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第二章 忘れ去られた王国
第9話 魔族になっても
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俺達が休憩している中、広場に凄い勢いで走ってきたのはリンだった。アーカスに対抗できる者を召喚する魔法なら、俺と同じく因縁のあるリンがここにいることは不思議ではなかった。アレン兄さんやロザリーさんも無事に来ていたら良いんだけど。
「ラルフ助けて! 目が覚めたら廃墟の中にいて、そして変な大きなネズミとイモムシがいたの! びっくりして逃げ出したらネズミの方がすごい勢いで追いかけてきて……」
半泣きになりながら飛びついてきたリンの後方を見ると、大きすぎるネズミがこちらに向かって来ていた。しかしそのネズミは俺達の目の前で急に立ち止まると、チューと切なそうに鳴いた。
「ラルフよ、お前さん達の仲間にアレンって名前の者はいたか? このダーティラットが『ラルフ! 俺はアレンだ!』と言っておるのだが」
「アレンって、アレン兄さん!?」
そう問いかけるとネズミは嬉しそうにチューと鳴いた。このパターンは俺がアンデッドになったサクリさんとファイスさんに追いかけられた時と似ていると思い、急いでリンが目覚めたという廃墟に向かった。ボロボロになって原型を留めていない建物の前で大きなイモムシがゆっくりと這っていた。
「もしかして君は、ロザリーさん?」
「キシャアア!」
「このバッドキャタピラーは『そうだよ! 私がロザリーだよ!』と言っておるな。アーカスは人間を魔族に変えることも出来てしまうのか……」
「君たちはアレン兄さんとロザリーさんだったんだね!」
その後ゴードンさんから二人が変身させられた魔族について詳しく話を聞いた。アレン兄さんが変えられたダーティラットというのは、一見するとただの大きいネズミに見えるものの、実際は魔力を僅かに持っている獣系統の魔族の一種で、戦闘能力も殆ど無い、汚い場所に住んでいることが多い種族ということだった。そしてロザリーさんが変えられたバッドキャタピラーは、こちらも一見するとただの大きいイモムシに見えるものの、僅かに魔力を持っている虫系統の魔族の一種で、唯一イモムシの姿から成長することが無く戦闘能力も殆ど無い種族ということだった。
「仲間が魔族に変えられたというのに、あまりショックを受けていないんだな」
「はい、もう会えないかと思っていたので、再び会うことが出来た嬉しさのほうが大きいです。俺には魔力がないから皆の話していることがわからなくて、鳴き声しか聞こえないのは寂しいですけど」
「難しいかも知れないが、彼らの魔力が高くなればいずれ言葉を話せるようにもなるだろう。それまでの間はなんとなくでしかわからないかも知れないが、私が近くにいるときであれば通訳をしてあげよう」
「ありがとうございます」
アーカス自身は俺と違い魔族を見下していたみたいなので、俺の大切な仲間を魔族に変えることによって、苦しめることが出来ると思っていたようだけど、そんなことはなかった。姿形が変わることよりもう二度と会えなくなることのほうがよっぽど辛かったし、変えられてしまった皆が辛い思いをしていないかの方が心配だった。ゴードンさんに確認してもらうと皆姿が変わったことには驚いているものの、特に調子が悪いとかショックを受けているということは無いということだった。皆の心の強さには驚かされてばかりだ。
「この世界では人間と魔族の間に争いごとが無くなっているとはいえ、魔族に少なからず偏見を持っている人間がほとんどだと思っていた。だがラルフは最初からそんな素振りを見せることもなく我々魔族とも普通に接していた。ゴブリン族の村が近くにあったというのも大きいのかも知れないが、その偏見のない考え方はアーカス達にはない強力な武器になり得るはずだ……さて、ラルフの仲間たちも全員揃ったところで一度我々の状況を整理しよう」
ここに来るまでも本当に色んなことが起きて、状況を整理する時間もなかったからとても良い機会だった。まず俺達の目標は当初『コウイチ達の蛮行を国王様に報告し、阻止してもらう』ことだった。しかしこれは『そもそも国王、王子自身が黒幕だった』ことにより破綻してしまい、今は『アーカス王子とコウイチ達の蛮行を阻止する』となった。これはゴードンさんの目標とも一致しているので問題はなかった。ただここで出てくる一番の問題が『俺達の戦力が圧倒的に足りていない』ということだった。加えて武器や道具を調達しようにもこの結界の中には材料になりそうなものすら無く、外に出る必要があった。
「この結界は真正面から出ようとすると決して出ることは出来ないが、私だけが知っているある方法を使うことによって外に出ることが出来る。それに『魔使いのペンダント』を使えば魔力の暴走を抑えることが出来るから、魔族でも外に出られる。ただ、ゴーストである私は物体を身につける事は出来ないから、召喚魔法で呼び出した強力な魔族に渡して代わりにアーカスを止めてきてもらおうとしていたのだ」
外に出ることが出来たとしても、現状敵に襲われた場合の対抗手段が殆ど無いため近場でなければ外に出ることも危険だった。なので『ラントリールの村へ現状報告に戻る』ということも不可能に近かった。魔王様がいなくなってしまった今、ラントリールの皆が無事なのか、そもそもこの世界がどうなってしまったのかとても不安だったものの、それを確認することすら難しかった。
「まずはしばらくの間ここで出来る限りの準備を整え、それから近場の町に行き情報や物資の収集をするのが最も安全かつ良い方法だろう」
「俺もそれが良いと思います。皆もこれで大丈夫?」
話を聞いていた全員が頷いてくれた。
「あぁそれと。魔力が高い私やガラトス様は身体中の魔力が占める割合が多いから、この結界の中にいれば魔力が途切ず活動するのに問題はないが、魔力が無い人間やわずかしか無い魔族達は何かを食べなければいけないだろう? 枯れ果てた森とはいえ、この外の森にはまだ『サマイ』という根っこを食べることが出来る植物があるはずだ。貧しい土地でも育つ植物だから、それを当面の間の食料にすればいい」
俺達はゴードンさんの情報を元に、外の森でサマイを探すことにした。
「ラルフ助けて! 目が覚めたら廃墟の中にいて、そして変な大きなネズミとイモムシがいたの! びっくりして逃げ出したらネズミの方がすごい勢いで追いかけてきて……」
半泣きになりながら飛びついてきたリンの後方を見ると、大きすぎるネズミがこちらに向かって来ていた。しかしそのネズミは俺達の目の前で急に立ち止まると、チューと切なそうに鳴いた。
「ラルフよ、お前さん達の仲間にアレンって名前の者はいたか? このダーティラットが『ラルフ! 俺はアレンだ!』と言っておるのだが」
「アレンって、アレン兄さん!?」
そう問いかけるとネズミは嬉しそうにチューと鳴いた。このパターンは俺がアンデッドになったサクリさんとファイスさんに追いかけられた時と似ていると思い、急いでリンが目覚めたという廃墟に向かった。ボロボロになって原型を留めていない建物の前で大きなイモムシがゆっくりと這っていた。
「もしかして君は、ロザリーさん?」
「キシャアア!」
「このバッドキャタピラーは『そうだよ! 私がロザリーだよ!』と言っておるな。アーカスは人間を魔族に変えることも出来てしまうのか……」
「君たちはアレン兄さんとロザリーさんだったんだね!」
その後ゴードンさんから二人が変身させられた魔族について詳しく話を聞いた。アレン兄さんが変えられたダーティラットというのは、一見するとただの大きいネズミに見えるものの、実際は魔力を僅かに持っている獣系統の魔族の一種で、戦闘能力も殆ど無い、汚い場所に住んでいることが多い種族ということだった。そしてロザリーさんが変えられたバッドキャタピラーは、こちらも一見するとただの大きいイモムシに見えるものの、僅かに魔力を持っている虫系統の魔族の一種で、唯一イモムシの姿から成長することが無く戦闘能力も殆ど無い種族ということだった。
「仲間が魔族に変えられたというのに、あまりショックを受けていないんだな」
「はい、もう会えないかと思っていたので、再び会うことが出来た嬉しさのほうが大きいです。俺には魔力がないから皆の話していることがわからなくて、鳴き声しか聞こえないのは寂しいですけど」
「難しいかも知れないが、彼らの魔力が高くなればいずれ言葉を話せるようにもなるだろう。それまでの間はなんとなくでしかわからないかも知れないが、私が近くにいるときであれば通訳をしてあげよう」
「ありがとうございます」
アーカス自身は俺と違い魔族を見下していたみたいなので、俺の大切な仲間を魔族に変えることによって、苦しめることが出来ると思っていたようだけど、そんなことはなかった。姿形が変わることよりもう二度と会えなくなることのほうがよっぽど辛かったし、変えられてしまった皆が辛い思いをしていないかの方が心配だった。ゴードンさんに確認してもらうと皆姿が変わったことには驚いているものの、特に調子が悪いとかショックを受けているということは無いということだった。皆の心の強さには驚かされてばかりだ。
「この世界では人間と魔族の間に争いごとが無くなっているとはいえ、魔族に少なからず偏見を持っている人間がほとんどだと思っていた。だがラルフは最初からそんな素振りを見せることもなく我々魔族とも普通に接していた。ゴブリン族の村が近くにあったというのも大きいのかも知れないが、その偏見のない考え方はアーカス達にはない強力な武器になり得るはずだ……さて、ラルフの仲間たちも全員揃ったところで一度我々の状況を整理しよう」
ここに来るまでも本当に色んなことが起きて、状況を整理する時間もなかったからとても良い機会だった。まず俺達の目標は当初『コウイチ達の蛮行を国王様に報告し、阻止してもらう』ことだった。しかしこれは『そもそも国王、王子自身が黒幕だった』ことにより破綻してしまい、今は『アーカス王子とコウイチ達の蛮行を阻止する』となった。これはゴードンさんの目標とも一致しているので問題はなかった。ただここで出てくる一番の問題が『俺達の戦力が圧倒的に足りていない』ということだった。加えて武器や道具を調達しようにもこの結界の中には材料になりそうなものすら無く、外に出る必要があった。
「この結界は真正面から出ようとすると決して出ることは出来ないが、私だけが知っているある方法を使うことによって外に出ることが出来る。それに『魔使いのペンダント』を使えば魔力の暴走を抑えることが出来るから、魔族でも外に出られる。ただ、ゴーストである私は物体を身につける事は出来ないから、召喚魔法で呼び出した強力な魔族に渡して代わりにアーカスを止めてきてもらおうとしていたのだ」
外に出ることが出来たとしても、現状敵に襲われた場合の対抗手段が殆ど無いため近場でなければ外に出ることも危険だった。なので『ラントリールの村へ現状報告に戻る』ということも不可能に近かった。魔王様がいなくなってしまった今、ラントリールの皆が無事なのか、そもそもこの世界がどうなってしまったのかとても不安だったものの、それを確認することすら難しかった。
「まずはしばらくの間ここで出来る限りの準備を整え、それから近場の町に行き情報や物資の収集をするのが最も安全かつ良い方法だろう」
「俺もそれが良いと思います。皆もこれで大丈夫?」
話を聞いていた全員が頷いてくれた。
「あぁそれと。魔力が高い私やガラトス様は身体中の魔力が占める割合が多いから、この結界の中にいれば魔力が途切ず活動するのに問題はないが、魔力が無い人間やわずかしか無い魔族達は何かを食べなければいけないだろう? 枯れ果てた森とはいえ、この外の森にはまだ『サマイ』という根っこを食べることが出来る植物があるはずだ。貧しい土地でも育つ植物だから、それを当面の間の食料にすればいい」
俺達はゴードンさんの情報を元に、外の森でサマイを探すことにした。
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