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第一章 ラントリールの悲劇

第5話 運命の出会い

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 ブコの森で少し休んだ僕たちは森を抜け、王都を目指して歩き出した。王都に行く途中にある検問所には夜になる頃着く予定だったけど、ブコの村に立ち寄らなかった分、少し早めの日が傾き始めた頃に検問所にたどり着いた。検問所には王都の兵士が何人か常駐していて、怪しい者が王都の領域に近づかないか監視している。僕たちは検問所で門番をしている兵士に話しかけることにした。

「すいません。僕たちラントリールの村から来た者なのですが、至急国王様に会わなければいけない用事があって、ここを通してもらえないでしょうか?」

「ずいぶんと大人数だな、ゴブリン族やハーピィ族の者までいるとは……。ちなみに至急の用事とは? 要件を聞かせてもらえないだろうか?」

 対応してくれた門番は、年上の優しそうな人だった。僕たちはセンジュ村長から預かった手紙を渡して、これまでの経緯を説明した。

「ふむ、確かに手紙に書いてあるサインはラントリールの村長のもので間違いはない。
ただ、怪しい三人組がラントリールの村とブコの村を襲撃したなど信じられん」

「本当なんです! 奴らが村を荒らしまわったせいで村中の家がめちゃくちゃで……。でも強くて僕たちじゃ歯が立たなくて……」

「僕ら兵士はここでずっと監視をしているが、ここ数日で怪しいものが通ったことは一度もない。それにここを通らなければ村には行けないはずだし、他の道を使ったことも考えにくい……。その三人組同じく勇者を名乗る三人組が通ったくらいだが、彼らは『この者たちを勇者と認める』と書かれた国王様の手紙と通行手形を持っていたんだが」

「そんな……。国王様があいつらを勇者と認めた!?」

「その兵士の言う通りだよ! コウイチ達は僕の父上が認めたんだよ!」

 兵士の後ろから急に声が聞こえそちらに目を向けると、そこには金髪碧眼の美しい顔と綺麗に装飾された服をきた僕と同じくらいの年齢の少年が立っていた。

「!? これはアーカス殿下! なぜこんなところに!?」

「アーカス殿下ってもしかしてこの子が王子様なの!?」

「そうだよ! 僕が王都カラストルの国王の息子、アーカス王子だよ。用事の途中なんだけど、面白い話が聞こえてきたからねぇ、君たちの話全部聞かせてもらいましたー」

「国王様があいつらを認めたという話は本当なんですか?」

「うん、本当だよ。正確には僕が彼らをこちらの世界に招いて、チート能力や装備を与えて、父上に許可を出してもらったんだけどね。でも君のおかげでコウイチ達がちゃんと冒険しているってことを知れてよかったよー。最初君を見たときはなんだか気に入らない子だなって思ったけど、君案外役に立つんだね、わざわざ報告してくれてありがとうね!」

 アーカス王子の口から想像も出来なかった言葉が出てきて、一瞬思考が停止してしまった。
皆の顔を見てみても僕と同じで、混乱しているようだった。
あいつらを招いた? ちゃんと冒険している? ゴブリン族の皆を殺して? 村をめちゃくちゃにして?

「本当は秘密の話なんだけど、君たちみたいなコウイチ達に手も足も出ない雑魚モブに話したところでどうってことないしね。ちょっとした遊びだよ遊び。それにどんな反応するか気になったし。なんか皆予想以上に驚いている? 怒ってる? みたいでとても面白いね! 愉快愉快! 別にいいじゃん? ゴブリンとかいう下等な魔物の一匹や二匹殺したくらい、たった1の経験値とかほとんど価値がないけど、コウイチ達の暇つぶしくらいにはなったのかな?」

「ブコの村の皆を……。あたいの家族のことを悪く言うなぁああああ!!!」

 僕らが手を出そうとするより早くリンがアーカスに飛びかかったが、アーカスはそれをひらりと躱して片手でリンを軽く叩いた。するとリンの体は勢い良く後方に飛んでいき木にぶつかった。

「リン大丈夫!?」

 僕は慌ててリンの元に駆け寄った。

「我慢できなかったんだ……ごめん。ラルフ……。あいつ強いよ……」

「めっちゃ弱いね君、ゴブリンってこんなに弱いの? 僕が軽く叩いただけで吹っ飛ぶなんて、これじゃあ僕がチート持ちじゃなくても余裕で勝てるね。どう? 僕の実力はわかったかな?」

 コウイチ達と同じ圧倒的な力を持っているアーカスを前に、僕らは何もすることが出来なかった。抵抗したら何をされるかわからないという恐怖は、ここにいる全員が一度味わっていた。
いくら立ち上がり立ち向かおうとしても僕の足は動くことはなかった。

「いくら殿下とはこんな蛮行は許せん! 今度は僕が相手だ!」

 動けなくなってしまった僕たちの代わりに、先程の兵士が動いてくれた。

「へぇ、ただの兵士のくせに僕に立ち向かうの? いいねぇ面白いよ! じゃあ君の相手はこいつらに任せようかな?」

 アーカスが指をパチンと鳴らすと、奥の方から兵士が数人現れた。

「君のお仲間の兵士は皆僕に忠誠を誓ってくれたよ? まぁ僕の能力で洗脳しただけなんだけどね。同じ検問所の兵士同士争うっていうのもなかなか面白そうだね」

「なんと卑劣な! 皆目を覚ましてくれ! こいつは僕らが忠誠を誓うべき相手じゃない!」

「いくら吠えたところでお仲間にはもう声は届かないよ? 残念でしたー」

「クソッ! ここは僕が食い止める! 全力で逃げろ!」

 ファイスさんの声とほぼ同時に、突風が巻き起こり砂ぼこりで辺りが一瞬真っ暗になった。

「この隙に皆僕の風に乗って! 全力で逃げるんだ!」

 サクリさんの声が聞こえた瞬間、強い風が背中を押した。僕はリンを抱え、その風の勢いを借りて全力で走り始めた。道を外れ森の中に入ってからも全力で走り続けた。しばらくした後、森の中の開けた場所で立ち止まった。僕以外の皆も全員無事だったけど、全員これ以上走ることも歩くことも出来そうにない状態だった。
辺りはすっかり暗くなり、月明りだけが僕らを照らしていた。

「ラルフ……大丈夫か?」

「アレン兄さん……僕は大丈夫だよ……さっきの風は……サクリさんだよね?」

「そうみたいだね……私らを逃がしてあの場を切り抜けるために、あの娘は囮になってくれたんだね……せっかく知り合えたばかりだってのに……あの兵士さんは名前さえ聞くことができなかったよ」

 僕たちを逃がすために二人が囮になってくれた。例え今の僕が二人のような力を持っていたとしても同じ行動はとれなかっただろう。勇気ある二人の姿はまさに本物の勇者だった。もっと仲良くなれそうだったのに。僕に力と勇気があれば皆を守ることくらいは出来たはずなのに。村を襲撃された時と同じ無力感や悔しさや悲しみが一気に襲ってきて僕は涙を流していた。

「あの兵士の名前なら僕が教えてあげよっか?」

 今最も聞きたくないアーカスの声が近くから聞こえてきた。コウイチ達と同じ人を心底バカにして見下した様な話し方に、腹立たしさと恐怖を感じた。先ほどまで流れていた涙は一瞬で止まった。
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