強くてニューサーガ

5巻

5-1

　　１


　視界いっぱいに広がる、一瞬海と見間違うぐらいの広さを持った大河――チグテス河。
　世界最長となるこの河は、ロインダース大陸の人族じんぞく領を西から東に横断する形で流れている。本流の川幅はといえば、目を凝らしても対岸は遠く霞かすんで見えないくらいに大きい。
　そんな雄大な流れの上を行きかういくつもの船のうちの一つに、カイル達はいた。
　ゆっくりとだが確実に流れを遡さかのぼっていくこの旅客船は、これほどの大河でなければとても運用できないような巨大さで、五百人はゆうに乗れるだろう。甲板上には、カイル達の他にも乗客の姿が多数見受けられた。
　船が川を遡上そじょうする方法としては、帆に風を受けたり、川岸から家畜に引かせたりなどがあるが、この船は調教した川の魔獣に牽引けんいんさせている。
　船首に繋がれた鎖の先は水中に向かっており、川底を巨大なカメの形をした魔獣がゆっくりと歩いて船を引っ張っていく。
　川に迫るかのようにそびえ立つ岸壁には、神話になぞらえた石像が並んでいる。
　何百年も前に稀代きだいのドワーフ彫刻家が一生をかけて一人で彫ったというこの遺跡は、今では観光名所となっており、甲板には多くの見物人が出てきていた。

「あれが有名なゲオラの彫刻か……見事だ、ドワーフが彫ったとは思えないな」

　種族単位で仲の悪いドワーフの仕事を見て、エルフであるウルザはやや不本意さを滲にじませながらも褒ほめる。

「確かに見事じゃな……お、あれは？」

　シルドニアが右舷うげんの先に見えてきた、赤や黄などの鮮やかな色をした水鳥の群れを指さす。その数は数えきれないほどで、ほとんど水面を埋め尽くしている。

「ふむ、あの鳥はガーヨの群れであるな。ザーレスの時代から観賞用として有名な水鳥じゃった」

　シルドニアはそんな風に言いつつも、実際に見るのは初めてだ、と少しだけ興奮気味の様子である。
　楽しげな姿は幼い外見に相応のもので、その中身が人族史上最も偉大な魔法使いとして伝わる『魔法王マジックキング』の分身であるとはとても思えなかった。

「しかし、当時はあれほどの数はいなかったはず。随分と繁殖を……おお！」

　シルドニアがそう言った丁度そのとき、水中から巨大な魚の群れが現れ、それに驚いたガーヨの群れが一斉に飛び立った。
　視界を埋め尽くす幻想的な色彩の美しさに、カイル達のみならず甲板上にいた全ての客が目を奪われる。

「わあ、凄い……」

　リーゼは目を丸くし、口の前で両の掌てのひらを合わせながら感嘆かんたんの声を上げる。

「……でもあの鳥、筋すじが多くて食用には適さないのよね、魚の方も臭みが強くて食べられないそうだし」

　しかし彼女はひと通り歓声を上げた後、残念そうな声を出した。その目は、魚や鳥を完全に食材として見ていた。

「そういう感想はどうかと思うぞ」

　素直に見入っていたカイルが、花より団子どころではないリーゼにため息をつく。

「なんじゃそれはつまらんな、あの魚は食い応えがありそうであったのに」
「あ、でも調理次第ではいけるそうよ。例えば、牛の乳に漬けて臭みを消す方法があって……」
「ほうほう」

　食用に適さないと聞いて同じく残念そうになったシルドニアだが、リーゼの説明に目を輝かせ始める。
　そんな幼馴染おさななじみを見て、逞たくましくなったと思おう、とカイルは自分を納得させた。

「それにしてもほんとでかい川だよな……リマーゼの小川とは大違いだ」

　甲板の柵に頬杖を突いていたセランが、故郷の街に流れていた川を思い出し、感心ともぼやきともとれる声を出す。
　故郷の名がセランの口から出たことで、リーゼは思い出したようにカイルに聞いた。

「そうだ、カイル。リマーゼにはいつ戻るの？　一度くらいは戻ってもいいと思うけど……きっと大歓迎してくれるよ？」

　カイルがエッドス国で『竜殺し』の名声を得てから三か月が経った今、彼に対する世間の評価は大きく変化していた。
　武人として最高の称号である『竜殺し』が数百年ぶりに誕生したという噂は、瞬またたく間に人族の間に広がっていき、カイルの名を多くの人が知るようになった。
　これにより、来きたるべき魔族の襲撃『大侵攻』に際して人族への影響力を持つべく、まず己の知名度を上げるというカイルの目論見もくろみはほぼ達成できていた。そうして一区切りできたのだから、一度故郷に戻らないかとリーゼは言っているのだ。

「……いや、まだ早い。やることがあるからな」

　カイルは少しだけ考える――ふりをした後、首を横に振る。

「それに下手に戻ったら、当分拘束されそうだ」

　リマーゼは何の特徴もない辺境の街だ。有名になった今のカイルが戻れば、祭り並の騒ぎとなるだろう。そうなれば当分の間、旅を再開できなくなることは明白だった。

「ああ、まあ確かに……レーゼル様なんかは絶対街の発展に利用するわね。銅像ぐらい建てるかも？」
「もうやってるんじゃないか？　噂を聞いたらすぐに、『竜殺し』生誕の街、とか宣伝ぐらいはしてそうだ、あの婆さん」

　リーゼとセランは、優しくも抜け目のない故郷の長老のことを思い出す。
　カイルもまさに現実にありえそうな故郷の状況を想像し、顔色が悪くなる。

「やっぱり当分戻れないな……何なら俺に構わず、リーゼやセランだけで戻っていいんだぞ？」
「あたし達だけ戻ってもしょうがないじゃない」
「俺だって戻るつもりはねえよ……まあ、お前は他にも帰りたくない理由がありそうだがな」

　セランがニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべながらカイルを見る。

「どういうこと？」

　リーゼの問いに、セランはカイルに聞こえないよう――実際はまる聞こえだが――わざとらしく小声で言う。

「ほれ、セライアさんの件で、顔を出しづらいんだよ」
「ああ……」

　リーゼが納得した顔になる一方、母セライアの名前を出されたカイルは憮然ぶぜんとした顔になる。
　旅の途中で出会った、セランの義母でカイルの師匠でもあるレイラが言うには、セライアは現在妊娠中とのことで、間もなく出産を迎えるはずだった。

「あたしとしては赤ちゃんに会いに行きたいんだけど……」

　子供好きのリーゼだ。それこそ実の弟、妹のように可愛がるだろう。
　だが肝心のカイルは明らかに乗り気ではない。

「……別に弟だか妹だかが出来るのはいいんだ。ただ、今帰ると騒がしくさせてしまうだろう」

　間もなく生まれるというのであれば、自分はかえって邪魔になる。カイルはそう言うのだが、リーゼは大きくため息をついた。
　別に親子仲が悪い訳ではないが、どうもカイルは昔から母親に対して素直になれないところがあり、特に思春期は顕著けんちょだった。
　妊娠の話を聞いて以降、カイルの態度はそれが再発したかのようになっている。嬉しいとか嬉しくないとかではなく、色々と複雑で受け入れ難い様子だ。

「ほんと子供よね……」

　リーゼがとことん呆れた口ぶりで零こぼし、カイルを半目で睨にらむ。

「うぐ……」

　その視線にカイルは言葉に詰まる。

「大体カイルは昔からそうなのよ。確かにセライアさんはあたしの目から見ても家事全般まるで駄目だし、生活能力皆無で主婦失格だと思うわ」
「お前も相当酷ひどいこと言ってるな……」

　セランが思わず突っ込むが、否定はできなかった。

「でも、カイルのことを本当に大事に想ってくれているでしょ。なのに素直になれないなんて……」
「あ～あ～聞こえない、聞こえない」

　都合が悪くなったカイルは、両手で耳を押さえて喚わめき始める。
　昔、リーゼに問い詰められたときに誤魔化ごまかす、というか開き直るときによく使っていた手だ。

「ちょっと！　話を聞きな……」
「何を騒いでいるんだ、お前達は。目立ちたくはないのだろう？」

　ウルザにあきれ顔で注意されると、リーゼは慌てて口を押さえ、カイルもしまったと周りを見る。幸いにして、他の乗客は景色を見るのに忙しいようで、二人はほっと胸を撫で下ろした。


　今までカイルはなるべく目立つように行動してきたが、既にカイルの名は一人歩きし、勝手に広まっていく状況になっている。
　こうなるとこれまでとは逆に、立ち居振る舞いを正し、悪目立ちをしないよう気を付けなければならない。どこで誰に見られているか解らないので、理想的な英雄像を崩さないよう、常に言動に注意していた。
　現に、この船に乗った直後、一般客からひそひそと遠巻きに噂されていたのだった。
　解っていたことではあるし、自分が望んだことでもあるが、当分は息苦しい生活が続くことになる。

「こほん……とにかくだ、もう少しで目的地なんだから、そっちでの用を済ませるのが先決だ」

　カイルは咳払いをして気を取り直す。

「丁度見えてきたぞ。あれであろう」

　シルドニアが前方を指さすと、この旅客船の終着点である都市バヨネが見えてきた。
　バヨネはチグテス河の中州なかすとも言うべき場所にある観光都市で、同時に商業都市でもあった。
　都市の周りには旅客船や貨物船など大小様々な船が数多く泊まっており、人と物が集まる都市だとひと目で解る。
　もちろん、カイル達はただ船旅をしていた訳ではない。先ほどまでのような観光はあくまでついでで、他に目的があってこの船に乗っている。
　名声が充分に広まった今、カイルの計画は次の段階に入った。
　それは、人族の中でも有力者や権力者と言われる人物に会い、人脈を形成すること。
　そして、まず会うべき人物が都市バヨネにいるのだ。


　港に到着したカイル達は、シルドニアの「何はともあれ食事じゃな」との提案に全員で賛成し、観光客用の高級レストランに向かった。
　バヨネは水路が張り巡らされた都市で、小型の船に乗って街の名所を案内されるのが名物となっている。カイル達が入ったレストランは、この都市の大通りと言うべき大きな水路に面していた。

「眺めがいいわね」

　リーゼが手すりに身を乗り出しながら、楽しげな声を出す。カイル達が案内されたのは三階のテラス状の席で、眼下の水路では観光客を乗せた小舟が行き交っていた。

「ふむふむ、中々の品ぞろえじゃの」

　十人は席に着けるだろう大きなテーブルには、シルドニアが文字通りメニューの端から端まで片っ端から注文した料理が所狭しと並んでいる。
　大河の中州という特別な立地条件に相応しく、川魚や貝などの料理が多いが、流通の盛んな商業都市でもあるので、珍しい食材や調理の仕方を取り入れた料理もある。

「何だこれ？　……魚？　それも生か？」

　そのうちの一つ、白身魚と思しき切り身を、眉根を寄せたセランがつつく。

「確か……サシミだったか？　新鮮な魚の切り身に特製のタレをつけて生で食べる、東方の島国の料理だそうだ」

　カイルが思い出しながら答える。

「魚を、生のままでか？」

　果物や一部の野菜以外、生で食べる習慣のない地で育ったセランが、信じられないという表情になった。

「あそこは変わった食べ物が多いらしい。他には発酵した豆をライスに載せて食べる、なんてのもあるようだ」
「……俺は絶対そっち方面には行かねえ」

　食文化の違いにちょっとしたカルチャーショックを受けているセランをよそに、リーゼが思い出したように尋ねる。

「あ、東と言えばミナギはどうしてるの？」

　話題に上のぼった東の島国出身のミナギ。一応旅の仲間なのだが、基本的に別行動をとっており、必要なとき、それもほぼカイルの前にしか姿を現さない。

「いつも通り、別行動中だ」

　ミナギは先行してこの都市に来ており、情報収集などを行っていた。間もなく向こうから連絡を寄越よこしてくるだろう。

「そっかあ……たまには一緒にご飯を食べたいんだけど」

　少し不満そうにリーゼが言う。

「言っただろ、ミナギは俺達と一緒にいるところを見られたら動きにくくなる」

　ミナギの役目はあくまで裏方で、仲間と思われていない方が都合がよく、このような人目につくところで一緒にいる訳にはいかないのだ。

「理屈は解るんだけど……」

　食事は大勢で食べた方が美味おいしいのに、と口を尖らせるリーゼ。
　リーゼもはじめは、裏仕事専門で暗殺すら行うという彼女にどう接していいか解らなかったようだったが、その人となりを知り、特に共に戦う経験を過ごしてからは積極的に関わろうとしていた。今ではむしろ、ミナギの方が戸惑っているぐらいだ。

「ふぉれ、ふぁふぇっふぇふぉふぁんふぇ、ふぁっふぁふぉふぁふぇんふぁ」
「だから口に物を入れたまま喋るなよ……」

　希少な香辛料を惜しげもなく振りかけて香草を巻いた肉を頬張り、リスのように口を膨らませたシルドニアが何かを言うが、カイルは全く聞き取れなかった。
　そうした騒がしいとすら言える食事が一段落した頃、デザートに手の込んだ色とりどりのケーキが運ばれてきて、女性陣は目を輝かせる。

「うむ、果実の自然な甘さとは違う濃厚さがあるな」

　生クリームをふんだんに使ったケーキにホールごとかぶりつきながら、うんうんと満足気な声を出すシルドニア。

「あたしはどちらかと言えば果物の自然な甘さの方が好きだけど、これも美味しいわね……あ、香り付けにコクの実を使ってるんだ。こういう店で食べるのって、勉強になるわね」

　リーゼはフルーツケーキを興味深げに観察し、匂いも楽しみながら食べている。

「どっちもいい……」

　実は食いしん坊で、甘い物が特に好きなウルザは、普段の毅然きぜんさが微塵みじんも感じられない半ば恍惚こうこつとした表情を浮かべながら、チョコレートケーキを口に運んでいた。
　このように女性陣が揃ってほわんとした顔でケーキを堪能する一方、それほど甘党ではないセランとカイルはこれからどうするかの話に集中している。

「で、この後は……確かクラ何とかいうおっさんと会うんだっけ？」
「クラウス・マルニコだ。有名人だぞ」

　全く興味がないと言わんばかりのセランに、カイルは一般常識にすら近い人名を挙げた。
　クラウス・マルニコは、元はこの都市出身のただの船乗りに過ぎなかったが、自ら立ち上げた商会を一代で世界最大規模にまで発展させた立志伝中の人物であり、いわば商人の英雄だ。彼の名は下手な王様よりも知れ渡っている。
　そのマルニコ商会の本拠地はここバヨネにあり、実質この都市を支配していた。

「でも、結構なお偉いさんなんだろ？　会えるのか？」
「ああ、事前に手紙を送っているが、愛想いい返事が来たよ」

　既に約束は取り付けてある、とカイル。

「ふうん……まあどっちにしろ、おっさんなら俺には関係ないし、興味ない」

　セランはフルーツの盛り合わせの中から比較的甘くないものを取って齧かじり、どうでもいいといった具合に返す。

「お前にとってはそんなところだろうな」

　カイルもお茶を飲みつつ、手にした紙に目をやっている。

「ん？　それなんだ？」
「さっき立ち寄った配達ギルドで受け取った手紙だ」

　配達ギルドとは文字通り、手紙や荷物などを配達する組織である。この大陸は、古代魔法王国ザーレスの時代に作られた街道が今もしっかりと残っており、交通の便がよい。そのため組織の配達区域は人族領の大部分を網羅もうらしており、多くの人が利用していた。
　追加代金を払えば結構融通を利かせられるため、カイルは自分宛ての手紙がここまで届くようにしていたのだ。

「今読んでいるのは……エリナからの手紙だ」
「エリナか？　私にも見せてくれ！」

　ケーキの甘さで顔が蕩とろけていたウルザだったが、エリナの名を聞くと、はっとしたように身を乗り出してくる。
　カイル達は以前訪れたエッドス国で、ダークエルフの父と人間の母を持つエリナと出会い、ダークエルフ、ドラゴン、魔族、そしてメーラ教が複雑に絡み合った事件を共に解決した。エリナはできればカイル達の旅についてきたかったようだが、療養中の母親ルクテラが完全に回復するのにまだ数か月が必要だった。結局彼女はエッドスに残ったものの、こうして手紙のやり取りを続けていたのだ。
　手紙の内容は主に近況報告で、それによるとルクテラはほぼ快癒したとのことだった。また懇意にしているダークエルフ、パセラネの尽力のおかげで、母子揃って父親の墓参りができたなど、疎遠になっていたダークエルフ一族との関係も徐々に改善しつつあるらしい。

「そうか……」

　手紙の文面からその喜びが伝わってきて、ウルザは目を細めてどこか安心したような笑みを漏らす。

「あとは……ゴウからの報告もある」
「なに、ゴウからか」

　今度はシルドニアが興味深げに身を乗り出した。
　ゴウは鉱山都市カランに住む魔技師まぎしと呼ばれる魔道具マジックアイテムの専門家だ。現在はカイルをスポンサーに、ザーレス時代の強力な人型魔道兵器、ゴーレムの復元を目指している。
　過去、シルドニアはゴウに魔道具に関する指導をしており、ちょっとした師匠気分なので、彼の様子が気になるのだろう。

「で、なんじゃと？」
「ああ、復元は順調らしい。全工程の約半分は終えたとのことだ」
「ほう、思ったより早いな。まあ素質はあったし、環境もいいとなれば捗はかどるというものか」

　シルドニアはうんうんと、感心した声を上げる。
　ゴウはカランの都市長ガザスの義理の息子であり、また実質的な支配国であるジルグス国の大使ミランダからも全面支援の約束を取り付けている。それだけ権力者のコネがある状態ならば、研究のための色々な融通も利くことだろう。

「まあ費用は湯水のように使っているらしいがな」

　今回寄越してきた報告には予算の追加要請もあり、城が買えそうな要求額を見たカイルが苦笑して言った。
　かといって、それに関して文句を言うつもりはなく、むしろ必要ならいくらでも出すつもりだった。

「ただなあ……」

　手紙を見ながら、カイルが顔をしかめる。
　確かに順調らしいのだが、報告書の中で段々と不穏な言葉が目立ってきているのが少々気になっていた。
　例えば「やはり機能美だけでなく造形美も追求すべきですよね！」「効率と美意識、両立させてみせます！」などと力説しているのだ。
　前世の魔族との戦いで人族の大きな戦力となったゴーレムは、武骨で無機質なだけで造形美などはカケラも感じさせない、かろうじて人型と言える程度の形状だった。「造形美」「美意識」などの言葉は明らかに、カイルの知っているものには似合わない。

「あいつは……何を作ってるんだ？」

　頭痛がしてきたのか、眉間を指で揉みながらカイルが言う。

「ふむ、まあただ優秀なだけなら真面目でもいいが、所謂いわゆる天才はどこか突き抜けたところがあるものじゃ。ゴウもその類たぐいじゃろうな。安心せい、過程はどうあれ奴は結果を必ず残すであろう…………多分」

　手紙を覗き込みながら、シルドニアが一応のフォローをする。

「だといいんだがなあ……」

　不安そうに天を仰ぐも、この件はゴウに一任するしかない。とりあえず深くは考えないことにするカイルだった。