強くてニューサーガ

阿部正行

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4巻

4-3

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 5


 翌日の早朝、まだ薄暗い中、カイル達は東の大門に来ていた。
 リネコルをぐるりと囲っている街壁は、人族に対してのものでない。魔獣、最悪の場合ドラゴンの襲来を想定して造られている。両開きの大門は非常に分厚く頑丈で、重々しい。
 門は日没と同時に閉められ、日の出と共に開けられる。カイル達の周りには、彼らと同じように開門と共に出発しようとしている行商人や旅人、そして森に入ろうとしている冒険者達が見受けられた。

「よ、よろしくお願いします!」

 先に来ていたエリナがカイル達を見つけて駆け寄り、緊張した声で挨拶しながら大きく頭を下げた。

「…………」

 だがカイルはそれに答えず、じっとエリナの顔を見る。
 昨日もそうだったが、特に気になるのはその目だった。
 カイル本人にも理由はよく解らないが、エリナの目を見る度に妙に心がざわついてくるのだ。

(どこかで会ったか? 向こうには俺に対する面識はないようだから前の人生で……いや、間違いなく会った記憶はない。だとしたら……)

「えっと…………な、何か問題でも?」

 難しい顔でじっと見られたことで困惑の表情になった後、もしかして依頼人の機嫌を損ねたのかと不安になり、エリナは慌てたような声を出す。

「女の子の顔をじろじろ見るんじゃないの!」

 だが何か答える前に、リーゼの肘打ちがカイルの脇腹に突き刺さった。

「がぶっ!?」

 ドラゴンレザーという最高級の鎧を身につけているはずなのに、がっくりと崩れ落ちる。
 リーゼの放った肘打ちは、普通なら鎧に阻まれるはずの衝撃を肉体まで貫通させる、高度な技術が使われていた。少なくとも旅に出る前はできなかったことだ。
 これは彼女が旅の最中でも自己鍛錬を怠らなかった努力の成果、そして実戦を潜り抜けてきた成長のあかしである。
「う、腕を上げたな……け、けど……できればこういう形で知りたくはなかった……」 
 リーゼが強くなろうとしているのは、他ならぬカイルのためである。自分の力になりたいというリーゼの思いを身をもって知り、感謝と同時に脂汗が溢れ出てくるカイルだった。

「リーゼの突っ込みもだんだん洒落しゃれにならなくなってきたな……」

 普段からカイルと並んで突っ込みを受ける立場のセランも冷や汗をかく。
 うずくまるカイルを無視して、リーゼはエリナの方に向き直る。

「あ、あの……頑張りますのでよろしくお願いします!」

 目の前で起こった暴行事件に呆然としつつ、エリナも気を取り直して気丈きじょうに挨拶をする。
 どんな相手が来るのかと身構えていたリーゼだったが、エリナの先ほどからの様子を見て肩の力を抜いた。

(……なるほど、放っておけない気持ちも解るかな)

 リーゼにも、エリナの必死な様子が見て取れたのだ。

「あたしはリーゼって言うの、よろしくね」

 続いてセラン、シルドニア、ウルザも軽く自己紹介をしていく。
 エリナは、セランの軽薄な自己紹介には曖昧に微笑み、見た目は自分より小さな少女であるシルドニアの場違い感に少し首を傾げ、エルフであるウルザを見て驚いた表情になった。

「……地図を持っているとのことだが、見せてくれないか」

 ウルザがそう言うと、エリナは慌てて懐から手製の地図を取り出す。
 それを見たウルザは、描かれている図や記号、森の様子などについて質問した。それにエリナが淀みなく答えると、納得した様子で頷く。

「……かなり細部まで書き込まれている、良い出来だ」

 これなら信用しても大丈夫そうだ、とウルザは太鼓判を押した。

「そ、そう言えば聞いていなかったが、仲間はいないのか?」

 脇腹を押さえながら、カイルも質問する。

「は、はい……わたしは個人で活動しています。何か問題があるでしょうか?」

 エリナの声は少し不安げだ。
 冒険者は大抵徒党を組んで仕事をする。その方が効率がいいからだ。
 一人で活動する冒険者は、完全な新人か、自分の実力に自信があるか、もしくは何らかの事情を抱えているか、だ。

「……いや、ちゃんと案内さえしてくれれば問題ない。改めてよろしく頼む」

 エリナがどれに当てはまるか解らないが、カイルにそこまで立ち入るつもりはなかった。

「は、はい! ありがとうございます!」

 カイルだけでなく、他の仲間にも認められたことで、安堵したらしい。エリナもようやく年相応の柔らかい表情になる。
 そんなエリナにまた目を奪われそうになったカイルだったが、リーゼが発する不穏な気配を感じ、慌てて話題をそらす。

「そ、それにしてもさすが冒険者の国だな。早朝からこんなに大勢とは」

 周りの冒険者達を見ながら、カイルは感心したように言う。

「いえ、これでも最近は少ない方です。特に奥地へ向かう人は減っています」

 エリナにそう言われ、カイルはさりげなく周りの会話に耳を傾ける。すると、皆やはり最近活発に活動しているドラゴンのことを話題に出していた。
 ドラゴン相手には手の打ちようがないし、具体的な被害が出ている訳ではないので気を付ける以外どうしようもない、という感じだった。

「ドラゴンについては何か知っているか?」

 カイルが聞くと、エリナは首を横に振る。

「わたしも遠くから見かけたことがあるだけで、詳しくは……ただ、ドラゴンのすぐ側に人影を見たという噂を聞いたことがあります」
「人影? ドラゴンが人と一緒にいたのか?」

 カイルが驚きの声をあげる。

「いえ、あくまで噂でして、わたしも見たことはありません……そもそもドラゴンがこんな人目につくような行動をするなんて初めてで……」

 エリナは難しい顔になる。

「まあ、そこら辺は後で直接聞いてみれば解ることじゃ」
「……は?」

 シルドニアが当然のように言うので、エリナは思わず間の抜けた声を出す。どういうことか聞き返そうとしたその時、開門の鐘が鳴り響き、重々しい音を立てて大門が開いていった。

「じゃあ行くとするか」

 カイルが皆に告げ、一行は門に向かった。


  ◇◇◇


 エッドスの森の特徴としてまず挙げられるのは、過酷な環境だ。
 気温が高く、高い湿度とも合わさって、移動するどころかただ立っているだけで体力を消耗してしまう。
 地形そのものも起伏が大きく、移動しにくくて迷いやすい。
 そして最も恐ろしく、最も警戒しなければならないものは、この地に棲まう狂暴な魔獣達だ。
 念入りな準備と森を熟知した者の支援がなくば、半日生き延びることすら奇跡、と言われるほど危険な森なのである。

(……そのはずなんだけど……)

 森を進んで半日が経つ頃、エリナはカイル達によって、自分の経験と常識が覆される気分を味わわされていた。

「ふう、やっぱり買っておいてよかったわね、これ」

 涼しげな顔でこう言うリーゼは、この高温多湿の中で汗一つかいていない。皆が羽織っているフード付きマントのおかげだ。
 そのマントをよく見てみると、白い煙のようなものが発せられ、周囲に漂っている。これは冷気系魔法を付与された魔道具マジックアイテムだ。羽織ることで身体全体が冷気で包まれるという、携帯型の冷房装置である。

「そうですね……」

 エリナも噂以上の性能に驚いていた。もしこれがあったなら、普段の採集仕事もさぞはかどることだろう。
 だが、冷気系魔法を魔道具に使うのは技術的に難しいので、この品は希少性が高く、非常に高価だ。
 しかも使い捨てで、費用対効果が高いとは言えない。
 冒険者達は金を稼ぐためにこの森に来るのであって、赤字になるようでは元も子もない。いくら快適に過ごせるとはいえ、使用する者はあまりいなかった。
 だがカイル達はそれを人数分、しかも予備を含めて用意していた。リネコルの街にあった在庫を全部買ったのだろう。おそらくその総額はエリナに払う報酬を超えるはずだ。
 おかげでスムーズに森の中を進めている訳だが、それはカイル達の身体能力がとても高いためでもあった。
 森の住人であるエルフのウルザはともかく、カイルやセラン、リーゼまでが凄まじい体力を持っていて、案内人であるエリナもついて行くのがやっとという有様だった。
 中でも異様なのはシルドニアで、彼女だけ冷気のマントを着ていないというのに、顔色一つ変えず、まるで体重がないかのように軽やかな印象だ。
 次にエリナは、目の前に横たわる、小山のような図体のワイルドボアという魔獣に目をやる。通常の猪の十倍はあろうか。
 ワイルドボアの毛皮と厚い脂肪は並の金属鎧よりも遥かに強固で、その上生命力も強い。巨体から繰り出す突進は、木々を紙屑かみくずのように弾き飛ばしてなぎ倒す破壊力を誇る。軍の重装歩兵小隊でも全滅しかねないほどの強敵だ。
 エリナのようなソロの冒険者にとって、怒れるワイルドボアとの遭遇は死を意味している。
 それほど危険な魔獣を、カイルはただの一撃で仕留めたのだった。
 ワイルドボアは、しっかりとした準備をした一流冒険者が数人がかりでやっと倒せるかどうかの魔獣で、間違っても一人が一瞬にして倒せる相手ではない。それが今までのエリナの常識であった。
 先ほど不意の遭遇をしたのだが、彼は突進してくるワイルドボアに対してあくまで冷静に立ち向かった。
 ぶつかる直前に真上に跳んで回避すると、そのまま空中で抜剣。ワイルドボアの延髄にある、脂肪が薄く骨もない急所を寸分たがわぬ正確さで貫いた。
 まさに瞬殺。ワイルドボアはその後もしばらく突進を続けたが、やがてようやく自分が死んだことに気付いたかのように、地響きを立てて倒れた。
 そのカイルの動きを把握できていたのはセランだけだ。ウルザとリーゼは目で追うのがやっと、エリナに至っては視認すらできなかった。

「皆さん……凄いですね……」

 エリナが呆気にとられた声を出す。

「いや、エリナに事前にここらにいる魔獣の種類や、急所の場所を教えてもらっていたおかげだ。それに前もって警告してくれたおかげで効率よく対処できたよ。ありがとう」

 本当に何でもないことのようにカイルは言う。

「いえ、そんな……」

 案内人でありながらこれまでほとんど役に立てていないエリナは、すっかり自信を喪失している。

「で、どうするこれ」

 セランが横たわるワイルドボアを指さす。

「血の匂いで、他の魔獣が寄ってくるかもしれません。そろそろ日が傾いてきましたから、急いでここから離れた方がいいです」

 我に返ったエリナは自分の役目を思い出し、カイル達に警告する。

「ああ、それなら大丈夫だ。消臭用の魔道具を用意してあるし、魔獣けの結界もあるから、ここでキャンプでいいだろう」

 カイルの言う魔道具は、どちらもマント同様とても高価である。

「じゃあせっかくだから、今晩はイノシシ鍋にでも……」
「あ、静かにお願いします」

 リーゼが小山のようなワイルドボアを見上げ、今夜の献立を提案した時、何かに気付いたエリナが、小さくも鋭い声で警告する。

「この羽音は……キラービーですね。大型の蜂で、主に花の蜜を集めますが、雑食性なので肉も食べます。人族も平気で襲ってきます」

 それが群れで近づいてきています、とエリナは警告する。

「……よく気付いたな。私でも今ようやく聞こえてきたというのに」

 耳を澄ませていたウルザが、感心したように言う。
 先ほどのワイルドボアの出現時もそうだったが、人間よりも聴覚が優れるエルフのウルザよりも先に、エリナは気付いている。

「え、ええ……そうでもなければ生き残れませんし……それよりキラービーは、個体の強さはそれほどではありませんが、飛んでいることと数が厄介です。やはりここからすぐに離れた方がいいです」

 今なら充分逃げられます、とエリナ。
 それなら無駄に戦うこともないかとカイルは移動しようとするが、シルドニアがそれを遮る。

「待て……ということはキラービーの巣が近くにある訳じゃな?」

 鬼気迫ると言ってもいいくらいの迫力で、難しい顔をしたシルドニアが聞く。

「え、ええ……そ、そういうことになりますが……?」

 その迫力に押されたのか、エリナは半歩後ろに下がりながら答えた。

「……キラービーの蜜は普通のハチミツよりも濃厚で、滋養強壮に効く上、美容にも良いのじゃ。ザーレス時代も珍重されておった」
「そ、そうなの?」

 シルドニアが呟くと、美容にも良いという部分にリーゼが食い付く。

「うむ、そして肝心の味もまた極上じゃ……口に含むと脳に直接響くかのようなとろける甘さが広がるのだが、それでいて不思議とくどさはない。喉越しもよく、喉から鼻にかけてくすぐるように風味が広がり、心地よい余韻がいつまでも残る……まさに究極の蜜じゃな」

 シルドニアの熱のこもった語り口に、リーゼもウルザも思わず生唾を呑み込む。

「カイル、セラン……頼んだわよ! 今夜はイノシシ鍋とハチミツたっぷりのパンにしてあげるから!」

 リーゼが握り拳を作りながら言う。

「二人とも……どんな犠牲を払ってでもキラービーの巣からハチミツを取ってくるんだ!」

 意外と甘いもの好きのウルザも、二人に発破を掛ける。

「行くのは俺達かよ!」

 それほど甘いもの好きではないセランが文句を垂れる。

「……ちょっと食い合わせ悪くないか?」

 今夜のメニューを想像して、何となくカイルの顔色が悪くなる。

「ええい! ぐだぐだ言わずに気合いを入れて狩ってこい!」

 シルドニアが叫ぶと、女性三人の妖しい目の輝きに気付いたカイルとセランは回れ右をして、現れたキラービーの群れの方へ向かう。
 ああいう状態の女達には逆らわない方がいい――二人は半ば本能でそう理解した。


「……凄い人達だなあ……」

 何とか言葉を選んで感想を漏らすエリナだった。


 このように、採算度外視の念入りすぎる準備とカイル達の能力の高さのおかげで、探索は思いのほか快適で充実したものとなっていた。




 6


 日がほとんど暮れ、僅かに西の空に明るさが残る中、カイル達は焚火を囲んで食事をとっていた。
 こういった野営での食事は保存食品で済ます場合が多い。内容は固いパンや干し肉、他には精々チーズや木の実といったところで、とりあえず栄養補給になればいいという、無味乾燥な食事になりがちだ。
 しかし今夜は、野営中だというのに非常に豪華だ。
 リーゼの宣言通り、焚火にくべられている鍋の中では、新鮮なワイルドボアの肉やジャガイモのような根野菜が煮えており、食欲をそそる匂いをあたりに充満させている。
 他にも、エリナが採取してきたこの森特有の果実に加え、保存に適さないはずの生野菜のサラダや、生魚の料理までが並んでいた。
 これはリーゼが下拵したごしらえをしておいた特製料理だ。本来はそれほど日持ちしないのだが、わざわざ【プリザーベイション】という保存魔法の使い手に依頼して、半永久的に瑞々みずみずしさを保たせている。
 それにかかる手間や費用は、大国の首都にあるような貴族御用達の店でもやらないほど採算を度外視したものだが、その価値はあった。事実、この旅路で食事に不満が出たことは一切なかった。
 特に今日は、キラービーのハチミツという滅多に食べられない高級食材がある。その甘露かんろさに女性陣は揃って頬を緩ませている。特にウルザはまさに恍惚こうこつと呼ぶべき表情になっており、話しかけても返答がないくらい夢中だった。
 無論、周囲の警戒は怠っていないし、念には念を入れて魔獣を寄せ付けない結界も張ってある。それ故、死と隣り合わせの森とは思えない賑やかな雰囲気がこの場に漂っていた。

「しかし、でっけえ木だよなあ」

 食事を終えてひと息ついたセランは改めて辺りを見渡すと、感心とも呆れともとれる声をあげ、目の前に生えている巨木を見た。
 周りを囲うには大人が数十人は手を繋がなければならないような巨木だが、この森には同じくらい大きな木が至る所に生えている。

「こんな木、リマーゼにはなかったよね……樹齢何百年くらいだろ?」

 リーゼも故郷を思い出しながら、地元では決して見ることのなかったほどの巨木を見上げる。

「いや、この大きさは精々数十年といったところじゃ」

 食後にハチミツをたっぷりと入れた紅茶を飲みながら、シルドニアが言う。

「これは魔法樹と言って、地に流れる魔力である地脈を養分として育つ樹木じゃ。ここエッドスの地脈が濃い故に良く育ち、大型になる……そして魔法樹をはじめ魔力の強い植物を餌とする草食の魔獣や幻獣、更にそれらを食べる肉食の魔獣や幻獣が、この地に棲み着くという訳じゃな」

 紅茶の味に満足気な表情を浮かべながら、シルドニアが語る。

「へえ、どうりで……」

 この森に来てから妙に大きい植物ばかり見ていたことを、リーゼが思い出す。

「詳しいですね」

 エリナが驚いた様子で言うと、シルドニアは当然と言わんばかりに得意になって更に語り続ける。

「古来、地脈の流れはこの地が大陸で最も濃い。それ故ここに地脈を利用した数々の魔法実験施設を造らせ、それらが魔法王国ザーレスの繁栄のいしずえとなったのじゃが……その跡地が遺跡となって今の世に残っておるとは……移ろうは世の宿命さだめとはいえ、はかないものよ」

 栄枯盛衰えいこせいすいよのう、と陰を帯びた笑みを浮かべつつ首を横に振り、しみじみと感傷に浸るシルドニア。どうやら美味おいしい物を食べたので機嫌が良くなり、饒舌じょうぜつになっているようだ。

「えっと……造らせた、って?」
「ああ、気にしないでくれ……それよりこれからの日程なんだが」

 シルドニアの発言にエリナが首を傾げるが、その疑問を誤魔化すように、カイルが話しかける。

「あ、はい……えっと、予想では六日でしたけど、これなら三日もあれば『竜の巣』に着くと思います」

 エリナは地図を取り出して説明する。

「ただこれは最短距離をとった場合で、そうするとダークエルフ達の活動範囲を突っ切ることになります。もし完全に避けるとしたら、大きく迂回しなければなりません」
「ふむ……もし突っ切った場合、遭遇せずに潜り抜けることはできるかな?」
「向こうの縄張りですし、今は密猟で警戒度が高まっているから難しいと思います。わたしとしましては、迂回することをお勧めします」
「そうか……」

 エリナの答えを聞いたカイルは考え込む。現状、急ぐ必要はない。もしダークエルフと遭遇した場合、どう考えても友好的にすませられるとは思えないし、敵対するとなればかなり厄介な事態になるだろう。
 ただここで問題になるのはやはりドラゴンのことだった。活発に行動している理由が非常に気になるのだ。もし何らかの問題がドラゴン側に起こっているならば、無理をしてでも早めに行った方がいいのかもしれないが……

「あの……何か問題でも?」

 悩むカイルを見て、何か失敗したのかと不安になったエリナが様子を窺う。

「……やはり迂回していく。ただしなるべく早く行きたいので、ギリギリのルートでお願いしたい」
「は、はい! 解りました! できる限り最短で行きます」

 ほっとしたような声を出して、エリナは大きく返事をした。


  ◇◇◇
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