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第一話『ゲーム本編開始前夜です』
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「――え。私に、ですか? 父様。」
「………………………………ああ、そうだ、リーナ。」
「……父様。」
かなり大きな相違点が生まれたのはそれから二日後、ゲーム通りならいよいよ明日主人公がこの世界にトリップしてくるという前夜の事だ。
この二日間が本当に特に何事もなく平穏無事に過ぎ去ったのも相俟っていっそ明日何も起こらなければいいのに、主人公なんてこの世界に来なければいいのにと我ながらOSの根本を否定してるよなあと苦笑したくなるような淡い願いを胸に抱きつつ、何だか落ち着かないまま夕食後に呼び出された彼の書斎で今世の父であるケオ・アイレンヴェルグ公爵から告げられたのはアリヴェイユ国の隣国であるリュカディアルド国第四王子と私の見合い話が持ち上がっているという予想だにしていなかった内容だった。
いつもの聡明はどこへ言ったのかと疑いたくなるくらいにギリギリと歯を食いしばり、私の問いかけにたっぷりと三十秒は間を置いてから頷いた、見るからに重厚で高級そうな両袖の書斎机に肘を付き組んだ手をがたがた震わせている清潔感のある黒のオールバックに聡明さを宿した私と同じ空色の瞳に髪と同じ色の口髭が特徴的な苦味走った壮年男性である父様に思わず苦笑すると何を想像したのかまるで死刑宣告でも受けたかのようにその顔に絶望が浮かんでいく。
……いや、おかしいでしょ。
「……あ、あの、父様?」
「すまないリーナ。断ろうとはしたんだが、この見合いを薦めてきたのは馬鹿国王でね。三年前、あの馬鹿に『お前のとこの娘どちらでもいいからうちの第二王子と婚約者させるつもりはないか』等と軽い気持ちで言われた時も腸が煮えくり返ったが、今回も同じような感じで『余ってる方』とか言って来たからうっかり最大火力で火炎魔法を使ったものの肝心の見合いは白紙にならなかったんだ。」
「……え、いえ。え?」
『最大火力で火炎魔法を使ったものの』??
下手したら不敬罪や謀反で引っ捕らえそうな事をあっさりと言い退けてさらに悔しそうに歯噛みする父様にツッコミが全く追い付かず困惑する。
……と言うか。
ある意味これも相違点なのだろけど、OSで家族について尋ねられた時ミレイユ自身が話した家族像は『両親は放任主義で自分に対して何も言って来ないし、自分も関わる必要性をあまり感じないので最低限の会話を交わすくらいだ』と言った少し家庭環境に難があるのかな?と感じるようなものだった。
少なくとも多少娘を侮辱されたからと言って国王に躊躇なく火炎魔法をぶっぱなしたり、三年前のように先述の国王陛下の『どちらでも』という単語に両親揃ってぶち切れ、殴り込みに行こうとするのをミレイユと二人で止めなくちゃいけないと言う謂わば親バカ過激派の家庭ではなかった筈だ、絶対に。
ただこれに関してはOSミレイユの性格を鑑みると、両親は『何も言わない』んじゃなくて他者を寄せ付けないオーラをびしばし放っていた彼女とどう接して良いか分からなくて『何も言えなかった』って可能性もあったんじゃないかなあってのはリーナになったからこそ思うところではある。
ちなみにそんな三年前の時は私がジルの婚約者になればミレイユは悲しまなくていいんじゃ、と一瞬思い立ったけどその時点で彼女がジルに淡い思いを抱いていた事を知っていたし、そもそも前世の「ジル=クズ」という方程式が今世において脳内にばっちり刷り込まれているせいか何をどう頑張っても彼をそういう対象に見れそうになかったので断念した。
だってなぁ、ジルと婚約したらゲームのストーリー上私が悪役令嬢になる可能性もあるし、そうなったらあのラストシーン迎える前に『こんな浮気者こっちから願い下げだわ』って三行半突き付けちゃいそうだし。
流石に王族を振るのは父様の地位とかうちの家名的にもまずい……うん、きっとまずい筈だよね、多分。
「……あの、父様。それで、経緯は分かりましたけど何故国王陛下は今この時期に私と……いえ、アイレンヴェルグ家とリュカディアルド国王家との繋がりを求めているのですか?」
「――ああ。なに難しい事ではないさ。リーナも知っている通り、ここロシェレヴェルク大陸はアズカドーレ国、ロシュガルト国、リュカディアルド国、そして我がアリヴェイユ国の通称四大王国が統治しているだろう? これはまだ内緒なのだがロシュガルト国第二王子とアズカドーレ国第二王女が近々婚姻する事が決まってね。これで両国の仲はより強固なものとなるだろうから、うちの国王としては少し焦っているんだろう。あの二つの国の国王はどちらも平和主義者だからないとは思うが、もし万が一手を取り合ってロシェレヴェルクを支配しようと戦でも起こされたらアリヴェイユ国はひとたまりもないからね。」
「……成る程。だから国王陛下としてはもしもの時に備えてリュカディアルド国という後ろ盾が欲しいという訳ですか。」
そのままとりあえず気を取り直して未だ歯噛みしながら唸っている父に話を振れば、何だか少しきな臭さを感じるような説明に眉を寄せ顎に手を添える。
てか、これがRPGやアクションゲームの世界だったり、ラノベでよくある異世界系ものだったら確実に戦とか起こりそうだけどオヴエイグリムストーリーはあくまでも乙女系な恋愛ゲーム。
そんな事は起こらないとは思いたいけど。
…………ただ。
「全く。本来ならそんなものうちを巻き込まず王族同士で何とかしろとは思うが、リュカディアルド国にもアリヴェイユ国にもそう言う年頃の女の王族がいないからね。それに何より……。」
「……うちのミレイユは我がアリヴェイユ国第二王子の婚約者ですから。ミレイユとジル王子がこのまま何事もなく婚姻すればミレイユは王族となり、アイレンヴェルグ家も王家と関係を持つ事になります。その時に私がリュカディアルド国の第四王子と結ばれていれば、アリヴェイユ国とリュカディアルド国の関係もまた強固になると陛下は考えておられるんですね?」
「……リーナのその理解力の高さには我が娘ながらたまに驚かされるよ。まあつまりはそういう事だ。うちの娘達が双子であるのを良いように利用しているなあの馬鹿国王。」
「……あはは。」
さらにそう続けまさに憤怒そのものの表情を浮かべる父に曖昧に笑いながら瞳を伏せた。
……ただ。
そう、これは本来のOSでは絶対に起こり得ない、リーナが生きていているこの世界だからこその展開だ。
つまりここで私が見合いを承諾すれば明日から始まる筈の本編にも何らかの影響が出るかもしれないし、その結果OSとはストーリー展開が変わる事だって有り得るのかもしれない。
それが良い方向に変わるのならまだいいが、もしそうじゃなかったら……。
いっそ断ってしまうのも手だけど、そうすると国王陛下のうちへの心証が…………や、国王に火炎魔法ぶっぱするような臣下相手に特にお咎めがなさそうな時点でそれは大丈夫かな、多分。
ただこの見合いにそう言った意図があるなら受けておいた方がミレイユのためにもなるんだよね。
私が第四王子の婚約者になれたらの話だけど、もしそうなったら主人公に惚れたのでミレイユとの婚約破棄しますなんてジルの行為は私とアイレンヴェルグ家を完全に敵に回す行為であり、それはつまりリュカディアルド国とアリヴェイユ国の関係に亀裂が生じさせる要因になり得るだろう。
そうなれば国王だって当然黙ってはいない。
……第四王子を利用するようで申し訳ないけど、でも私はそれでも、ミレイユをあんな目に合わせたくない。
だから、後は……。
「――父様、大体のお話は分かりました。お見合いをお受けする前に、その、不勉強で申し訳ないのですけど隣国でありながら私、リュカディアルド国の第四王子の事をよく存じあげないのでお人柄や容姿等が知りたいのですが、何か資料とか写真はないですか?」
「……む、いやリーナが知らないのも無理はない。リュカディアルド国において表立って動くのは国王を除けば第一王子と第二王子が主だからな。特に第四王子は海外視察に駆り出される事も多く、国には殆どいないし今回も四年ぶりにリュカディアルド国に帰国するそうだ。」
「……そうなのですか。かなり優秀な方なのですね。海外視察は語学力がある事は勿論それに付随する知識と、何よりコミュニケーション能力がなければ勤まらないものですし。」
「その通りだ。それとリュカディアルド国王には十五人子どもがいる事は知っているね? その王子達に関して自分より年が下の弟達の面倒を一番見ているのが第四王子だとも聞いている。それもあってか彼を穏やかで面倒見がいい柔和な人柄だと評する者は多い。さらに剣の腕は国で一、二を争う程の腕前で氷結魔法の使い手との事だ。しかも医学の心得もあるらしい。」
「…………凄すぎません?」
つらつらと語られる第四王子の情報にパチパチと瞳を瞬かせる。
てかそんなスペックだったらわざわざお見合いなんかしなくても自国の女性達が放っておかない気がするし、何より私吊り合わなくない?
や、そりゃあ外見はミレイユと同じだからともかくとしても中身がこれだし。
「はは、そうだな。唯一の欠点と言えば女性にかなり奥手なところだそうだ。それで御年十七になるのに浮いた話が一つもない事にリュカディアルド国王もかなりやきもきしていたようで、いっそ国中の年頃の令嬢を集めて舞踏会でも開くべきかと悩んでいたところへうちの国王から我が家との見合い話を持ちかけられ飛び付いたの事だ。あと王子の容姿が分かるものは手元にはないが明日になれば分かるだろう。何せ彼も明日からリュミラルスへ転入するそうだから。」
「明日!!?」
「ああ、見聞を広げる為だそうだ。学年はお前達より一つ上だがリーナのクラスは伝えてあるから恐らく顔を合わせる事にはなるだろう。」
「……そっ……うですか。」
……と言うことは?
明日、私はそのお見合い相手と顔を合わせなきゃ行けなくて? 尚且つこの世界には主人公がトリップしてくると?
主人公に関しては明日はまだトリップしてくるだけで、リュミラルス魔法学校に彼女が転入するのはトリップしてから二日後だったからまだ少し時間はあるものの、それにしたってあまりの予想外な展開に一瞬素で叫びかけるのを何とか堪え内心の動揺を押さえ付けながら何とか声を振り絞ると、徐にデスクから立ち上がると私に歩み寄ってきた父様にがしっと両肩を掴まれた。
「と、父様っ!?」
「…………リーナ。リュカディアルド国の第四王子との見合いを受けるかどうかは勿論お前次第だ。私の耳に届いている範囲では第四王子はなかなかな好青年と言えるだろう。だが!! 少しでも嫌だと思ったら遠慮なく言っておくれ! その時は私が必ずこの話を白紙にしてみせる。そう、どんな手を使ってでもだ!!」
「ヒェッ」
そう話す父様の目はどこまでも真剣そのもので。
この人なら普通にやりかねないと言う妙な確信を感じ、今度は別の意味で息を飲んだ。
「………………………………ああ、そうだ、リーナ。」
「……父様。」
かなり大きな相違点が生まれたのはそれから二日後、ゲーム通りならいよいよ明日主人公がこの世界にトリップしてくるという前夜の事だ。
この二日間が本当に特に何事もなく平穏無事に過ぎ去ったのも相俟っていっそ明日何も起こらなければいいのに、主人公なんてこの世界に来なければいいのにと我ながらOSの根本を否定してるよなあと苦笑したくなるような淡い願いを胸に抱きつつ、何だか落ち着かないまま夕食後に呼び出された彼の書斎で今世の父であるケオ・アイレンヴェルグ公爵から告げられたのはアリヴェイユ国の隣国であるリュカディアルド国第四王子と私の見合い話が持ち上がっているという予想だにしていなかった内容だった。
いつもの聡明はどこへ言ったのかと疑いたくなるくらいにギリギリと歯を食いしばり、私の問いかけにたっぷりと三十秒は間を置いてから頷いた、見るからに重厚で高級そうな両袖の書斎机に肘を付き組んだ手をがたがた震わせている清潔感のある黒のオールバックに聡明さを宿した私と同じ空色の瞳に髪と同じ色の口髭が特徴的な苦味走った壮年男性である父様に思わず苦笑すると何を想像したのかまるで死刑宣告でも受けたかのようにその顔に絶望が浮かんでいく。
……いや、おかしいでしょ。
「……あ、あの、父様?」
「すまないリーナ。断ろうとはしたんだが、この見合いを薦めてきたのは馬鹿国王でね。三年前、あの馬鹿に『お前のとこの娘どちらでもいいからうちの第二王子と婚約者させるつもりはないか』等と軽い気持ちで言われた時も腸が煮えくり返ったが、今回も同じような感じで『余ってる方』とか言って来たからうっかり最大火力で火炎魔法を使ったものの肝心の見合いは白紙にならなかったんだ。」
「……え、いえ。え?」
『最大火力で火炎魔法を使ったものの』??
下手したら不敬罪や謀反で引っ捕らえそうな事をあっさりと言い退けてさらに悔しそうに歯噛みする父様にツッコミが全く追い付かず困惑する。
……と言うか。
ある意味これも相違点なのだろけど、OSで家族について尋ねられた時ミレイユ自身が話した家族像は『両親は放任主義で自分に対して何も言って来ないし、自分も関わる必要性をあまり感じないので最低限の会話を交わすくらいだ』と言った少し家庭環境に難があるのかな?と感じるようなものだった。
少なくとも多少娘を侮辱されたからと言って国王に躊躇なく火炎魔法をぶっぱなしたり、三年前のように先述の国王陛下の『どちらでも』という単語に両親揃ってぶち切れ、殴り込みに行こうとするのをミレイユと二人で止めなくちゃいけないと言う謂わば親バカ過激派の家庭ではなかった筈だ、絶対に。
ただこれに関してはOSミレイユの性格を鑑みると、両親は『何も言わない』んじゃなくて他者を寄せ付けないオーラをびしばし放っていた彼女とどう接して良いか分からなくて『何も言えなかった』って可能性もあったんじゃないかなあってのはリーナになったからこそ思うところではある。
ちなみにそんな三年前の時は私がジルの婚約者になればミレイユは悲しまなくていいんじゃ、と一瞬思い立ったけどその時点で彼女がジルに淡い思いを抱いていた事を知っていたし、そもそも前世の「ジル=クズ」という方程式が今世において脳内にばっちり刷り込まれているせいか何をどう頑張っても彼をそういう対象に見れそうになかったので断念した。
だってなぁ、ジルと婚約したらゲームのストーリー上私が悪役令嬢になる可能性もあるし、そうなったらあのラストシーン迎える前に『こんな浮気者こっちから願い下げだわ』って三行半突き付けちゃいそうだし。
流石に王族を振るのは父様の地位とかうちの家名的にもまずい……うん、きっとまずい筈だよね、多分。
「……あの、父様。それで、経緯は分かりましたけど何故国王陛下は今この時期に私と……いえ、アイレンヴェルグ家とリュカディアルド国王家との繋がりを求めているのですか?」
「――ああ。なに難しい事ではないさ。リーナも知っている通り、ここロシェレヴェルク大陸はアズカドーレ国、ロシュガルト国、リュカディアルド国、そして我がアリヴェイユ国の通称四大王国が統治しているだろう? これはまだ内緒なのだがロシュガルト国第二王子とアズカドーレ国第二王女が近々婚姻する事が決まってね。これで両国の仲はより強固なものとなるだろうから、うちの国王としては少し焦っているんだろう。あの二つの国の国王はどちらも平和主義者だからないとは思うが、もし万が一手を取り合ってロシェレヴェルクを支配しようと戦でも起こされたらアリヴェイユ国はひとたまりもないからね。」
「……成る程。だから国王陛下としてはもしもの時に備えてリュカディアルド国という後ろ盾が欲しいという訳ですか。」
そのままとりあえず気を取り直して未だ歯噛みしながら唸っている父に話を振れば、何だか少しきな臭さを感じるような説明に眉を寄せ顎に手を添える。
てか、これがRPGやアクションゲームの世界だったり、ラノベでよくある異世界系ものだったら確実に戦とか起こりそうだけどオヴエイグリムストーリーはあくまでも乙女系な恋愛ゲーム。
そんな事は起こらないとは思いたいけど。
…………ただ。
「全く。本来ならそんなものうちを巻き込まず王族同士で何とかしろとは思うが、リュカディアルド国にもアリヴェイユ国にもそう言う年頃の女の王族がいないからね。それに何より……。」
「……うちのミレイユは我がアリヴェイユ国第二王子の婚約者ですから。ミレイユとジル王子がこのまま何事もなく婚姻すればミレイユは王族となり、アイレンヴェルグ家も王家と関係を持つ事になります。その時に私がリュカディアルド国の第四王子と結ばれていれば、アリヴェイユ国とリュカディアルド国の関係もまた強固になると陛下は考えておられるんですね?」
「……リーナのその理解力の高さには我が娘ながらたまに驚かされるよ。まあつまりはそういう事だ。うちの娘達が双子であるのを良いように利用しているなあの馬鹿国王。」
「……あはは。」
さらにそう続けまさに憤怒そのものの表情を浮かべる父に曖昧に笑いながら瞳を伏せた。
……ただ。
そう、これは本来のOSでは絶対に起こり得ない、リーナが生きていているこの世界だからこその展開だ。
つまりここで私が見合いを承諾すれば明日から始まる筈の本編にも何らかの影響が出るかもしれないし、その結果OSとはストーリー展開が変わる事だって有り得るのかもしれない。
それが良い方向に変わるのならまだいいが、もしそうじゃなかったら……。
いっそ断ってしまうのも手だけど、そうすると国王陛下のうちへの心証が…………や、国王に火炎魔法ぶっぱするような臣下相手に特にお咎めがなさそうな時点でそれは大丈夫かな、多分。
ただこの見合いにそう言った意図があるなら受けておいた方がミレイユのためにもなるんだよね。
私が第四王子の婚約者になれたらの話だけど、もしそうなったら主人公に惚れたのでミレイユとの婚約破棄しますなんてジルの行為は私とアイレンヴェルグ家を完全に敵に回す行為であり、それはつまりリュカディアルド国とアリヴェイユ国の関係に亀裂が生じさせる要因になり得るだろう。
そうなれば国王だって当然黙ってはいない。
……第四王子を利用するようで申し訳ないけど、でも私はそれでも、ミレイユをあんな目に合わせたくない。
だから、後は……。
「――父様、大体のお話は分かりました。お見合いをお受けする前に、その、不勉強で申し訳ないのですけど隣国でありながら私、リュカディアルド国の第四王子の事をよく存じあげないのでお人柄や容姿等が知りたいのですが、何か資料とか写真はないですか?」
「……む、いやリーナが知らないのも無理はない。リュカディアルド国において表立って動くのは国王を除けば第一王子と第二王子が主だからな。特に第四王子は海外視察に駆り出される事も多く、国には殆どいないし今回も四年ぶりにリュカディアルド国に帰国するそうだ。」
「……そうなのですか。かなり優秀な方なのですね。海外視察は語学力がある事は勿論それに付随する知識と、何よりコミュニケーション能力がなければ勤まらないものですし。」
「その通りだ。それとリュカディアルド国王には十五人子どもがいる事は知っているね? その王子達に関して自分より年が下の弟達の面倒を一番見ているのが第四王子だとも聞いている。それもあってか彼を穏やかで面倒見がいい柔和な人柄だと評する者は多い。さらに剣の腕は国で一、二を争う程の腕前で氷結魔法の使い手との事だ。しかも医学の心得もあるらしい。」
「…………凄すぎません?」
つらつらと語られる第四王子の情報にパチパチと瞳を瞬かせる。
てかそんなスペックだったらわざわざお見合いなんかしなくても自国の女性達が放っておかない気がするし、何より私吊り合わなくない?
や、そりゃあ外見はミレイユと同じだからともかくとしても中身がこれだし。
「はは、そうだな。唯一の欠点と言えば女性にかなり奥手なところだそうだ。それで御年十七になるのに浮いた話が一つもない事にリュカディアルド国王もかなりやきもきしていたようで、いっそ国中の年頃の令嬢を集めて舞踏会でも開くべきかと悩んでいたところへうちの国王から我が家との見合い話を持ちかけられ飛び付いたの事だ。あと王子の容姿が分かるものは手元にはないが明日になれば分かるだろう。何せ彼も明日からリュミラルスへ転入するそうだから。」
「明日!!?」
「ああ、見聞を広げる為だそうだ。学年はお前達より一つ上だがリーナのクラスは伝えてあるから恐らく顔を合わせる事にはなるだろう。」
「……そっ……うですか。」
……と言うことは?
明日、私はそのお見合い相手と顔を合わせなきゃ行けなくて? 尚且つこの世界には主人公がトリップしてくると?
主人公に関しては明日はまだトリップしてくるだけで、リュミラルス魔法学校に彼女が転入するのはトリップしてから二日後だったからまだ少し時間はあるものの、それにしたってあまりの予想外な展開に一瞬素で叫びかけるのを何とか堪え内心の動揺を押さえ付けながら何とか声を振り絞ると、徐にデスクから立ち上がると私に歩み寄ってきた父様にがしっと両肩を掴まれた。
「と、父様っ!?」
「…………リーナ。リュカディアルド国の第四王子との見合いを受けるかどうかは勿論お前次第だ。私の耳に届いている範囲では第四王子はなかなかな好青年と言えるだろう。だが!! 少しでも嫌だと思ったら遠慮なく言っておくれ! その時は私が必ずこの話を白紙にしてみせる。そう、どんな手を使ってでもだ!!」
「ヒェッ」
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