガミの木』というのは、『転職の儀式』の時に生み出される一人一本の小さな木のことだ。最初は小さな苗木だが、持ち主の性格や精神状態、能力の影響を受けどんどん成長していく。もちろん木自体を放置していてはちゃんと育たずに枯れてしまう。木の持ち主本人が自ら水をしっかりあげたり、環境を整えてあげることで大きく成長していく。またこの木には魔力が宿っていてそれにより持ち主とは常に繋がっている。木の成長はそのまま持ち主に良い影響を与え、能力も引き上げてくれる。良い影響を受け成長した持ち主がより経験を積むことによりまた木が成長するというお互い連動して成長していく形になるのだ。もちろん悪い事も同じように影響を与えるので注意が必要だ。正しい行いや良い精神状態を保つことが木を立派に育てること、そして自分自身の成長に繋がるのだ」

 一気に話し終えたゴードンさんは、ホッと一息ついた。

「まずここまででなにか質問はあるかな?」

「『ウツシカガミの木』についてはわかりました。ただ『転職の儀式』というのが何なのか……。職業ってそれになると決めたらなれるわけじゃないんですか?」

「武器屋だとか宿屋だとかそういった職業であればそれでも問題ないのだが、ここで関係してくるのは戦いにおいて必要な職業のことなんだ。戦士だとか魔法使いだとか更にその上の上級職だとか、そういったものはなると言っただけでなれるわけではなくこの『転職の儀式』をおこなってからでないと対応した武器の装備やスキルを使うことが出来ないのだ」

「転職の儀式って私達の世界にあるゲームと同じなのね。アーカスに呼ばれたときには勝手に職業を決められていたから知らなかったです」

「そのゲームというのはわからないが、アーカスは転職の儀式すら自分で行うことが出来るのだな。儀式は基本魔力を持っているものでなければ出来ないから、本来人間には出来ないはずなのだ」

 アオイの言うゲームというのが何なのかは俺もわからなかったので、今度アオイに話を聞いてみようと思った。
他に気になることはなかったので、次の説明をしてもらうことにした。

「次に説明するのは『姿見の書』についてだ。これは転職の儀式を行うことで生み出される一人一冊の本で、個人の情報や能力に関係することが私たちに分かる文字として記載されていく本のことだ。最初はページ数が少ないが、経験を重ねることにより本は分厚くなっていき、最終的にはその人の冒険の歴史や能力など事細かに記載した世界に一つだけの本となる」

「姿見の書はゲームで言うところのステータスみたいなものなのね。アーカスに能力を与えられた時に見たけど、ステータスという言葉を心の中で唱えるだけで自分に関する色んな情報が目の前に浮かび上がっていました」

「心の中で唱えるだけで情報を浮かび上がらせる!? そんなことが出来るとは……魔王様を簡単に殺してしまったことも含め、アーカスという男は私の想像を遥かに超えた存在なのかも知れないな」

 今のアオイの話を聞いて、コウイチがブンさんを殺した時に経験値がどうのと言っていたことの理由がようやくわかった。 

「『姿見の書を制するものは冒険を制する!』というのが冒険者が集まるギルドでも掲げられていた有名な言葉だった。また大事にされた本には精霊が宿り、時には語りかけ時にはアドバイスをしてくれると言われている。この本を上手く活用しながら冒険している者はギルドでも一目置かれていた」

 ゴードンさんは懐かしむような目で遠くを見つめながら話を続けた。

「『立派に育ったウツシカガミの木の元で、分厚くなった姿見の書を読み、冒険の思い出を振り返ることができたなら、冒険者としてこれほど幸せなことはない』という冒険者達の言葉もあった、立派なウツシカガミの木と分厚くなった姿見の書を持つ冒険者は、皆の憧れの的だった」

「楽しい思い出だったんですね」

「ああ、あの頃のラクスベルクはとても活気に満ち溢れていた。魔族ばかりではなく人間の冒険者もいてな、魔力を扱う職業は魔族が担当し、人間は魔力を必要としない職業で力を発揮して、お互い支え合いながら冒険しているパーティが多かった皆が切磋琢磨しながら冒険していた良い時代だったよ」

 話を聞いていて俺はにはある考えが浮かんでいた。

「ゴードンさん。俺たちで冒険者が集まるギルドをまた作ることは出来ないかな?」

「冒険者ギルドを?」

「うん。それだけじゃなくて商店やここに昔あった庭園やこのラクスベルク王国を復興させることは出来ないですか? 規模が大きすぎる話をしていることはもちろん承知しているし、おこがましいことも理解している、相当大変だということもわかっているつもりです。でもこれからアーカス達を止めていこうとするにはこれくらい大きな事をしていかないと駄目だと思うんです」

「ラルフは面白いことを言うな……君が魔族に偏見を持つような人間だったら問答無用で却下していただろう。ただ君がここに来てからの行動を見ていて偏見が無い心優しい人間だということがよくわかった。ラルフだけじゃない、他の皆もな。私も久しぶりに心を動かされた。ラクスベルクの復興……それが出来たらどんなに嬉しいことか! 大歓迎だよラルフ! この広く寂しい忘れ去られた場所を、もう一度活気あふれる場所にしていこう! きっと歴代の国王様達も喜んでくれることだろう!」

「ありがとうございます!」

「そんなにかしこまらなくていい。我々はもう仲間なんだから」

 長い間止まっていた王国の歴史の針が、再び動き出した。
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