上 下
6 / 14
第一章

第5話 能力把握

しおりを挟む
「さてどうしたもんかなあ……」
 耕助はうっそうと樹々が生い茂る山中で倒木に腰かけつつ、昼食を食べながらそう呟いていた。
 食べているのはバルナルドが持たせてくれた弁当のサンドイッチで、挟まっているのは何の肉かは解らないのだが甘辛い味付けが非常に美味だった。

「どうするもなにも、早くこの山中から出るようにするしかあるまい。まったく、もう少ししっかりしてほしいものだ」
 同じように弁当を食べながら耕助を責めるように言うのは、自称耕助の忠実な従僕であるミケだ。

「そんなこと言ったってこんな山中を歩いた経験何て無いんだぞ。しかも頼りの地図は前のところとは全然違うし……」
 地図を見ながらぼやく耕助。その地図は当然ながら等高線が描かれているようなものではなく、どうも大雑把で耕助からしてみれば確かに難易度が高かった。

「それを言っているのではなく、さきほどからのについて言っているのだ。あのはしゃぎっぷりも間違いなく一因であろう」
「それは……」
 ため息をつくミケの指摘に耕助も言葉に詰まる。
 ミケが言っているのはここに来るまでの道中で耕助が行っていたのは自分の、ライバの能力の把握についてで、まず基本的な身体能力を確かめてみたかったということもあり、ただ移動するだけでなくそれこそ歩いたり走ったり飛んだり跳ねたりいろいろと試したのだ。

 初めはやはり身体の節々にどこか違和感を感じていたのだがだんだんと馴染み、慣れ始める。
 例えるなら子供の頃散々乗っていた一輪車に二十年ぶりにでも乗ったような感覚で、記憶は薄れているどころか本来は体験したこと無い筈なのに身体は覚えており、最初はぎこちないが慣れると文字通り自分の手足の如くだった。

 運動不足で不健康な生活を送っていた耕助の身体とは天地の差で、どれほど走ろうと息切れ一つしないし軽く跳ねてみただけでも二階建ての住宅より高く跳べた。
 体感では百メートル走は三秒を切っているだろうし、長距離マラソンでも疲れもせず三十分以内は確実で、いずれも本気を出さずにだ。
 敏捷性だけでなく体力自体も相当なもので自分の何十倍もある大岩を動かすこともできた。
(やはりゲーム内で使い込んでいたというのが大きいんだろうな……しかしこの身体は本当に凄い)
 自分の、ライバの身体を見下ろしながらそう耕助は感心したものだ。

「自分の身体能力把握は最優先だ、別に遊んでいたわけじゃないぞ」
「確かにそこそこ物騒な世界ではあるようだからな……しかしあれは新しい玩具を手に入れた子供の如きはしゃぎぶりだったので少し苦言を言いたかったのだ」
 淡々としたミケの物言いにこの駄猫三味線にしてやろうかという思いがもたげるが、この異世界において自分の事情を知っている貴重な味方……になるはずだし、ミケの持つ特殊能力が生命線になる可能性は高いので自重する耕助だった。

「そして前言も撤回しよう、主は勢いで行動しては駄目だ。熟慮して物事を進めた方がいい」
「自分でもよく解ったよ……」
 今までの人生で調子に乗って失敗した数々を思いだし、ため息をつく耕助。
 ましてやここは異世界、今までの常識や経験が通用しないことも多いはずなので慎重な行動を心がける決意をする。

「まあ責任の所在や主への追及はともかく、これからどうするかなのだが……」
「方角的には間違ってないし距離も大分稼いだ。もう少しでルトリーザに続く街道にぶつかるはずだ」
「それしかないか。最悪山小屋に戻ればいいだけのこと」
 現状は遭難一歩手前の状態だが、一人と一匹に悲壮感のようなものは感じられない。
 何故かと言えば最後の手段としてバルナルドの山小屋に戻るというのが残されているからだ。

「出来ればそれは避けたいんだよなあ」
 バルナルドには既に色々と世話になっているのに、この上更に頼るのは情けないし気が引けてしまうのだ。

「まあそこら辺の葛藤は置いておくとして……能力把握というのであれば吾輩の方も試しておくか?」
「そうだな、アイテムボックスがこれだからな……」
 耕助は懐に手を突っ込み念じる。すると脳内にインベントリとして所持品の一覧が表れる。
 これはゲーム内ではアイテムボックスとして使っていたもので、本来ならステータス画面を通じて呼び出すのだがこの世界においてはこのようにして使うことができた。
 アイテムボックスが使えると解った時には喜んだのだが、中身が空っぽだったのには心底落胆したものだ。

 本来ここには手に入れた素材や消耗品などが大量に詰まっているはずだったが、自分の頭の中に浮かんでいる空っぽのインベントリ見て耕助はため息をつく。

「ここまでは再現してくれなかったか……ただアイテムボックスそのものは使えるんだよな。収納には便利だ」
 そこら辺の適当な石を拾いアイテムボックス内に収納するとインベントリに登録される。これを利用すれば色々と出来るはずだ。
 ゲーム内においては指先ほどの宝石でも何人も乗れる馬車でも同じ一つとして登録されていたので、どういった物を収納できるかできないか等についても検証が必要だろう。

「それに一番苦労した装備品が残っていたのは不幸中の幸いか。ていうかこれが無くなっていたら本気で泣いていたかもな……」
「主よ、いくぞ」
 作成する時の苦労を思いだして感慨にふけっていた耕助には構わず、ミケは自分の特殊能力である【治癒】を使う。
 ミケから発せられた光が耕助の全身を覆い、身体全体が暖かくなりしばらく光った後ゆっくりと消えていく。
 これはゲーム内でHPの回復をする【治癒】と全く同じだった。

「どうやら吾輩の【治癒】も問題なく発動するな。【治療】の方も大丈夫そうだ……とは言え発動しただけ、実際に治してみないと効果のほどは解らんな。主よ、試しに何か怪我をしてみないか?」
「嫌に決まってるだろ……」
 このミケだが主人として認識してくれているし、基本的に言うことは聞いてくれているのだがどうにも扱いづらい。
 しかし負傷を治す【治癒】や毒や病気といった様々な状態異常を治す【治療】、この異世界では命を左右しかねない有益すぎる能力なのでこのまま付き合っていくしかないだろう。
 それに試しに他のサポートキャラを呼べるかどうかを実行してみたが、サポートキャラはキャラクター選択画面でしか選べなかったせいかこれは無理だった。

(替えがきかない以上、上手に付き合っていくしかないか……)

「あとは【蘇生】だが、これに関しては気軽に試すわけにいくまい」
 ミケの持つ回復能力の最上位にある【蘇生】、これは文字通り死からの復活だが色々と制限があるためそう簡単に試すわけにもいかなかった。

「とは言え念のため試しておきたいよな」
「ふむ、ならば主よ一回死んでは……」
「死ぬか!……あとお前の【治癒】があっても回復薬が一個もないのは不安だな。アイテム作成を試してみるか」
 耕助が念じると現れたのは薬研と呼ばれる大型の乳鉢のようなもので、これはニンジャのアイテム作成スキルに使え主に薬関係を作ることが出来る。

「作りたいと思えば出せるのか……とりあえず材料はこれでいいな」
 そこらに生えている草をむしり、すり潰し始める。
 質や作成数、成功率に拘らなければこういった雑草からも回復薬を作れるのだが、当然専用の薬草を使えば成功率も高く質の良いものが出来る。

 三度ほど失敗した後表れたのはゲーム内で散々使用した回復ポーションで、形状としては丸薬状になっている。
 ただこれはゲーム内においては最低品質で、回復量は課金も含めて最大HPを増やしまくっている耕助から見れば雀の涙といったところだが、それでも無いよりは遥かにマシだろう。

「何とか作れるがゲーム内と同じような量産は難しそうだな」
 ゲーム内においては自動作成モードにして放置しながら大量作成も可能だったがそれは無理そうだ。
「どうもゲーム内ではシステム上不可能だったことが出来るようになったり、逆に不可能になったり制限がかかったりと様々で色々と検証していく必要があるな……さて、次は忍術を試したいところだが」
 ニンジャ特有の、そして目玉スキルである忍術。
 火遁や水遁に手裏剣といった攻撃的なものから、煙幕や分身といった補助や搦め手のような使い方もできるなど多種多様だ。

「ただ忍術は戦いに関するのも多いからな。実戦で使わないと勝手が掴めないか」
「吾輩とのコンビネーションも、相手あってこそだからな」
「あれか……それこそ奥の手だからな」
 それにこんな木々の生い茂った山の中で火遁の術を使えば山火事を起こしかねない、どうしたものかと耕助が考え込んでいると、不意にミケが何かに気づいたように耳と尻尾を逆立てる。

「主よ、何やら音が……声がするぞ」
 言われて耕助も耳を澄ますが特に何も聞こえず、どうやら耳に関してはミケの方が鋭いようだ。

「何やら切羽詰まってるような……案内は出来るぞ、行くか?」
「行こう」
 耕助は迷わず立ち上がり、ミケを肩に乗せ走り出した。

 ミケの指示の下走り出す耕助、方角的に合っていたのは間違いなかったようで、すぐに樹々を抜けて街道らしきものが見えた。
 文明に触れて遭難状態から助かったという思いから少しほっとするが、ここまでくると耕助にも聞こえてくる。

「これは……戦いの音だな」
「血の臭いもしてきたぞ」
 緊迫してきた雰囲気も感じ取られ、耕助は足を速めた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

箱庭から始まる俺の地獄(ヘル) ~今日から地獄生物の飼育員ってマジっすか!?~

白那 又太
ファンタジー
とあるアパートの一室に住む安楽 喜一郎は仕事に忙殺されるあまり、癒しを求めてペットを購入した。ところがそのペットの様子がどうもおかしい。 日々成長していくペットに少し違和感を感じながらも(比較的)平和な毎日を過ごしていた喜一郎。 ところがある日その平和は地獄からの使者、魔王デボラ様によって粉々に打ち砕かれるのであった。 目指すは地獄の楽園ってなんじゃそりゃ! 大したスキルも無い! チートも無い! あるのは理不尽と不条理だけ! 箱庭から始まる俺の地獄(ヘル)どうぞお楽しみください。 【本作は小説家になろう様、カクヨム様でも同時更新中です】

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...