【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保

文字の大きさ
上 下
11 / 34

第11話 セフレ(5)お礼

しおりを挟む
「終わったぁぁぁ!」

 早苗は両手を上げた後、そのまま後ろに倒れて椅子の背もたれにもたれた。

 あのまま一人で迷走していたら絶対に終わらなかった。桜木のお陰だ。

「最終チェックもオッケーです。先方に送っちゃって下さい」

 そうだった。送らないと終わりじゃない。

 早苗は会社のファイル共有システムに報告書を登録し、そのURLリンクを顧客にメールした。

「今度こそ終わったぁぁぁ」
「お疲れ様でした」
「桜木くんもお疲れさま。ほんと助かった。感謝しかない」

 パソコンの電源を落として立ち上がる。桜木も鞄を持って早苗について来た。

「終電までにはまだ時間あるけど、どこか店に行くには遅いよね。明日もあるし、また今度日程調整しよう。明日のお昼でもよければそれでもいいけど、桜木くんは夜ご飯の方がいっぱい食べれていいよね? ――っと、ごめん」

 ロッカーから荷物を取り出して振り返ると、桜木の体がすぐ目の前にあった。胸に顔をぶつけてしまって謝る。

「桜木くん?」

 なぜそんなに近くにいるのだろう。そして、ぶつかったというのに下がってくれない。

「どうしたの?」
「……何でも食べていいんですよね?」
「え、うん」

 何度も言ってるじゃない? と見上げて首をかしげる。値段など気にしなくていい。これはお礼だし、桜木は後輩なのだ。

「じゃあ、俺、先輩がいいです」
「え?」

 何を言われたのかわからず聞き返すと、桜木は早苗の顔の両側に手をつき、顔を近づけてきた。

 目をつぶる間もなく、ちゅっと音を立ててキスをされた。

「何す――んん……っ」

 桜木の胸を押し、何するの、と言おうとしたが、桜木は口が開いた瞬間を見逃さず、舌を差し入れてきた。

「ん……んっ」

 ぞわりと背筋に快感が走る。

「桜木、くんっ……駄目……っ」

 逃げようにも、後ろにはロッカーがあって、それ以上下がれない。

 キスはどんどん深くなっていく。

「先輩……んっ」
「駄目っ……桜木、くん……っ」

 桜木は先日覚えた早苗の弱いところを重点的に責めた。

 気持ちいい……っ。

 こんなキス知らない。

 早苗の手からどさっと鞄が落ちた。

 あの時は突然だったのと酔っていたのもあってよくわかっていなかったが、素面しらふの今はよくわかる。

 早苗がこれまで経験してきたキスとは全然違うものだった。

 頭がふわふわして、力が抜けていく。

 ロッカーに背を預けてずり落ちそうになった早苗を、桜木の腕が支えた。

 なおもキスは続く。

「ん……先輩っ……はぁっ……先輩……っ」

 キスをしながら、伏し目がちになった桜木の瞳は、早苗の目を熱く見つめる。

 桜木の片手が、ジャケットの上から早苗の体をまさぐり始めた。

 やがてジャケットのボタンが外され、ブラウスの上から体を触られる。

「待って、ん……待って桜木くんっ、ここ会社……っ」
「誰も来ませんよ……んっ……もう、みんな帰ってます」
「そういう問題じゃ――」

 制止しようとするが、桜木は止まってくれない。

 その手がブラウスのボタンにかかったとき、早苗はなけなしの力をかき集めて、精一杯抵抗した。

「いやっ!」
「っ!」

 鋭い声に、桜木がびくりと体を震わせて、一歩後ずさった。

 桜木の支えを失った早苗は、ロッカーに体を預けてなんとか立ったままでいる。

「すみま、せん……」

 桜木が顔をこわばらせている。

 早苗は片腕で自分の体を抱きしめ、視線を斜め下に落とした

「俺、そんなつもりじゃ――」
「……じゃ、嫌」
「え?」
職場ここじゃ、嫌」
「それって……」

 こくり、と早苗がうなずく。 
 
「じゃあ、俺んち来て下さい」

 黙ってロッカーからお泊まりセットを取り出す早苗を待って、桜木は早苗をドアの方へとうながした。



 職場のビルから少し歩いたところでタクシーを捕まえ、桜木のマンションへと向かう。

 乗っている間、桜木は何も話かけてこず、早苗も黙っていた。

 何をやっているんだろう、と思った。

 私これから、桜木くんとえっちするんだ……。

 これは酔った勢いなどではない。自分で選択して、自分の意思で、桜木に抱かれようとしている。

 職場の後輩とそんな関係になってもいいのだろうか。

 それでも、やっぱりやめよう、とは思わなかった。

 一度してしまったのだ。一度も二度も変わらない。

 桜木は後腐れのない関係は得意なようだし、お互い大人だ。

 別に流されてもいいじゃないか。

 何より、求められるのが嬉しかった。

 熱のある目で見つめられるのも、あんなに深いキスをするのも、こんなに体が熱くなるのも、久しくなかったことだ。

 早苗はようやく、自分が寂しかったのだと自覚した。



 桜木がマンションの部屋のドアを開けたとき、それまで大人しく後をついて行っていた早苗は、肩にかけた鞄の取っ手を両手でつかみ、部屋に入る直前でぴたりと足を止めた。

 入ったら、もう戻れない。

「あの、先輩、嫌なら――」

 ずっと黙っていた桜木が気遣うように言ったが、言い終わらないうちに早苗は部屋へと足を踏み入れた。

 後ろから桜木が入ってきて、後ろ手にカチャリとドアの鍵を閉める。

 三和土たたきで立ち止まっていた早苗の体に桜木の両腕が回り、後ろから抱きしめられた。

「先輩……いいんですよね……?」

 こくり、と早苗がうなずく。

 すると桜木は早苗を体ごと振り向かせ、キスをした。

「んっ」

 電気もつけていない玄関で、二人は熱い口づけを交わす。

「先輩……っ、先輩っ」
「ん……っ、んんっ」

 再び早苗が体の力を無くしそうになると、桜木は早苗をだっこをするように片腕で抱え上げた。

「きゃっ」

 パンプスをぽいぽいっと脱がせて、そのまま寝室へと飛び込み、ベッドへと寝かせる。

 桜木は乱暴にジャケットを脱ぎ捨てて自分のネクタイを引き抜くと、早苗のブラウスのボタンを素早く外し、ジャケットと一緒にぎ取った。

 ベルトと下もさっと脱がされて、早苗はあっという間に下着姿にされる。

 桜木もワイシャツを脱いで上半身はだかになった。

 カーテンを閉めていない窓から入ってくる街灯の明かりに照らされた桜木の体は、しっかりと筋肉がついていて引き締まっていた。

 なでつけていた髪が一筋ひとすじ乱れていて、色気をかもし出している。

「先輩……」

 早苗を見下ろすその目には、情欲の色が浮かんでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

拾った宰相閣下に溺愛されまして。~残念イケメンの執着が重すぎます!

枢 呂紅
恋愛
「わたしにだって、限界があるんですよ……」 そんな風に泣きながら、べろべろに酔いつぶれて行き倒れていたイケメンを拾ってしまったフィアナ。そのまま道端に放っておくのも忍びなくて、仏心をみせて拾ってやったのがすべての間違いの始まりだった――。 「天使で、女神で、マイスウィートハニーなフィアナさん。どうか私の愛を受け入れてください!」 「気持ち悪いし重いんで絶対嫌です」  外見だけは最強だが中身は残念なイケメン宰相と、そんな宰相に好かれてしまった庶民ムスメの、温度差しかない身分差×年の差溺愛ストーリー、ここに開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。 「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」 その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。 恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。 まさにいま、開始のゴングが鳴った。 まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。

地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!

めーぷる
恋愛
 見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。  秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。  呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――  地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。  ちょっとだけ三角関係もあるかも? ・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。 ・毎日11時に投稿予定です。 ・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。 ・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

憧れのあなたとの再会は私の運命を変えました~ハッピーウェディングは御曹司との偽装恋愛から始まる~

けいこ
恋愛
15歳のまだ子どもだった私を励まし続けてくれた家庭教師の「千隼先生」。 私は密かに先生に「憧れ」ていた。 でもこれは、恋心じゃなくただの「憧れ」。 そう思って生きてきたのに、10年の月日が過ぎ去って25歳になった私は、再び「千隼先生」に出会ってしまった。 久しぶりに会った先生は、男性なのにとんでもなく美しい顔立ちで、ありえない程の大人の魅力と色気をまとってた。 まるで人気モデルのような文句のつけようもないスタイルで、その姿は周りを魅了して止まない。 しかも、高級ホテルなどを世界展開する日本有数の大企業「晴月グループ」の御曹司だったなんて… ウエディングプランナーとして働く私と、一緒に仕事をしている仲間達との関係、そして、家族の絆… 様々な人間関係の中で進んでいく新しい展開は、毎日何が起こってるのかわからないくらい目まぐるしくて。 『僕達の再会は…本当の奇跡だ。里桜ちゃんとの出会いを僕は大切にしたいと思ってる』 「憧れ」のままの存在だったはずの先生との再会。 気づけば「千隼先生」に偽装恋愛の相手を頼まれて… ねえ、この出会いに何か意味はあるの? 本当に…「奇跡」なの? それとも… 晴月グループ LUNA BLUホテル東京ベイ 経営企画部長 晴月 千隼(はづき ちはや) 30歳 × LUNA BLUホテル東京ベイ ウエディングプランナー 優木 里桜(ゆうき りお) 25歳 うららかな春の到来と共に、今、2人の止まった時間がキラキラと鮮やかに動き出す。

処理中です...