【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保

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第34話 デート(8)結末

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 次の日まだまだ足りないものがあるからと、シズとジャモンと一緒に買い物に出た。祭りは終わり、街の人はシズがこっちに来た日よりずっと少なかった。
「シズの服とかもかわないとね。いつまでもその格好だと」
 上下ジャージ姿のシズを見てジャモンが言った。すれ違う膝丈のワンピースを着た女性を目で追う。
「ここの女ってあんな格好が主流?」
 ジャモンもワンピースを見るとスカートが多いかなと言った。
「けどズボンをはいてる女性も結構いるよ。とりたてて珍しいことではない」
「へえ」
 思ったほどは窮屈じゃなさそうではなく、よかったとシズはほっとする。
「城人も男女問わず制服ズボンだしね」
 ジャモンはついでに教えた。ジャモンにお金を貰うとジャモンが食材を買っている間に、シズは服屋に入って適当に服を買った。下着を買うときにまた男に間違われ、乳を揉むかといえば謝ってくれ、さらにまけてくれた。
「あ、靴下買わなきゃ」
 シズが独り言を零した時、背後から強烈な悲鳴が聞こえた。
「なんだ? 」
 悲鳴が聞こえた方をみると人々が上の方を見ていた。その先は紫アパートの三階のベランダだった。
「子どもが! 」
「おい! 落ちるぞ! 」
 五歳ぐらいの子どもがベランダの柵の上にまたがっていた。
「ぼうや! 落ちるぞ! 」
 そう叫んだ白い髭のじいさんにシズは見覚えがあった。そのじいさんの言葉を喜ぶように子どもは下に手を振った。
「手を離すな! 落ちるぞ! 」
「おい、じいさん」
 シズが声をかけるとじいさんは目を見開いた。
「あんたは城人さんともめて橋から飛び降りて華麗なる着水を決めさらに見事な泳ぎを見せたこの間の……! 」
「なげーよ。それよりこれ持ってて」
 シズは買ったものをじいさんに押し付け持たせた。
「くれるのか? 」
「あげねーよ。ちょっと持ってて。盗むなよ」
 シズはじいさんから離れ、十分な助走距離をとる。いけても二階まで。そこから一気に三階の柵を掴もう。シズはイメージをして走り、跳んだ。右足で踏み切り、壁を二歩歩くと二階の柵の上を蹴ってどうにか三階の柵の下を掴んだ。足をあげ柵の間に足をかけると、シズは子どもと目があった。
「すごいあの子! 飛んだわよ」
 下から歓声が聞こえた。子どもはシズのことを喜び、両手を上げてこっちにこようとした。
「ちょっ! 」
 子どもの体重が外側に倒れる。歓声が悲鳴に変わる。傾く子どもにシズは腕を伸ばし飛びついた。子どもを掴んだ感触を確かめると内側に引っ張りこんだ。そして背中からベランダにドスンと落ちた。人の気も知らず胸の上で子どもがきゃっきゃはしゃいでいる。
「なに? 」
 ベランダに子どもの母親らしき人が現れた。母親は飲み込めない状況を見て絶句していた。シズは苦笑いをした。
「お、お邪魔してます」
 子どもは楽しそうに笑い続けた。

 事情を知ると母親は何度も何度もシズに頭を下げた。シズは気にしないでとしつこくいうと階段で下におりた。
「やっぱあんた、ただもんじゃないな! 」
 じいさんがシズに駆け寄ってきた。
「それはどうも。荷物ありがとう」
 シズはじいさんから荷物を受け取るとジャモンを見つけた。
「ジャモン。もしかして見てた? 」
「見てたよ。三階まで行くなんて信じられないよ。シズは凄い身体能力の持ち主なんだな」
「言っただろ。体が弱い設定は無理があるって」
 ジャモンは本当にな、と笑った。
「足速いんだ。泳ぐのも得意。あと喧嘩も」
 シズが自慢気に言えばジャモンは急に閃いた、と大声を出した。
「何を? 」
「突破口をだよ」
「え? 」
 シズは首を傾げる。
「シズが元の場所に帰るにはカーネスさんを捕まえてしかるべきことをすることだ。それができる可能性があるよ! 」
「え! なんだよ! 」
 シズは食い付いた。
「シズがヨンキョクになればいいんだ」
「……は?」



「お疲れ様です、ストム副局長。学校の方に来るのは久しぶりですな」
 城の敷地内にある「アベンチュレ青少年学校」の事務室に七局副局長のカル・セドニはいた。
「呼ばれてきた帰りだ。来月は入学試験だからな」
「試験官するんですってね」
「今年はクラスを持つ」
 セドニがうんざりした顔を隠さず出すと事務長はおかしそうに笑った。
「仏頂面にしては正直者ですな、セドニ副局長」
「よけいなお世話だ」
 無愛想に言ってセドニは事務室を後にした。
 学校は右棟、左棟の二つに分かれており二階にある渡り廊下で繋がれている。左棟の二階にある事務室を出たダズは渡り廊下のあるところで足を止めた。
 渡り廊下には歴代の学校の入学者の集合写真が飾られている。スペースの関係上飾られているのは過去十五年分だ。学校は終戦後に設立され終戦記念日と同じく今年で百周年を迎える。そのため今年の入学者達は記念すべき百期生だ。
 セドニは九十七期生、三年前の集合写真を見入った。そしてある男の顔を見つける。
「同じ顔か」
 セドニは眉間に皺を寄せ、写真の前から立ち去った。

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